森の民!
~一言で分かる前回のあらすじ~
沢山の魔物に跪かれて、主呼ばわりされてます。
「……フォーレ、とりあえず跪くのやめてくれよ。こーいうの慣れてなくて落ち着かないんだ」
「そういうことでしたら、失礼ながら……」
申し訳なさそうにフォーレ達は跪くのをやめた。やっぱり、俺としてはこっちの方が楽だよ。自分で言うのもなんだけど、俺は上に立つタイプじゃないし。
……さて、無駄話はここら辺にして1つ1つ対処していかねば。流石に全部放置したまんまはダメだしな。
「……それでちょっと確認していきたいんだけど、その森の民? ってのはここに住む魔物達って事だよね?」
「そうでございますね」
「それじゃあ、その森の民と掟に出てくる旧き友と魔物使いの関係ってどうなってんの?」
フォーレに質問攻めを繰り広げる蓮に続くように、ロビンフッドがフォーレに質問した。
「……俺も聞きたい。さっきは姫様達に合わせて跪いたが、正直何が起こってんのかさっぱりだ」
ロビンフッドってノリで何かするタイプなんだな…… もしかして、義賊行為とかもノリで
やってたりして……
「……蓮どうした? 何か言いたいことでもあるのか?」
「いえ別に!」
うん、やめよう! これ以上は誰も幸せにしないからね!
「フォフォフォ…… それじゃあ儂から話させてもらうのじゃ……」
□□□
時は数百年前に遡るのじゃ。その頃の村は今よりもずーっと広くてな、魔物にとっては楽園のような場所じゃった。
日が昇ると同時にどんちゃん騒ぎ、夜は妖精達の歌声を子守唄にして寝たもんさ。
その時の儂はまだ育ち盛りの幼木じゃったが、あの夢のような毎日は今でも昨日の事のように思い出せる。
そんなある日、不思議な人間がこの地に現れたのじゃ。その人間はアレンといってな……この者が、森の掟にでてくる旧き友なのじゃ。
アレンは本当に不思議な奴でな、魔物が多く混在するこの地に、なんと丸腰でふらりと訪ねてきたのじゃ。
この地の魔物は優しい者が多かったが、それでも人間が訪れた事は無かった。
そりゃあそうじゃ、初代魔王が死んだとて、
儂ら魔物と人間は敵対するもんじゃからな。
儂が初めてアレンにあった時は、わざわざ魔物の住処に丸腰で訪れる死にたがりぐらいに思っておった。
アレンが丸腰だったおかげもあり、すぐに戦闘するという事にはならなかった。
その上、アレンは話がしたいだけだと主張しておったし、ワシらも戦闘するのは避けたかった。じゃから、大変異例の措置じゃったが、アレンはすぐにその当時の村長であった儂の父の所にある話をする事ができた。
「ここ最近、二代目魔王と名乗るベルというものが現れました。そいつがこの村に攻め入る可能性があるんです! 今すぐに逃げるか、迎え撃つ準備をしてください!」
アレンは儂の父に向かって、熱心にそう訴えたのじゃ。儂もその場にいて訴えを聞いておったのじゃが、アレンはとても嘘を言ってるようには見えなかった。
しかし、それ以上にアレンの話が荒唐無稽すぎて、とてもじゃないが全てを信じる事は出来なかったのじゃ。
ベルというものを聞いた覚えがないし、仮に復活してたとして、何故魔物である儂らの村を攻める必要があるのか分からんかったのじゃ。
「俺を信じてください! このままではこの村は、森ごと火の海になってしまいます!」
アレンは儂らが信じられないと伝えた後も、何度もそう言って食い下がった。
そのあまりの執念には鬼気迫るものを感じた。
じゃが、皮肉な事にその執念が悪い方向に働いてしまったのじゃ。
何度拒否しても全く引かないアレンに、とうとう儂の父が腹を立ててしまったのじゃ。
「この虚言癖の人間を捕まえて牢にいれておけ!」
「俺は嘘を言ってない! 信じてくれ!」
アレンは何度も何度も叫んだが、父はもう耳を貸そうとはしなかったのじゃ。
アレンはそのまま、村にある牢にぶち込まれてしまったのじゃ。
実は儂は、その牢で看守を務めておったために牢に放り込まれた後もアレンの様子を見ることができた。
アレンは牢に入った後も、必死に儂に訴えたのじゃ。「ベルが攻め込んでくる」と。
儂は何回聞いてもアレンが嘘をついてるようには思えなかった。
じゃが悔しい事に、その頃はただの若造であった儂にはどうする事も出来なかったのじゃ。
だからせめてもの気晴らしにと、よくアレンの話し相手になった。アレンも牢に入れられて暇じゃったんじゃろう、喜んで色んな話を話し合った。
アレンの話は、その全てが信じられるものでは無かった。数百年前には魔王をやっていただの、この世界の神様はとんだトラブルメーカーだの、とてもじゃないが信じられない事ばかりじゃった。しかし、アレンは本当に自分の事を話すかのように自然に話すので、不思議とその話に聞き入ってしまうのじゃ。
