暖かい心と手
「あの…大丈夫ですか…?」
「え?」
ふいにかけられた声に私は驚いて顔をあげる。
そこには見ず知らずの男性が立っていた。
「終電のがしちゃったんですか?おんなじですね。」
そう言って彼は少し笑い、おとなりいいですか?と言って私の隣に座った。
年齢は私と同じぐらいだろうか。背はスラッと高くて、足が長い。マッシュヘアが良く似合うその顔は、どこかで見覚えのある顔だった。
「寒いですよね。僕のマフラー、膝掛けにでもしてください。」
そう言って彼は自分の首にあったマフラーを私に押し付ける。
「えっいや、そんな…。悪いですよ…。」
私は返そうとしたが、彼は受け取らなかった。
「いいからいいから。」
「…じゃあ、私のマフラーをあなたに貸します。どうぞ、使ってください。」
彼は目をぱちくりさせて、そのあとふふっと笑った。
「おもしろい人ですね。」
「…おもしろくないですよ。あなたは優しいですね。…ごめんなさい、こんなところ見せてしまって。困りましたよね。」
私は目をふせて謝罪をのべる。彼は少し驚いたような表情になって、そして小さく笑った。
「なんであやまるんですか。誰だって泣きたいときぐらいありますよ。」
私は彼の優しさに直接触れて、また泣きそうになってしまった。こんな風に優しくされるのはいつぶりだろう。
うつむいた私のことを心配したのか、彼はぎゅっと私の手をにぎる。
私は驚いて顔をあげる。彼は照れたように目をそらした。
「すみません。でも、僕はあなたの気がすむまでお話をききます。どうせ、始発が来るまで帰れないし、夜は長いです。」
彼は目の前の線路を見下ろした。彼と繋いだその手は、いつしか暖かくなってきていた。手をにぎられて悪い気はしない。むしろ、安心する。
「私の話を聞いてくれるのは、ありがたいし嬉しいです。ありがとうございます。あの、お名前はなんて言うんですか?」
「…平川 翔です。」
「平川さん…?聞いたことある名前…。」
「え?」
「あ、ごめんなさい。中学の時、平川さんと同じ名前の人がいたなって思って。同姓同名ってやつですかね。」
「…そうですね。」
平川さんはなぜか寂しそうに笑って答えた。
「なんだか少し恥ずかしいんですけど、私は中学の時、平川さんと同姓同名の彼のことが好きだったんですよ。3年間ずっと。」
私は話している途中で急に恥ずかしくなり、少しうつむいた。頭の上で平川さんの「え…」という動揺した声が聞こえる。私は恥ずかしさをまぎらわすために、言葉を続ける。
「まあ、今は違う人と付き合ってたんですけどね…。」
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