『真紅の魔女』
~一言でわかる前回のあらすじ~
ハナエルってかませ犬臭プンプンするよね
相手が『真紅の魔女』や『舞姫』ならば手加減など不要! 最初から本気でいかなければ生き残ることは夢のまた夢だ……
ハナエルは手を前にかざし魔力を練り上げる。その魔力量はスピカに負けてはなかった。
「アースドラゴン!」
ハナエルの叫び声と共に地面が盛り上がり、形を形成していく。その姿はおとぎ話に出てくる龍そのもの。その大きさはスピカの出した雷の龍よりひと回り大きかった。
「ふははは! これならば雷は通さぬ! 」
ハナエルは不審な点に気づいたお陰で失われかけていた自信が戻っていた。
俺は気づいたのだ! 奴らは全盛期の力がないということにな!
本当に『真紅の魔女』や『舞姫』ならば、
何故勇者一行に付いていかなかったのか。
魔王様を倒すのは荒唐無稽だとは思うが、人間共が本当にそれを成し遂げるつもりならば何故連れていかない? 答えは簡単、奴らが衰えているからだ。
先程までは動揺してしまって失念していたが、考えれば奴の雷魔法でさえ昔より数段劣っていた。
ハナエルは笑いを禁じえなかった。
スピカやマインが弱くなっている、その確信に近い期待に囚われていたのだ。
……だが、ハナエルの淡い期待を『真紅の魔女』はすぐに壊した。
「確かにこれなら雷は通さないね~ けど、別に雷以外を使えばいいだけだよね~」
スピカは余裕の笑みを浮かべ、水魔法を
使って龍を創った。
水と土、2頭の龍は互いにぶつかり合った。
衝撃波は凄まじく、周りの土は空中に舞い、草は風になびいた。そして、ハナエルの気味が悪い笑顔を粉々に壊した。
勝者は『真紅の魔女』であった。水は土を穿ち、ハナエルに向かい一直線に突撃した。
「クソ! アースウォール!」
ハナエルは咄嗟に土の壁を何重にも作る。
そのどれもが大砲位なら耐えられる強度をほこっていた。
「ダメですよ。逃げては。 こんなものがあったらスピカの魔法が当たらないではありませんか」
笑い声が交じる声が耳に届くやいなや、ハナエルの土の壁は小間切れになっていく。
「な……」
ハナエルは顔を青ざめ、水の龍に喰われた。
「やった~ あたったよ~」
「そうですね。ですがこの程度では倒せてないでしょう。スピカ、気を引き締めてください。」
「わかってるよ~」
2人は水浸しになったハナエルを見る。
「ねぇ? 生きてる~?」
スピカはハナエルに質問する。
ハナエルの身体は小刻みに震えてしまっていた。
「……お、お前らは衰えたんじゃなかったのか! 何故、何故俺の魔法がこうも容易く……」
スピカとマインは互いに顔を見合い、そして頭をかしげた。
「いや、誰が衰えたなんて言ったのさ?」
不思議そうにスピカが聞く。
「なっ…… ならばあの雷魔法は」
「いや、あれは掃除するためにかるーく使っただけだよ?」
こいつは化け物なのか?
軽くだと? あの規模の魔法を?
「そんなことより、早く倒してしまいましょうよ?」
マインが剣先をハナエルへと向ける。
「こんなとこで負けられるか!」
ハナエルはマインとスピカが立っている辺りの地面を動かし、2人のバランスを崩す。
「油断大敵だ! これでも喰らえ!」
マインに向かって力の限りハンマーを振るう。
いくら剣の腕が立つといっても、これだけの質量差、加えて俺の筋力! 油断したのがお前の運のツキだったな……
「ははっ! 『真紅の魔女』よ! 残るはお前だけになってしまったな! しかもこの至近距離だ!お前が魔法を使う前に仕留めることが出来るんだよ! ははははは……」
「何言ってるのさ? ボクだけじゃないよ~?」
「何を馬鹿なことを! 今さっきハンマーでやられた『舞姫』を見ていなかったのか?」
「……キミってホントに魔王軍の幹部なの? 見る目が無さすぎるよ…… そう思うよね? マイン?」
「全くですよ。 大振りな攻撃が私に当たるわけないじゃないですか」
俺が声のする方を見ると、何事も無かったように『舞姫』は立っていた。
「なんでそこにいるんだ! 手応えはあったはずだ!」
「そんなこと知らなくていいじゃないですか。 さて、それじゃあ帰りましょうスピカ。もう終わりましたしね」
……何をいってるんだこいつは?
何が終わったっていうんーーー
ブシュッ!
