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プロローグ

はじめまして、よろしくお願いします。




 人は平等であるが対等ではない。


 しがないサラリーマンである俺、菅波達也すがなみ たつやは何度もそう思わされてきた。


 自分より優秀な後輩。


 自分より容姿の優れた先輩。


 自分より金持ちの同輩。


 そんな人たちを見てると、自分が嫌になってくる。あらゆる能力に恵まれず、何も得ることができなかった俺と彼らが対等に渡り合うことは決してない。これまでも、これからも。


「…………ちッ」


 頭を洗い終わり鏡を見ると、そこには平凡な容姿のおっさんが座っていた。彼女いない歴=年齢の中年太りした目の前の自分に嫌気が差す。


「どうして俺には、何もないんだろうな……」


 鏡を見つめ続けてもしょうがない。俺は独り言を吐きながら湯船につかる。三十路を超えたサラリーマンの唯一の癒しである風呂の時間も、最近は嫌なことばかり考えるようになってきた。


 体の力を抜いてお湯に浮かびながら、黒カビの生えた天井を見る。ずーっとこの時間が続けばいいのに、なんて思いながら、俺は両眼を閉じて頭の先までお湯につかった。


「……ん?」


 そこで異変に気付く。体に全く力が入らないのだ。指一本動かせないどころか、目を開けることもできない。


「…………ッッッ!」


 苦しくなってくる。気のせいか、周りのお湯がどろどろとしたヘドロのようなものに変わっていく感じがした。それは俺を取り込むように大きな流れを作り出していく。それはとても強大で、俺なんかがどう頑張ったって勝てなくて、抗うことすらできなかった。


 苦しい 辛い ここから出たい!


「ッゴッ……ォッ」


 全身にありったけの力を籠める。何も見えない暗黒から抜け出したい。その一心で声にならない声を上げ、俺は何とか右手を前に伸ばす。


 それ以上何かをすることはできなかった。ついに息も限界になり、意識が混濁していく。


 ここで死ぬのか……何も得ず何も成さず、何もできずにこんな生温かい湯船の中で――――


 ガシッ!


「っ!?」


 もう駄目だと思った刹那。淡い光が差したかと思うと、伸ばした右腕が万力のような力で掴まれる。

 そしてそのまま、俺はどろどろとしたモノの中からあっさりと引き抜かれた。


「ゴホッ……ゴホッッゴホッ!?」


 無我夢中で酸素を取り込む。辺りがめちゃくちゃ血なまぐさい事やドロドロしている湯が体からまとわりついて離れないことが気になったがとりあえず今は酸素だ。


「ねえ――――」

「ッ!?」


 そのまま貪るように息をしていると、鈴の音のような声がした。

 滲む視界で前を見るとそこには見たことのないくらい綺麗な女の子が立っていた。

 手のひらに収まりそうなほどに小さな顔には恐ろしいほどの美貌を秘め、血に濡れた銀色の鎧の隙間からは白磁のように美しい肌が垣間見えていた。


「キミは、ナニ?」


 彼女の右手に握られているのは中世風の鎧には似合わないSFチックな刀身をした剣。ドス黒い液体を滴らせたそれは、彼女の声と共に俺の首筋にピタリと添えられた。



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