ボワ島にて!
「……よっと。到着ー」
蓮たち三人は、スー達を送ったボワ島へと到着した。
「蓮さんのそのスキルも中々チートですよね……」
「えへへ、そうかな? 」
「ワシが与えたんじゃ、この程度出来んでどうするよ!」
蓮達三人は少し談笑してから、辺りを見回した。
「んーと、木、木、木…… 辺り一面木だな……これってジャングルってやつかな……?」
「その通りじゃ! ちなみに此処を主に創ったのは蓮の世界の神なのじゃが、そやつが如何せん動物好きでの~ 「動物が暮らせるパラダイスを創るっ!」と言い出してこの島を創り出したんじゃ」
ほほぅ、動物好きか。その神とは飼育係であった俺と気が合いそうだな。
「あ、あの……ちょっといいですか?」
ミラが申し訳なさそうに片手を挙げて、何か言いたげだった。なにかまずい事でもあったのかな?
「そ、その、蓮さんのスキルでスーちゃんの所に飛んだんですよね?」
「ん、そうだぞ?」
「な、なら、なんで辺りにスーちゃんが居ないんですか? 」
む、確かにそうだ。ミラの意見は的を射ている。魔物転移で転移したら当然だが自分の使役している魔物の所に飛ぶはずなのだ。しかし、現在辺りにスーは居ない上、住むのに不便そうなジャングルのど真ん中だ。
んー、スキルの不具合か?
蓮がうんうん唸って考えていると、ベガはしまったという顔をしながら話し始めた。
「すまん、伝えるのを忘れておったのじゃ。実はの、魔物転移は正確には使役している魔物の所に飛ぶんじゃなく、使役している魔物の座標に飛ぶんじゃよ。」
「ほうほう。でも別にそれでも何の問題ないよな?」
「そ、そうですよね?」
ベガはチッチッチッと音を鳴らしながら右の人差し指をリズムに合わせて左右に振った。
控えめに言ってウザイ、はよ教えろや。
「それがの、このボワ島のように磁場が狂っている所だと座標がズレてしまうんじゃ。それゆえ、スーの所へ転移出来んで違う場所に飛んだんじゃろ」
「あれ? その理論なら沢山送ったラオペ達も元いたラオペの所に辿り着けて無いんじゃね?」
「あぁ、それは大丈夫じゃよ……これがあったからの」
そう言うベガは一本の細い30cmほどの紐のようなものを掴んでいた。その先はジャングルの奥深くを指していた。
「ベ、ベガ様、なんですかそれ?」
「ん? これは蓮の世界の神がこの島を創った時に、迷わないようにするために創った紐じゃよ。確か『八咫烏』と呼んでいたかの。探したいものをこの紐に伝えるとその場所まで案内してくれるんじゃ。」
便利だなそれ。めちゃくちゃ欲しい……
それがあれば色んな所で活用できる……
「なぁ、それどうやってゲットするんだ?」
「あぁ、この島の中央にある、一際大きい気があるじゃろ? あの木に『八咫烏』は実るんじゃよ。本来ならそこまで行って収穫するんじゃが、『八咫烏カムヒア』って唱えればあの紐が自らやって来るぞ。ほれ、やってみい」
俺とミラは半信半疑であったが、ベガの強い推しに負けてする事にした。まぁ損はねぇしな。
「「八咫烏カムヒア」」
二人一緒で唱えてみると、中央の木から光る紐が2本飛んできた。
「まじかよ……」
「ほ、本当でしたね……」
「信じておらんかったのか…… ワシ神様なのに……」
ベガはしゅんと暗くなってしまった。まぁ、こればっかりは普段の行いだよなぁ……
あ、それと容姿も幼いから説得力が無いんだよなぁ……
「聞こえとるぞ! 容姿がなんじゃい、これでも数百年、いや数千年生きとるんじゃ! それだけで説得力なんぞカンストじゃろ!」
「はいはいっと……」
こうなるとめんどくせーんだよ……
適当に返事しとけば大丈夫かな……
「蓮! お主めんどくせーなって思ったのも聞こえとるんじゃからな! おい! 」
「ま、まぁまぁベガ様そこら辺にしときましょう……」
「……チッ、ミラに感謝するのじゃぞ」
良いタイミングでミラが止めに入ってくれたお陰で、ベガとの戦いは避けられたようだ。