ハナエルの身体に無数の傷が浮かび、血を吹き出した。ハナエルはその場に倒れ、目だけは恨みがましくマインを睨んでいた。
「おまえ……ハァ……何をっぐふっ……」
「いえいえ、先程の攻撃が欠伸が出る程遅かったので、ついつい切り刻んでしまいました」
「……ははは、こうまで歯が立たんとはな……だが! タダでは終わらんぞ……」
ハナエルはニヤリと不気味な笑みを浮かべていた。
「そんな状態で何をする気なのさ」
「いや、なに…… 俺がどうこうする訳じゃない。もう既に……」
ハナエルが言い終え前に戦場から多くの叫び声や足音が聞こえた。
「ふふふっお前らは時間をかけすぎたな? もう俺の軍は全員暴走状態だ! 早くしないと王国兵が全員死ぬぞ! はははは!……ゲホッゲホッ……」
俺は初めからこの化け物共に勝てるとは思っていない。……いや確かにこいつらが衰えてるんじゃね? と思った時は勝てるかもしれんと思ったが。 まぁ圧倒的なまでの力の差を見せられ、そんな気持ちは吹っ飛んだ。
そこで、俺はハーピーに命令を伝えさせた。
その命令は明快単純、狂い乱れろ。その一言だ。
まぁ、俺は最初から勝ち戦ではなく、泥試合をしようと画策したわけだ。
『真紅の魔女』や『舞姫』を倒せないのは口惜しいが、そこは他の幹部に任せよう……
「はははっ!これで忌々しい王国兵共を根絶やしに出来た訳だ! 聞こえるだろうこの響き渡る悲鳴! 俺の目的はお前らじゃない……王国兵だったって訳だ! はははは……」
ハナエルの言葉を聞き、スピカとマインは戸惑った。しかし、それはハナエルの計画に驚いた訳ではなくーーー
ハナエルの言っていることとは違い、叫び声をあげながら逃げているのは魔物で、数多くの蠢く何かから逃げていること、そして
「ヒャッハー!! どけどけどけどけー! ラオペ様のお通りだぜー!」
「だよー!」
「キュピー!」
どこか聞き覚えのある声がその何かの上から聞こえたからである。
「……残念だけど、叫び声は君たちの魔物のようだよ?」
ハナエルは何度目かの心が壊れる音が聞こえた。
「なに!? そんなはず……」
傷だらけの身体にムチをうち王国兵と魔王軍が戦っている戦場を見ると、逃げ惑う魔王軍とそれを追う数多くの蠢く何かがいた。
「あ、あれは…… ラオペか!? だがあの量はなんだ!? いや、それよりも何故奴らが我が軍を攻撃しているのだ!?」
スピカとマインはハナエルから目をそらした。何故ラオペが魔王軍を攻撃しているのか、それを知っているからだ。
「おい! お前らは知っているんだろう!? 何故言語が通じないラオペがあんな統制された攻撃をしているんだ!」
「それは……あのラオペ軍団の上でヒャッハーって言ってる男の子の仕業かな……」
□□□
時は数十分遡る
俺達は隊長さん達と別れた後、ある作戦を実行した。
「スー! やれ!」
「おっけー! 任せといて!」
スーはめいっぱい息を吸うと
「キュピキュピキュッキュピ!!!」
ラオペの鳴き声で叫んだ。
……いや別にスピカの頭が腐ったとか、パニックを起こしてるとかではない。これはこーいう作戦なのだ。
ザワザワザワザワ……
数秒経つと、スーの声に反応するかのように、地面が、草原が、森がざわめく。
そして、何かの大軍がこちらに一直線に向かってくる。
その見慣れた細長いフォルム。
ウネウネと動く独特な動き。
そう、皆さんもうお分かりだろう。
このメドウ草原の代名詞。
ラオペ種の軍団だ。
「「「「「「キュッキュピ」」」」」」
「よく来たね! マイファミリー!」
「「「「「キュピ!!!」」」」」
「あそこの木の辺りに動いてー!」
「「「「「キュピ!!!」」」」」
スーはラオペ達と楽しそうに話す。
スーが指示を出すと、イアンが先頭に立ち、一つの生物のように統率のとれた動きで倒木の方へ移動する。
魔王軍ですら従わせることを諦めたラオペ種、しかしこちらにはゴッドラオペである
スーがいる。これにより、数百ものラオペ種をこちらに引き込むことができる。
ふふふ…… 塵も積もれば山となる……
数の暴力には魔王軍といってもただじゃ済まないだろう……
「うわぁ! なんですかこれ!」
「「「「「キモ……」」」」」
俺の依頼を受けていた隊長さん達が少しヘロヘロになりながら帰ってきて、イモムシ達を見て顔を青ざめた。帰ってすぐにイモムシが大移動してる所をみたら気分が悪くなっても仕方がないか。
「いやほら、ラオペが大量に集まるって説明しといたじゃないですか。」
「そりゃ聞いてましたけど…… まさか本当にこんなに集まるとは思ってませんでした…… 」
「「「「「隊長に同じく」」」」」
こいつらすぐに吐きそうだな……
さっさと用件をすまそう……
「それはそうと集まったか?」
「え、えぇこの通りです……」
隊長さん達の後ろにはブラックウルフとホワイトウルフが10頭ずつ付いてきていた。 これこそ、俺が隊長さん達に頼んでいたものなのだ。
