表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/50

皇国軍 VS ラオペ軍

~一言でわかる前回のあらすじ~


凛を助けるため、聖イグレシア皇国軍と戦う事になりました。

ピアニーの掛け声と共に、俺たちは聖イグレシア皇国の軍勢の元へと駆けつける。そこには、聖イグレシア皇国軍50名と戦いを繰り広げる、陽動部隊の姿があった。

聖イグレシア軍は馬車を守るように配置しており、恐らくはその中に凛が捕まっているとみて間違いないだろう。


「くそっ、なんなんだこいつら!」

「勇者の仲間か!?」


困惑する聖イグレシア皇国の面々に対し、お構い無しに陽動部隊は奇襲する。イアンの采配やレッド隊、白狼衆、黒狼衆の結束力の甲斐あって、破竹の勢いで敵を倒していった。しかし、そう一筋縄にはいかなかった。


「『ファイアーボール』!」

「『ファイアーランス』!」


体制を整えた聖イグレシア皇国軍が、魔法でもって陽動部隊に対抗し始めた。特に、元芋虫が大半であるラオペ軍にとって、火属性の魔法は弱点であり、ジリジリと押され始める。


「やばいな押され始めた…… ロビン!」

「分かってるよ…… 『ウィンド・アロー』」


ロビンの魔法、ウィンド・アロー。この魔法は風を集めて矢を形成し、それを敵に放つという単純な魔法である。そうして形成した矢を敵に当てることが難しいという欠点こそあるが、弓の名手であるロビン・フッドにとってはそんな欠点あってないようなものだろう。


「よっし…… ピアニー!」

「はいです!」


ピアニーはロビンが形成した風の矢に向かって麻痺魔法を発動すると、手から放出される痺れ粉がロビンの風の矢にどんどんと吸収され、鮮やかな緑色した風の矢は、段々と黄色が混じっていく。


「姫様との合体魔法 …… 『パラライズ・ボム』」


ロビンは風の矢を敵の中心目掛けて放つ。痺れ粉で黄色い軌跡を描きながら飛んでいくその風の矢は、瞬時に敵陣地へと辿り着くと、地面に当たるや否や、抑え込まれていた風が膨張して爆発する。


