頭がおかしい奴選手権!
~一言で分かる前回のあらすじ~
スピカはめちゃ強、蓮はゲスでした。
俺らは『真紅の魔女』の恐ろしさを痛感した後で王国へと戻り、色々やることも終わって、今は俺とスピカとアリスとマインさんでお茶をしながら今回の戦いを振り返ってます。
あ、そうそうハナエルなら一応連行してきたよ。アリスがボロ雑巾のようなハナエルを見た時にはポカーンと口を開けてたよ。国が滅ぶかどうかという話だったんだけど全然だったね。アリスも心配して損したとボヤいてたぞ。
まぁ、今回の戦争は言わずもがなこちらの軍の大勝利だ。 正直、スピカとマインさんがいれば勝てた気がする……
いやスピカ一人で絶対圧倒出来たよね。
いつものスピカには立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花という言葉がぴったしの……
いや、テンション高まると厨二発言してたよーな…… まぁ、美人で可愛く、優しいイメージが強かった。1度だけスーとケンカした時はあまりの気迫に背筋が凍るような思いをしたが、それでも俺のスピカに対するイメージは怒らせたらちょっと怖いくらいのものだった。
だが、俺はこの認識が間違っていることをひしひしと痛感させられた。俺の目の前でボロ雑巾のような風貌で気絶している男。信じられないがこいつは魔王軍幹部だぞ? 対するスピカは傷一つない。
ハナエルの奴だってかなり強力な魔法やスキルを使っていたのが見えたんだ。しかし、スピカの魔法は変幻自在、強力無比。つまりめちゃ強だね!
その上マインさんもかなりお強い。
『舞姫』の異名通り、舞うような剣舞に、硬い壁をも豆腐のようにスパスパ切る斬れ味。
なかなかのオーバーキルだよ。
なんかハナエルが可哀想になってきた……
蓮がハナエルに同情の眼差しをしていると、それを訝しげに思ったアリスが蓮を見つめる。
「どうしてそんな目でハナエルを見つめてるんですか?……まぁなんとなく分かりますが……」
「いや、なんか可哀想に思えてきて……」
「やっぱりですか……」
蓮とアリスは視線をスピカとマインに移す。その目は何か言いたげだった。
「なんでこっちを見るのかな君たち!? 別にボク悪くないよ!」
「スピカならともかく私は無実です」
「裏切ったねマイン!!」
二人はぎゃーぎゃー騒ぎ出してしまった。
ウチの子達寝てるしあんまり音立てるのやめて欲しいな……
「あ、ウチのペット達寝てるんで静かにしてもらっていいですかね?」
スー達は戦いの疲れからか、この城につくなり倒れるように眠ってしまっていた。
起きたらうるさくなっちゃうし起こされるのは勘弁して欲しいのだ。
「あ、ゴメン……でも今のはボク悪かったかな……?」
「見苦しいですよスピカ」
マインさんの余計な一言でまた騒ぎ出してしまった。必死にアリスが止めに入ってるが当分騒がしいまんまだろう。
……まぁもっとうるさくなるかもしれないからスー達はグリズリに戻すか……
やれやれといった感じで蓮はスー達のほうに歩いていき、一人ずつグリズリへと戻す。
スーを戻し、クロ、シロ、イアン……
そしてラオペを1体、2体、3体……101、102、103……498、499、500。
「ふぅ、ようやく終わった……」
「蓮さん、ホントにその大量のラオペを飼うんですか……?」
そう、あの戦いでラオペ種を大量にゲットしてしまったのだ。その数なんと500匹。
最初は城中の人達がラオペの祟りだと言って大騒ぎだったからな……
「ま、大丈夫だよ…… 俺、いつかグリズリに魔物と人が共存する町をつくるんだ……」
「アリス様大変! レーくんが壊れた!」
「壊れてねーよ!! 大真面目ですぅー! 」
「ふふっ蓮さん頭大丈夫です?」
「マインさんでも容赦しねーからな! ぶっ潰してやる!」
蓮までスピカとマインの喧騒に混ざり、鎮まったのは数十分もあとの事だった……
□□□
「貴方方いい加減にしてくださいよ! 一応ここ王室ですからね!? 」
「「「も、申し訳ございません」」」
流石に騒ぎすぎたのか、アリスが鬼の形相で怒ってしまった。
「全く……話を戻しましょうか、スピカとマインが容赦無さすぎって話でしたよね」
「まだするの!?」
瞬間、アリスの王族らしいお淑やかな雰囲気が一変した。
「私はスピカを弄りたいんです! その為に蓮さんとスピカを一緒の家に住まわせたりしたのをお忘れですか!? さぁ! スピカを弄りましょう蓮さん! マインはいいです、スピカを弄りましょう!!」
「なにかボクに恨みでもあるの!?」
「あなたが可愛いのがいけないんですよスピカ!! マインも整った顔立ちですが、それは可愛いというより綺麗と言った方が適切!!
