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戦準備

~一言でわかる前回のあらすじ~


凛がパーティーを辞めたみたいです。


「辞めさせられたって、どういう事だよ!?」


俺は咄嗟のことで声を荒らげてしまい、ベガに謝る。ベガはそんな事気にせず、渋い顔で続ける。


「今、奴らは聖イグレシア皇国に滞在してるのじゃが、その皇国がセイメル王国を通さず、勇者パーティに干渉してきたようじゃ」

「聖イグレシア皇国……?」


聞き慣れない単語に、俺は首を傾げる。


「聖イグレシア皇国は聖職者達によって大部分が構成されている国でな、世界一巨大な大聖堂が有名じゃよ」

「ん? ってことは、ベガにとっては本拠地(ホーム)みたいなとこってことか?」


忘れがちだが、目の前にいるこの少女は神様なのである。例え、神様とは思えないほど小狡い事をしたり、頭のネジが吹き飛んでいようと、神様であることには違いない。そんなベガにとって、聖職者達が多いという皇国は、いわばベガを信奉する国といって差し支えないだろう。そう考えベガに質問を投げかけたわけだが、ベガは首を左右に振る。


「いや、ワシじゃない奴を祀っておるよ」

「え、だってお前が神様なんだよな?」

「神様じゃが、この世界の神はワシ1人じゃないからのぅ」

「えっ、そうなの?」

「そうじゃよ。ほら、こいつ見た事あるじゃろ?」


ベガの手元には、白い妖精がふわふわと浮かんでいた。


「たしか…… トーンさん? あぁ、そういえばトーンさんも神様だったか」


白い妖精は、ベガの手元で丸を描くように飛んだ。


「トーンは神々の伝令使の役割を担ってるが、れっきとした神様じゃよ」

「じゃあ、ベガちゃんはなんの神様なの?」


スーは食い気味で問いかける。


「確かに、ベガって結構色んなこと出来てたよな? 俺に色んなスキルをくれてるし、スーの種族変えたり。そう考えると、創造神とか?」

「詳しい事は話せないんじゃが、まぁそんなとこじゃ」


どことなく歯切れの悪い回答にベガらしさをあまり感じないが、神の世界にも色々あるのだろう。


「どれ、話を戻すぞ? 聖イグレシア皇国はな、聖職者の多さからかジョブも回復職のものが多いんじゃ。回復屋(ヒーラー)じゃったり、修道女(シスター)じゃったり…… 巫女(みこ)じゃったりな」

巫女(みこ)って確か…… 凛のジョブだよな?」


俺の問いに、ベガは頷く。


「そうじゃ。巫女(みこ)は稀有なジョブではあるが、他にそのジョブを持っておらん奴がいない訳じゃない」

「それってつまり、聖イグレシア王国がしてきた干渉って……」

「あぁ。巫女(みこ)のジョブを持つ者を、勇者パーティに参加させたんじゃ。それも、凛よりレベルが高いものをな」


巫女(みこ)のジョブを持つ者を新たにパーティに入れることで、必然的に凛のパーティ内の価値は下がる。それも、凛よりレベルが高いとあれば、新しく入った奴の方ができることは多く、その分凛はいらないもの扱いされる事だろう。


「そんな…… でも、凛は勇者達と昔からの付き合いなんだろ? 戦闘や冒険で必要じゃなくなったとしても、切り捨てるようなことは出来ないはずだ!」


俺は怒るように問いかけるが、ベガは静かに首を振る。


「勇者は、街を救い人に褒め称えられる事や、自分に特殊な力がある事で、段々と増長してしまったらしくてな。そんな勇者を凛は諌めていたのだが、そのせいで少し前から関係に亀裂が入っておったのじゃよ」

「んなっ……!」


怒りからか、俺は無意識のうちに拳を強く握りしめていた。異世界転移でチート能力を手に入れて、調子に乗ってしまう気持ちは分かる。俺だって異世界に憧れていた分、自分が正義(まさよし)の立場だったらそうなるだろうし。でも、だからといって、友達を捨てるような事をするのは間違ってるだろ。