「な、何があった!?」

「わからん、突然爆発が……っ!?」


突然の爆発に動揺する聖イグレシア皇国軍だが、すぐに爆心地に近かった敵は前のめりに倒れていく。


「なっ、ど、どうした!?」

「これは…… 麻痺だ! 麻痺魔法の使い手がいるぞ!」

「すぐに風魔法で吹きとばせ!」


爆発によって拡散された痺れ粉は、複数の敵を痺れさせ戦闘不能へと追い込んでいく。敵も風魔法を用いて痺れ粉を吹き飛ばそうとするが――― ロビンがそれを許さない。


「ウィン…… ぐあっ!」

「エア……ぐえっ!」


魔法詠唱に入った敵を、ロビンは正確無比な弓矢で妨害する。敵もロビンの存在に気づくが、シロが素早く移動する事で狙いをつけさせない。


「ガロン中隊長! 早く手伝ってくださいよっ!」

「我らだけでは長くはもちませんぞ!」


聖イグレシア軍は馬車の中の人物に向かって助けを求めるが、馬車からはなんの反応も無かった。そんな焦燥の色が見える兵達を、ロビンの矢は無慈悲にも襲う―――

かに見えたその時。聖イグレシア軍の一人、金色青眼の男が、放たれた矢を空中にも関わらず全て切り落とした。


「ケルン小隊長!」

「……『ストーム』」


ケルン小隊長と呼ばれた男はピアニーの麻痺魔法の効果を受けていないようで、魔法で竜巻を起こして麻痺魔法もろともその場の空気を一新する。


「あいつ強いな…… ロビンが言ってた、Aランク相当の奴ってあいつか?」

「いや、あいつじゃなく……」


そう語ろうとしたロビンに対し、何者かがシロやピアニーもろともロビンに蹴りを放とうとする―――が、その攻撃はシロの咄嗟の反応によって紙一重で躱す


「おぉ、意外とやるねぇ。まぁ、そうでないとちょっかいなんかださんかぁ」


ロビンに蹴りを放った相手は白髪を携えた初老の男性だった。その男は酔っているのか千鳥足で俺たちに対するも、男から放たれる圧は常人のものとはかけ離れていた。


「……こいつだイズモ。こいつがAランク級の敵だ」

「こいつが!?」


その初老の男性はロビンの言葉を聞くやケタケタと笑い出す。


「Aランクぅ? 馬鹿いっちゃいけねぇ、俺はSランク。Sランクのガロン・スコールだ馬鹿野郎」

「Sって、スピカと一緒じゃないか!?」

「ん、スピカ……? あぁ、『真紅の魔女』の知り合いかぁ? ってなると、お前らセイメル王国の回しもんか」


ま、まずい! 出身国までバレてしまった! スピカの名を出したのは間違いだったか……


「まぁ、相手がどこだろうが関係ねぇや。敵なら倒す、それだけさぁ……」


ガロンなる者がそう呟くと、目の前から消える。か

と思うと、どこからか衝撃音が響く。音のなった方へ振り向くと、俺に向かって放たれたのであろうガロンの蹴りを、いつの間にやらシロから降りていたロビンが腕で止めている姿がそこにはあった。