私はスピカのような可愛いものをいじり倒したいんです!!」
「マインさん、アリスの頭の方がぶっ壊れてるんですけど」
「大丈夫、そのうち慣れます」
そう言ったマインさんの目には光が宿っていなかった。
アリスがド変態だってことには驚いたが、アリスの提案自体は……
「賛成だアリス。さっさとスピカを弄ろうか……」
「レーくん!?」
俺だって時には誰かを弄りたくなるよな……
まぁ、今回はスピカに犠牲者となってもらおう……
「それでさースピカってトラウマあったはずじゃん? その割にはそんな女の子がするような所業じゃないよね……」
「どの口がトラウマがあるとか言ってたんですかね、逆にトラウマ植え付けてるじゃないですか」
俺とアリスはスピカの所業を責める。その口元は笑みを隠せていなかったのを自覚してます。
「トラウマがあるからこそ徹底的に倒さなきゃでしょ! 怖かったんだよボクだって!」
かなり白々しくスピカが泣き真似をする。
……ダウト。怖がってる女の子があんな狂気に満ちた目で笑いながら敵を倒さないよね。
「あ! そうだ蓮さん、実はスピカは昔から変なモードがあるんですよ! それが発動してたからあんなに残忍になってたのかも……」
「アリス様!? 何言おうとしてんですか!?」
「マイン! スピカを止めて!」
「合点です!」
スピカが顔を真っ赤にしながら慌ててアリスの口を抑えようとするが、マインさんに止められてしまった。マインさんの顔は黒い笑顔に包まれてるし、かなり面白がってんな……
それを気に介さず、アリスは面白がりながら話す。
「蓮さんだって心当たりがあるでしょ! この可愛いスピカのおかしな言動や人が変わったかのような雰囲気とか!」
今絶賛アリスの変わりようにびっくりしてるよ。まぁ、それよりスピカか……
あ、まさかあの厨二病発言する時って……
ちらっとアリスの方を向くと、アリスは得心顔で頷いた。
「そうです…… あのカッコつけてるポーズをする時もスピカのモードの一つです。確か蓮さんの世界では厨二病って言うんですよね? 全く困ったもんですよ…… あんな発言なんも可愛くない…… 可愛さ半減のモードです……」
「ヤメテェェアリス様!! アリス様だけでなくボクが頭おかしいと思われちゃうから!!」
「大丈夫ですスピカ。あなたは十分頭がおかしいですよ? 実際凄いですよ? この世界に厨二病という概念がないのに厨二病になれるだなんて? ウチのクソギルマスでも出来ないことですよ? ふふふ……」
「マインまで酷いよー!!」
すげぇマインさん、的確にスピカの心を抉っていったな。綺麗な顔してやることえげつないよね……
「蓮さん何か言いたいことでも?」
「心読まないでください、ゴメンナサイ」
っぶねー! マインさんも怖い!
