ウィーゼ島!
~一言でわかる前回のあらすじ~
グリズリにやってきました!
「ふぁぁぁ…… よく寝た……なんか暑苦しいな……」
俺は起きたら、やけに暑く窮屈に感じた。
蓮が自分の周りを確認すると、俺の周りにはスピカやスー達が一緒に寝ていた。
スピカは俺の右腕を抱き枕代わりに掴んで寝息をたてている。俺の腕には朝日照らされて真紅に輝くスピカの髪が当たって、少しこそばゆい。
シロは俺とスピカの枕代わりをしてくれていた。その白銀の毛はとてももふもふしていて暖かい。
クロは俺の左側に寝そべっていて、黒光りする毛を俺の左腕に押し当てていた。
残るはスーとイアンだが、こいつらは俺の腹の上でグーグーいびきをかきながら寝ていた。
……うん、暑い! 君たち嬉しいんだけど暑いよ! 全方位に温もりを感じるよ! これ布団作って貰った意味無かったじゃん!
流石に暑さに耐えきれなかった蓮は、幸せそうに寝ているスピカやペット達を起こした。
スー以外は簡単に起きてくれたのだが、スーを起こすのは一筋縄でいかなかった。何回身体をゆすってやっても、大声で起きるよう叫んでやってもダメだった。
……俺ってこいつを使役してるはずなのに言うこと効かないの何でだろ? ゴッドラオペになったから効かないのかな……?
その後色々試してはみたが、結局脳天にチョップをぶちかますことで解決してみました、はい。困った時には実力行使がいいと思いますね!
蓮、渾身のチョップを食らったスーは飛び起き、少し赤くなっているおでこをさすりながら恨みがましく蓮を睨む。
「マスター! 酷いよ!」
「起きないお前が悪いだろ!」
「むー!」
スーは腕を組み、ほっぺたを膨らませながらそっぽむいてしまった。怒ってるスーには悪いんだが、怒ってる姿もかなり可愛い。俺の母ちゃんに比べれば月とすっぽんだ。
「……なぁ? そのほっぺた触らせてくんない?」
「スーは今怒ってるんだよ! マスターに触らせるわけないでしょ!」
「あはは、落ち着きなよスーちゃん……」
スピカが仲裁に入ってくれたため、スーの逆切れはなんとか収まった。
流石にダメだったか…… 残念だなぁ、あのぷくぷくしたほっぺたを1番触りたいってのに……
「レーくん、まだ触りたいって顔してるね? ダメだよ、女の子のほっぺた触ろうとしちゃ!」
プンプンとスピカに叱られてしまった。顔に出てしまってたかな。まぁ仕方ない、次の機会を待とう……
そしていつか! あの膨らんだ餅をつついてやるぜ!
□□□
スーの機嫌も何とか治まり、皆で朝ごはんを食べることにした。
あ、そーいや俺は昨日夜ご飯食べてないのか。グリズリの食材ってどんなんだろう?