「弱そうなやつから、と思ったんだが…… 兄ちゃん、中々やるねぇ……」

「ふん。頭数を減らすのは鉄則だが、こいつに手を出すのはオススメしないぞ」

「あぁ?」

「真紅の魔女やら、この世界の神とやらに本気で殺されかけるからな。経験者の俺が言うんだ、やめとけ」

「何言ってんだかわかんねぇなぁっ!」


ガロンはまたも攻撃を仕掛けるが、ロビンがそれを防ぐ。


「レン、こいつは俺に任せてお前はあっちの強そうなの頼んだ。姫様とスーもいるし、こっちよりは危なくないだろ」


ロビンは聖イグレシア皇国が守っている荷馬車の方を指してそう言った。


「い、いいけど、お前は大丈夫なのか!?」

「『真紅の魔女』に比べればなんてことは無い。……むしろ、お前に万一の事があった時の方が怖い。あの凶暴な神様に何されるか分からんしな……」

「言うじゃない、このクソガキ!」


ガロンはそう言うと、目に見えない速度の攻撃を何度もしかけているのだろうが、それを尽くロビンが防ぐ。


「ほら、早く。お前らがいると全力出せねぇんだよ。邪魔邪魔」

「わ、わかった! くれぐれも気をつけろよ! ……シロ、クロ頼んだ!」


シロとクロは俺の号令に従い、俺たちを連れてその場を離れる。背後から攻撃が心配だが、全てロビンが防いでくれると信じよう。


「ロビンなら大丈夫です! それより、私たちは私たちで頑張りますです!」

「そ、そーだな! よし、ピアニー、麻痺魔法の準備を!」

「はいです!」


俺たちはすぐに荷馬車付近で戦うイアン達の元へとたどり着くと、ピアニーに指示し、痺れ粉を聖イグレシア皇国軍へ放出してもらう。


「ぐっ、またこの粉……! 【ストーム】!」


ロビンの支援のない今、ピアニーが麻痺魔法を使ってもすぐに風魔法で吹き飛ばされてしまう。とはいえ、少しの時間稼ぎはすることはできる。


「マスター! すいやせん、手こずっちまいまして」

「……陽動、失敗」

「イアン、ギン、気にすんな。というか、陽動自体は成功してるし、悪いのはこっち」


イアンとギンは息を切らしながらも謝罪を述べるので、2人の背中を叩いて言葉をかける。


「それで、どうしますマスター。敵は手強く、ロビンさんの手助けも見込めねぇんでしょう?」

「…グレン率いるレッド隊は、あのリーダー格以外のヤツらを相手取ってくれ。クロとシロ達もレッド隊をサポートしてあげて。くれぐれも怪我に気をつけてな」

「承知しました! レッド隊、私に続け!」


グレンは俺の言葉に二つ返事で了承すると、自ら先頭をきって敵に襲いかかった。クロとシロ達もそれに同調し、素早い動きで相手を撹乱する。


「俺は少し策を考えるから、それまでギンとイアンはできるだけ長くあいつの足止めしててくれ!」


俺は金髪蒼眼の男を指さしそう言った。その男は、先程ロビンの攻撃を全て空中で撃ち落とした男である。


「わかりやした。ギン、いきやすぜ!」

「……御意!」


そう言うと、二人は金髪蒼眼の男に切りかかる。だが、控えめに見ても実力は相手の方が上、二人は何とか凌いでいるだけで、長くはもたない。だからこそ、二人が崩れるより前に何か策を考える必要がある。



現状考えられる策は二つ。


一つ目はギンとイアンと共に人数でゴリ押す方法。戦闘部隊ではないものの、ブルー隊、グリーン隊といった援軍を出すことが出来る。とはいえ、真っ向からごり押すのはこちらの被害が甚大になるのであまりしたくは無い。


二つ目はスーの生成スキルを使用する方法。いくら相手が強いとはいえ、ギンとイアンはあの相手に食い下がっている。であれば、ギンのように強いラオペをまた生成すれば勝てる可能性が出てくる。しかし、この作戦の問題点は、強いラオペを生成するにはスーのありったけの魔力を使わなければいけないこと。つまり、一回しか生成することが出来ないのだ。


ベガ曰く、ギンは『ソシャゲの期間限定最高レアモンスターぐらいの価値』があるらしい。それならば、ギン並のラオペが出る確率もそれに近しいはずで、大体1%あればいい方なんじゃないだろうか。


…分が悪い賭けだが、何だかんだ運のある俺ならいけるんじゃねぇかな。異世界転移に選ばれて、めちゃ強な魔法使いとお知り合いになれて、神様にも会って、何だかんだ建国してる俺だぞ? ソシャゲの期間限定レアモンスの一匹や二匹、当てれないわけが―――


「ちょ、マスター!? なんだか目が怖いよー!?」

「えっ!? あ、あぁ、ごめんスー」


いかんいかん、ついつい自分の都合のいいように考えてしまっていた! あんなスッカスカな策にみんなの命運をかけていいわけが無い!


「―――あ。 なぁスー、スー達って本気になったらどれだけ粘糸だせる?」


スーはあごに手を当て少しの間考える。


「えーと… スーは幾らでもだせる気がするけど… みんなは人ひとり包み込めるくらいかなぁ? 」

「なるほど。それって、勢いよく発射したりできる?」

「うん、できるよ!」


スーの威勢のいい返事を受けた俺の脳内には、とある作戦が浮かんでいた。


「よし! シロ、白狼衆を引連れて一旦こっちに戻ってこい! ピアニーは白狼衆が抜けた穴を埋めるために、麻痺魔法を可能な限り打ち続けて!」

「了解です!!」


指示を飛ばしつつ、俺はスキルを使ってヒスイが隊長を務めるグリーン隊数十名を呼び出す。


「おっ、おっ、お呼びでしょうかマスター!?」

「あぁ、ヒスイ。ごめんね戦場に呼び出しちゃって」

「い、いえ! えっと、でも、その、自分で言うのもなんですけど、わ、私達、戦うの苦手ですよ!?」


そう叫ぶヒスイの声には、動揺の色が隠せないでいた。


「あぁ、分かってるから心配しないで。ヒスイ達にやって欲しいのは、粘糸のスキルを使って敵を妨害して欲しいんだよ」

「ね、粘糸ですか…?」

「うん。それなら得意でしょ?」


隊長が建築の鬼(ヒスイ)であるから間違いがちだが、グリーン隊は元々、生糸産業担当の隊である。であるならば勿論、粘糸を使うことに関しては他の隊よりも優れているのだ。


