閑話 アルとベガのワクワク地球クッキング
「おい、起きよお主! おいアル!」
誰だよ~俺を起こすやつは…… なんか聞き覚えあるけどめんどくせぇ……
ん? てか俺は勇者に殺されたはずじゃ……
アルは起きると、予想と反してそこには和服のロリっ子が立っていた。辺りを見渡すと、こちらは前回とは違い、真っ白な空間が広がっていた。
「よーやく起きたかアル! 全然目覚めんから心配じゃったんじゃぞ??」
ロリっ子はアルが目覚たのを確認すると、アルへと詰め寄る。
「ちょっと待てよ! お前は誰!?」
「え、酷いのじゃ…… 前に一度あっておろう?
ほら、この服に見覚えはないかの?」
ロリっ子はくるんと回って、着ている和服を見せる。
和服…… この意味不明な状況…… あ! もしかして!
「お前ベガか!?」
「ピンポンピンポンなのじゃー!」
「まてまてまて、なんであのグラマラスな女性がこんなロリっ子になってんだよ!」
ベガはロリっ子という言葉にピクっと反応した。
「ワシにも色々あったのじゃ! というか! ロリっ子とか言うな!」
コイツにロリっ子という言葉は禁句のようだ。
適当にあしらっておこう。
「へいへい…… あ、それよりも俺って死ななかったっけ?」
「死んだぞ。勇者に首はねられてお陀仏じゃ。」
あ、首チョンパされたんだったっけ。
正義だの民のためだのほざいてたくせになかなか敵には猟奇的な勇者様だったな。
「それで? なにこの状況?」
「お主が死んだあとにワシが生き返らせたんじゃよ。」
なんでだよ、死なせといてくれよ。他のやつは手放しで喜ぶ所かもしれんが、俺はもうあんな腐敗した世界を味わいたくない。
俺の功績というか悪行のおかげで奴らは一致団結したっていっても、根元が腐っちゃってるからなー。絶対20年もすれば元通りだと思うんだよねー。
「そうじゃろうな、お主の言う通りあの世界はまた腐敗するじゃろ」
「あ、唐突に心読むの止めてくれる? あとさ、ずっと気になってたんだけどお前キャラ変わってね? 前回はそんな爺口調じゃなかったよね!? もっと冷淡な感じだった気がするんだけど!? 」
「あぁ、そんなことか。ワシは元々こんな感じじゃ。前回あった時は人に嫌気がさしてイライラしてしまっておったから口調がこわばってしまったんじゃ。あぁ、今はそんなにイラついてないぞ、証拠にこの世界も真っ白になっとるじゃろ? この世界の色はワシの感情に左右されとってな、白の時は穏やかな証拠なのじゃ!」
「なんの足しにもならないシステム導入してますね…… まぁいいや、話を戻すぞ? なんで俺を復活させたんだ?」
ベガはアルの質問にわざとらしく目を瞑り、少しの間をつくった。アルが早く答えろやとイラつき始めた頃に、いきなり目をカッと開いてこう言い放った。
「ワシが暇だからじゃ!!」
「あの、土に還ってもらっていいですかね」
「そんな曇りのない笑顔で言われても嫌じゃ!」
いや、だって暇ってだけで黄泉の国から呼び覚ましてんじゃないよ。俺なら地獄で上手くやってけてた気がするし。
「いや、お主は無理じゃろ…… 絶対数年たったら『この世界は腐ってる……』とか言い出すぞ? ……ぷぷっ」
ベガは口もとを左手で抑え、右の人差し指でこちらを指してゲラゲラ笑い出す。
「よし、戦争だ」
ベガの言動で怒りの沸点に達したアルは瞬時にベガに飛びかかる。
「わかったわかったからその握りしめた拳を抑えるのじゃ!! やめ、やめーい!! ワシ一応神様なんじゃけど!! お主に力を貸した神様なんじゃけど!! 」
……確かに力を貸してくれたのには感謝する点だ。まぁそれに免じて許してやろじゃないか。俺は心が広いからな。
「次はねーからな?」
飛びかかられて少しボロボロになったベガは息を切らしながら吐き捨てるように呟いた。
「お主……やっぱり地獄で上手くやってけるじゃろ……鬼たちと全面戦争して地獄を掌握してそうじゃ……」
まぁ元魔王様だからな。ステータスも貧民街にいた時より段違いに伸びたし、地獄の鬼も大した問題じゃないかもしれない。
「まぁ寸劇はこれくらいにして…… ところでアルよ、お主、神様にならんか?」
ベガはついでにこれやらない? くらいの調子で爆弾発言を言い放った。アルは流石にスケールが違いすぎる話に声を失った。
