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恐怖の模擬戦!

~一言で分かる前回のあらすじ~


回復薬がめちゃくちゃ高値で売れました。

蜘蛛の魔物が宙を舞い、爆発音と断末魔の合唱(アンサンブル)が響き渡る。溢れ出る魔力によって真紅の髪が揺らめき、またも魔物が宙を舞う。魔物は『真紅の魔女』の襲来に驚き(おのの)く。『真紅の魔女』に立ち向かう蛮勇(ばんゆう)は一匹もおらず、ただただ死の恐怖に怯えて脱兎(だっと)のごとく逃げる。立ち止まったら負けだ、そんな事は本能で感じ取っているのだろう。実に迷いのない逃げっぷりであった。


一般の冒険者からならば、逃げ切る事が出来たかもしれない…… しかし、不幸な事に逃げ切る相手は、赤い髪を携えた悪魔だった。

彼女は見通しのしやすいように浮遊魔法で重力に逆らうと、魔法で大きな水塊(すいかい)を作り、何百もの矢や剣に形成する。

そして、作り上げたそれらを逃げ惑う魔物に寸分違わず着弾させると、魔物達の叫び声が乾いた空気を震えさせる。

魔物達の断末魔を操る『真紅の魔女』は、さながら指揮棒(タクト)を振るう指揮者(コンダクター)、それを呆然(ぼうぜん)と見ることしか出来ない俺とスーは、『真紅の魔女』のコンサートを見ている聴衆(オーディエンス)だ。


死んだ魔物の体が光の粒子となり、それら全てが宙にいる『真紅の魔女』を包む。戦場が静寂(せいじゃく)の波に呑まれ、先程までの阿鼻叫喚(あびきょうかん)が夢のようだ。

光が全て彼女に吸収され、バラのように真っ赤な髪の少女が地面に降り立った。


「……やりすぎたかな?」

「やりすぎだろ」


俺が即答すると、少女はてへへと舌を出してはにかんだ。


□□□


俺達はCランクのクエストを受け、『傀儡蜘蛛(くぐつぐも)』という魔物を狩りにそいつが住処にしている岩場に来ていた。

この『傀儡蜘蛛(くぐつぐも)』いう魔物はとても厄介な奴で、自分の出す糸によって他の魔物を操るのだ。時には自分よりランクの高い魔物も操るので、Cランク、Bランク冒険者泣かせの魔物なのである。


しかし、そんなノリノリの『傀儡蜘蛛(くぐつぐも)』も、Sランクの冒険者にかかれば赤子の手を捻るようなものだった。

開始数秒で爆炎に包み込まれて宙を舞い、そのまま天に召されたのである。

そして、『傀儡蜘蛛(くぐつぐも)』に操られていた魔物は正気を取り戻したものの、残念ながらスピカの憂さ晴らしの被害を(こうむ)った。


俺は今回の戦いを、レッド隊やギンの実力を見るいい機会だと思っていたのだが、

そんな思いはスピカの魔法で、魔物同様粉々に砕かれてしまった。


「スピカ…… 少しは手加減してやれよ……」


俺は魔物相手だとしても、流石に(むご)すぎるなぁと思ってスピカに言った。

しかし、それを聞いたスピカはムッと不機嫌になった。


「魔物相手に手を抜いてどうするのさ?

そーいう心持ちだと手痛いしっぺ返しに会っちゃうよ?」


スピカはトラウマの件もあるし、魔物に対して無慈悲(むじひ)になっちゃうんだよなぁ……


「いや、まぁそうなんだけどさ、出来ればラオペ国の軍隊の力を確認したかったんだ。それと、戦力増強もしたかった」

「スーも戦いたかった!」


スピカはちょっと顔を歪めた。

多分、スーに言われたのが効いたのだろう。


「んぐぐ…… ご、ごめん。ボクもちょっとやりすぎたよ……」


その後、手頃な魔物がいないか探してみたが、完全にスピカにびびってしまったようで一匹も見つける事ができなかった。


「やっぱりいないか……」

「あ! いい事思いついたよレーくん!」


スピカはぱぁっと花が開くように明るい顔になって話してくれた。


「結局さ、レーくんはラオペ国の戦力がどれくらいなのかを知りたいわけだよね?」

「お、おうそうだよ」


……なんか、嫌な予感がする。

なぜなら、俺の第六感(シックスセンス)がビンビンに反応してるのだ!!