蓮がワクワクしながら朝ごはんが出来るのを待っている。その横には同じように朝ごはんを待っているスー、クロ、シロ、イアンの姿が見えた。
「ふふん! ボクの料理を待ち焦がれる者達よ! 時は満ちた! その欲望のおもむくまま貪り尽くすがいい!」
色々ポーズとか決めながらスピカが料理を運びながら叫んだ。朝だと言うのにテンションが高いなぁ……
「スピカ、そんなノリノリでどーしたんのさ? ポーズしたりするの久しぶりに見たぞ?」
「テンション高くないと恥ずかしいからやらないんだけどね? ……まぁ、これ見てくれたらわかるよ……」
スピカの恥ずかしがりやなのに時々中二病ってキャラ、どういうことなんだよ。
相反する性格だろ。
まぁそんな事はおいといて、
スピカが作ってくれた料理はオムライスだ。
極々普通のオムライス。金色に光り輝いている事を除けばだが。
クロとシロのためにはサラダを作っていたが、それもまた光っていた。
現状を飲み込めない俺をよそに、スピカ達は食べ始める。
「何でそんなすんなり食べちゃってんの!? ちゃんと説明してくれ!」
「もぐもぐ……ゴクン。レーくんは昨日食べてないから分からないよね。昨日、スーちゃんが卵見つけてくれたんだけどね、その卵はね、金色に光り輝く! そう、まるで天や地からの贈り物!」
「卵がお花みたいに生えてたんだよー!」
……多分スピカ、お前の中二病もどきの説明、正解だぞ。 こんなの出来んのあのロリしか……
「それは多分ゴールドエッグタンポポじゃな。それの種が卵になっておるんじゃよ。その卵は金色に光り輝いていてな、見た目だけでなく味も良いぞ~」
突然、蓮とスピカの目の前に桜色の和服を着た銀髪の女の子が現れた。
「……いきなり現れんなよベガ。スピカ達が呆然としちゃってんじゃん」
蓮の目線の先には驚いてフリーズしてしまっているスピカや狼達の姿があった。
「ははは! すまぬな! ん? お主は驚いておらんようじゃな?」
「……誰かさんのおかげで……もう慣れた」
そう語った蓮は、どこか悲しそうな顔をしていた……
「マスター、この人誰?」
「ん? スーはフリーズしてないんだな? まぁいい、こいつはベガ。頭のネジが足りない神様だよ」
「……誰の頭のネジがとんでるって? 」
やっべ。ついつい本音が出ちまったよ……
いてっ! こいつ俺の脛を蹴りやがった!
俺の心読んでやがったな……
「それじゃあさ、この子がレーくんにスキルを与えた神様なの?」
「ん? そうじゃ! ワシがくれてやったのじゃよ!」
お、いつの間にスピカのフリーズが溶けてたんだ? まぁスピカもなんだかんだサプライズに遭遇してたからな……慣れてきたのかな……
蓮が同類を見つけたと、少し温かい目線をスピカに向けると、スピカは目でわかってるよ、と訴えたように見えた。
「あ、そーいや新しくシロにクロにイアンが仲間になったぜ」
「「ワン!」」
俺がそのことを思い出してクロとシロを紹介すると、それに応じるようにそれぞれ鳴く。
……こいつら絶対俺の言葉理解してるよな? シロとクロはまだいいとして、イアンまで理解してるとは……
「お主の教育スキルのおかげじゃな。相手に教えるのが上手くなるんじゃ。知らず知らずのうちにそいつらが言語を学んだんじゃろーな。そのうち話せるようになるまでになるかもしれんのぅ」
ああ、そーいや持ってたねそんなスキル。影が薄すぎて完全に忘れてたけどさ。あと、ナチュラルに人の心を読むんじゃない。
「勝手に聞こえるのじゃ! 神だから!」
「……はいはいわかったわかった。……それで? お前何しに来たの? 驚かせに来ただけ?」
「いやいや、お主にワシが作ったものを説明してやろうと思ってな!」
……自慢しにきただけかよこいつ。神様って暇なのかな?