神様って言ったよねこいつ? なに、俺がベガと同等な存在になっちゃうの? 地獄を掌握どころか世界を掌握しちゃってんじゃん。
戸惑うアルをお構い無しにベガはいたずらっ子が悪巧みするように生き生きと説明を続ける。
なんか…… この表情見覚えある。俺を驚かせようと画策する妹の顔によく似てる。
「いやほらお主、腐った世界はもううんざりなんじゃろ? じゃから、お主が神になって新しい世界を創ったらどうかと思っての。そしたら思い通りの世界にもつくれるし、暇つぶしにもなるじゃろ? 」
なんてスケールのでかい暇つぶし、流石は神様だ。俺なんてせいぜい雲が流れてんの見ることぐらいしかしてなかったな~
まぁ、それはおいといて…… 世界を1から創るのには正直興味のある提案だな。俺も生きてた頃は魔王として魔王軍を1から創ったが中々楽しかった。世界そもそもを創れるとなったら尚更だろうし。
「ふむふむ……やぶさかではないようじゃな…… ま、決めるのはお主じゃ、よっくと考えるのじゃぞー」
「あ、そーいやそれを断った場合って俺はどうなんの? 」
ベガはニヤっと笑う。
「ラオペに転生させるのじゃ」
「暇つぶしに付き合わさせて頂きます、付き合わさせてくださいラオペはヤダ!!」
「なんじゃよ、お主が最初に創った魔物じゃろーが。もっと愛情を持てばええのに」
「自分がイモムシになるのは絶対嫌だ!」
初めから選択肢なんて無かったんじゃんか!
ラオペに転生だなんて死ぬよりも嫌だよ!
「うむ! 素直でよろしい! それでは色々と説明するぞ!」
そう言うとベガはいつの間にかスーツ姿に黒メガネに変身した。その手には伸縮可能な細い棒が握られていて、ベガの後ろにはホワイトボードが出現していた。
「え、何その姿?」
アルは変身したベガの姿に疑問を感じた。
それもそのはず、ベガのその姿はアルが住んでいた世界では馴染みが無いものなのだ。
「んー? よく分からんが、こう、びびっときたからこの姿にしてみたんじゃが…… 似合わんか?」
「もうちょい大人な感じの人が着てくれると似合うと思う。お前だと……ほら、色気も身長もお胸も足りてない……」
「喧嘩売っとるのかおい? ……いつか仕返しするから覚えとくのじゃぞ……まぁ、説明を始めるのじゃ、耳の穴かっぽじってよっくと聞くのじゃぞ?」
ベガはそこから流暢にこれからのことについてホワイトボードを使いながら説明し始めた。
ベガの話は色々と脱線することも少なくなく、そのせいでおそらく10倍くらいの時間がかかった。途中何度も何度も睡魔に負けそうになった……いや負けてしまっていたが、その度にベガに起こしてもらってなんとかベガの話を要約することに成功した。
まず、俺が元々住んでいた世界はプセマ、
これから創る世界はベルダーという世界だという事だ。そのベルダーという世界を創るという案は俺が生まれる前から考えていたらしい。しかし、誰かがベルダーの神様にならなければいけないらしく、適当な人材が生まれるまで待っていたそうだ。
ここでなぜ俺がベルダーの神にふさわしいのかという疑問があったのでベガに質問してみたところ、
「勘に決まっておるじゃろ? なんとなく行けそうな気がしたんじゃ」
というなんとも曖昧なジャッジで決められていることを知らされた。てっきり俺が魔王だったから選ばれたもんだと思い込んでたよ。
まぁ話を続けよう。で、そのベルダーという世界をこれから創るそうなのだ。創るにあたって、ベガは俺に『神造』スキルを与えてくれた。前回とは違って何回でも創ることが出来るバージョンアップしたものだ。
これで生物や環境を創ることが出来るのだが、注意点としてはベルダーという世界そのものを創ることは出来ないらしい。
とまぁ、ここまでがベガのクソ長い説明の全てだ。それを聞いて俺はまだ疑問が残っていたのでベガに質問した。
「じゃあどうやってベルダーを創るんだ?」
俺の疑問は当然のものだと思う。『神造』スキルでさえ創れないものをどうやって創るというんだ! 最も大事な部分が抜けてるじゃん! 言うなりゃ料理の具材も揃えて、作り方も分かったけど設備がありません、みたいな状況だぞ!?