「それで先日、凛にパーティを辞めるよう告げ、それ以来凛は行方不明になってしまったようじゃ」

「レオンさんは何もしなかったのか?」

「勇者に何度も直訴したらしいが、聞く耳を持たれなかったようじゃ」

「クソっ……! ベガ、お前なら凛の行方が分かるんじゃないか?」

「今、凛を助けると勇者パーティや聖イグレシア皇国からはよく思われん。それでも、助けにゆく気か?」

「当たり前だろ!?」


俺だって、誰から構わず助けるわけじゃない。けど、凛は少なからず知り合いだし、この話を聞いて黙ってるなんて後味が悪い。例えそれで、色んなやつにいい顔されなくても。


「そうか。……まぁ、お主はそう言うじゃろうなぁ」


ベガはそうなる事がどこか分かってたのか、諦めたように笑う。


「なら、救うとしようか凛を」

「やったー! スーも手伝うよ!」


スーはぴょんぴょんと跳ね、主張する。


「さて、凛の行方じゃったな。凛は、聖イグレシア皇国でパーティを辞めさせられた後、皇国付近の森へ逃げ隠れた(・・・・・)

「逃げ隠れた?」

「あぁ。凛も聖イグレシア皇国がきな臭いことに気づいたんじゃろうな」

「そうか…… 凛の具体的な位置は分かってるのか?」


ベガは首を横に振る。


「まだ分かっておらん。じゃが、助っ人がおるから大丈夫じゃ。トーン、頼んだぞ」

「承知しました」


白い妖精は女性の姿へと変身し、青い光を纏って姿を消す。


「ベガちゃん、あのおねーちゃんに何頼んだの?」

「ん、助っ人を呼びにいってもらったんじゃよ」


すると、またも青い光がその場を照らすと、トーンさんが皮袋を背負って現れる。その皮袋は内側に何者かがいるようでバタバタと動いている。トーンさんはその皮袋の中身を地面にぶちまけると、そこには見覚えのあるマント姿の弓術士が転がっていた。


「あれ、ロビン……?」

「おぉ、そこにいるのはレンにスーじゃないか!? 加勢してくれ、そこの女に誘拐されたんだ!」


ロビンはトーンさんに向かって弓を引くが、矢はトーンさんにあたる前に青い光に包まれて消える。


「おい、黙れ小僧」

「お、お前はいつぞやの神!」

「神様に対して何じゃその態度は。まぁいい、ほんとーはお主になんぞ頼みたくはないんじゃが、お前の力が必要じゃ。分かったら手を貸せ」

「はぁ!? それが人にものを頼む態度か!?」

「うるせぇのじゃ。ワシ、神様じゃからいいんじゃよ。なんなら誉れじゃろ」


ベガは有無を言わさぬ論法でロビンを説得する。ロビンも余程関わりたくないのだろう、ベガの命令(さそい)に対し必死に抵抗するが、神様(りふじん)な理論に勝てる見込みはない。


「くっ…… レ、レン、なんとか言ってくれ! お前の言うことならこの神も言うことを聞くだろう!?」


ロビンが助け舟を求めるが、俺は目線を逸らす。普段なら助ける場面だし、言ってることは全てロビンの方が正しいと俺は思う。でも、凛を探すためにロビンが必要なら、うん。まぁ、気にしないというか、小さな悪は見逃すというか……