俺は隊長さん達に礼を言うと、計20頭を全員使役し、クロとシロに指示を出した。
「クロ! シロ! お前らがこいつらのリーダーとして率いろ!」
「「ワン!」」
2頭はそれぞれの狼の所の元へ向かった。
さて、これで全ての準備が終わったわけだ……ククク……
「スー! 、イアン! ラオペ隊はいつでも動けるか!?」
「おっけーだよ!」
「キュピ!」
後ろのラオペ達も了承するかのように一斉に鳴く。
「クロ! シロ!お前らは!?」
「「ワン!」」
続いて他の狼達も吠える。
「隊長さん達も大丈夫ですね!?」
「はい!」
王国兵も任せとけ、とか早くやってやろーぜと口々に言う。
「それでは作戦開始じゃー! スー、俺、隊長さん達はそれぞれクロやシロ達に乗れ! イアンはラオペ隊を率いて戦場を突っ切れ!」
ザワザワザワザワザワザワザワザワ……
ドドドドドドドドドドドドドドドド……
俺の指示の通りに全員動く。
特に沢山のイモムシが俊敏に動くのはかなりショッキングな動きだ。
どうやらスーの掛け声のお陰でかなりラオペ1体1体のステータスが向上しているらしい。 恐るべしゴッドラオペ。
「な、なんだあいつら!」
「敵なのか!? いや……ラオペ!?」
「キモイキモイキモイキモイ……」
「逃げろー!! 精神が蝕まれるぞ!」
「ハーピー様の命令もあるが、流石にこれは相手が悪い!」
……凄いね、魔物も王国兵も海が割れたように逃げていく。気分はモーゼだよ。
……っと王国兵が逃げるのはいいが魔物はダメだな……
「スー! ラオペ隊に粘糸を出させろ! 魔物の動きを止めろ!」
「おっけー!」
スーがラオペに指示を出すと、白い粘糸が津波のように魔物に襲いかかる。
「クロ! シロ! 拘束しきれてない魔物を仕留めろ!」
「「ワン!」」
そして狼の群れがゴブリンやオークに飛びかかる。いくら相手がここら辺にいる草食の狼といっても、動きは粘糸に阻まれている彼らにはなす術がないだろう。
「ヒャッハー! どけどけどけー! ラオペ様のお通りだぜー!」
「だよー!」
「キュピー!」
俺たちの作戦は大成功。
ものの30分程で制圧を完了した。
……余談だがその30分はヒャッハーヒャッハーという叫び声が戦場に木霊していた。
ちょっとテンション上がり過ぎちゃったぜ!
俺は後ろを振り返ってみると、見事に真っ白に染められた地面。そして白波にのまれた哀れな魔王軍があった。
「……この作戦やべーな。ちょー強くね?」
「スーのファミリーは強いんだよー!」
……そだね、ちょー強いね。
さて、残るは……
「あとはあの空飛んでる鳥?だけだな」
「あれはハーピーです! ハナエルの直属の臣下で厄介なやつです! 何より……」
「あぁ隊長さん、皆まで言わずともわかってるよ。 あいつのとこまで粘糸が届かないってことだろ?」
隊長さんは静かに頷いた。
確かにあそこまで届かねーし、クロシロコンビでも無理だろう。
「……このクソ人間共! 小癪な技を使いやがって! 部下の仇とらせて貰うぞ!」
ハーピーは顔を真っ赤にしながらこちらを睨む。その目は血走っていて結構ホラーだ。
「どーしたもんかな…… あいつめっちゃキレてるぞ?」
「マスター、スーならいける?」
「いやスーでもあそこまで飛べないでしょ? 」
「そっかぁ……」
スーがしょんぼりしてしまった。
俺が泣かせたみたいできまりが悪い……
「まぁなんでもいいけどあいつは放置だな」
「それで大丈夫なんですか!? ハーピーは今にも力を溜めてるんですよ!?」
隊長さんが必死の形相で俺を問い詰める。
その顔からは不安が感じ取れるし、今この状況をかなりの瀬戸際だと思っているんだろう。
「大丈夫ですよ隊長さん。 アレ見てくださいアレ」
俺はハーピーの後ろを指さす。隊長さんも俺が指さすものを見ると、安堵したようで表情にゆとりが出てきた。
「お前ら何故そんなに余裕をこいているのだ!? ふざけたガキ共だ! 」
ハーピーはかなりご立腹のご様子。
仕方ないな~教えてあげよう!
蓮はにひひと笑いながら
「後ろを見てみなハーピーとやら?」
と言った。
ハーピーは嫌な予感がした。その予感が当たって欲しくないと願いながら、古い人形のようにゆっくりと後ろを向くと……
「やっほー! ハーピーちゃん! あ、これお届けもののハナエルだよー!」
『真紅の魔女』は血だらけで意識のないハナエルを手に持ち、笑顔で手を振っていた。
ハーピーは声にならない悲鳴をあげ、即座に撤退しようとするが、『真紅の魔女』はそれを見逃すほど甘くなかった。
手に持ったハナエルを投げつけてハーピーを撃ち落とし、加えて火球で追撃する。
ハーピーが地面とキスする頃には焼き鳥のような香ばしい匂いがしていた。
その一部始終を見ていた蓮達は、スピカが敵じゃなくて良かったとしみじみ痛感したという……
も う 戦 闘 シ ー ン を 書 き た く な い 。
難しいよこんちくしょう!!




