ミラ、教祖になる。
怒涛の3話連続更新です!
こんにちは。突然ですがクイズです。ベガが聞いてるとは思はず、先程のミラのサービスショットに興奮しちゃった間抜けな人物だーれだ? 俺だよ!!!
蓮のほっぺたはベガの渾身のビンタで紅葉の形で真っ赤に腫れ上がっていた。まぁ悪いことした報いだと思うしかない。しっかし一つ気に食わねぇのはかっちゃんの野郎だ。アイツはビンタが怖くて何処かに逃げちまった。
……今日は鳥鍋だな。
蓮は腫れ上がった部分を赤子を撫でるように優しくさすりながら歩く。
「全く…… 男って奴はチンパンジーから成長しておらんの……」
ベガは先程からこの調子だ。自分が辱められた訳ではないのだが、やはり男性のこういうゲスい所が許せないのだろう。
「もしかしたらナババを創ったのもそのためじゃったのか……? だとしたらアルの野郎も同罪じゃ!」
「え、誰だよそのアルってやつ?」
「お主の世界の神様じゃよ。あの野郎は本当に昔からムカつくガキじゃったの……確かに所々スケベじゃったな…… 思い出すだけで腹が立ってきたのじゃ!」
「まぁまぁベガ様、そのへんで…… 」
苛立つベガをミラが間に入って落ち着かせた。
俺は今回の事で、ミラは本当に性格が良いのだとつくづく思い知らされた。一番怒ってもしょうがない立場であるのに関わらず、怒るどころかベガの怒りを鎮めるのを手伝ってくれた。そんなミラに優しくされる程、かっちゃんの思惑通りに興奮してしまった自分が恥ずかしく思う。改めてミラに謝罪しなければ気が済まない……
「ご、ごめんなミラ……」
「まぁまぁ、男の子ならそう言う時もありますよね、分かってます。 でも、そういう事は控えて下さいね? 良いですか?」
ミラは微笑みながらそう言った。
……何この人、天使? 天使なの?
俺は天使を困らせてしまったのか? なんて罪深い奴なんだ俺は!
「ちょ、どうしたんですか蓮さん! え? なんで泣いてるんですか!? ベ、ベガ様、蓮さんがおかしくなっちゃったんですけど!?」
「……お主の慈悲深さに感服したみたいじゃぞ? お主……才能あるぞ! 」
「なんの才能ですか……」
「教祖になれる才能じゃ!」
「や、やりませんよ教祖なんて! 私人前に出るタイプじゃないんですからね!?」
「すみません、ミラ教へ入教したいんですけどどうすれば入れてもらえるんですか、入れされ下さいお願いします!」
蓮は何者かに取り憑かれた様にミラにすがった。ミラは持ち前のアルカイックスマイルで対応するが、流石に気味が悪く感じたのだろう、笑みを浮かべるミラの腕はうっすらと鳥肌が立っていた。
「おい本当に宗教開いたらどうじゃ? 」
「い、嫌ですよ…… タメになる事なんて言えませんし、カリスマ? もありませんし…… なにより、は、恥ずかしいじゃないですか!」
ミラは顔を真っ赤にして、ないないないと右手で拒否のジェスチャーをした。
そんなミラをおいて、ベガと蓮はコソコソと小さな声で話し合う。
「おいベガ、和菓子ありったけ出してくれ、賄賂で丸め込めよう」
「任せるのじゃ、こんな面白い事やらないでいられるかってんじゃ。こやつにはファンクラブもある事だし、それなりの数入るじゃろ」
やっぱりあったかファンクラブ。これだけの魅力を兼ね備えていればファンクラブの一つや二つ、あって当然だな。
しかし、いかんせんミラは恥ずかしがり屋のようで、必死に抵抗する。
「ちょっ聞こえてますから! 嫌です、嫌ですよ! 私はやりません!」
「お願いだミラ、ミラ教を創始しようぜ。国民もそれを望んでいる!」
「そ、そんな事は…… でも皆の為になるなら確かに…… いやいや、やっぱり恥ずかしいし……」
やはり優しいなミラ。俺ならこんな頭とち狂った提案、速攻拒否して悪口とムカつく顔のセットをプレゼントする所だ。
しかし、流石は教祖候補のミラ様、悪口一つ言わないばかりか、話をちゃんと検討するだなんて……
しかし、これは俺達からすればチャンスだ。
分かってるよなベガ!!
