10. 初めての食事
加筆修正しました(2022/05/04)
我の空腹はとっくに限界を超えていた。
それはそうだろう、転生してから何も食べていないのだ。口にしたものといえば溺れて飲み込んだ水だけなのだから…
(やっと飯にありつける!早く寄越すのだ!)
少女が食事の皿を入れようと檻の扉を開ける。それを見て一瞬逃げ出そうかという考えが頭をよぎったがやめることにした。
(今逃げても空腹ですぐに体力切れを起こすかもしれんし、何よりこの身体ではどれほど逃げられるかもわからんからな。)
少女は我の前に皿を置くと、当然ながら扉を閉めてしまった。
「しっかり食べて元気になってね。」
その皿を見ると片方は水、もう片方はなんともいえない色をした半液体状のものが入っていた。
「にゃー!にゃにゃにゃー!にゃっにゃにゃー!!(なんだ、この飯は!いくら見た目が猫とはいえこんな戒めを受けるとはっ!待遇の改善を要求する!!)」
(こんなっ!こんな泥水みたいなスープだけで満足できるわけないだろうが!!体力つけるためなら肉だろ肉!!)
「にゃにゃにゃー!しゃー!(それにスープならスプーンはどうした!水はコップに入れてこい!)」
我は怒りを込めて叫んだ。
…あ、そういえば猫だった。スプーンもコップもつかめないのか。
(皿から直接食べなければならないのか、惨めだ…)
「あ、あれ?気に入らないのかな?ちゃんと猫ちゃんの好きなやつ持ってきたはずなんだけど…」
少女はちょっと困った顔をして我を見ていた。
(こんなもの好きなわけあるかっ!!こんな!こん…な?)
(なんかすごくいい匂いだぞ?)
我は皿に鼻を近づけると匂いを嗅いだ。
(なんだこの芳醇な香りは!魚の匂いだとはわかるがこんなに素晴らしい香りだとは!!もしかしたらすごい豪華な食事なのか?)
我は怒りも忘れ、スープを一舐めした。
「にゃ~♪(おっ、おいち~!!)」
(なんて美味いスープなんだ!!こんなに美味い魚のスープ飲んだことがないぞっ!!)
我は無我夢中でスープを舐めた。それを見ていた少女はホッとしたようだ。
「よかった〜、気に入ってくれたみたい。まだ起きたばっかりだから消化にいいもの持ってきたんだよ。」
確かにもっと食いごたえのあるものがよかったとは思う。だが我のことを気遣ってくれていたようだ。
「にゃ~(この美味いスープに免じて許そう)」
「や〜ん、かわいい〜。パパー、一生懸命に食べてるの超かわいいよ〜。それに私の言葉に応えてくれてるみたいでかわいすぎる~。」
少女はキラキラした目で我を見ている。
「うん、食欲もあるならすぐ元気になるね。今夜は念の為ここにいてもらうけど、明日にはちゃんと退院できるね。」
どうやらこの男は少女の父親らしい。そして『明日には退院』ということは、やはりここは病院で此奴は医者なのか。
それによく見るとこの少女は我を助けてくれた少女とは違う気がする。
(確か助けてくれた少女はもっと髪が長かった気がする。)
気を失う前にちらっと見ただけなので確信を持っているわけではないが…
(まあ今はそれより空腹を満たすとしよう。)
我は転生してから初めての食事をしたのだった。