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第一話 竜殺しの少女


「は?」


 突然すぎることに脳の処理が追い付いていない。確か俺は風呂場にいたはずだ。なのに周囲は焼け野原になった台地が広がっていた。

 ついさっきまで小汚いおっさんの容姿を見ていたのに、今俺の眼前にいるのはとんでもなく綺麗な姿をした少女。


「……一体何がどうなってんだ?」

「……それを聞きたいのは、こっち」


 キョロキョロと辺りを見回した俺を警戒するように少女は首筋に剣を押し当ててる。その瞳は機械仕掛けの歯車の様でゾッとするほどに冷たかった。


 一体どんな人生を送れば、こんな瞳を人に向けれるようになるのか。考えるだけで怖気が走る。

 体中の色素が抜け落ちたみたいに真っ白な容姿とは対照的に、深紅に染まった瞳には何も浮かんでいなかった。


「なんでキミはズメウの体から出てきたの?」

「は? ずめう?」


 一体何を言っているんだ彼女はと思ったところで、俺の嗅覚が異臭を捉えた。


「うっぷす……!?」


 今まで嗅いだことのないほどのむせ返る血臭に俺は思わず口を塞ぐ。そして、己の背後にそびえる強大な存在に目を奪われた。


 それは俺の体の何十倍も出かかった。

 それは人の形をした竜だった。

 それは全身に無数の傷を受けて息絶えていた。


「これ……君がやったのか?」


 信じたくないが、脳に真っ先に浮かんだ可能性を口にする。


「そう……だけど、今質問してるのはボク」


 カチャリ……と剣が動き俺の首皮が切れた。あ、やばいこれ以上余計な事喋ったら首落とされる奴だ。


『敵性対象を認識。互角対象に指定します。互角対象:アリス・ザイフリート』


 ブワッッッッッッ


「「!?」」


 いきなり視界に白い文字が表示されたかと思うと言い様のない感覚が俺を襲った。なんて表現すればいいのだろ言うこれは。こう、なんだ、体中から力が湧きだし、とてつもない膂力が俺の筋肉に宿り始める。


「こ、これは!?」


 白銀の少女は一瞬驚いたように瞳を見開いたが、俺の首筋に立てた剣を引く。


「させるかッッ」


 それを許してしまうと俺の首がストンと落ちる。俺はSFチックな剣の刀身をありったけの握力を使い握りしめる。


「ッ!?」

「グっ!?」


 物凄い力で剣が引かれるが、俺の負けじとありったけの力で抵抗する。こ、こいつ、女のくせに俺と同じくらいの力を持ってやがる!


「竜殺し(ドラゴンスレイヤー)のボクと同じ筋力を持ってるなんて……いや、筋力だけじゃない。魔力、生命力、戦闘力、ボクとほぼ互角……!」

「そりゃどうも! こちとら三十年生きてんだ! そんじょそこらの女の子なんかに負けてたまるかよッ!」


 言い返しながらも、ふと疑問が浮かぶ。この目の前の少女は背後にそびえたつ竜人を死骸に変えたと言った。少なくとも俺の知り合いにあの巨大な怪物を剣一本で倒せるような強いやつはいなかった。

 無論、俺もあんなの相手にしてたら一秒も持たないだろう。


 それならばなぜ、俺はあの怪物よりも強いらしい彼女の力と渡り合えている。


「ライトニングボルトッ!」

「!?!?!?!?」


 疑問が氷解することはなかった。突如上空から女の声が聞こえたかと思うと、俺の体を雷撃が貫く。


「ぐっ……ああッッッ!」


 腕から力が抜けていく、このままでは首を掻き斬られちまう! そう思った俺は、ほぼ条件反射に白銀の少女を蹴り飛ばす。


「っ……!?」


 剣に気を取られていた少女は受け身を取れずあり得ないほど吹き飛んだ。俺の力、こんなに強かったか?


「おっと~これを耐えるんすね!」


 上を向くと、金色の三つ編みを後ろに束ねた少女が好戦的な笑みを浮かべていた。

 その手に握られているのは神々しい光に包まれた金色の槌。雷光を纏ったそれは容赦なく俺へ向かって振り下ろされる。


「ぐッッッおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 回避しようにも体が痺れ始めて間に合わない。そう判断した俺は両腕でその槌を受け止める。


「ライトニングウェイブ!」

「あああああああああああああ!?」


 とんでもない量の雷撃が俺の全身を貫いた――――が


「ま、だ、う、ご、け、る、ぞおおおおおおおおおお!」

「んなっ!?」


 少女の頬を殴るのは気が引けるがこのままではマジでヤバイ。俺は自分の持てる力を振り絞り金髪の少女を殴り飛ばそうとするが――――


「ぐっ――が――――!?」


 動かなかった。どれだけ力を振り絞っても、俺の腕はまるで長時間正座した足のように動いてくれなかった。


「マジっすか。ふつうこれ食らったら動けないんすよ?」


 額から汗を垂らしながら、少女は苦笑いする。


「でもこれで終わりっす――――」


 彼女はそう言うと槌から両手を離し、天に向かって咆哮した。


「雷をオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 俺の視界は金色の光に包まれたあと、真っ黒に染まった。



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