待ち伏せ
〜一言で分かる前回のあらすじ〜
上杉謙信が温泉にいました。
「うっ…… うっ…… ひどいよおじょー、そんなに言わなくてもいいじゃないか~」
「ふん! 妾は本当の事しか言っておらんにゃ! 悔しいなら生活改善すればいいにゃ!」
「そんなぁ……」
ケンシンを怒ること3時間。ミティの怒りはようやっと収まったみたいだ。
「そんな事よりも蓮! 早く遊ぼーにゃ! ……ちょっとばかし時間が経ってしまったが…… まだ遊べるよにゃ? にゃ?」
「うーん…… でも、もう夜の9時だよ? 子供は寝る時間じゃないか?」
「にゃ、にゃんだと!? 妾はよゆーじゃよゆー!
……でも、確かにお腹空いたにゃあ。 どこかで晩御飯食べてから遊ぼーにゃ!」
ミティみたいに可愛い子供に遊ぼー遊ぼーと言いよられると、どうにも断りづらい。気分は休日のお父さんである。
「わかった、わかったよ…… じゃあまずはご飯食べないとな。スピカ、オススメの店とかある?」
「うーん、そうだね…… 本当は王城が1番いいんだけど、可愛い子には目がない変態がいるからね……」
「そ、それは問題だな…… ん? ていうか、そんなに簡単に王城って入れるの? 要人とかじゃないとダメなんじゃないの?」
「……え? あれ、レーくん気づいてないの?」
……え、気づいてないってなんの事だろ。あれか? こっちの世界では王城に入れるのが常識とか?
少し考えたが、スピカが言わんとしてることを察することが出来ず白旗を上げる。スピカはニコッと笑うと、ミティの頭を撫でる。
「ミティちゃん、ベネティア王国の王女様なんだよ?」
「えっ!?」
「うむ! 妾は偉いのにゃ!」
ミティは腕を組んでふんすと鼻を鳴らす。
スピカに頭を撫でられて気持ちいいからなのか、魔法で消してた猫耳としっぽを露わにして、ピコピコと動かす。
「そもそも、ボクが今日レーくんの所に来たのも、ベネティア王国の王女様が行方不明になったってミラから聞いてね。人海戦術になるだろうから、スーちゃん立ちに手伝って貰うためにレーくんに頼みに来たんだよ?」
「そ、そうだったのか……」
「そうそう。いやーびっくりしたよ! まさかレーくんの元に転移したら王女様がいるんだもん。そっからは知らない振りしつつ、護衛も兼ねて一緒に遊んでたんだ~」
「妾も《真紅の魔女》については知っておったからにゃ! スピカがおったから、王国側にも無事だと伝わったと判断して今日はブラブラしてたのにゃ!」
……いや、ミティはスピカが来る前からブラブラしてただろ? 俺を財布代わりにしながら露店を歩き回ってたし。
「まぁ、お風呂入る前にミラには伝えといたから大丈夫だよ。……あ、でもご飯や泊まる所含めてミラが手配してるかも。ごめん、ちょっと聞いてくるね!」
そう言い残し、スピカは転移魔法を使うと、5分もしないうちに帰ってきた。
「スピカ、どうだった?」
「うん、やっぱりミラが諸々準備してたみたい。変態への対処もばっちりだってさ! ……そんな訳でミティちゃん、王城に行くってことでも大丈夫?」
「妾はご飯を食べれて遊べるにゃら文句は無いにゃ!」
「あたしもお酒と笹まんじゅうがあれば文句ないよ~!」
「いや、笹まんじゅうはないよ。ケンシンさんが来ること把握してなかったし……」
「え~!? そんなのってないよ~」
ケンシンは項垂れ、また泣き出した。
もしかしてケンシンって泣き虫なのかな? なんか親近感湧くなぁ……
「あ、レーくん、クロとシロ呼んでくれるかな? 歩いていってもいいんだけど、ここから王城はちょっと遠いからさ」
「ん、ああわかった」
魔物収納のスキルを使い、クロとシロを出す。
クロとシロは嬉しいのか、俺の腹目がけて突進してくる。
「ぐふっ! ちょ、シロ、クロ、このパターン前も……」
「マスター、お呼びですか!」
「お呼びですか!」
「……うう、とりあえず落ち着け! おすわり!」
クロとシロはしっかりとお座りした。
一連の流れを見てミティとケンシンは驚いていたが、俺が魔物使いだと伝えるとさらに驚いていた。
「まさか蓮がかの有名な職業についてるとはにゃ……」
「魔物使いの大変さは異世界から来たあたしでも知ってるほどだからね~ ……でも、蓮君はそんなに大変そうじゃないね~?」
「知り合いのおかげだよ。普通は意思疎通が大変らしいんだけど、そいつのおかげでかなり使い勝手がいいよ」
そっか、ベネティア王国に駄神が書いた魔物使いの物語って伝わってるんだなぁ…… 魔物使いの物語がどんなものかは分からないけど、その物語がなくても、初手が中々詰んでるから不遇職扱いにはなるよね。スーが会話可能にならなきゃ絶対レベル上がんなかったし。
「妾は蓮と一緒にこの黒い方に乗るにゃ! ケンシン、お前はそっちの白い方にのれにゃ」