「えっと、そ、そういう事なら!」

「よし、じゃあ早速頼む!!」

「…あ、で、でも! これ、グレンたちにも当たるんじゃ…」

「―――当たるね!! 」

「えぇ!? そ、それならダメなんじゃ…」


味方に当たるのなら意味が全く無いことに気づき、戸惑うヒスイ。


「だから、絶対当たんない場所に打てばいいの。あるでしょ? こっち側は無視してもよくて、相手側は絶対守んなくちゃいけない場所」


蓮は下卑た笑みを浮かべて答える。


「凛がいる、馬車だよ」


□□□


聖イグレシア軍とラオペ軍の戦いは、聖イグレシア軍優勢ですすんでいた。その理由は大きく分けて2つ。


1つ目はラオペ軍の攻撃手が減ったこと。元々白狼衆・黒狼衆・レッド隊で戦っていたところを、白狼衆は蓮の指示で一度引き下がっている。そのため、単純に戦力が下がっていた。白狼衆の代わりにピアニーが麻痺魔法で援護はしてくれているものの、手が空いたものに風魔法で吹き飛ばされており、あまり効果的に妨害出来てるとは言えなかった。


2つ目は金色青眼の男、聖イグレシア軍兵にケルン小隊長と呼ばれる者の力である。ラオペ軍のエースであるギンとイアンの二人を相手取ってなお、魔法を駆使して味方を援護射撃するほど余裕があった。


時間が経てば経つほど、一人、また一人とラオペ軍は撤退を余儀なくされ、更に戦況は聖イグレシア軍に傾き出す。このまま聖イグレシア軍に勝利の女神が微笑むのだろう――― そんな考えが、戦場にいる者達の頭によぎったとき。


「今こそ戦の流れを変える時!! グリーン隊、射てええええええええて!!!」


そんな雄叫びに近い掛け声が、戦場に響き渡った。その掛け声の主は、いつのまにやら木の上から戦況を見渡していた青年。その後ろには、緑髪の部隊が同じく木の上に控えていた。その中には10に満たないであろう子供達も含まれていた。


「こ、子供!?」


呆気に取られる聖イグレシア軍だが、緑髪の部隊はそんなことお構い無しに、馬車を目掛けて何十もの粘糸を放出する。太さに違いはあるものの、その糸は最も細いものでも木の枝程の太さがあった。


「小賢しい!」


とはいえ、所詮糸は糸。

木の枝程あろうと、剣を使えば切るのは容易く、魔法を使えば一度に全てを吹き飛ばす事だって容易である。つまり、この程度の妨害は妨害にすらなっておらず、ラオペ軍不利の戦況を変えるほどの力はもっていない。


そもそも、粘糸を使った攻撃など、最弱の魔物であるグリーンラオペがよく行う攻撃であり、子供ですら対処できるほど簡単なのだ。いくら数十もの糸が同時多発的に放たれようと、所詮は最弱。国防を担う軍兵が対応できないはずも無い。


―――狙いだけ(・・)は良かったが、この程度か。

なにせ、自分は粘糸を使う敵と何百と戦ってきたのだ。それが今更、敵の奥の手と思われる攻撃が、たかだか数十の粘糸とは。これなら敵全軍で突貫された方がよっぽど怖かったろう―――と。


迫り来る粘糸を前に、歴戦の勇士たるケルン小隊長は敵の策を見下し―――油断した。


そしてその油断は、粘糸を魔法で吹き飛ばそうとした直前、背面の茂みから撃たれた粘糸によって覚めることになる。


「―――なっ!!」


すんでの所で気づき、なんとか避けることに成功するものの、追撃の粘糸が機関銃の如く放たれる。その攻撃は、上方からの攻撃に気を取られていた多くの聖イグレシア軍兵へと着弾し、トリモチのように動きを鈍らせる。


「……ちっ、『ストーム』!」


竜巻でもって茂みごと攻撃手を潰そうとするケルン小隊長。しかし、竜巻が生起するより早く、白い狼達が茂みから飛び出る。その狼達には、緑髪の子供達がこちらに手をかざして、跨っていた。