「ふふん! 蓮もワシのやり方に賛同しておるのじゃ!」

「嘘だろレン! おい!」


ロビンは涙ながらに主張する。しかし、その時には美徳とされる諦めの悪さは、今この瞬間には全くと言っていいほど意味が無い。


「つーかお主、蓮に借りがあるじゃろ」

「は? レンに?」

「あぁ。初めて会った時、誤って蓮のこと殺そうとしてたじゃろ」

「うぐっ!」


痛い所をつかれたのか、ロビンは渋い顔をする。忘れかけてたけど、そういやロビンと初めて会った時、ピアニーを誘拐しようとしてると勘違いされて殺されかけたんだった。


「蓮は阿呆じゃから忘れてるかもしれんが、ワシは覚えておるぞ!」

「ベガ、人の心を読むのは許してやるが、阿呆は撤回しろ阿呆は」

「殺されかけたことを忘れてるんじゃぞ? しかも、殺されかけたのつい最近じゃぞ? これを阿呆と言わずしてなんと言うんじゃ」

「心が広いんだ心が」

「お主はむしろ小さい側じゃろ」


そんな軽口をしている間に、ロビンは渋々ながらも頷き、俺達に同行することを了承した。ベガは「ま、元々拒否権はないがの」とぬけぬけと言い放ち、ロビンに凛の外見の特徴を伝える。そして、その後手下であるトーンに指示を飛ばす。


「ほいじゃトーン。こいつらを聖イグレシア皇国へと飛ばしてやってくれ。ワシは他にやることがあるから付いていくことは出来んが、ここで見守っておるからの」


その言葉を最後に、周りの景色が短冊状になり散らばり落ちる。


「それでは、聖イグレシア皇国へいってらしゃいませ」


□□□


そんなこんなで聖イグレシア皇国。聖職者が多いということもあり、その町並みは教会ばかりが目につく。気のせいかと思いしっかりと数えてみるも、教会、教会、2件飛ばして教会、教会、教会……


「いや教会多すぎだろ!? コンビニよりも多いぞ!?」

「こんびにが何かは知らんが、この国の9割は教会だと聞いた事があるぞ」

「9割!? そんなに要らないだろ!?」

「いやーそれがねマスター。巫女とか修道女(シスター)のジョブって、レベルやスキル上げるのに教会があると便利なんだよー」

「あ、そうなのね……」


スーに教えて貰いつつも、俺はちょこっとだけ悲しくなった。いやだってさ、なんでスーの方が俺より世の中に精通してんのかなぁ…… 俺は元々こっちの世界の住人じゃないとはいえ、スーだって元イモムシだし、住んでた場所もセイメル王国付近なのだ。という事は聖イグレシア皇国についての知識は、ゴッドラオペになってからということになる。そうであるなら、知識に差があるのは純粋に俺の勉強不足ってことになるよなぁ……


「マスター! マスター!? なんでそんな悲しそうな顔してるの!?」

「いや、己の怠惰を恥じてるだけです……」


戦闘面は使いものにならないんだし、せめて知識面では役に立たねば。うん、帰ったら勉強しよう。せめて、スーより賢くなろう。


そんな事を考えている間に、聖イグレシア皇国の端、森へと繋がる道の関所へとたどり着いた。しかし、その門は閉まっており、警備兵達によって厳重に警備されていた。


「なぁロビン、あいつら普通に通してくれるかな?」

「……雰囲気的に、そう簡単には通してくれないだろうなぁ」

「こんな事なら森の方に転移させてくれれば良かったなぁ…… まぁ、いいや。それよりロビンさんって、弓、得意ですよね?」


弓の名手であるロビン・フッドに対して中々失礼な事を言っているが、ロビンは嫌な顔せずに俺の言葉に頷く。


「こっからでも森の獣を仕留められるくらいには得意だよ」

「そりゃあ心強いや。ほいじゃ、スー、ラオペ状態に変化してー」


俺の言葉を受けてスーはラオペになったので、それを拾ってロビンの矢筒から矢を拝借する。そして、創造スキルを使って矢の柄の部分を変化させスーを矢に固定する。


「よし、ほいじゃロビン、これを森に射ってくれ」


そう言ってスー付きの矢をロビンに渡すと、体をプルプルと震わせたかと思うと、俺の脳天目掛けてゲンコツを振り下ろす。


「何いきなり殴ってんだてめぇ!? 」

「殴らないでいられるかぁ! お前、馬鹿なのか!? 鬼なのか!?」

「違うっての! 俺は使役してる魔物の所に転移できるの!! だから森にスーを飛ばして欲しかったんだよ!」

「あぁ、それならそうと最初に言ってくれよ」

「お前、その早合点する癖直せ……」


早合点で殺されかけた身としては、その癖を直すことを切に願わずにはいられない。


「悪い悪い。そんじゃ、早速やらせてもらうわ」


ロビンは何事も無かったかのような調子でそう言うと、流れるように矢を番える。そして、イグレシア皇国を抜けた先にある森目掛けて矢を放つ。放たれた矢は流星のように空を駆けるが、関所近くを通ろうという時にその姿は見えなくなる。


