98.杏奈のお世話近況
それから杏ちゃんは毎日保護施設に通ってる。
学校でもいっつも『昨日はこんなお世話した』『猫ちゃんかわいい』『猫ちゃんにどんな名前つけようか?』とかそんな話ばっかり。
「ねえ、杏ちゃんってこんなキャラだったっけ?」
私はゆっこちゃんに聞かずにはいられない。
「よっぽど仔猫がかわいいんだろうね。まるで結ちゃんが増えたみたい。」
「えっ?私ここまでじゃないよ?」
「…今の杏奈は結ちゃんがケイちゃんのこと話すのとそっくりだよ。自覚したほうがいいよ。」
「結ちゃんはご自身の発言に自覚を持ったほうがいいかと…」
ゆっこちゃんと陽菜ちゃんが呆れたような顔で私を見る。
えぇ…私ってこんなだったの?
「なんか杏奈の悪口言ってない?」
私たちのヒソヒソに杏ちゃんが反応した。
「言ってないよ。」
「言ってないです。」
「言ってない、言ってない。」
「そお?ならいいけど。」
まあ悪口言ってるわけじゃないからね。むしろ私が被害者っぽい…
でも最近の杏ちゃんって本当に楽しそうでキラキラしてる気がする。
前からかわいいからキラキラしてたかもしれないけど、なんていうか生き生きしてキラキラしてる、って気がする。
「そういえば杏奈ちゃんはまだ名前つけてなかったのですね。」
陽菜ちゃんが不思議そうに聞く。
そうだよね。こんなに毎日お世話してるんだから、名前ぐらいつけてそうなのに。
「まだウチで飼えるかわからないから、おじさんに止められてるの。」
「そうそう。もし他の人に引き取られるなら名前つけちゃってたら困るでしょ?」
なるほど、確かに飼うなら自分で名前つけたいもんね。
「そんなことにならないもん。絶対パパを説得するんだから!」
「そうだね、今の杏奈なら大丈夫かもね。」
「まあ、ゆう子ちゃんは杏奈ちゃんの評価高いのですね。」
確かに。ゆっこちゃんって事あるごとに杏ちゃんからかってるのに意外。
「杏奈のがんばってるとこ見てるから。最近はあの仔猫だけじゃなくて、他の子のお世話も積極的にやってくれてるんだよ。学校では『掃除めんどくさい~』とか言ってるくせに、ケージとかトイレの掃除もちゃんとやってくれるし。」
「そんなの当然じゃん。あんなにかわいい猫ちゃんたちのお世話ができるんだよ?学校の掃除と一緒にしないでよ。」
杏ちゃん完全に猫ちゃんたちのかわいさにやられちゃってる…まあ気持ちはわかるけど。
私だってケイちゃんのお世話だったらいくらでもできるもんね。
「こんな感じ。まあウチはすっごく助かってるけどね。病院の看護師さん達やボランティアスタッフ達も手伝ってくれてるけど、人手はいくらでも欲しいから。」
確かにあんなに猫ちゃんがいっぱいいたらお世話するのも大変そうだもんね。
「杏奈、こんなに猫ちゃんのお世話が楽しいなんて知らなかった。最近、他の猫ちゃんも慣れてくれたみたいで構って欲しそうによってくるの。それがまたかわいいんだよね。」
「杏奈って意外と猫には人気あるみたいなんだよね。」
「意外ってなによ?」
杏ちゃんはゆっこちゃんの言葉にむくれてる。
でも私もゆっこちゃんの言った意味とは違うけど意外って思ってる。杏ちゃんってめんどくさいことは好きじゃないって感じだから、猫ちゃんのお世話をこんなに楽しんでるとは思わなかった。
杏ちゃんは本気であの仔猫が好きなんだろうな、ってのがわかる。
それだけじゃなくて、きっと他の猫ちゃんのことも大好きなんだね。
「それで、杏奈ちゃんはどうやってお父さんを説得するつもりなのですか?」
陽菜ちゃんがちょっと心配そうに聞く。こういうのが陽菜ちゃんって優しいな、って思う。
「それは…まだ考え中。」
杏ちゃんは困ったような顔してる。
「まあそれについては私にいい考えがあるから。」
ゆっこちゃんは自信ありげにそう言った。
なんだろ?ゆっこちゃんだからなんか企んでそうだけど。
「なにそれ?杏奈聞いてないんだけど。」
「当然、杏奈には内緒だよ。」
うわぁ、ゆっこちゃんがちょっと悪い顔してる…
「ちょっと、そんなこと言われたら気になるじゃん!」
「杏奈はこれからもちゃんと仔猫のお世話すること。それができなかったら何も手助けできないんだから。」
「言われなくてもやるけど。」
「ならいいじゃん、そのうちわかるよ。」
「ちょっと、教えなさいよ!そんなの気になるに決まってるじゃん!」
杏ちゃんがゆっこちゃんを問い詰めようとすると、
「内緒だよ~」
ゆっこちゃんはそう言って逃げていった。
「ちょっと、ゆっこちゃん待てー!」
杏ちゃんは逃げるゆっこちゃんを追いかけるけど、楽しそうに逃げるゆっこちゃんは結局私たちにも何も教えてくれなかった。