そして、次のスピカの発言で、俺の第六感(シックスセンス)は一級品だと言う事を知らされた。


「ならボクと模擬戦しない? 大丈夫、加減はちゃんとするからさ」


スピカは嬉々(きき)としてとんでもない事を言い出した。心なしか目も輝いてるように見える。

しかし、そんな提案をされた俺の目は濁っている事だろう。だって今の惨状を見せつけられた後に、模擬戦なんか怖くて無理だよ!? 絶対何人か殺される!


「ダメダメダメ! スピカの加減は加減じゃないから!!」

「えっ、マスターやらないの? スーはやる気満々だよー!」


スーが裏切れたと言いたげな顔でこちらを見た。俺も、スーと同じ顔でスーを凝視した。


いつからうちの天使(スー)は好戦的になったんだろう? やっぱりハナエルと戦ったのがいけなかったのかな……


「スー、お前、今の見てなかったのか?」

「見てたけど…… スピカねーちゃんは手加減してくれるんだし、スーはマスターを守れるようにならなきゃだから!」


その言葉を聞いて、俺は心にジーンときた。

スーは本当に天使の生まれ変わりなのではなかろうか? こんな可愛い子の頼み……聞くしかないでしょう!


「分かった、模擬戦やろう…… スピカ、くれぐれも、くれぐれも! 加減を間違えないでくれよ!」


俺は口酸っぱくスピカに念押した。


「わ、わかってるよ。そもそも、ボクは魔物に手厳しくなるけど、スーちゃん達の事は魔物に思えないから大丈夫」

「……瞬間移動無しな? あとあのハナエルの時使った魔法も」

「分かってるよ~」

「いーから早くやろー!」


スーが待ちきれなくなってきたので、即座にグリズリからイアンとギン、レッド隊を呼び出した。


「マスター、なにか用でごぜぇやすか?」

「あ、うん、驚かないで聞いてほしいんだけどさ…… その、模擬戦をする事になった」


この一言に、イアンは頬をほころばせた。


「ほ、本当でごぜぇやすか!? 実は、そろそろ実戦に近い訓練を行いたいってグレンと話し合ってたとこなんでさぁ!」

「流石は我がマスターです! それで? 相手は誰なんです?」


俺はゆっくりと人差し指をスピカの方に向けた。二人は俺の指の指す方を向き、スピカの実力を知らないグレンはおぉ!と歓声をあげていたが、1度殺されかけた経験のあるイアンはブリキ人形のようにぎこちない動きで顔をこちらに戻した。


「マ、マスター! 本気でごぜぇやすか!?

あっしらを殺すおつもりでやすか!?」

「いやぁ、手加減してくれるから大丈夫だってさ。それに、俺は止めたんだが、いかんせんスーがやる気でさ……」

「スー様が…… なら、腹をくくるしかないでやすね……」


イアンは膝が笑っていたものの、模擬戦を受けることをしぶしぶ承諾した。


「あ、でもまだ俺達には仲間がいるし。意外となんとかなるかもよ?」


そう、最近はラオペ達が目立っていたせいで影がうすくなっていたが、俺の仲間はラオペだけじゃない。


俺は魔物収容のスキルを使い、ブラックウルフとホワイトウルフ達を召喚した。

そう、シロとクロである。


「マスター! お呼びですか! 」

「お呼びですね!」


シロとクロは俺の腹めがけて突進してきた。

この2匹もベガによって擬人化のスキルを与えられ、種族もゴッドウルフへ格上げされていた。ただ、本人達があんまり人の姿が好きじゃないらしく、人の姿でいることを1度も見たことが無い。


「うぐぅ…… シロ、クロ、痛いって……」

「ごめんなさい!」

「嬉しくってつい!」


こんなにはしゃいでじゃれ合うシロとクロも、今や10匹の部下を率いる『白狼衆』と『黒狼衆』のリーダーだ。どこか感慨深いものを感じるね。


俺達は集まって簡単な打ち合わせをした後、すぐに模擬戦は始まった。


「それじゃ、やろっか…… どこからでもどーぞ?」


こちらの軍勢は、グレン率いるレッド隊総勢100名、シロ率いる白狼衆にクロ率いる黒狼衆、ラオペ軍総隊長イアン、元ナイトラオペであるギン、そして俺とスー。

対するはSランク冒険者、魔物からは赤い悪魔と恐れられる『真紅の魔女』だ。


こちらは数こそ多いものの、彼女に数的優位は関係ない。なにせ、1発の魔法で5万の軍勢を打ち破った瞬間をまざまざと見せつけられている。数の有利に胡座(あぐら)をかいて正面きってと勝負をするなんて下の下の策である。