「それで? もしかしてあの魔物と戦った時の殺伐とした雰囲気の時も?」
「それもモードの一つ、対魔物モードですね! トラウマを持つ前に魔物を作業のように狩っていたら身につけたモードです! 少し強い魔物を倒す時に発動します!」
「やめてってばアリス! ちょっ、マインも離して! アリスをぶん殴ってやるー!」
「「い・や・だ・ね」」
やべーよとうとうアリスに様付けしなくなったぞ。まぁまぁキレてるのにアリスとマインさんは余裕しゃくしゃくだし、おんなじようなことがあったんだろーな……
「スピカ、なかなか難儀な性格してるね…… でも大丈夫、スピカの事は大好きだからさ……」
「ちょっとレーくん! せめて心を込めて言いなよ!」
「難儀な性格してるよね!!」
「そこは心を込めなくていいよ!!」
スピカが少し泣き目になりながら叫ぶ。
あ~確かに可愛い、アリスがハマるのも分かるかも……
ポンと肩に手を置かれたので、そちらを見るとアリスが親指を天に突き出し、グッジョブのポーズをしながらこちらを見ていた。
「蓮さんもとうとう分かってくれましたか……」
「なんでこの世界の人達って俺の心を読めるんですかね?」
「私は同族の匂いが分かるだけです」
そう言うアリスの鼻からは鼻血がぽたぽたと垂れている。流石にコレと同族とは言われたくない。
そんなこと考えていると、スピカの方から鮮やかな光が発光したかと思うと、かなり疲れているスピカと少し焦げているマインさんがいた。
「……はぁ……はぁ……ようやく逃げてきたよ……」
「おいスピカ、マインさんが伸びてるぞ。何したんだ」
「色々と…… それより! なんかボクが人でなしだの人が変わるとか言ってるけどさ! レーくんの方がそれに当てはまると思うんだけど!」
え? 俺が? 俺単体なら戦闘力皆無の俺が何出来るってんだい。
「だってさレーくん! 魔王軍倒すためにレーくんは何をしたのさ!」
「え? ラオペの力を借りただけだよ?」
「その量が問題だよ! 500匹もウネウネ動いてるのを見るのは精神的に応えるんだよ?
魔王軍にはあの光景がトラウマになっちゃった魔物が沢山いるのさ!」
「そんな嘘信じるものか!? そうですよねアリス!?」
「いや、事実ですよ蓮さん。と、いうかウチの兵隊にもトラウマもっちゃった人多いですから。捕虜にした魔王軍にラオペをみせれば泡吹いてぶっ倒れるのも居ると思いますよ?」
そう言いながらアリスは捕虜にしたゴブリン兵を3人連れてこさせた。
「クソっなんなんだお前ら! 負けた俺らになにする気だよ!」
そう騒ぐゴブリン兵に蓮は半信半疑で1匹のラオペをグリズリから召喚してそれを見せつける。
「え、まて、それはまさか……『悪魔の化身』!? いやぁぁぁぁ……」
ゴブリン兵は3人とも泡を吹いてぶっ倒れた。
「ね? レーくんの方がトラウマ植え付けてるでしょ?」
「そうでございますね……」
まさかイモムシが『悪魔の化身』とまで呼ばれてるとは…… よっぽど色濃く恐怖を覚えてしまったんだろう……
「それにさー、レーくん戦う前はあんなに体震わせながらビビってたのにいざ戦ってみたら、ヒャッハーとか言ってはしゃいでたよね~。 レーくんの方が人が変わったようだったよ~?」
「え? そーなんですか?」
スピカの発言に驚いたアリスがこちらを見る。
「いや~あん時はテンション上がっちゃってさ~」
実際なんつーのかな、ランナーズハイみてーなもんだよね。魔物が海が割れた様にサーっと俺らを避けてくのを見てたらテンション上がっちゃってさ、ついついヒャッハーとか叫んじゃったんだよね~。今となって考えてみれば赤面ものなんだけど、あの時の爽快感は忘れらんねえよな~。
「まぁスピカも蓮さんもどっちもぶっ壊れてるってことですねー」
アリスがふんと勝ち誇ったようにのたまう。
「「お前に言われたくねぇよ!」」
第二次罵りあい合戦の始まりのゴングが鳴り響いた……
□□□
俺たちは王室で一晩を過ごしたあと、グリズリへと帰った。今回はアリスやマインさん、それに隊長さんも招待した。
余談だが、隊長さんの名前はミラというらしく、やはりスピカとマインの知り合いだったらしい。髪の色がミラは黄色、マインさんは青色、スピカは赤色をしているので、心の中で信号機みたいだと思ったのは内緒だ。
あ、でも信号機って青色じゃなくて緑色か、ならマインさんの代わりにスーが並べば信号機の完成だね。
まぁそんなことはどうでもいいのさ、下手に考えてると心の中読まれちゃうからね。
「もう読んだよレーくん……」
さて、話を変えよう、そうしよう。さもなきゃ俺が青痣や腫れ物でカラフルになってしまう。
「あ、早くグリズリに行こっか、スピカ以外は初めて来るよね? 色々とこの世界と違うところがあるけど、まぁ、慣れてくれ……」
「蓮さん? どうゆうことですか?」
ミラが不安げに聞いてくる。まぁそりゃそうだろ、アリスが可愛いものを病的なまでに好きな変態だと発覚したからな、俺が知ってる中で1番まともなキャラだ。不安になるのもしょーがない。
「大丈夫だよミラちん! 中々面白いとこだからさ!」
「ちょっスピカちゃんミラちんはやめてよ!」
あぁ、若い女の子がキャッキャウフフしてるのを見るのは癒されるな……
「蓮さんもやはり同族ですよね? やっぱり分かりますよねあの尊さ! 可愛いこそ正義!」
鼻血を出し、目も血走りながら力説する王女様と同族は嫌だよ。
「アリス、自重してください。あのクソバカギルマスじゃないんだからそれくらい出来るでしょう?」
「はぁ……はぁ…… 確かにオリオンと同じは嫌ですね…… ふぅ、落ち着きました、すみませんお騒がせして……」
「全くだよ。さっさと行くよー? みんな俺を掴んでくれ」
俺の指示通りに全員俺を掴む。
正直周りが美女ばっかりで落ち着かないが、
かなり夢のような光景だ……
「レーくん鼻の下伸びてるよ?」
スピカが俺を掴んでる手にギリギリと力を入れてきたー!! 痛い痛い痛い!!
