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ある日の昼下がり

~一言で分かる前回のあらすじ~

ミティ登場!

「蓮、蓮! あのいい匂いのする輪っかはなんなんにゃ!? 」


口元に食べかす付けながらはしゃぐミティが選んだ次のターゲットは、甘い香りを放つ

ドーナツだった。


「あぁ、あれはドーナツだよ」

(わらわ)、あれも食べたいにゃ!」


小一時間も食べ歩きをしていると、ミティも幾分か素直になってきていた。

最初は顔を赤らめたり己のプライドと葛藤する事もしばしばだったが、欲しいものがあると躊躇なくストレートに頼むようになった。

まぁ俺が素直に頼むように言ったんだが、

今度は素直すぎて俺の財布がピンチである。

初めは日本円で3万ほどあった俺の財布だが、今や銅貨5枚つまりは50円しかないのである。


「ミティ、今度は遠慮ってもんを覚えようか……」

「何にゃそれは! 食べ物かにゃ!?」

「……他人を気遣って行動とかを控える事だよ」

「ふむ、にゃに言っているのかさっぱりにゃが、要はこれ以上食べ歩きが出来にゃいという事にゃな?」

「お、分かってんじゃんそうそうそう言うこ……」

「だが断るのにゃ! (わらわ)はドーナツとやらを食べたいにゃ!」


上から目線が治ったと思ったら、今度は駄々っ子へジョブチェンジか……

普段の俺なら、ここで冷酷に頼みを突っぱねるだろう。しかし、厄介な事に今の俺の役割としてはこの駄々っ子の召使いである。

そのせいか、できる限りこの駄々っ子の希望を叶えるべきなのではないか……? という考えが脳裏にチラつく。

そしてさらに厄介なのはミティが甘え方をマスターしてきたという事だ。

最初の堅さが無いのはもちろん、上目遣いや可愛い仕草までマスターしており、俺の父性を掻き立てている。昔は親バカなんて阿呆らしいと思っていたが、今なら親バカの気持ちも八割ほど理解できそうだ。

でもなぁ…… 今月のお小遣い、もう50円しかないんだよ…… クロウに言えばもう少しくれそうだけど、国のお金に手を出すのは忍びないしな……


「やっほー! 何してるのさレーくん!」


聞きなれたあだ名が耳に入り、叩かれた衝撃が背中に広がる。勿論蓮の背中を叩いた相手は赤髪の少女である。


「お、スピカ。用事はもう終わったの?」

「いや、それが面倒な事になっててね……

今は息抜きで転移して(とんで)きたんだ~

……でさ、その横にいる女の子は誰なの?」


スピカは蓮の足にベッタリと引っ付いている猫目の少女を指さす。


「あーっとね、ベネティア王国から観光しに来たらしくてさ、俺と一緒に食べ歩きしてたんだ」

「にゃあ蓮! そんにゃ事よりもドーナツが食べたいにゃ!」


ミティはグイグイ蓮の服を引っ張り、蓮は困り顔で苦笑いを浮かべる。

その親子のような様子を見てスピカはクスクス笑った。


「あぁなるほど、レーくんはその子の財布代わりになってるのかぁ」

「むっ、財布じゃにゃいぞ、蓮は(わらわ)の召使いになったのにゃ!」

「1日だけだけどな。……でまぁ、こいつに奢ってたら残り銅貨5枚になっちゃってさ。

ドーナツ買えないって言っても、食べたい

にゃーって駄々こねるから大変なんだよ……」


お金があればドーナツを奢ってあげるだけで済むのだが、何回も述べてるとおり今の所持金は50円である。ここはミティに大人になってもらうしかないのだが、ミティは全く引き下がる気配すらない。