そんな日々が流れ、アレンとも完全に打ち解けて、アレンと話すのが毎日の楽しみになった。
そんなある日、いつものように牢屋に入っているアレンに挨拶すると、その日のアレンの様子はどこかおかしかった。
「おい、風邪でもひいたのか?」
アレンにそう聞くと、アレンはすすすっと俺の方に近づいてくる。
「フォーレ、お願いがあるんだ」
「ど、どうしたんだ改まって」
アレンの様子は、今までにないくらい真剣なものだったのじゃ。儂も何事かと思ってアレンを見つめ返した。
「ここから出してくれ! 数十分と経たないうちに、ベルがここに攻め込んでくるんだ!」
儂は肩の力が抜けてしまった。ここにきてまたベルとかいう奴の話題だったからだ。
「それは無理だって。まーたアレンはそうやって不安を煽るのか? お前の事は好きだが、その虚言癖は直した方がいいぜ?」
儂はアレンにそう叱ったが、アレンはそんな事聞いてないと言わんばかりに訴え続けた。
儂は段々と苛立ちがつのり、ついカッとなってしまった。
「いい加減にしろ! そんな事言ったって、ただ逃げたいだ……」
儂の説教は、ドゴン! という音でかき消された。音のした方を向くと、村の中央部に大きな岩がめり込んでおった。
「な、なんだよこれ!」
儂はあまりの事に呆然としてしまった。
「だから言ってたろベルが攻め込んでくるって! 俺は嘘をついちゃいなかったんだ!」
儂はここでようやく過ちに気づいたのじゃ。
警告ならばずっと前からアレンがしてくれていたのじゃ。それを信じずに、儂らは恩人になるべき者を罪人として牢に放り込んだのじゃ。
時すでに遅しとはこの事だとひしひしと感じさせられた。先程の岩を皮切りに、空からは雨のように岩が降り注ぎ、森には火を放たれ、魔物達が儂らの村に攻め込む。
儂はその様子を見て、へたり込むことしか出来なかったのじゃ。あの場に行く勇気が無かったのじゃ。
そんな時、アレンが儂に向かって何かを言おうとしていた。儂はその言葉を聞くのが怖かった。恨み言を言われるに違いなかったからじゃ。じゃから、儂は耳を塞いだ。目もつぶった。出来ればこれが夢である事を祈って。
「はぁ…… 仕方ないか。これを使うのはずるみたいなもんだし、使いたくなかったんだけど…… フォーレ、これ壊してもいいよな?」
塞いだ耳から聞こえたのは、アレンの独り言じゃった。儂は何を言ってるのか分からんかった。
ズバッ!という何かが切れる音が背後から聞こえた。驚いて振り返ると、そこには檻の外に出ているアレンの姿があった。
「悪いなフォーレ、もっと早くこうすべきだった。自分達の村は自分達で守る方がいいと思ってたんだけど、こうなっちゃったら仕方ないよね」
アレンの肩には、いつのまにか緑色のラオペがのっていた。
「お、おいアレン? お前、どうやって外に……」
「あれ、言ってなかったっけ? 俺は魔物使いでさ。この子に助けてもらったんだ」
アレンは肩にいるラオペに目線を傾けると、そのラオペは嬉しそうにキュピっと鳴いた。
「じゃ、じゃあお前はいつでも外に出れたのか?」
アレンは目を泳がして頬をポリポリ掻いた。
「ま、まぁな…… でも、お前らは俺の話を信じようとしねぇんだもん。出ていってもまた牢に入れられるのがオチかなって思ってさ」
アレンの言葉はグサリと儂の胸に突き刺さった。情けないことにその通りだったのじゃ。
「す、すまな……」
今までの無礼な行為に謝ろうとしたところ、アレンの手で遮られる。
「いいよ謝んなくても。代わりにさ、次からはちゃーんと信じてくれよ」
「……次? この村に次なんかないよ。
アレンにだって見えるだろ! これはアレンを信じなかった俺たちの報いだ。せめてアレンだけでも逃げてくれ……」
アレンはいきなり大声で笑い出した。
儂の不安や怯えを、すべて吹き飛ばすかのような豪快な笑いだった。
「何言ってんだよ、全員助けるに決まってんだろ? お前らは俺の友となるべき者達なのだから!」
「い、いや…… でもベルとかいう奴の軍勢が迫ってるんだぞ?」
アレンはケラケラと笑うと、
「なぁフォーレ、お前気づかないのか?」
と問いかけたのだ。
何を言ってるのか初めは分からなかったが、儂はある事に気づいた。雨のように降っていた岩が止み、森を燃やしていた火がいつの間にか消えていたのだ。
「俺の知り合いのトラブルメーカーをさっき呼んどいたんだよ。そいつ一人さえいればベルの軍勢なんて簡単に崩せるよ」
にわかには信じられなかったが、先程の苦い経験を繰り返すわけにはいかない。
多分アレンの言っていることは事実なのだろう。
「で、でもなんで今までそれをしなかったんだ?」
儂の質問に、アレンは苦笑いを浮かべて答える。
「ちょっとアイツを呼ぶのは反則かなって思ってね。なんたって神様だし。