俺の質問を聞いたベガは右の人差し指を左右に振りながら「チッチッチッ……そう慌てるでないぞ」とかっこつけながら発言した。
その姿と言動がとても俺の中の苛立ちを増長させる。簡単に言えばクソムカつく。
「それが目上のものに対する言動か? アル。その言葉の汚さ流石は元魔王じゃな」
「いや、発言してないからセーフだろ。人の心を勝手に読む方が悪い。もっというならお前を目上だとは思ってねぇし、魔王だから口が悪いんじゃなくてお前の言動が相手の口を汚くしてるんだと思う」
「何じゃと! ワシ神様なんじゃけど! 魔王よりも神様の方が偉いんじゃけど!」
「えーい、やかましい!今から俺だって神様になるんだから同等だろーが! それよりどうやってベルダーを創るんだよ!」
「これでワシがお主と話し始めてムカつきを覚えたのは2回目じゃ、いつか仕返すから覚えておくのじゃぞ……まぁ、ベルダーの創り方なら今から教えるのじゃ、ちょっとここに書いてあるものを『神造』で出してもらえるか? 」
そう言ってベガは色々書いてある紙を俺に手渡してきた。
えーっとなになに……
・火薬……ありったけ
・プセマにある全ての物質が含まれている石
・オレンジジュース……コップ2杯
・サンドイッチ……2つ
……ん? いや、4つのうち3つはすぐ作れそうなんだよ? そうなんだけどさ、上から2つ目おかしくない?『プセマにある全ての物質が含まれている石』ってなんだよ。聞いたことねーよ。
「おい、ベガ? 上から2つ目が創れそうにないんですけど?」
「大丈夫大丈夫。念じてみよ、創れるはずじゃ。」
……物は試し、騙されたと思ってやって見るか……本当に騙してたらこの空間に魔物を大量に創ってやる。まぁ、念じてみるか。
プセマにある全ての物質が含まれている石……プセマにある全ての物質が含まれている石……プセマにある全ての物質が含まれている石……
《スキル:神造が発動しました》
文字が表示されるやいなや、俺の手の中には拳程の石が出現していた。
その石の色は常に変わり続けていて、赤になったかと思えば黄色、緑、白、黒と、様々な色合いをしていた。見ていて綺麗だし飽きない。 その石の不思議な所は色だけでなく、匂いや質感もまた、色と同じように常に変わり続けているのだ。
まさか本当に出来るとは思っていなかった…… ベガの頭が狂ってるだけだと思ってたんだけどな……
「別にワシは狂っとらん! ワシにお主らがついてこれないだけじゃ!」
「あ、誰もお前の頭のおかしさに追いつきたいと思ってないんで」
「キー! 実際ワシの言う通り出来たじゃろ! ワシは正常じゃ!」
むっ……確かに…… 少しは認めてやるか……
「全面的に認めんか! ……ふぅ、それより他のものもはよう創っとくれ」
ハイハイ、ちょっとまっとけや……
アルはすぐに他のものを全部創り、ベガに手渡した。
「お、これで準備は整ったのじゃ! 今から創るからついてまいれ!」
ベガは空間に穴を開け、その穴の先へと入っていった。俺も仕方なくベガのあとに続いてその穴へと入っていった。
穴の先は長いトンネルになっていた。長い長いトンネルを抜けると、真っ黒い空間が広がっていた。辺り一面真っ黒で、光も差し込んでいないはずなのに、不思議とベガや自分の姿を見ることは出来る。
ベガはその空間の中央へと向い、着くやいなや俺の方を振り向く。
「それじゃ始めるのじゃ、あ、結界張っておくのじゃぞ? ぶっ飛ばされるかもしれんからの。」
ん? 何する気? ……あぁ、火薬準備したんならすることは1つか……
俺はベガがこれからすることを悟り、すぐに結界を張ろうとして…… あれ? 結界ってなに? どうやって張るの? その説明受けてませけど?
「ちょ、ちょっと待てベガ!! 結界の張り方知らないん……」
「着火なのじゃ!」
ベガはアルのスキルで創った石をありったけの火薬で包み、着火させて大爆発を起こした。
爆発のせいで、辺り一帯に轟音が響く。その轟音はアルの抗議の言葉もかき消す。そして轟音のあとには爆風が吹き荒れ、その余波はアルに襲いかかる。
「ベガのくそやろぉぉぉ……」
そんなことを叫ぶが、爆音のせいで殆どベガには聞こえない。その上、爆風のせいでアルは爆心地から遠く離れて行ってしまった。
そして、爆心地にいたベガはちゃっかり自分だけ結界を張っており、どんどん小さくなっていくアルを見ながら、オレンジジュースとサンドイッチを頬張っていた。
全てを頬張ったあとに小さなげっぷを一つして、もう遠くに離れて見えなくなってしまったアルの方を見て、
「ホントはワシがちょっと力を出せば世界は創れるんじゃよ……ぷぷっ、仕返し成功じゃな……ぷぷっ」
そして、笑いを堪えきれなくなったベガはゲラゲラ笑っていた。
このベガがアルに仕返すために起こした大爆発こそが、後に蓮達が住む宇宙が出来たとされるビックバンである……