「遊撃隊! 移動しつつ粘糸!!」


指揮官と思しき青年が指示を飛ばす。すると、狼達は聖イグレシア軍の周りを円を描くように走り回り、跨る子供達は味方に当たらないように気を配りながら粘糸(トリモチ)を発射し続ける。それらは軍兵へと着弾し、一人、また一人と行動不能へとおいやっていく。そして、戦況は着実にラオペ軍有利へと傾き出した。


樹上からの馬車(じゃくてん)を狙った無視不可能な攻撃に、地上を高速で動き回り狙撃してくる無数の遊撃隊。一つ一つは軍兵相手には嫌がらせ(・・・・)程度のものだろうが、二つ合わされば嫌がらせ(・・・・)の域を越え、十分すぎる妨害(・・)へと変貌する。


「任せてくださいケルン小隊長! こんな糸、炎魔法で―――」

「馬鹿者! 粘糸は我々だけでなく、馬車や森にも繋がっている! そんな状況で火なんかつけたら我々の命も、巫女の命も危うくなるぞ!」

「な、ならどうすれば…」

「氷魔法が使えるものは粘糸を凍らせ、撤去しろ! 使えないものは馬車及び氷魔法が使える者の守備だ!」


魔法を駆使してラオペ軍の妨害に対処する皇国軍だが、それらがその場しのぎである事は誰の目にも明らかであった。せいぜい粘糸に当たる確率を下げ、粘糸に当たってしまった皇国軍を救出することしか出来ず、ラオペ軍の二方向からの粘糸射撃そのものに対する対策にはなっていない。さらに、救出の度に魔法を使用しなければならず、ただでさえ押され気味な状況で更に人員と魔力を割く必要がある。そうなれば、元々人数有利のラオペ軍は、更にその恩恵を受けることとなる。


ラオペ軍の妨害における最もいやらしい所は、皇国軍には防衛対象(・・・・)がいることを最大限に活かしている点である。皇国軍が巫女を拉致したのか、友好的に取り込んだのかはラオペ軍としては知りようが無いが、どちらにせよ巫女が生きているということは、巫女は皇国軍にとって生きたまま連れ帰りたい対象である事は間違いない。それ即ち、ことこの場面において、皇国軍にとって巫女は防衛対象(・・・・)なのだ。そのために、巫女のいる馬車を護る人員を割き、明らかな罠と知っていても馬車を狙う粘糸は無視出来ない。巫女に飛び火する可能性もあるために、広範囲な魔法も使いづらくさせられていた。


しかし、そんな不利な状況においても、ケルン小隊長は諦めてはいなかった。降り注ぐ粘糸やギンとイアンの剣戟を相手取りながらも、妨害の弱点を考え、探り当てた。


「全軍、地上から妨害している部隊は無視! 樹上の指揮官、及び敵部隊を狙え!」


ケルン小隊長は気づいたのだ。あれだけの伏兵が元々いたのなら、何故最初から使わなかったのかと。敵をよく見れば、樹上から攻撃している部隊は敵の他の部隊と違って女子供が非常に多い。明らかに他の敵部隊よりも戦闘慣れしてないことが伺えるのだ。


だが、とある光景を見てケルンはすぐに自分の指示が失敗だったことを悟らせられる。それは、樹上の敵部隊全員が、いつの間にやら黒い狼に乗っている光景。つまりそれは、こちらの攻撃を瞬時に避けることが出来るようになったという事であり。敵地上部隊の攻撃を被弾覚悟で行ったこちらの攻撃が、無意味になったと言っても過言ではなかった。


「さ、仕上げに入るぞ! 全軍(・・)、敵に向かって粘糸!!」


指揮官の号令と共に、白と黒の狼達に乗った緑髪の部隊は勿論の事、今のいままで軍兵と斬り結んでいた赤髪の部隊までもが敵に向かって粘糸を放った。全方向から絶え間なく襲いかかる粘糸は、混乱の最中にある皇国軍には成すすべがなく、残った皇国軍を一人残らず行動不能へと追いやった。