「あれ? 矢が消えたんだけど?」

「あぁ、万が一にでも見つかったら面倒だと思ってな。俺の魔法で姿を見えなくしたんだ」

「お前…… そんなこと出来たのか」

「こっちの世界に来たら色々とスキルを覚えてな。今のは『雲隠れ』を応用したんだ」

「あぁ、ピアニーが使ってた、姿見えなくするやつか」


ドライアドであるピアニーが使っていたスキルである『雲隠れ』。その力は特定の魔物以外には使用者の姿を見えなくするというものだった。


「あれ? でもピアニーが使ってた時は見えたぞ?」


ピアニーと初めて会った時に『雲隠れ』スキルを使われていたのだが、何故か俺には通用しなかった。そのせいでピアニーからは魔物扱いされて大変だったのは記憶に新しい。


「俺は姫様よりもスキルレベルが高いし、自分自身を隠すより矢を隠す方が楽だからな。そのせいじゃないか?」

「なるほど……」

「ん、そろそろ放った矢が森に着いた頃だ。早くスーの元へ行こう」


俺はロビンの言葉に同意すると、ロビンのマントを掴み、『魔物転移』を使ってスーの元へと転移する。転移すると、教会が立ち並ぶ街並みから一変し、大小様々な木々が生い茂る森がそこにはあった。ロビンと出会った幻想の森とは違い、光はあまり差し込まず、暗く、不気味な雰囲気が漂っていた。


「スー、大丈夫だったか?」

「うん。楽しかったよ!」


スーは人間状態に戻っており、その周りには粉々に壊れた矢の破片が散らばっていた。


「あんな恐怖体験を楽しかったと言えるとは…… 中々肝が据わってるなぁ……」

「鳥になったみたいで気持ちよかったよ! 後でもっかいやって!」


スーの言動に驚きを隠せないロビンに対し、スーははにかみながら笑顔でそう返す。やらせといてあれだが、矢に括り付けられて一緒に飛ばされる体験を楽しいといえるのは怖いもの知らずにも程がある。俺だったら間違いなく失神ものだし、絶対やらない。


「あ、それはそうとロビン、こっからどうやって凛を探そうか。ベガがロビンの力を借りれば見つけられるって言ってたんだけど」

「心配するな、人探しは得意だ。なにせ、姿を消せる姫様を見つけられなきゃ、姫様の護衛は務まらんからな」


ロビンはそう言って辺りを見回すと、ボソボソと呟く。すると、ロビンの目が緑色に輝き、ロビンは何かを探すようにさらに辺りを眺める。


「ロビン、それ何してんの?」

「ん? あぁ、透視スキルだよ。森でしか使えないんだが、これを使うと木々が透けて見えるのさ。透かしたい対象は自由に決めれるから、獣や木の実を見つけるのに最適なんだ」

「すげぇな……」

「これぐらい出来なきゃ姫様は見つけられねぇからな。とはいえ、このスキルで見渡せる範囲にも限りがあるからな、移動しながら索敵しよう」

「あ、移動するならクロとシロを呼ぶか」


そう思い立ち、俺はすぐにクロとシロを魔物収容のスキルで召喚する。2匹は俺を見つけると尻尾をブンブン振りながら俺の腹へと突進する。


「マスターお呼びですか!」

「お呼びですね!」

「お前ら、俺の腹部になんか恨みでもあるのか……!」


スピカと模擬戦をした時もあクロとシロを呼び出したが、その時も同じように腹部に突撃されたのだ。寄ってきてくれるのは本当に可愛いんだけど、クロとシロが日に日に大きく、脚力も成長している分、そろそろ俺の不摂生(わがまま)ボディじゃクロとシロを受け止め切れないぞ。