「それじゃあスーを探そうぜ、この紐に探したいものを伝えればいいんだよな?」
「そうじゃ」
ふむ、どれどれやってみますか……
蓮が『八咫烏』にスーと伝えると、『八咫烏』がたちまち光出し、紐が絡まりあって何かを形作っていく。激しい発光は数秒続き、目に優しいくらいの光になった頃には、その名の通り足が3本ある烏、つまり八咫烏の形になっていた。
「す、凄いですね…… 造形魔法の類ですかね……?」
「いやいやちゃうねん、ワテはそんなちゃーちぃ魔法で創られたもんじゃないで~ 」
ミラの言葉に反応して、『八咫烏』は流暢にエセ関西弁で答えた。突然の事で蓮とミラは「はぁ!?」と気の抜けた声をあげてしまった。
「しゃ、喋れるんですか……?」
少し落ち着くことが出来たミラが『八咫烏』に質問する。すると、『八咫烏』はミラの目の高さまで飛び上がって質問に答えた。
「あったり前や! ワテを何だと思っとんねん!」
「『八咫烏』と呼ばれる俺の世界の神様が創った紐?」
「せやで~ 正解正解大正解~ 賞品は飴ちゃんやで~」
『八咫烏』は俺の頭の上に来ると、翼をバサバサと動かす。すると、どんな理論かは知らんが金色の飴が1粒落ちてきた。
「良かったな蓮、『八咫烏』が与える飴ちゃんは幸福の象徴とワシの中でもっぱら噂なんじゃよ。とっとくええぞ」
「せやせや!」
……まぁここは年長者に従っておこう。
俺がポケットの中に飴ちゃんをしまうと、『八咫烏』が辺りを旋回し始めた。帰ってくるやいなや
「ほな、そろそろいくで~ スーって輩も見つかった事やしな~」
「えっ、ホントか『八咫烏』」
「その『八咫烏』って呼ぶんやめてくれんかな、それお前らんこと『人間』って呼ぶんと同じこっちゃで? ワテの事はかっちゃんと呼んでくれ~」
例えが極端な気もするが…… まぁ本人が呼ぶなって言うんだから仕方ないか。しっかし『かっちゃん』か、絶対烏だから『かっちゃん』なんだろーな。安直だな~
「ほないきまっせ~」
かっちゃんが先行して進み始めたので、俺達もついて行った。行き先はどうやら中央の木の方向のようだ。
数分歩いて思ったんだが、かっちゃんの移動速度が速い。そりゃ平地なら適度な速さなんだろーが、ここは歩きにくいジャングルだ。
どうしたって飛んでる奴より遅くなってしまう。
「おい……かっちゃん速いって……」
「そうじゃ……もちっとゆっくりせい……」
完璧に俺とベガはバタンキューだ。水も飲んでないし、俺文化系だから体力もないし……
「え? そうか? 嬢ちゃんは普通についてきてるで?」
そう言うかっちゃんの横にはピンピンしているミラがいた。
「ミラは俺と違って体育会系なんだよ……」
ミラは申し訳なさそうにあはは、と愛想笑いした。その横にいるかっちゃんは蓮とベガの体たらくを見て、大きなため息をついた後にペースを下げた。今回のペースは体力がゴミな蓮やベガにも何とかついていける絶妙なペース配分だった。
ふぅ…… ふぅ…… 最初っからそのペースで行ってくれよ…… 緊急事態でもないんだからさ、ゆっくり行こーぜ?
蓮がちょっとかっちゃんへの不平を思っていると、かっちゃんは突然止まった。
蓮は考えてることでもバレたのか……? と不安に思うが、どうも様子が違う。
「ちょっどうしたんだよかっちゃん、いきなり止まって……」
「おまんらが疲れた~ 疲れた~ うるさくてかなわんからな、ほれ、そこに生えとる実ぃたべぇ。疲れなんぞ吹っ飛ぶで」
かっちゃんが自分の翼で指した先には、見覚えのある黄色く、細長い物体があった。
「……あれってバナナか? まぁリンゴもあるんだからあっても変じゃないか……」
「何言っとるんじゃ蓮、あれはバナナなんかじゃないぞ?」
は? どっからどう見てもバナナだろ。
この少し緑がかった黄色。所々にある黒いシュガースポット。そしてなんと言っても三日月のような見慣れた紡錘形。バナナ以外の何者でもないだろ?
