第一話 竜殺しの少女(2)
「ったくアリス。今回の独断専行は流石のラルカ様もかばいきれないっすよ~」
「……うるさい」
「いやいやうるさいって……拾本角の一角を一人で殺ったのはとんでもない功績っすけど、院長はカンカンっすよ」
遠くで二つの声が言い合ってる声がする。
「ん……?」
気が付くと、俺は両手両足を鎖のようなもので拘束されていた。何故か体に全く力が入らない。まるで自分の体じゃないみたいだ。
「お、気づいたっすね」
「……」
俺が目を覚ましたことに気づいた少女二人が俺の前に立つ。
一人は俺の首筋に剣を当ててきた銀色の鎧に身を包んだ白髪の少女。
もう一人は俺に雷撃を食らわせてきた三つ編みに纏めた金髪を後ろに結った少女だ。
「やっほー。ウチの名前はラルカ・ザイフリート、こっちはアリス・ザイフリートっす」
金髪の少女がニコニコと人懐こい笑みを浮かべて俺にグイっと顔を近づけてきた。白髪の少女もさることながら、この子もめちゃくちゃ可愛い。スタイルもこっちのほうがいいし。
「しっかしキミ、そんなに小さいのにめちゃくちゃ強いんすね。ウチの渾身の雷撃食らって動けるやつなんてそうそういないっすよ」
小さい? 俺が? 何を言ってるんだろうこの子は。俺はもうとっくに成人済みの大人だ。こんな年端もいかない少女に小さいと言われる訳がない。
「ん?」
ふと白髪の少女――アリスが首にぶら下げている小さな鏡に目が行く。
「んな!?」
そこには年端もいかない少年の顔が映っていた。年齢的には彼女たちよりもっと低い、10歳になるかどうかだろう。
「アリス、一体この子は何なんすか?」
「知らない。ズメウの体から出てきた」
「伍角の体から? あいつに人を食う習性なんてあったんすね~」
ふむふむと頷きながら金髪の少女、ラルカが俺の顎をくいっと持ち上げる。
「ここから先は慎重に言葉を選ぶっすよ少年」
「ッ!」
先程の口調からは想像もできないほどゾッとする声だった。
「えっと、タツヤだっけすか。あんた、一体何者なんすか?」
中途半端な答え、間違った答え、それを言った瞬間俺の命はなくなる。そう思わせるほどの気迫に唾をのむ。
三十路のサラリーマンです……って言っても信じて貰えるわけないか。ていうか俺自身が自分の置かれている状況を理解できていない。一体ここはどこで、俺はどうしてガキになって、年端もいかない女の子に拘束されているんだ。
「わ、わからない。今自分が置かれている状況が全く分からないんだ」
「……ラルカ、この子嘘は言ってないよ」
「アリスがそういうなら、そうなんすね。さっきはこちらが手を出したから反撃しただけで敵意はない……すかぁ~」
「ボクと互角に渡り合えるほどの実力があるはずなのに、今は普通の男の子と同じくらいの強さしかない。不思議」
「とりあえず処分は保留っすね~」
「うん……」
二人でコソコソと喋り始める。見たところ俺は殺されないで済むようだ。
「あ、あの……あんたたちは一体何なんだ?」
気になって仕方がないことを口にする。まるで異世界の住人のような容姿をした彼女たちの正体は一体何なのだろう。
「え、竜殺しの事を知らないんすか?」
「あ、ああ……」
「ほ~、今どき珍しいっすね。ま、ズメウの腹の中から出てきた時点でウチらの常識は通用しないっすか」
ラルカは一人で納得しながら言葉を続ける。