「わかったから悪かったから力入れんのやめて!」
蓮の悲痛な叫びと共に蓮達はグリズリへと転移した。
□□□
蓮達は蓮が造った木造の家の前に転移した。
出迎えとしてスーとクロ、シロがやって来ていた。
「ようこそアリスねーちゃん達! 」
「「ワン!」」
あー可愛い、可愛いな……
あ、ちょっとまってかなり腕痛くなってきた
「着いたぞ、着いたから離して、特にスピカ!!」
「はいはい…… まぁ、みんな! ここがグリズリだよ! ……ちょっとアリス様!発情しちゃダメだよー?」
アリスを見ると、息を荒くして鼻を抑えながらスーを凝視していた。
「なんかアリスねーちゃんが怖いよマスター……」
アリスが指をワキワキと動かしながら今にもスーに飛びかかりそうだ。
「おいやべーよセイメル王国王女のド変態っぷりが止まらねーよ。ストライクゾーンが広すぎだよ……」
「なに言ってるんですか蓮さん。私は思慮分別は出来るんです! 流石に10も満たないような子は対象外です!」
「スーは5才だよ!?」
「前言撤回します!! 5才もオッケー!」
なんて浅い言葉だ、ちゃんと考えて発言しやがれ。
「王女様! 抑えて! 女の子が怖がってます!」
「スー、イモムシになっとけ。じゃないと変態がまとわりつくぞ?」
「そ、そうする……」
スーが瞬時にグリーンラオペに戻る。アリスは目にみえてガッカリした様子だ。それとはちがってミラが何度も目をこすってスーを凝視する。
「あぁ、ミラは初めて見るんだったよな」
「スーちゃんはグリーンラオペなんだよミラちん!」
どうやらミラは言葉も出ないようで、スーと俺たちを交互に見つめる。
「ミラちんはやめて……」
ようやく捻り出した言葉がそれか、目の前のびっくりドッキリショッキングな光景よりもそのあだ名の方が嫌なのかよ。
「私も流石に最初見た時は驚きすぎて可愛がれませんでした…… 次にあった時は国が攻められててそれどころじゃなかったですしね…… ですが! ようやく! スーちゃんも可愛がることが出来るんです!! だから! はやくそのフォームから変化してくださいお願いします!!」
「蓮さん、こうなったアリス王女はウチのギルマス並に手が負えませんので早く行きましょう」
そうだね、マインさんの言う通りにもうアリスはほっぽり出してさっさと家に帰ろ。
蓮達はアリスをほっぽりだして家に入る。
蓮は家のドアを開ける。家の中にはもう見慣れてしまった銀色ショートカットの和服ロリことベガが椅子に座っていた。
ただ、家の中にいたのはベガだけではなかった。知らない顔の女の子や男の子が沢山、こちらを向きながら正座していた。
「「「おかえりなさい! マスター!」」」
そう、状況が飲み込めていない蓮にその子達はお辞儀した。
だ、誰だよこいつら!! え? え?
まじで誰? 不審者!? いやこの世界に来れるわけないし……
その時、蓮はベガがニヤついているのに気づいた、気づいてしまった。
「てめぇが犯人かこのクソ駄神!!」
「その通りじゃ!!」
スピカやアリスが狂ってると思ったけど、ぶっちぎりで頭がぶっ壊れていたのは、セイメル王国もある世界、つまりプセマの神であるベガだったのだ……