かっちゃんはやれやれと翼をすくめながらそのバナナのようなものについて語り出した。
「ええか? お前がバナナバナナゆーとるのとはこれは違うんや。確かに色、形、匂い、どれをとってもバナナに似てるかもしれん。せやけどこれはバナナやない。食べりゃわかんで」
「このままじゃ埒が明かないからな、食べてみよう。ミラも食べるよね? ちょっ、大丈夫? そんな訳が分からないみたいな顔して」
「……正直、さっきっから何言ってるかサッパリですから仕方ないじゃないですか。えーっと、その果物がバナナというものに似てるんですよね? そしてそれを食べれば違いが分かると。合ってます?」
「そや、はよ食べ~」
かっちゃんはバナナのようでバナナではない何かを三つちぎって、俺たちに手渡す。
俺はそのバナナ? の皮を剥くと、やはりバナナにしか見えない。んーむ、まぁとやかく考えても仕方ない……
「これワシの好物なんじゃよ~ お先に食べさせてもらうぞ~ ……パクっ ん~上手いのじゃー!」
俺の目の前でベガがぱくぱくとバナナ? をひと口で食べ切ってしまった。
「毒は無いようだ、食べてみるか……」
俺はベガに倣い、皮を全て剥いてひと口で食べてみた。すると、噛んだ所がとろけ、甘みがじんわりと口の中に染みていく……なんとも極上の一品だった。
「これ、美味いな…… 見た目はバナナなんだが、味は似ても似つかないな…… 」
「そやそや、それはナババっていうねん。ごっつ美味しかったやろ?」
「あぁ、めちゃウマだった…… ん、ミラも食べてみ? ほっぺた落ちるぞ?」
「本当ですか? な、なら失礼して……」
ミラはベガや蓮のようにひと口で食べたりせず、ちょこんと少しだけ食べた。見た目幼女の神様や高校生男子ならいざ知らず、花も恥じらう乙女にとって大口開けてひと口で食べるのは恥ずかしかったのだろう。
しかし、その羞恥心が悪い方向に働いた。
『八咫烏』やベガも説明を忘れていたのだが、実はこのナババという果物には注意点が一つある。それは、絶対ひと口で食べること。ナババという果実の甘みは、樹液を何倍にも凝縮させた液をこれでもかとその身の内側に内包させている。そのお陰でバナナなんて目じゃない程の旨味を実現しているのだが、逆にひと口で食べないと中にある液が勢い良く吹き出してしまうというデメリットが発生してしまったのだ。
ミラはナババの上の部分を少しだけ食べてしまった。ひと口で食べず、少しだけ。
いわば、パンパンに水を詰めた水風船に穴を空けてしまったのだ。上部に穴が空いたナババは中にある凝縮液がその部分から勢いよく発射された。
「んっ!なっなにこれっ! し、白い液体が中から…… 」
ナババの凝縮液は何の因果か白色をしていた。身から解き放たれた凝縮液はミラの身体に襲いかかり、顔や口元、胸や股の辺りまで飛び散ってしまった。
「あ、あの、私、よ、汚れてしまいました……」
ミラは何が起こったのか分からない、といった様子で顔を火照らせながらその場にへたりこんでしまった。
俺も一部始終を見ていたが、あのナババの身を食べたらいきなり真っ白い液が吹き出したんだ、俺の時は何も無かったのにな?
てか、そんな事はどーでもいい、対処しなきゃいけないのは目の前の事だろ! その、ミラさんに白い液がかかってるのはまずい、明らかに18禁だ。
俺はすぐに着ていた上着をミラにかけた。
「あ、ありがとうございます……」
「いいから、それよりその服着替えた方がいいよな?」
ベガに何か拭くものとミラの服の着替えを出すよう指示し、ミラの着替えの手伝いをするよう頼んだ。ミラは着替えるために、ベガが創った即席の試着室のような部屋へと入っていき、ベガもそれに続いた。
そして、残された俺とかっちゃんは。
「どや? ワテのお陰でええもん見れたやろ? やっぱあの嬢ちゃんはかわええな~ 顔も可愛けりゃ動作もかわええ。アイドルやな~
そんなかわい子ちゃんに白い液がかかっとるなんて…… 想像しただけでもあかんっちゅーのに…… おっと鼻血でてしもた…… 」
「やっぱりお前、確信犯だったのか?」
「あったり前やん! どや? ワテがゆっとったよーに疲れなんかふっとんだやろ!?」
蓮はふぅとため息をつくと、かっちゃんの目を見つめた。かっちゃんも黙ってその目を見つめ返す。
数秒経った後、蓮は静かに右の親指を立て、グッジョブの意味を表すハンドサインをした。かっちゃんもそれに続いて同じハンドサインをする。
二人はこのあとこっそり聞き耳を立てていたベガに天誅をくらうとも知らずに、ただニヤニヤ笑いあっていた……