———と、そんな八方塞がりの状況に助け舟が出された。


「んじゃ、ボクがドーナツを奢ってあげる。

けどその代わりに、レーくんを困らせるような事はしちゃダメだよ? 分かった?」

「うん! 分かったのにゃ!」


まだ会って間もないというのに、スピカはミティの心を鷲掴みにしていた。

やはり普段から面倒な(アリス)に振り回されてるスピカにとって、ミティを手懐けるなんておちゃのこさいさいなのだろう。

甘い香りをふりまく苺とチョコのドーナツをミティを受け取ると、ものの数十秒でドーナツは穴の部分だけになってしまった。


「悪いねスピカ、助かったよ」

「いいんだよレーくん、お金なら腐るほどあるしね!」


あどけない笑顔でそう言うが、彼女の言ってる内容はアラブの石油王のようだった。


「えっ、そーなの?」


驚きを隠せない蓮。スピカは何食わぬ顔で応答する。


「そだよ? Sランク冒険者って依頼料高いし、今は王国からも支給金がたんまりでてるからね~。働かなくても生きていけるよ~」

「……ち、ちなみに貯金ってどのくらい?」

「んーっとね…… 小さな国の国家予算くらいかな?」

「……まじで?」

「まじだよ?」


空いた口が塞がらないとはこの事だ。

今まで沢山のドッキリを食らってきたが、今回のは群を抜いている。いや、だって国家予算並に貯金あるなんて思わないじゃん!


「まぁ、レーくんも頑張ってSクラスになればそれぐらい稼げるよ? 」

「いやいやいや、Sクラスになるなんて無理だわ。スピカ並に強くなるとか俺の力じゃ不可能でしょ……」

「……そうかな?」


スピカは俺の嘆きの言葉に一石を投じた。


「レーくん自体はそんなに強くないけどさ、

レーくんはその気になれば何百人規模の攻撃ができるじゃん。ボクはまぁまぁチートだと思うよ?」

「えー? でもスピカなら1人で千人単位で敵を倒せるでしょー?」

「いやまぁ、ボクはそうだけどさ。Sクラスって一概にいっても色々とあるんだよ。

だからレーくんもSクラスになる可能性は充分にあると思うよ~?」


ふむふむ…… なんか俺もSクラスになれる気がしてきた…… でもまぁ、Sクラスの冒険者なんてリスキーな仕事したくないけどね!


「……にゃあ、おにゃえらいつまで難しい話をしておるのにゃ! そんな話は置いといて、早く食べ歩きの続きをしようにゃ!」


おっといけない、スピカのカミングアウトに気を取られてミティをおざなりにしてしまっていたようで、ミティは頬をぷっくり膨らませて怒っていた。


「ごめんごめん。あ、でももう食べ歩きはしないぞ? お金も無いしな」


その言葉にミティは心底驚いた顔で叫んだ。


「えぇー!! にゃって、そっちのおんにゃはたんまり持っておるのにゃろ? ならいいではにゃいか!」

「あれあれ~? ドーナツをあげた時に約束したこと、もう忘れたのかな~?」


スピカは悪どい笑みを浮かべながらミティを詰問する。ミティは数分前の自分の言葉を

ハッと思い出した様子で、悔しそうに唇を噛み締めた。


「うぐっ! ……わ、分かったのにゃ、食べ歩きはもうやめにするのにゃ……」

「うん、よろしい!」


凄いなぁスピカは。もう既にミティの手綱をしっかりと握ってらっしゃる。

俺も流されてばかりじゃなくて、マスターてしてそういう所を見習っていかないとなぁ……


その後スピカとミティもお互いに自己紹介をして、次にどこに遊びに行くかを考えた。

が、やはりこの世界に来て1ヶ月という短い期間しかいない蓮にとって、何処がオススメスポットだなんて分かるわけもない。

そのため、全てスピカに任せるしかない。


「うーん…… あっ! 温泉とかはどうかな?

疲れも癒えるし、絶景だよ~」

「おぉ! それは良いにゃ! それにしよう!」


スピカの提案に二つ返事で乗っかったミティに対し、蓮は渋い顔をしていた。

まぁ、その理由は———


「温泉か…… 50円で入れる?」


お金の面である。何度も言うが、今の蓮のお小遣いは50円である。うまい棒を5本買う事くらいしかできないのに、とてもじゃないが温泉だなんて入れる気がしない。


「あははは、大丈夫大丈夫。ボクが全員分払うよ~」

「そ、そっか。悪いねスピカ……」


スピカに払ってもらうのは気が引けるのだが、まぁスカンピンの俺には払ってもらうしかないなぁ……


「いやいや気にしなくていいよ~! むしろ、ボクとしては感謝を伝えたいくらいさ!」

「……サボりの口実になるからか?」

「ふふっ! それも正解! けど、まだまだ理由はあるんだよ~。 まっ! とりあえず行こ!」


スピカは何かを企んでいるようだが、その企みに全く気づけないままグイグイ腕を引っ張られて温泉へと連れられた。


セイメル王国中心部はスイスの首都ベルンのような美しい街並みなのだが、目的地の温泉のある小高い山に近づくにつれ石造りやレンガ造りの建物が少なくなり、代わりに瓦屋根の和風建築がぽつりぽつりと増え始める。