「 さぁ…… 全員作戦通りに! 散開!」


俺の一言によって、まずは白狼衆と黒狼衆がスピカの周りを囲う。

今のスピカは瞬間移動縛りを課しているので、こうやって周りを囲って逃げ場を無くす事は有効だろう。……だと思いたい。


レッド隊はその間に待機と攻撃の二手に分かれ、攻撃部隊は白狼衆と黒狼衆の隙間を埋める。


「レッド隊! その距離を保ったまま炎魔法で攻撃しろ! 白狼衆、黒狼衆は逃げようとしたら回り込め!」


これによって、スピカは全方位から魔法で打たれることになる。上に逃げようとしても白狼衆と黒狼衆が見張っているので、容易くはないだろう。


「あはははは! 流石はレーくん! 瞬間移動無しのハンデをついてくるねぇ! でも…… それだけじゃあボクには勝てないよ!」


スピカは全方位から迫ってくる火球に対し、全て真っ向から受けることに決めたようだ。

スグに自分の周りに水のバリアを張って応戦する。普通ならば全方位からの攻撃だし、すぐにバリアが壊れてしまうと思うのだが、

スピカのものは軽くヒビが入るだけだった。


このままだと先に魔力が尽きるのはこちらの方だろう。なので、二の矢を放つ事にした。

中距離戦(ミドルレンジ)が無理なら、近接戦闘(インファイト)で決めに行くしかない。


「シロ! クロ! 」


俺が名前を呼ぶだけで言いたいことが伝わったようで、スピカ包囲網から一旦抜け出し、俺の元へ帰ってきた。


「イアンとギンを乗せてスピカに近接戦闘(インファイト)を挑んでくれ。頼んだぞ!」

「分かったよ!」

「オッケーオッケー!」


2匹はこの戦いを楽しんでるようで、ウキウキ気分だった。


「イアンとギンも、突撃よろしくな」

「へい、行って参りやす」

「……了解」


数瞬後、黒と白の矢がスピカに向かって一直線に走る。その矢に乗っているのは、ラオペ軍の中での最高戦力、ギンとイアンである。

二人はアルマの木が実らせる中でも上質な剣と鎧を装備しており、ちょっとやそっとじゃ壊れない装備だ。


「むっ! あれはイアンに……ギン君だね!

レーくんは決着をつけに来てるわけか。

……なら、ボクもちょっとだけ本気だすよ!」


スピカは水のバリアを一気に膨張させて包囲網を形成していたレッド隊、白狼衆、黒狼衆を吹っ飛ばしてKOする。

それを確認するや否や、火と雷の球をマシンガンのように連続で撃ちまくる。


しかし、流石はシロとクロ、滑らかな動きでそれらを避けまくる。

時折被弾しそうになるが、乗っているイアンとギンがそれらを防ぐ。


「スピカ殿、お背中御免!」

「……とった」


二人はそのままスピカに剣を振り下ろす。

しかし、スピカはそこまで焦っている素振りを見せず、むしろ少し笑みを浮かべている。


「君たちさ、ボクが魔法使いだからって、近接戦闘(インファイト)出来ないと思ってない?」


スピカは水と炎の刀を魔法で形成し、迫り来る剣を受ける。


「なっ!?」

「……マジ?」


こ、これは結構予想外だ。スピカは魔法は超一級だが、近接戦闘(インファイト)はからっきしだとばかり思っていた。


シロとクロの機動力で攻撃を仕掛けているのに、蝶のようにユラユラと避け、刺すべきところは刺していく。マインさん程の腕とはいかないが、剣技Lv5のスキルを持つギンとラオペ軍総隊長のイアンを同時に相手取れる程の腕前である。


「うーん…… やっぱり剣は好きじゃない。

そろそろ終わらせよー!」


スピカは何回か打ち合うと、一瞬の隙をついて刀の形状を球状に変化させて先程のように自分の周りに2重のバリアを形成する。

しかし、先程のよりは薄いバリアだ。


「こんなもの一瞬で壊せますぜ!」

「……舐めすぎ!」


バリアを壊そうと二人が迫る。


「あはは、違う違う。少しの時を稼げればそれでいいんだ」


スピカは三日月のように口角を上げる。

スピカのいる所から魔力が伝わってくる……

このままではまずい、どでかい魔法を撃つ気だ!


