開戦!
~一言でわかる前回のあらすじ~
ベガはホントにムカつきます。
俺たちはなんとか気を持ち直し、ベガがくれた本をパラパラとめくって読むことにした。そこにはベガの口頭の説明よりもかなり詳しくこの世界のことが書かれていた。やはり図解があるとわかりやすいな。
その後も蓮とスピカが読んでいると、ある違和感に気づいた。2人が違和感を覚えたのはそれぞれの群生地が書いてある項目だ。
その地図には何故か蓮が創った家の場所まで書き記されてあったのだ。
もしや、と蓮とスピカがベガを睨む。ベガはにひひと、その通りだと言葉を交わさずに表情だけで伝えた。
「ふふん! その本に載っている地図はの、ワシのスキルのおかげで現在のウィーゼ島を書き記されているのじゃ! つまり! お主らが何か新しいものを作ったとしてもすぐにその地図に書き記されるのじゃ!」
まぁそりゃ便利な事ですね……
こんなことにスキルを使うなと言いたい所だが、ベガには馬の耳に念仏だろう。
「あのさ、ベガちゃん。 他にもなにかこの本に仕掛けをつくってない……?」
少し不安げに、しかし確信しながらスピカが聞く。俺も同意見だ。こいつならこの程度ではすまないだろう……
「フッフッフッ…… よくぞ聞いてくれた!
もちろん、あと2つほどあるぞ! 一つ目は検索機能じゃ! その本の1ページ目は白紙になっておるじゃろ? そこにペンで調べたいことを書くと、役に立ちそうなページが開くのじゃ!」
少し半信半疑に蓮は『リンゴ』と書いてみた。すると、ひとりでに本はリンゴの項目が書いてあるページを開いた。
「……もうこれ本じゃない、パソコンだ……」
「レーくん、パソコンってなに? 」
「……俺の世界にあったものだよ。まぁ本とは似ても似つかないはずなんだがな……」
「ワシを舐めるでない! ハッハッハ!それで次の機能なんじゃがな……」
ベガが語ろうとした時に、ベガの目の前に白い妖精のようなものがやってきて、少し話したかと思うとベガが苦虫を噛み潰したような顔になった。
「……蓮、スピカ。不味いことになった…… 落ち着いて聞くのじゃ……今の白い妖精はワシの伝令役みたいなのもんなんじゃが……そいつが持ってきた情報によると、セイメル王国が魔王の幹部の1人に攻められているらしいのじゃ……」
ほのぼのとした空気はぶち壊され、緊迫した空気が流れる。
「なんだと!」
「ベガちゃん! 今どんな状況なの!? 」
「まだ攻められて時が経っておらぬが、王国最強じゃったレオンが勇者達と一緒にここを離れておるからの…… 攻め落とされるのも時間の問題じゃな……」
「ギルドの奴らがいれば大丈夫なんじゃねーのか? あそこのギルマスSランクなんだろ?」
俺がベガに聞くと、ベガは暗い表情のまま返答した。
「オリオンのことじゃな…… アイツはダメだ…… 」
「えっ! オリオンになにかあったのかい!? 純粋な戦闘能力ならボクよりも高いんだよ!? いくら魔王の幹部といっても……」
そうだな、確かにスピカの言う通りだ。1度戦ったがかなりの腕前だったし、そう簡単には魔王の幹部にも負けやしねーだろ。
「……そりゃ通常通りならかなり頼りがいのある男じゃよ。……しかし、奴は昨日酒盛りをしたらしくな、奴は今二日酔いが酷いんじゃ……」
「いやいや、二日酔いったってそんなに戦闘力変わらねーだろ? なぁスピカ?」
スピカに振ると、スピカは手で顔を覆って落胆しながら首を横に振った。その目は死んでいた。
……どうやら本当に二日酔いだと使い物にならないらしい。クソ、蠍でも投げつけてやりたい気分だぜ……
「それでどうするんだベガ? お前がなんとかしてくれんのか?」
「いや、ワシはあくまで管理者じゃからな、直接あの世界に干渉することが出来んのじゃ。そんな事出来るんじゃったらとっくの昔にあの糞野郎をぶっ潰しとる……」
「じゃ、じゃあどうするんだ!? このままじゃセイメル王国が滅ぼされるぞ!」
蓮が叫ぶと、ベガはじーっと何かを蓮に訴えるかのように見つめる。蓮はその言わんとしている事に気づいた。いや、気づいてしまったと言うべきだ。魔物使いである蓮には重たいそのことに……
「まぁまぁ、まだ戦力はあるではないか?
ワシの目の前に2人と数匹な……」
なんか言い出したぞこの駄神。
……スピカは強いからいいとしてさ、俺は抜いてくれません? 俺単体ならただの雑魚だぞ?
「……ダメじゃぞ蓮。 お主も行って戦うのじゃ! お主に使えるスキルを渡してやったじゃろ? それにお主が使い物にならなくとも、お主のペットは有能じゃからの。一番強いのはスピカに任せればなんとかなるじゃろ」
むぐぐ……確かにその通りだ…… 俺は弱くても今寝っ転がったるペット達はそこそこ強い。それに幹部をSランクであるスピカに倒して貰えればなんとかなる……かな?