そんな絶望的なまでの状況で、ただ一人、ケルン小隊長だけが無数の粘糸に対応していた。定期的に得意の風魔法を使って全方向からくる粘糸を吹き飛ばし、ギンとイアンの猛攻も凌ぎ切る、まさに八面六臂の戦いぶりであった。彼にはまだ、敵のエース格と戦っている、ガロン中隊長が勝利し帰還してくるという一縷の望みがあった。この差を一人でひっくり返すのは無理でも、ガロン中隊長が来るまで持ちこたえさえすれば、まだ勝つ可能性があると踏んだのだ。


とはいえ、大勢は決し、多勢に無勢。

この戦いに終止符を打つべく、ラオペ軍指揮官は最後の一手をうつ。


「と、ど、め、だぁぁぁぁっ!!!」


指揮官は腰にかけていた剣を抜き、ケルン小隊長に向け投擲する。それはケルン小隊長の胸元を目掛けて飛んでいくが、指揮官はあまり戦闘向きではないのか、その雄叫びとは裏腹に、剣の勢いはほぼなかった。勿論そんなへなちょこな攻撃がケルン小隊長(じつりょくしゃ)に通じるはずもなく。体の軸を少しずらすだけの、最小限の動きで避けられてしまう。


「俺は運動苦手なんだ、届いただけ僥倖僥倖!」


避けられた剣は弱々しくも地面へと突き刺さるも、その柄には見慣れない、緑色のナニカがついていた。


「さぁ、出番だよ」


それは、よっくと見れば緑色の芋虫だった。粘糸で自身の体を剣の柄に固定し、吹き飛ばされないようにしていたのだ。


そして、剣が突き刺さった数秒後。ケルン小隊長はじめ、味方ですら攻撃が不発に終わったと、投擲された剣への注意が無くなったその瞬間。柄にひっついていた芋虫は、地面まで届きそうな新緑の髪をたなびかせる少女へとその姿を変える。


「スー」


少女は地面に突き刺さった剣を引き抜き、無防備に晒されたケルン小隊長の背中目掛けて剣を振るう。まさか背後から攻撃されるとは露にも思っていないケルン小隊長は、その攻撃に抵抗する間もなく直撃する。


「なぜ… そこには、誰も…」


苦悶の表情を浮かべつつも、己を攻撃した正体を見ようと身をよじるケルン小隊長。そこには、戦場には似つかわしくない緑髪の少女が、右手をこちらに向けて無邪気に笑う姿があった。


「これでスー達の勝ちだね!」


そう言い放った少女の右手が光ったかと思うと、その手から勢いよく粘糸が飛び出る。それは白い濁流となり、呆気に取られるケルン小隊長の体を飲み込んだ。


―――こうして、聖イグレシア皇国軍とラオペ国軍の戦いは、ラオペ国軍の勝利で幕を引いた。

ベガ 「yappoi、何か言うことは?」

作者 「…7ヶ月近くサボってすんませんでした」

ベガ「弁明があるなら聞いてやるぞ?」

作者「いや、書き始めたのは1月なんです。けど、こう、

途中でやる気が…」

ベガ「知らんわ。てか、これで閑話含めて記念すべき50

話だってのに、なんでテンションなくすかのぅ…」

作者「おっしゃる通りでございます…」

ベガ「それで? 次回はいつ出すんじゃ?」

作者「年内には、出したいですね……」

ベガ「(駄目だこいつ…)」


はい、というわけで。

7ヶ月もサボって申し訳ありませんでした…

こんな話も書きたいなー、あ、これも書きたいなーって感じで目移りしてる内に投稿日が遅れてしまいました…


次回の投稿は年内に出せればと思います。

調子が良ければ今月…ですが、今までの傾向的にかなり低確率ですね、はい。


こんなダメ作者ですが、どんだけ亀になろうとも新しい話は書きたいと思ってるので、気が向いたら見てみて下さい~




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