俺はベガに目配せすると、分かってる、というふうに頷いた。
「なぁミラよ、別にこれはワシらの悪ノリでやろうとしてるのではないんじゃ。セイメル王国には国教が無い…… というか大多数に支持されている宗教が無い事は分かっておるじゃろ?」
「そ、それはまぁ…… 私も、どの宗派にも属していませんし、そもそも入信している知り合いも片手で数える程しかいませんね……」
「そ、こ、で、じゃ! お主が新しい宗教を創れば! 国民の精神的支柱となるんじゃないかの~」
「ウグッ…… そ、それはそうですが…… 私より適した人がいますよ…… と、いうかベガ様がなさればいいんじゃ……?」
「あ~ダメダメ、この駄神じゃなんの癒しも得られん。人を驚かせるのを生きがいにしてるような奴だぞ? せいぜいクレームの嵐を引き起こすのが関の山だろ」
「ふむ、反論したいが今回ばっかりはぐうの音も出んのぅ…… そーゆー訳じゃ、ミラがやっとくれ」
ミラは必死に教祖になるべきかどうするか思い悩んでいるようだ。
ここが攻め時だと踏んだベガは、最終兵器を差し出した。餡蜜、どら焼き、饅頭、団子、花を象った色彩に富んだ練り切りに、赤い宝石のような苺を内包したいちご大福などなど。ベガが思いつく限りの和菓子を創った。
筋金入りの和菓子愛好家のミラにはなす術なく、和菓子の甘い誘惑に負けてしまった。
「ひ、卑怯ですよ、もぐもぐ…… 和菓子で……もぐもぐ……釣るだなんて……もぐもぐ、このいちご大福美味しいですね~ もう一個おかわりください~」
「最初っからこーしときゃ良かったな」
「そじゃな。人間欲には勝てんからのぅ」
「せやせや、ワテもそー思いまっせ」
俺も異世界に来てからどーしてもポテチが食べたくなっちゃったからな~ 欲には勝てた試しが無いね。あはは……
……ん? 今どこか聞き覚えのある声が聞こえたような……
蓮がその声を発したモノの方を向くと、ベガのビンタが怖くて自分一人逃げ出したクソ烏がちゃっかり話に混じっていた。
「ようクソ野郎、よく俺たちの所に戻ってこれたなぁ? ベガ、鍋の準備をしてくれ。今夜は鳥鍋だぁぁぁ!!!」
「合点承知之助じゃ!!」
お、なんだベガの奴もノリノリだなぁ。
こんなにやる気なのは初めてなんじゃないか? それだけミラへの蛮行が許せなかったって事かな?
「おいおい落ち着けやおまんら。はやまるな、はやまるなて」
なんと不思議なことに、確実に追い詰められているはずなのに、かっちゃんは焦る素振りを見せなかった。
なんだこいつの余裕は…… これから鳥鍋のメインとなる奴がこんなに落ち着き払えるだなんて…… 状況分かってない馬鹿なんじゃね?
蓮とベガは『八咫烏』の言葉を全スルーし、テキパキと鳥鍋の準備を進める。
「ちょっ、ほんま待って、一回ちゃんと考えーや? ワテがおらんかったらスーとやらの元にたどり着けへんのやぞ?」
あぁ、こいつが落ち着いてた理由はこれか。
飛んで逃げてる間に自分は殺されないに違いないという事に気づいたから戻ってきたのか。
「ふふん、ワテが必要やってことによーやく気づいたやろ?」
「確かにこの状況、お前に分があるよーだ。
……但し、ベガがこの場に居なかったらの話だがな?」
「ワシ、この世界でならなんでも出来るんじゃぞ? あんまり力を見せびらかしてもしょーがないし、ワシが居なかったでも困らんように手出しはせんかったが…… 今回ばかりはしょうがないんじゃ」
ベガは何らかの魔法陣を起動させると、その魔法陣の中からは『八咫烏』と同じようなモノが現れた。唯一違うところと言ったら発光してるかしてないか、という位しか違いがない。
「お主をコピーのスキルでコピーしてみたんじゃ。 これでお主は用済みじゃな、ほれ、湯が煮えたぎってきたぞ、こっちは準備万端じゃ」
「ま、待て待て待て待て、待ってください! 調子乗っ取ったすまんかった! だから鳥鍋はやめてくれい! あ! ワテもミラ教入る! 入るからミラ様助けて下さい!」
先程までの余裕のある様子とはうって変わり、冷や汗ダラダラで許しを乞う。自分でおとしめた相手に助けを求めるのはなんとも情けない事だが、相手が仏の様に優しいミラなら、助けを求めるのも仕方ないことだろう。
しかし、助けを求めるタイミングが悪すぎた。現在ミラはベガが創り出した和菓子を食べるのに夢中になってしまっている様で、かっちゃんの声が全く聞こえていない。
「ちょっまちぃや! 頼んます、助けて下さい! ワテには愛する娘と妻が!」
「えっ、お前妻子持ちなの! ……なーんて言うわけ無いだろ! そんなバレバレな嘘ついてんじゃねぇ! よーしベガ早くこの烏に天誅を下そう!」
「委細承知なのじゃ!」