でも嫌だな…… 命の保証は無いし……
それにスピカが危険な目に会うんだよ?
ちらっとスピカを見ると、大丈夫だと笑いかけてくれた。
「ボクも怖いけど、みんなが殺されちゃう方が怖いよ…… それにさ、もしもの時はレーくんが助けて?」
そう頼む彼女の体は少し震えていた。
トラウマもあるだろうに、果敢に挑もうとしてるのだ。
「……わかった、わかったよ! やってやろーじゃねーか!」
その言葉はすぐに口から出てきてしまった。
こんだけ可愛い子に頼まれてんだ、受けないと男が廃るってもんだろ!
「そうと決まったら早く行こう! ……ねぇベガちゃん。ボクの転移魔法じゃボクしか転移出来ないからさ、ボクらをアリス様達の所に送ってくれないかな?」
へぇー、スピカの転移魔法って自分だけしか転移出来ないんだな。 確かにスピカの転移魔法を使って貰ったこと無かったな。
「任せるのじゃ! 蓮! 早くペット達を起こせ! それに気をつけるのじゃぞ、奴らは今までの魔物とは違うから全力で倒しにかかるのじゃ! わかったな!」
俺はペット達を起こして事情をスーを通して全員に伝えた。皆やる気に満ち溢れていて少し怖い。 まぁスーは論外として、クロとシロもまだ分かる。草食とはいえ狼だしね。
でも、どうしたイアン。お前はただのイモムシだろう? なんでそんなにノリノリなんだよ。
「ん? 知らんのか蓮? ジャイアントラオペは本当は気性が荒く、強さはCランクより上なんじゃぞ?」
「え? でもかなり大人かったぞ?」
「あの国の近くの森は栄養が足りてないからじゃろ。ここの食べ物を食べて元気になったんじゃろ。」
まぁ強いんならいいけどさ……
こうなってくると俺だけ戦力外だね……
蓮は自分の現実を虚しく思い、一応アルマの木から剣をもぎ取った。
……まぁなにはともあれ、これで準備完了だ。 セイメル王国を助けてやろーじゃねーか!
「蓮以外の者達! 武運を祈るのじゃ!」
「ねぇ! 俺は!?」
蓮の悲しい叫びは青い光と共に消え去った。
□□□
「きゃっ! れ、蓮さん!? それに皆さんも!? 探したんですよ! 今までどこにいたんですか!」
少し泣きじゃくっている声と共に俺の腹部に衝撃が走る。……なんでこの世界の奴ら頭から突っ込んでくる奴が多いんだ……
「アリス様レーくんが泡吹いちゃってる!」
「あわわわやってしまいました…… ごめんなさい蓮さん! ってうわっ! なんですかこの狼達! た、食べられる~!」
「それレーくんのペットだから大丈夫だよ……」
「アリスねーちゃんは面白いね~!」
「「ワン、ワン!」」
王室にアリスの金色の長い髪が右に左に慌ただしく舞う。
「……アリス、1回落ち着けよ……」
「そ、そうですね、すみません……って落ち着いてられないんですよ今の状況は!? 魔王軍の幹部が……」
「魔王の幹部の1人が攻めてきたんだろ? その上、頼みの綱のギルマスは二日酔い」
「なんで知ってるですか!?」
「あはは、アリス様落ち着きなって……」
俺達は興奮するアリスをなだめながら今までの事を軽く説明した。 グリズリに行ったこと、ベガにあったことなど……
1から10まで説明をし終えると、アリスは鳩が豆鉄砲食らったような顔になっていた。
「そ、そうですか。信じられない話ですが信じるしかないですね……」
「それよりもアリス、現在の戦況はどうなってるんだ?」
「あ、はい、えっとですね…… まず攻めてきているのは魔王軍序列第11位 ハナエルです…… 奴らの軍勢と我が軍はメドウ草原にて交戦中です…… 」
魔王軍って序列とかあるんだ。
もしかして二つ名とかもあるかも……
まぁそれは置いておいて、それより聞き捨てならないのは……
「なっ! スーの故郷で戦っちゃってるの!? マスター早く止めなくちゃ!」
そう、メドウ草原が戦場になってる事だ。
あそこにはグリーンラオペが沢山生息してるからな…… スーにとっては大問題だ。
どうしたもんか……
蓮は少し考えた後、最適の答えを導き出した。
「そうだな…… クロ、シロ! 全速力でメドウ草原に向かってくれ! 10分もあれば着くだろ? スピカ! スピカは先に行っててくれ!」
「「ワン!」」
「わかった!」
2匹は疾風のごとく城を抜け走り出し、スピカはメドウ草原へと転移した。
「アリス、そのハナエルって奴のこと出来るだけ詳しく話してくれ」
「はい。奴は2mほど大きさで、その戦いぶりから、〈狂鬼〉と恐れられています……」
あ、ほんとに二つ名あったよ。しかも中々怖そうな感じだな……
「奴の使うスキルは、土の形状を変える様です…… 時には槍に、時には龍に。かなり厄介な相手です……」
「それはやばいな……」
「強そーだね……」
飛べたら楽に勝てそうなんだが……
スピカは本当に勝てるのかな……?