「決めた、次からは腹部にだけ防具をつけておこう……」


そんなどうでもいい決意を胸にし、クロに俺とスー、シロにロビンが乗って探索を始める。ロビンが索敵をする関係上、ロビン達が先頭、俺達はその後を追う構図となっている。その進路は真っ直ぐではなく、ジグザグに動いたり、時には大回りする事もあった。


「なぁロビン? なんでこんなジグザグに動いたりしてるんだ?」

「魔物を避けてるんだ。倒してもいいが、時間が無い今、極力戦いたくないだろ」


そう言って、また何かを避けるように大回りして先に進む。その避けた部分をよっくと見ると、オークのような魔物がそこにはいた。


「すげぇな透視。めちゃくちゃ使えるじゃん」

「森の中だけっていう縛りはあるが、あると無いじゃ段違いだな」

「いいなぁ…… それ、教えて貰ったら出来るようになるか?」

「魔法じゃなく、スキルだから厳しいんじゃないか?」


魔法もセンスによる部分があるとはいえ、基本的には学べば覚えられるものだ。現に、スーはスピカに『ライト』という魔法を教えてもらい習得している。それに対しスキルは完全に天性の部分が大きい。一部の例外(ベガがスキルを与えてくる)を除き、スキルはジョブによって獲得出来るものが決まっており、人から教わったとしても覚えられるものでは無いのだろう。

そうでなければ、魔物使い(テイマー)がハズレ職だとここまで批判されることもないはずだ。


とはいえ透視スキルはめっちゃ欲しい。あれさえあれば魔物と戦わないで済むし、敵の奇襲も防げるだろう。……後でベガに聞いてみるか。もしかしたら手に入れれるかもしれないしな。


「シロ、クロ、止まれ」


15分ほど森を散策していた時、ロビンは2人に指示を出す。ロビンはシロから降りると、右斜め前にある木…… いや、多分、その木の先に見えるものをを眉間に皺を寄せながらじっと見つめる。


「レン、リンとやらの特徴をもう一度教えてくれないか?」

「んーっと…… 泣き虫でモジモジしてる」

「内面的な特徴言ってどうするんだ。外見を教えろよ」


うっ、叱られてしまった。うーん、凛と知り合いっていっても、この世界に転移してきた日しか会ったことないし、パッとは思い出せないんだよなぁ……


「んーっとね、黒髪で…… 髪は腰にかかるほど長くて…… 身長は小さく、小動物っぽい感じだったかな」


俺の言葉を聞くと、ロビンは何度か頷き口を開く。


「なるほど。じゃあ、間違いないな。リンとやら、見つけたぞ」

「本当か!?」


俺はクロから身を乗り出す勢いで確認すると、ロビンは同意するように頷く。その事に安堵し喜んでいると、ロビンは渋い表情のまま「ただ……」と話を切り出す。


「少し、面倒な事になっている」

「面倒な事?」

「あぁ。リンだが、既に聖イグレシア皇国の追っ手に捕まっている」

「なっ! そ、それは間違いないのか?」


ロビンは首を縦に振る。


「あぁ。皇国の騎士団と思わしき奴らに捕らえられてるな」

「そうか…… 傷つけられたりはしてないか?」

「大丈夫だ。ただ、騎士団の数が思ってたより多い。50人はいるだろうな」

「50か…… 魔物転移を使ってこっそり奪還できないかな? 触りさえすればいけると思うんだけど」

「難しいな。」


ロビンは少し考えてからそう断言する。


「なら、ロビンが隠れながら一人一人弓矢で倒すってのは?」

「大部分は倒せるかもしれんが、何人かは打ち漏らす。それに、相手にAクラス相当の猛者が一人いる。俺はそいつの相手で手一杯だな」

「そうか……」


こんな時、スピカがいれば。彼女なら転移魔法を使わずとも、圧倒的な殲滅力でもって数の不利をものともしないだろう。しかし、彼女は今、ベネティア王国との会談の護衛という仕事をしているため、呼び出すことは出来ない。ないものねだりしても仕方ない、なにか別の手を……