「スピカから離れろお前ら!」


スピカの真上を中心にして暗雲が渦巻き、

スピカの周りが黄金色の光に包まれる。

イアン達もこのままではやられると思ったのか、すぐにスピカから離れようとした。


「今更気づいてもおっそいよ! 喰らえ!

神の鉄槌(トールハンマー)』!!」


スピカの掛け声と共に、暗雲の中心部から巨大な雷が放たれる。巨大な雷のビームはイアン達の近くの地面に勢いよく落ち、轟音と土煙をあげる。


「ふふふ~ 手加減するよう言われてるから、直撃はさせなかったけど…… 体が痺れて動けないでしょ?」


イアン達はその場で痺れて動けなくなっていた。あれだけの規模の雷なら、地面を伝ってくる電撃だけでも十分すぎる威力だろう。


「さて、あとはスーちゃんとレーくんだけだね…… 大丈夫、優しくしてあげるから!」

「今の技見た後でその言葉を信じろと!?

模擬戦だっつってんだろ! 見ろよクロとシロなんてちょっと焦げてるじゃんか!」

「十分手加減したんだけどなぁ……?」


駄目だ話が通じない。基準値が違いすぎるんだよな……


「ま、まぁ実戦の厳しさを知るのも模擬戦の意義の1つだよ!」


スピカはいい感じに誤魔化したが、後でこっぴどく叱ってやる。

……それはさておき、まずい状況だ。一応策は進行中だが、それだけじゃあ勝てる気が全くしてこない。


「……来ないのならボクからいくよ?」


スピカはそう言うと、魔法陣を作って風の弾丸で攻撃してきた。威力はそんなじゃないが、とにかく量が多い。

早く手を打たなければフルボッコまっしぐらだ。


「スー! お前最近できるようになった技とかないか!?」

「えっ!? うーんとね……」


スーは思い出そうと頭を抱えるが、今はそんなに悠長にしてる場合じゃない!


「あっ! そーいや、スピカ姉ちゃんに『ライト』って魔法習ったよ! ピカーって発光するの!」

「ライト……? なぁ、その光の強さって調整できんのか!?」

「魔力を沢山使えば強い光が出せるけど…… スーはそんなに魔力多い方じゃないよ?」


いや……これはもしかするともしかするぞ!

現在行われている作戦と合わせれば……

スピカを出し抜けるかもしれん!一筋の光明が見えてきた!


「スー! 今からお前をおんぶしながら逃げるから、その間に俺の血を吸って、魔力を摂取できるだけ摂取してくれ!」

「えっ! いいの!? やったー!」


スーは俺の背中に飛び乗ると、首筋に噛み付いて血をできる限り吸う。


「ふぁっ! んむっ、んっ……」


俺の耳元でスーのとろけるように甘い嬌声(きょうせい)が漏れて、すっごく恥ずかしい上に力が抜けそうになる。 こんなの長くは耐えれそうにない……


しかも、その間スピカの放つ大量の風の弾丸を避けなければならない。体力制限ハンデあり、しかもプレイするのは最高難易度の弾幕ゲーム。これは鬼畜すぎる……


「むむっ! レーくんめ…… まだ何かを狙っているみたいだね? でも…… これでお終いだよ!」


やばいやばいやばい! 弾幕に加えてまだ何かしようと魔力こめてる!


