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大魔王→黒猫  作者: (著)まっつぅ♪ (イラスト)SpringFizz
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99.杏奈のお世話実況

杏奈視点


今日は土曜日。杏奈は朝ごはんを食べると、すぐに保護施設に向かってる。

そろそろ通い始めて3週間ぐらいになるのかな。

つい最近までみんなで遊ぶことばっかり考えてたのに、今は猫ちゃんのお世話が楽しくてしょうがない。

(結ちゃんがケイちゃんのお世話のために毎日早く帰ってたのがよくわかるなぁ。)

きっと結ちゃんもこんな気持ちだったんだろうな。

仔猫はこの短期間で結構大きくなって驚いた。

不揃いだった毛もある程度まとまってきたし、体重も1キロ近くまで増えてる。

初めてケイちゃんに会ったときぐらいまで大きくなってきたのかな?

相変わらず私以外の人には警戒して近づかないけど、私にはすごく懐いてくれてるのがうれしい。

おじさんも『杏奈ちゃんがお父さんを説得できれば引き取っても大丈夫なぐらい育ったね。』って言ってくれた。

だからそろそろパパを説得しなきゃなんだけど、なかなか上手くいかない…

どうしよう?このままだとあの子とお別れになっちゃう!!

そんなの杏奈絶対イヤだしっ!!

とにかくお世話はこのままちゃんとやって、なんとかパパを説得しなきゃだ。


「杏奈ちゃん、今日も早いのね。おはよう。」

杏奈が保護施設に入ると、ボランティアの人が声をかけてくれた。

「野田さん、おはようございます。」

野田さんは前からボランティアで猫ちゃんたちのお世話をしてくれてて、杏奈にいろいろ教えてくれる。

週に3,4日は来てくれて、杏奈にとても良くしてくれる優しい人。

「杏奈ちゃん、本当にあの仔猫が好きなのね。」

「もちろん大好きですけど、他の猫ちゃんのお世話もすっごく楽しいです。」

ここにいると大人の人と会話することが多くて、最近杏奈の言葉使いもちょっと良くなった気がする。

「杏奈ちゃんはまだ小さいのに偉いわね。ウチの息子も見習ってほしいわ…」

野田さんには杏奈よりちょっと年上の息子さんがいるらしい。

「好きだからやってるだけですよ。」

そう、猫ちゃんたちのお世話ってすっごく楽しい!だから大変だったのは最初だけで、全然がんばってるなんて思ってない。

「それじゃ、仔猫にご飯あげてきますね。」

「ええ、今日もがんばってね。」

野田さんは笑顔で杏奈を応援してくれた。


「おはよう、猫ちゃん。それじゃあご飯の準備しまちゅからね。」

杏奈はケージにいる仔猫に声をかけた。

「にゃぁ」

仔猫は私を見ると、うれしそうに鳴いてくれる…気がする。

杏奈にだけ懐いてるんだから、それぐらい妄想したっていいよね。

ケージを開けて仔猫をひと撫でしてから、食事用と飲水用の食器を取り出す。

そしてその食器をキレイに洗ってから、新しい水とウェットフードを入れてあげる。

最初はシリンジっていう、注射器に針がついてないような道具を使って離乳食を食べさせてあげてたけど、今はもうウェットフードを自分で食べることができるようになってる。

「はい、ご飯でちゅよ~。ちゃんと食べて大きくなるんでちゅよ~」

食器をケージに入れてあげると、仔猫がご飯を食べ始める。

これも杏奈以外の人が入れると、すぐには食べてくれないらしい。

仔猫がご飯を食べている間に、ケージの逆側の扉を開いてトイレを取り出す。

「ちゃんとうんちもしてくれてる。」

形も量も問題なさそうなことを確認してからキレイに掃除してトイレを戻した。

「杏奈ちゃん、ずいぶん慣れたね。」

「あ、桐畑さん。おはようございます。」

桐畑さんは病院の看護師さんで、空き時間によくこっちの手伝いをしてくれるお姉さん。

「おはようございます。相変わらずこの仔猫は杏奈ちゃんだと警戒しないね。私が餌をあげてもしばらく食べてくれないのに。」

「不思議ですけど杏奈はうれしいです。猫ちゃん、杏奈に心開いてくれてるのかもって思っちゃいますし。」

「きっとそうよ。今日はこの後しばらくいるの?」

「はい、夕方まではお世話していこうと思ってます。」

「そうなの。じゃああとでおやつ持ってきてあげるから一緒に食べましょう。」

「やったー、ありがとうございます!」

桐畑さんもいっつも杏奈に優しくしてくれる。ここの人ってみんな杏奈に優しい。

桐畑さんがお仕事に戻ると、私は野田さんと一緒に他の猫ちゃんのお世話に戻った。

トイレやケージの掃除、部屋の掃除、それから猫ちゃんたちと一緒に遊んだり。

今日もとっても楽しい一日になりそう。


結視点


私はゆっこちゃん、陽菜ちゃんと一緒に保護施設の外から杏ちゃんの様子を見ていた。

杏ちゃんホントに楽しそうにお世話してる。

でも一緒にいるのはみんなだけじゃない。

「どうですか?杏奈ちゃんは毎日こうしてとても楽しそうにお世話をしてくれているんですよ。ここのスタッフも杏奈ちゃんのお手伝いには大変助かっていますから、皆さん杏奈ちゃんのことをとても気に入ってくださっていますよ。」