《50の経験値を手に入れました》
む? クロとシロのやつもう着いたのか。
まぁごちゃごちゃ考えてもしょーがない。
ダメな時はダメで逃げ帰ろう!
「スー! イアン! 転移するから捕まれ!
アリス! 説明ありがと! やるだけやってみるわ! 」
王室から蓮達の姿が消える。ひとり残されたこの国の王女は。ただただ祈り続けることしか出来なかった……
□□□
俺はクロとシロの元へ転移すると、周りにはセイメル王国兵に囲まれていた。
……え? どういう事?
「な! お前らいつ間にやってきたんだ!」
「そこから離れろ! ブラックウルフとホワイトウルフに殺されるぞ!」
あ、なんとなく状況把握出来たわ。
そりゃいきなりクロとシロがやって来たら敵だとしか思わないよな……
「あ、この子達俺のペットみたいなのもんなんで大丈夫です」
「「「「「「はぁ!?」」」」」」
あたりがざわつく。それが本当かどうかを話し合っているようだ。
参ったな…… なぎ倒すわけにもいかないし…… てか君たち戦闘中じゃないの? こんなことしてて大丈夫なのかよお前ら?
「あ! レーくんだ! 君たちそれはボクの大切な友達なんだから離してよ!」
「ご無沙汰してます蓮さん」
奥の方からスピカとギルドの受付嬢であるマインさんがやって来て誤解を解いてくれた。
あれ? もう一人足りないぞ?
「お久しぶりですマインさん。あの、オリオンはどこ行ったんですか?」
「あぁ、あの二日酔いで使えないクズですか…… アイツが今来ても足でまといでしかありませんから置いてきました。まぁ、代わりにギルド代表として私が来たんです」
マインさんって優しくてクールなのにオリオンのことだけは辛辣なんだよな……
まぁ奴の日頃の行いが悪いんだろ。
「それで、マインさんって受付嬢でしたよね? 戦えるんですか?」
「ああ、新人の方は知らない人も多いですよね。実は私、受付嬢兼冒険者なんですよ。今も時々依頼をこなしてまして、スピカとも一緒に依頼に行ったことがあるんですよ」
「へーそうなんですか。……ってそーいやスピカ、なんで戦ってないんだ? ハナエルに攻められてたんじゃないのか?」
「そんなんだけど、ボクが来たことを知られたみたいで、相手が様子見しちゃったんだよね」
「スピカはSランクですからね、たとえハナエルといえども、そう簡単には手が出せなくなったんでしょう。……まぁハナエルも気が長い方ではありませんから、気を引き締めてください」
「わ、分かりましたマインさん」
「スーも気を引き締めるよ!」
「キュピ!」 「「ワン!」」
スピカとマインさんと話した後、更に詳しい戦況を教えて貰った。
敵の軍隊はゴブリンやオーク、オーガまでいるようだ。そして、それを率いてるハナエルは1番奥で指揮をとっているらしい。
「なぁ、 グリーンラオペは敵じゃないのか? あいつも一応魔物だろ?」
「ああ、みんながみんな従うわけじゃないからね…… といってもグリーンラオペが敵対し
ない理由はもうちょっと違うんだよ。レーくん、なんだと思う?」
「……ハナエル以外の奴の支配下にあるとか?」
すると、スピカは腕をクロスしてバツを作ると「ブッブー! ハズレー!」と答えた。
「スーちゃんならわかるでしょ?」
「うん! マスター、正解は『イモムシに言葉が通じないから』だよ!」
スーはぴょんぴょん跳ねながら蓮に答えを告げた。
うん、その通りだよ。……でもイモムシ
からそんな事聞きたくなかったよ。
……あれ? でもこれって……
「そうか!」
俺が勢い良く叫ぶと、周りにいたスピカやマインさん、ペット達が驚いて一斉にこちらを見る。
「どうしたのさレーくん? 」
「良い作戦を思いついたんだよ! いいか……」
その後、蓮が全員に作戦を伝え終わった頃「敵襲ー!! 奴らが動き出しました!」と伝令役の人が叫びながら駆け巡ってきた。
耳を澄ませば多くの足音や、聞き慣れない異形の叫び声が聞こえる。 戦いが始まってしまったのだ。
「なっ! 早くボクらも出ないと! 」
「そうですね」
「わかった! 俺は俺で今の作戦を実行してみる! スピカ! マインさん! 奴らに目にもの見せてやろーぜ!」
そう言う蓮は全身を細かく震わせていた。
それを見てスピカやマインは吹き出した。
「ふふっレーくん! かっこいいこと言ってるのに震えてるよ?」
「そーですよ蓮さん…… ギャップ……ふふ」
「バッキャロー、武者震いだ武者震い! 行くぞ!」
相手は大地を震わすほどの大軍勢の魔王軍。
昔ならこんな奴らと戦うなんて考えたことも無かったな……
ここをなんとかして凌いで、楽しい楽しい異世界ライフを満喫してやるんじゃー!