「ス、スー!! まだか? まだなのか!?」

「……んっ、んんっ! ……ぷはぁ! はー……はー……ますたぁ…… もういっぱいだよぉ……」


スーの顔は18禁でもおかしくない程だらしのないものに変貌していた。


「よっ、よっしゃぁ! イモムシモードになるんだスー! 」

「……わかったぁ~」


イモムシになる前のスーの顔がちらっと見えたが、顔が上気して目がトロンとしていた。

スーを健全に育てるためにも、緊急の時以外はこの行為をするのは控えよう……


イモムシ状態になったスーを右手でがっちりと掴み、スピカの真上に狙いを定める。


「スー! 行けぇぇぇ!」


俺は狙っていたポイントにスーをぶん投げた。昔、野球の習い事もしていた事が功を奏し、スーは狙い通りの所へ飛んでいく。


「ちょっ! えぇ!? 血迷ったの!?」


これにはスピカも面を食らったようで、

魔法を撃つのをやめ、綺麗な放物線を描くスーを目で追った。


「今だスー! やれぇ!」


俺は目をつぶった。


「任せてマスター! 『ライト』!」


瞬間、スーが辺り一帯に強い光を放った。

飛んでいくスーを目で追っていたスピカはもちろん、目を閉じている俺も眩しかった。


「こ、これを狙ってたの……? でも、こんなのすぐに見えるように……」


ところがどっこい、俺の策はまだ続いている。スピカは気づかなかったようだが、序盤の方にレッド隊は二手に分かれているのだ。

イアン達を倒した時点で、残っているのは俺とスー、そしてレッド隊の待機組であるはずなのだよ! しかし、あの場には俺とスーしかいなかった……


一体、レッド隊はどこに消えたのか?

その答えは…… 下である。


「グレン! 今じゃあ!」

「かしこまりましたマスター! レッド隊!

粘糸で動けなくするんだぁぁ!」


グレン率いるレッド隊待機組が、ちょうどスピカの真下から現れる。


「ちょっ、えっ! 嘘!? ど、どうして!?」


スピカが視力を回復出来ていない隙に、どんどん粘糸で動けなくしていく。

しかし、流石はスピカ、広範囲魔法を自分を中心にして放った。勿論スピカも被弾するが、残っていたレッド隊も全て吹っ飛んだ。


「惜しかったけど…… ボクの勝ちだね!」


視力もまぁまぁ回復したようで、スピカは勝利を確信した。

……が、何もそれで終わりだなんて一言も言ってない!


「いーや、俺達の勝ちだ!ギン、やれ!」


痺れたはずのギンがむくりと起き上がり、

満身創痍のスピカに剣を振るう。


「……待ってて正解だった」


スピカは残っていた粘糸に動きが疎外され、

その上、先程の強引な魔法と今までの波状攻撃のせいで疲労やダメージも溜まっている。

そのため、最初の頃のような動きのキレが無くなっていた。


ギンの振るった剣があたる寸前の所で、スピカの姿が消えて俺の横に立っていた。


「あはは、瞬間移動使っちゃった…… ボクの負けだね~」


スピカの敗北宣言に、俺達は歓喜の渦に包まれる。ハンデありとはいえ、『真紅の魔女』に勝てた事は自信に繋がるに違いない!


「レーくんの作戦、とっても良かった。

何回も予想を裏切られたよ~。

それはそうと、なんでギン君は動けたの?

ちゃーんと痺れさせたと思うんだけど……」

「ギンはさ、状態異常無効のスキルもってるんだよ。だから、やられたフリをしてもらってたんだ」

「そーゆー事だったんだ…… いや~ 油断しちゃったな…… もっと精進しないと!」


威力制限、瞬間移動禁止、数的不利……

こんだけハンデもらってギリギリの勝負だったんだよ?

これ以上スピカが強くなったなら、どうしろって言うんだよ……


「あ、そうだ! これから暇な時はさ、ボクと模擬戦しよーよ! ボクも昔の勘を戻せるし、レーくん達は訓練になってウィンウィンでしょ!」

「え、やだよ…… 疲れるし、怪我するし……」

「そっか…… じゃあさ! イアン達の訓練を担当させて! それならいいでしょ?」

「あぁ、それはいいな……」


俺達の会話が聞こえたのだろうか、レッド隊、白狼衆、黒狼衆、全ての部隊が肩を震わせ顔を青ざめながら首を横に振った。


「マ、マスター!? あっしら、マジで死にやすよ!?」

「あれ、イアンは()なの? シロは嬉しいよー! スピカ姉ちゃん、とっても強いもん!」

「クロも!」

「シロちゃん…… クロちゃん…… 君たちは本当に可愛いねぇ! ボクも嬉しい!」


スピカがシロとクロの頭を撫でると、2匹は尻尾をブンブン振っていた。

あんな恐怖体験した後なのによく喜べるなぁ……


「スーも大賛成ー!」


ラオペの女王(スー)が賛成したために、イアン達の決定権は失われた。


「や、やるしかないんでやすね……」

「……総隊長、膝、笑ってる」

「ギン、お前も人の事いえんだろがい!」

「……これは、武者震い」


二人の膝はガクガク震えていた。


「できるだけ、外出増やしてスピカを連れ回してみるからさ……」

「ありがとうごぜぇやすマスター……」

「……感謝」


明日からのラオペ軍は、一層強くなる代わりに、夢に見るほどの恐怖を植え付けられそうです……

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