「それなら、スー達がよーどーするよ!」


スーはクロから飛び降りながらそう言った。


「えっ!? あ、危ないよ!?」

「大丈夫大丈夫~ スー達は鍛えてるからね~」

「いやっ、それはそうだけど……」

「いいからいいから! ラオペ軍総出でいくから大丈夫! ほら、マスターみんな出して!」


スーってば…… なんでこの子はこんなに好戦的なんだ。

でもまぁ、スーが言い出したら止まらないのは、今までの経験上明らかである。うーん、俺としては、スーを危険に晒したくはないんだけど……


「マスター、はーやーくー!!」

「うぐっ、わ、分かったよ……」


スーの強い押しに負け、俺はクロから降りるや否や、イアンやギン等、ラオペ軍の戦闘部隊を呼び出す。


「マスター、状況は全てわかっておりますので、おまかせくだせぇ」

「えっ、なんで?」

「ベガ様がやってきて、逐一こっちの状況を教えて下さってたんでさぁ」


そう言うとイアンは呼び出した魔物達に指示を飛ばし、自らも黒狼衆の一匹の上へと乗る。


「あっしらが陽動役をやりやす。スー様やマスターはその隙をついてくだせぇ」

「ちょっ、スーだってよーどー役やりた……」

「わがままいわんでください。模擬戦の時は許可しましたが、スー様は女王なんですから危険な真似はさせらんねぇです」

「そんなのいまさ……」

「マスター、後はよろしく頼んます」


イアンは有無を言わさぬ態度でそう言うと、シロとクロを除く全てのラオペの軍勢を引き連れて陽動へと向かう。


「ま、まぁ、落ち着けよスー」

「これが、落ち着いて! いられるかー!」


とっさに、大声で抗議を申し立てようとするスーの口を塞ぐ。こんな所で騒がれてはイアン達の陽動も水の泡である。


「マスター離してええぇ!」

「スー落ち着いて! こっち側も戦闘あるから! 落ち着いて!」

「でも! よーどーの方が絶対たのしいもん!」


不味い、今日はやけに頑固だ。昨日襲われた時に呼び出さなかった事が、ここにきて尾を引いてるのか。うーん、何かスーの心に響く言葉を…… そうだっ!


「スー、スーは陽動に行きたいの?」

「え? う、うん」

「でも、今この場には、俺の事を守ってくれるの、スーしかいないんだよ?」

「えっ!? で、でも、シロとクロが……」

「2人は俺たちを乗せてるから、本来の実力を発揮できないさ」


俺の言葉に、シロとクロの2人は否定するかのように反応するが、目配せして黙らせる。2人が俺たちを乗せてでも十分な実力がある事など分かってはいるのだが、これもスーをやる気にさせるためだ。