かっちゃんは最後の悪あがき、飛んで逃げようとした。しかし、ベガはそれを読んでいた。目にも止まらぬスピードでかっちゃんの後ろに回り込み、結界のようなものにかっちゃんを閉じ込めた。とてめ先程歩いただけでへばっていた奴とは思えない早業だった。
「ふふふ…… と、鳥鍋…… 久しぶりじゃのぅ……」
「ヒィィィィ助けてくれぇぇぇぇ」
ベガは悪魔を彷彿とさせる表情で、かっちゃんを舐めるように見た。その口元からはヨダレの雫がポタリと一滴流れる。
「……なぁベガ、お前もっともらしい事言ってたけどさ、もしかして……」
「ん? あぁ、最初は怒ってたんじゃがな、ミラがあんまり怒っとらんかったからどーでも良くなったんじゃ」
「ならワテを捕まえる必要ないやんか!」
「いや、久々に鳥鍋食べたくなってしまってのぅ…… うふふ……」
あ、やっぱりか…… まぁ実はも……
「お、おいやめ、蓮のダンナまでなにヨダレ流しとんねん! か、神様助けてぇ!」
「ワシが神様じゃけどな」
「ちくしょうがぁぁぁ!」
もう助かる見込みがないと嫌というほど思い知らされたかっちゃんは断末魔のような叫び声をあげる。ぐつぐつ煮えたぎった鍋にかっちゃんの羽が触れようというところに、一つの助け舟が出された。
「待ってください、そんな事しちゃダメですよ! かっちゃんさんが可哀想じゃないですか! 」
「なっ! ミラ、お主は和菓子に夢中で話が聞こえていなかったはずじゃ! なんで……ハッ! 」
ベガの視線の先には、先程まで山のようにあった和菓子は神隠しにあったかのように消え去り、代わりに和菓子の包み紙などが散乱していた。
「ミラって見かけによらず…… その……」
「あはは……む、昔から食べる事は大好きでして……」
ミラはほっぺたをかきながら恥じるようにはにかんだ。
「くっ…… ならば……ミラよ、ここに和風パフェがあるのじゃ! それで手をうとうじゃないか」
出た、ベガの十八番賄賂!
神様のクセにせこくてゲスく、マインドコントロール出来るくせになんと遠回りな事か!
「それ褒めとるのか? けなしとるのか?」
「褒めてる褒めてる。あと急に心読むのやめてください」
「はいはい、分かったのじゃ…… それでミラよ! どうじゃ? 和風パッフェじゃぞ?」
ベガがゲスい顔でミラに詰め寄る。
「いや、太るんでいいです。それよりかっちゃんさんを解放してあげてください。別に私は才能から怒ってないですから」
「ミ、ミラ様ァァァ!!!」
かっちゃんはその場で泣き崩れた。絶望の淵から救い出されたのだ、ミラのことが神に等しい存在に見えてる事間違いないだろう。先駆者の俺が保証する。
さて、さしものベガもやられた本人が許すと公言してるんじゃ手が出せない。名残惜しそうにかっちゃんの結界を解いた。かっちゃんは解放されると、泣き崩れたままミラの方を向いて平伏する。 そんなかっちゃんの背中を撫でて介抱するミラは本当に天使の様だった。
「はぁ…… 鳥鍋食べたかったのじゃ……」
ベガはまだ諦めきれていないようで、少し不貞腐れながらぼやいた。
「ミラに言われちゃ諦めるしかないよなー。
あ、というかベガ、お前なら創り出せるんじゃね?」
気にして無かったけど、ポテチや和菓子創ったりしてるよな。そんなら鳥鍋も創れた気がするんだが……
「いや、無理じゃよ? 素材なら沢山出せるんじゃが、調理後のものを出そうとするのは相当その料理の事を知り尽くさないといけんのじゃ」
ほれ、とベガが即座に鳥鍋を創ってくれたが、話の通り味が全くしなかった。
「あれ? でも私に下さったお菓子は全部美味しかったですよ?」
「あぁ、それはワシが好きじゃからじゃな。味をいつでも思い出せるほど食べたからワシが創ったお菓子にも味がついたんじゃ。 まぁそんな事より! やっぱり鳥鍋食べたかったのじゃー!」
ベガは子供のように駄々をこね始める。心なしかベガの発言を聞いたかっちゃんが震えている。
「あ、あの…… もし良ければ、私がお作りしましょうか?」
「え? 作れるのかミラ?」
ミラはこくんと首を縦に振った。
「これでも昔、スピカと一緒に知り合いの料理人に弟子入りした過去をもってますから」
「へぇ、プロに直接弟子入りするだなんて凄い行動力だな……」
「いえいえ、そんなに褒められた話じゃないです…… 私もスピカも絶対的に料理音痴でして、どうにかしなきゃいけないと思ったんですよ」
そう言った辺りで、俺とミラの横で物音がした。何事かと思ってそちらを振り向くと平伏したベガと、鳥鍋を作るための調理器具と材料が創り出されていた。
「頼む、この通りじゃ! ミラ教にでもなんでも入るから! ワシに鳥鍋を食べさせてくれい!」
「凄いなミラ、出来て数十分の宗教に本物の神様が入信したぞ。やっぱり才能あるって」
「私はその宗教認めてませんからね!」
ミラの抵抗の意を示す声が、ジャングルの中を響き渡った……