「それはいいですが~ スピカさんはどうするんです? 流石にあたしとスピカさん2人乗るスペースは無いですよ~?」
「あ、それなら大丈夫大丈夫。ボクは転移魔法で帰るからさ~ 大丈夫だとは思うけど、道中気をつけてね?」
「大丈夫にゃ! ケンシンはアホでスカポンタンじゃが、一応役に立つからにゃ!」
「おじょー、二言余計です~!」
ケンシンは元戦国大名だもんね。ミティの所で食客として扱われてるみたいだし、戦いになったら強いのかも。
……今は見る陰もないけど。
□□□
スピカと別れ、俺たちはクロとシロの上に跨り王城へと向かっている。俺の前に座っているミティはコマ送りのように変わっていく景色を見て嬉しそうにしている。
ケンシンさんは初めて乗るにも関わらずしっかりとシロを乗りこなしており、流石は戦国大名だなと思わせるほどだった。
クロとシロのスピードは馬車よりも数段早く、あと10分もすれば王城に着くだろう。そう思っていた矢先、ケンシンは前方を睨むと、止まるように言ってきた。
「どうしたんだケンシン?」
「ん~ ちょっと不味いことになったねぇ~ あたしの勘が間違ってなきゃ、目の前の区域で待ち伏せされてるみたいでさ~」
「待ち伏せ? こんな市街地で?」
「犯罪者は市街地だろうが王城内だろうがお構い無しだよ~? 多分、おじょーがいる事に気づいたんじゃないかな~? この国、獣人のことを毛嫌いしてるよーなやつもいるから~」
ケモミミっ娘の良さが分からんアホどもがいるのかこの世界には? ちっ、今に見とけ…… 二度とそんな考えを思いつく奴が出ないよう、ケモミミの良さを布教してやる。
俺達が動きをとめたのに気づいたのか、ケンシンの見立てた所から、ゾロゾロとガラの悪いヤツらが現れる。
そいつらは合計20人ほどで、一人一人武器を構え、俺達を囲んでいた。
「よぉよぉベネティア王国のお嬢ちゃん達。ちょっと悪いんだけど、お嬢ちゃんに用があってさ。大人しくついてきてくれたりしないかい?」
「……ふん! 下らんにゃ。どーせ、身代金目的か、奴隷にするつもりだにゃ」
「なぁーんだ、分かってんじゃないお嬢ちゃん! なら話が早い…… ほら、さっさと投降しろ。 抵抗しようなんて思うんじゃねぇぞ。俺たちゃ元冒険者でよ、中にゃあBランクにまで登りつめたやつだっているんだよ」
Bランク…… あ、俺と同じじゃん。
しかし困った、あいつの言ってることが本当なら、全員武器を扱い慣れてるってわけだ。
「笑わせにゃいでよ! Bランクなんて所詮、凡人にゃよ? 雑魚にゃ、雑魚。その程度の功績を自慢げに言うなんて底が知れるにゃぁ?」
「………………ミティ、大変言い辛いんだが、俺もBランクなんだ…」
「えっ、あっ、ご、ごめんにゃ! ちがっ、違うにゃ! 蓮に言ったわけじゃにゃいにゃ!」
……言っちゃダメな雰囲気かなって思ったんだけど、耐えれなかったんだ!
ミティに煽られた冒険者崩れ達も頭にきたのか、合図と共に一斉に襲いかかる。
「蓮君、おじょー、シロちゃん、クロちゃん…… しゃがんで~」
「えっ、でも?」
「蓮、いいからしゃがむのにゃ!」
ミティに引っ張られる様にしてしゃがむと、横目でケンシンが腰元の大太刀に手をつけ構えるのが見えた。
襲い来る冒険者崩れ達を睨むと、ケンシンは構えながら右足で踏み込む。
———次の瞬間、俺の目に見えたのは剣を抜いた姿のケンシンと、赤黒い雫を撒き散らしながら宙を舞っている冒険者崩れ達であった。
「あー、ひと仕事した~ そんじゃ、行こっか蓮君~」
「えっ? ……いや、えっ? 」
「冒険者崩れ達は皆倒したよ~? ふふん、驚いた? あたし、こーみえても相当な実力派なのだよ~」
倒したって…… 今の一瞬で!? えっ、距離、まぁまぁ離れてたよね? 囲まれていたし、前方だけじゃなくて後方にもいたよな? それを…… たったの一振り 大太刀振るっただけで全員倒したの? いや、上杉謙信はかなり有名だし、強いとは思ってたけど、なんかその強さは人智を超えてない???
「蓮、考えても無駄にゃ。いったにゃろ、ケンシンは役に立つって」
「いや、まぁ、役に立つ……けど?」
「こいつはにゃ、いつもはスカポンタンでグータラで、自堕落で、惰性満載の残念なやつにゃが……」
ミティは深くため息を吐きながら、
「ベネティア王国最強の一角、《抜刀姫》と呼ばれる強者にゃ……」
そう、心底苦々しそうに言った。
長らく更新をサボっており、申し訳ありません……
またも小説投稿したい欲が出てきたので、またボチボチ……始めたいと思います。テンションで書いてるので、いつまでかけるかは分かりませんが……
とりあえずは、またよろしくお願い致します!