「でもでも、マスターには ロビンもいるし―――」

「おいおい、ロビンだって近接戦に持ち込まれたら対処出来ないさ」


ロビンは「いやいや近接戦だろうがやってやりますけど?」と言いたげな表情だったが、こちらも俺の目配せで黙らせる。スーをやる気にさせるためだ、空気を読めロビン。


「そんなわけで、スーまで陽動に行っちゃったら、俺、すぐにやられちゃうな~」

「ほんとだ!? 分かった、スーはマスター守る!!」


よし、作戦成功。スーは頭もよく、実力も高いとはいえ、まだまだ子供。扱うのはわけないぜ。代わりに、

一部の者達に少し反感を買ってしまったかもしれないが、それも想定済みだ!俺はバッグからアロエの葉を2枚出し、それをシロとクロの2人に渡す。


「これでどうか……」

「これ、アロエの葉! た、食べていいの!?」

「いいの!?」

「うん。2人のことも頼りにしてるよ」


狼なのに草食である2人にとって、アロエの葉は大がつくほどの好物である。2人はすぐにそれを食べ、満足そうな表情を浮かべる。

次にイズモはロビンの元へいくと、バッグから今度はアロエの実を取り出す。


「近接戦でも十分な実力がある事は分かってる。これ、さっきのお詫びにどうぞ」

「ん、別に気にしてないが…… なんだこれ、宝石みたいな……」

「食べれば体力回復に、一時的なステータスアップが得られる代物(しろもの)だよ」

「それは凄いな!」

「ふふん、あたしが育ててるんですから当たり前です!」


突然、第三者の声が聞こえ、イズモとロビンの両者は声の主へと振り向く。そこには、花のような髪を携え、淡く発光しながらふわふわと(そら)に浮かぶ少女―――

ドライアドにして森の民の姫様である、ピアニーの姿がそこにあった。


「姫様!? なんでここに!?」

「あたしの力も必要だーって、ベガ様に言われたのです! それで、トーン様にここへ送ってもらったのです!」

「んなっ…… 姫様、ここは危ないんですよ!? 分かってるんですか!?」

「分かってるです! でも、あたしの魔法はこーいう時うってつけですから!」


ピアニーの魔法って確か…… 麻痺魔法だっけか? 何故か俺には効かなかった魔法だが、相手を麻痺させることが出来るのは、確かにこの凛奪還戦においては有用だ。


「そ、それはそうですが……」

「うるっさいです! 危なくなったらあなたが助けてくれればそれで済む話です! 」

「うぐっ…… で、ですが、相手にはAクラス相当の敵が一人いて……」

「Aクラスがなんだってんです! それくらい倒せないで、何が森の守り手ですか!」


ピアニーのその指摘は、ロビンの胸をえぐる。この一言は相当効いたのか、ロビンは力なく頷き、暗いオーラ纏う。


「……ピアニー、主戦力が戦闘前にノックアウトしてるんだけど? 何してんの早く治してよ」

「ロビンは変に打たれ弱いですね。仕方ないです、アロエの実を無理やり食べさせるです」

「ついでだからアロエの葉の方も突っ込むか」


ベガの説明では、傷を治したい時はアロエの葉、それ以外はアロエの実を使えと言われた。その説明からいくと精神的なダメージはアロエの実を食べさせればいいと思うが、心の傷という表現もあるし、とりあえず2つとも食べさせてみる。


「ほら、ロビンこれ食べて」

「食べろです!」


無理やりロビンの口に突っ込んでみた所、ロビンの顔色も良くなり、ステータスアップを示す緑の光にロビンは包まれる。しかしそれでも、ロビンの暗い雰囲気はなおる気配が無かった。


「……アロエの実、精神的な疾患には効果ないんだな」

「そうみたいです。まぁ仕方ないですね、あたしがロビンの傷を治してくるです」


ピアニーは項垂れるロビンの元へいくと、耳元で何かを囁く。すると、ロビンは先程までの態度とは打って変わって、やる気に満ち溢れた態度へと変貌する。


「何をしているイズモ。早く凛とやらを助けるぞ! 援護は任せろ、お前も、姫様も、スーも、シロもクロも、陽動部隊でさえも守りきってやるさ!」

「えっ、なにその変わりよう…… ピアニー、何したの?」

「ふふん、こーみえてロビンの主人ですよ? ロビンのやる気のツボくらいおさえてるです!」


ピアニーは誇らしげな態度でそう語ると、シロに乗り込み魔法の準備に入る。ロビンはピアニーを支えるようにピアニーの後ろに乗り、弓矢を何本か手に構える。それを見て、俺とスーもクロへと乗り、突撃に備える。


「陽動部隊、敵と遭遇!」

「さぁ、やるですよ!」


少女の勇敢な声と共に、凛奪還戦の火蓋は切られた。

ベガ 「随分と久しぶりじゃのう、yappoi?」

作者 「お久しぶりです…… いやほんとお久しぶりです」

ベガ「なんで4ヶ月もサボってたんじゃ?」

作者「テンションが……もたなかった!」

ベガ 「今後はどうするつもりなんじゃ?」

作者 「他の作品書きつつ、こっちも書きます……」

ベガ 「(こいつ、またどこかでサボるな……)」


そんな訳で、他の作品を書いていたらやる気が出てきて、また書き始めてしまいました! もし、他の作品の毎日更新が飽きたら、こっちを毎日更新にして週一ペースで連載するかも……? そんな亀更新&見切り発車で申し訳ないです!


※今回の話を出すのに1ヶ月くらいかかってるので、やる気があっても更新速度めっちゃ遅いのだけご了承ください……

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