パパさんが今までの杏奈ちゃんのことを説明してくれる。

「本当にこれが杏奈なのか…見違えたな。」

「ええ、大人に混じってあんなに楽しそうにお世話しているなんて…」

それを聞いているのは杏ちゃんのパパさんとママさん。

(これがゆっこちゃんが言ってた作戦なんだね。)

ゆっこちゃんの作戦は単純で、『杏ちゃんががんばってる姿を両親に見せること』だった。

ただし、杏ちゃんには内緒で。

「きっかけはあの仔猫を飼いたいということでしたが、こんなに毎日文句も言わずに楽しそうにお世話してくれるのは、単にあの仔猫が好きだからではありません。杏奈ちゃんは本当に心の優しい子ですね。」

「先生にそのように娘を褒められて、親としてはありがたいです。」

「それだけではなく、娘が大変お世話になりまして。ありがとうございます。」

杏ちゃんのパパさんとママさんがそろって頭を下げる。

「いいえ、私も保護施設の手伝いをしてくれて大変助かっています。」

「そう言っていただけて何よりです。」

杏ちゃんのパパさんとママさんはとってもうれしそう。

「それであの仔猫なのですが、私共の家で引き取っても構わないのでしょうか?」

「ええ、もちろんです。そのために杏奈ちゃんはがんばっているのですから。」

わぁ!杏奈ちゃんのパパさんが認めてくれたんだ!!

「そうですか。ありがとうございます!」

「それでは杏奈ちゃんにもお話しないといけませんね。このまま施設にお入りになりますか?」

「そうですね、杏奈のことも親として褒めてあげないとならないですからね。」

杏ちゃん、ホントによかったね。ちゃんとがんばったことムダじゃなかったよ。

私たちは一緒になって大喜びした。


杏奈視点


「杏奈、がんばってるね。」

ケージの掃除をしていると、入り口からゆっこちゃんの声が聞こえてきた。

「あ、みんな来てたんだ。」

入り口には結ちゃんと陽菜もいる。

なんだ、今日来るなら言ってくれればよかったのに。

その後からおじさんと大人の人も…えっ!!

「パパとママ!」

なんでみんなと一緒にいるの!?というか、なんでここにいるの?

「杏奈、最近ずっとがんばっている話は聞いていたけど、こんなに立派にやってたなんて知らなかったよ。」

「杏奈、あなたは本当によくやっているのね。」

「えっと…」

パパとママが急にほめてくれて、何がなんだかわからない。

「杏奈はいつもここの話をしてくれているだろ?だから杏奈がどんなことをやっているのか見せてもらったんだ。そうしたら大人に混じってすごく一生懸命お世話しているのを見て、杏奈が本当にがんばっているのがわかったよ。」

それはうれしいけど…うれしいけどなんでこんなことになってるの!?

困って結ちゃんたちの方を見ると、なんかゆっこちゃんがニヤニヤしてるのがわかった。

(あーっ!なんか考えがあるって言ってたのこれ!?)

それはいきなり過ぎるんじゃないかな!!

「杏奈、あなたが言ってた仔猫は家でお世話しましょう。こんなにがんばっている姿が見れたんですもの。もう誰も反対しないわ。」

えっ!それって仔猫引き取ってもいいってこと?

「ママ、ホントに?パパも反対しないの?」

「しないよ。それにもう先生には家で引き取ることもお願いしてあるよ。」

杏奈がおじさんを見ると、おじさんはにっこりしてうなずいてくれる。

「…やったあ!!」

杏奈は猫ちゃんたちが驚くのも忘れて大喜びしてしまった。

「杏奈ちゃん。」

そんな杏奈に野田さんが声をかける。

「あっ、騒いじゃってごめんなさい。猫ちゃんたちもごめんね、びっくりしたよね?」

杏奈は慌てて猫ちゃんたちに謝る。猫ちゃんたちもちょっとびっくりして杏奈から離れたけど、すぐに戻ってきてくれた。

「今のはしょうがないよ。それよりよかったじゃないの、おめでとう。」

「ありがとうございます。これもみなさんが杏奈によくしてくれたおかげです。」

「そんなことないよ。杏奈ちゃんが毎日がんばったからだよ。」

「そんな、みなさんが杏奈に教えてくれたことやってただけですから。」

「私たちからもお礼を言わせてください。娘がお世話になりましてありがとうございます。」

パパとママも一緒にお礼を言ってくれる。

「いいんですよ。杏奈ちゃんががんばってたからなんですから。むしろみんな杏奈ちゃんには感謝してますよ。」

「そう言っていただき、親としてとても誇らしいです。」

パパがこんなにほめてくれるなんて…

「でも杏奈ちゃんがここに来なくなっちゃうのは寂しいね。」

野田さんの言葉にあれ?って思った。

「え、なんで?杏奈もうここに来ちゃダメなの?」

もしかして仔猫引き取ったらもうダメなの?

「ダメなことなんて全然ないけど。でも杏奈ちゃんはあの仔猫のために来てたんでしょ?」

「そうだけど、でもここの猫ちゃんたちのお世話も楽しいもん。これから仔猫のお世話もあるから毎日は来れないけど、それでも来たいんだけどダメですか?」

これは杏奈が最近ずっと考えてたこと。

やっと楽しいって思えることが見つかったんだもん。これからもやっていきたい。

「そっか。それじゃあこれからも来てくれるの楽しみね。」

野田さんはちょっとびっくりしたみたいだけど、うれしそうに笑ってくれた。

パパとママも杏奈の後ろでうれしそうにしてくれていた。

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