小高い山に差し掛かると、京都の嵐山のような壮大な竹林に包まれる。

長い長い竹のカーテンを抜けた先に、ひっそりとそれはあった。

瓦屋根の木造建築で、入口には温かい光を放つ提灯がつられていた。


「ここが目的地である『真珠温泉』だよ!

どう? いい感じでしょ!」

「うん、予想以上にいい雰囲気だよ……」

「にゃにゃ! 早く行こうにゃ! (わらわ)は早く入りたいにゃ!」


ミティは待ちきれずにピューっと飛び出してしまった。


「さーって、ボクらも行こっかー」

「おう、そうだな! 実は俺も待ちきれなくてウズウズしてたんだ」

「あはは、レーくん温泉好きなの?」

「おう、好きだよ。……んじゃ、ミティの事は頼んだよ」


そのままミティの世話をスピカに頼み、俺は鼻歌まじりに男湯へと向かった。

やはり温泉に入れるとなったら上機嫌になるのも仕方がないというものだ。

しかし、蓮が上機嫌なのは別の理由がある。

実は蓮、昔から温泉巡りが大好きなのだ。


「ふふふふ…… まさか異世界で温泉に入れるなんてな! 」


音速の速さですっぽんぽんになり、いざお風呂へGOという所である事に気づいた。

———タオルが無い。

元々温泉に来るつもりもないため、タオルを持ってきていなかったのだ。

このままでは体を拭くことができないため、温泉に入る事が出来ない。

売店でタオルを買うことも出来るだろうが、50円で買うことは不可能だろう。


「あークソっ! どうすりゃ…… あ、そうだ」


何かを思いついた蓮は、スキルを使ってイアンを呼び出した。


「何かお呼びで…… って何で丸裸なんでやすかマスター」

「あ、これは失敬」


イアンの指摘をうけ、丸裸からパンツ一丁になって依頼内容を伝えた。

といっても、タオルを持ってきて欲しいというだけなんだが。


「へい、分かりやしたマスター。ちょっくら取りに行って参りやす」


イアンはそう言い残してグリズリへ帰ると、

今度は手にタオルを持って戻ってきた。


「どうぞ、大小2つずつ持ってきやした。ちなみにですが、このタオルに使われている糸はラオペ国産でごぜぇやす」


あぁ、もしかしてグリーン隊に任せてた生糸産業の賜物かな? 手触りもいいし吸水性も高そうだし、結構いい感じかな。


「あ、ついでなんで近況報告させて頂きたいんでやすが、大丈夫ですかい?」

「……出来れば一秒でも早く風呂に入りたいから、手短に頼む」


蓮は一刻も早く温泉にダイブしたかったのだが、ここは国主として己の欲求を先送りする事にした。


「へい、では一件だけ。あっしに一任されていた、探索隊のメンバー決めが終わりやした」

「お、本当か! 」


探索隊の結成は約2週間ほど前にイアンに任せた一大プロジェクトで、俺が一番楽しみにしていた企画でもある。


「へい。メンバーはあっしとギン、それにレッド隊の精鋭20名と残りの隊から5人ずつという編成にしやした」


ふむふむ、中々バランスも良さそうだし、不足の事態が起こっても大丈夫そうだ。


「うん、いい編成だと思うよ! お疲れ様!」

「へぇ、勿体無いお言葉でさぁ。それではあっしはこれにて」


そう言い残し、イアンは一礼した後グリズリへ帰っていった。

もう少し探索隊について掘り下げていきたいが、今は早く温泉につかりたい気持ちでいっぱいだ。探索隊について考えのは後にしようではないか。


心中で納得した蓮は、非常に満ち足りたような顔持ちで脱衣所を後にした———


遅れて申し訳ないです。

多分2週間に1回くらいのペースに落ちます

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