……それに、アイツがからむと大抵ろくな事にならん。生粋のトラブルメーカーだよ」
□□□
「それから、アレンのおかげで儂らの村は救われたんじゃ。その後は感謝の気持ちから森の掟をつくり、アレンが死ぬ間際まで付き従ったのじゃよ」
フォーレはところどころつっかえながらも昔話を語ってくれた。
俺はその話を通して、どうしても気になる事がある。アレンが呼んだというトラブルメーカーのことだ。
「……なぁフォーレ。そのアレンが言っていたトラブルメーカーって、ベガって名前じゃなかったか?」
「どうだったかのう…… 儂も数百年も昔の事じゃし、あんまり覚えとらんな」
うーん、まぁ仕方ないか。後でロビンの事もふくめて本人に聞くとしよう。
「ねね、結局まとめると、森の民の皆はレーくんを手助けしてくれるって事だよね?」
「そうでございますのじゃ。儂らはアレンに返しきれない恩がありますからな」
それを聞いて俺たちは頰をほころばせた。
「それならやったじゃんレーくん! これでアロエの実も育ててもらえるよ~!」
いやぁ…… こんなにトントン拍子でいくとはなぁ。
……いや、それは違うな。もしフォーレの話に出てきたトラブルメーカーとやらがベガだとしたら、ベガのやつは全て分かった上で俺達にフォーレ達を訪ねるよう仕向けたわけだ。偶然じゃなくて必然だったわけだね。
まぁ何はともあれ、アロエの実を育ててもらえるようだしまずは皆にグリズリに来てもらうことにしよっか。
「それじゃあ皆にグリズリを見て欲しいからさ、使役させてもらってもいいかな?」
俺がそう尋ねると、ピアニーが首を横に振った。
「それは無理です! どんなに主とあたし達の仲が良かろうと、今の主にはあたし達を使役することはできませんです!」
「なんでマスターじゃダメなの?」
スーが首を傾げてそう言うと、またもピアニーは首を横に振った。
「違いますです。蓮さんがダメなわけではないのです」
「それじゃあ一体どういうわけなんだ?」
俺がそう聞くと、ピアニーはふふんと誇らしげにこう言った。
「それはですね、今の森の民は魔物じゃないのです。あたし達は妖精なんです!」
妖精…… あぁ、確かにそれは使役出来ないわ。あれ? でもさっきのフォーレの話と矛盾が生じる気がするんだけども?
「なぁ、フォーレの話だとこの村は魔物の村なんじゃなかったのか?」
そう俺が聞くと、今度はピアニーから選手交代してフォーレが答える。
「フォフォフォ…… ピアニーの言ってることは嘘ではございませんぞ。あの頃から数百年も経ちまして、儂ら森の民は魔物から妖精へと格上げされましたのじゃ」
「へぇ…… 色々とあるんだな」
なにその魔物から妖精への格上げシステム。
そもそも、妖精と魔物の違いが分からねぇ。
ドライアドやピクシーなら分かるけど、エルダートレントとかあっちにいるドラゴンとかはぱっと見れば魔物じゃんか。
はぁ…… まぁいいや、心の中のベガに聞くことリストにメモしておこう。
まぁそんな事よりも、今はどうやってフォーレやピアニー達をグリズリまでに連れていこうか。魔物収納が使えないのは厳しいな~
「なーに無言になってんのさレーくん?
考え事かな?」
「ん、ああ…… 魔物収納使えないならどうやってフォーレ達をグリズリまで連れてくかなって思ってさ」
「魔物転移使って連れてけばいいんじゃない? レーくんに触れてれば転移出来るんでしょ?」
うん、確かにその通り。その通りなんだけど……
「……いや、俺の魔力量じゃ無理だね。
この人数運びきる前に、俺がくたばっちゃう」
「そっか…… あ! なら転移門設置するのはどうかな? 」
「その手があったか!」
と、いうわけで……
フォーレ達をグリズリに連れてくために、この村に転移門を設置することにしました。俺の魔物転移を乱用するのは無理だし、これが一番現実的な案だよね。
残念ながら転移門の設置はベガにしか出来ないし、この場にアイツを呼ぶか。
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!
お待ちかねのベガ様じゃぜー!」
「ごめんまだ呼んでないんだけど! 呼ぼっかなってちょっと思った程度なんだけど!」
「いいじゃろどうせ呼ぶつもりじゃったんなら。ワシは優秀じゃからそこら辺考慮して動けるんじゃ!」
そう言うとベガは、驚いて唖然としている森の民をよそに、まだ頼まれてすらいない転移門の設置をし始めた。
……アイツもしかしてずーっと俺の心読んだりしてたのかな? 暇人なのかな……?
そこから数分間、『幻想の森』にロリっ子のホイホイホイホイという掛け声が鳴り止まなかった……
新生活始まるので更新速度が落ちるかも知れません…… ですが、小説を書くのを辞めるつもりはないので温かい目で見守ってください……