「暇じゃよ? あんな何もない所に独りでいたら暇に決まっておろう? 時々休暇をとらんとやっておられんぞ?」
「神様かわいそー!」
「おお、分かってくれるかスーとやら!」
スーにベガが抱きつき、大げさに泣き真似をする。めんどくさいっていうか、ウザイな。
そんなベガはおいといて、とりあえずは朝ごはんを食べることにした。食べる前にお預けを食らったせいで俺の腹の虫が騒いでしまっていたのだ。先程からグーグー鳴いてしまって少し恥ずかしい。
俺は椅子に座り、スプーンで金色に光るオムライスを口の中に運んだ。
それはほっぺたが落ちるくらい美味しかった。……いやマジで。 卵がプリンのような食感で口の中でとろける…… そのくせ味わいはとても濃厚。ケチャップライスとの組み合わせは反則的だ。
ただ一つ、気に入らない所を言うのなら……
「ぷふ~やはりうまいのじゃ~」
俺の膝の上にいる駄神だな。いきなり俺を登ったかと思うと、人のオムライスを半分くらい食いやがった。ひと口ならまだ許せる。俺もそんなに心は小さくないからな。しかし半分は俺の心では耐えきれないようだ。
ギロリとベガを睨むと、臆するでもなく幸せそうなベガの笑顔が返ってきた。
「そうかっかしてると身体に悪いんじゃぞ?」
「かっかさせてんのは大抵お前のせいだよ! ……まぁいい、飯もくったし早くこの世界を案内してくれ」
「ふふん! 任せられたのじゃ! それでは行くのじゃ!」
「スーも楽しみー! 早く行こー!」
「「ワン!」」
「キュピ!」
元気よくベガとペット達は外へと飛び出して行ってしまった。
「……この世界がかなり広いの忘れてないかな……?」
「……ベガだから大丈夫だ。 スーのとこまで転移するからもうちょいこっち寄ってくれ」
「あ、うんわかったレーくん」
魔物転移かなり便利だわ……
□□□
俺とスピカが転移すると、目の前には昨日通った森があった。いくら何でも着くの早くないかな? 昨日かなり時間かかったぞ?
「ふふん! この世界は広すぎるからな、転移して要所要所の説明をしてやるのじゃ!」
何で俺とスピカをおいていったんだてめぇ。
ちゃんと全員連れてけや。
「ちっちゃいことは気にするでない!」
何言っても無駄か…… 一応神様だもんな……
「それよりもワシが作ったものの説明をはじめるぞい! 何か聞きたいものはあるか?」
「あ、じゃあ武器とか防具がなる木でよろしく。1番気になってんだよね……」
「確かにあれは斬新だよね…… ボクもそれが1番印象に残ってるかな……」
「スーも!」
「「ワン!」」
「キュピ!」
うん、全員一致のようだ。そりゃ印象に残るもんな……
「ああ…… アルマの木のことじゃな。あれはかなりのインパクトがあるからの~」
その後ベガが流暢に説明をし始めた。要所要所で自慢したり話が脱線したりしたが、だいたいのことはわかった。
まずその木の名前はアルマの木ということ。
アルマという言葉が武器を表しているらしい。 ……アルマの木には防具もなっていたけど……おまけなのかな……?
で、これは分かりきっていた事だがベガの悪ノリによって作られたものであった。
なんでも、ベルダーの神、つまり俺が元いた世界の神様だな、そいつを驚かせるために作ったらしい。この世界を創ったついでに、純金で出来た木を創ったらかなり驚いてくれたらしい。それに味をしめたベガがアルマの木を創って更に驚かせようとしたらしい。
それを見た俺の世界の神様は腰を抜かしてしまったらしい……
驚かすためだけにあんなびっくり仰天な木を作りやがったということだ。なんてはた迷惑で規格外なやつだ。
「この木から出来る武器や防具は一級品なのじゃ! そんじょそこらの鍛冶屋よりもいいものを作るのじゃぞ!」
どうだすごかろう、とばかりに胸を張りながら自慢を続ける。スー達が煽てるから余計調子に乗ってやがるな……
まぁこんな感じでベガのガイド付きのグリズリツアーが始まった。
ベガの説明によると、このグリズリという世界は主に9つの島があるらしい。色んな環境の魔物がやって来ても大丈夫なように、昔改造したんだとさ。
俺たちがいる島はウィーゼ島というらしい。
他の8つの島はそれぞれ、ボワ島、アレナ島、イグニス島、ニクス島、ボワ島、ネポス島、ローカ島、ペリグロ島、マール島という名前らしい。その島々に行くためには飛んで行ったり海を渡っていってもいいのだが、ベガが島と島とを行き来するための転移門を昔作ったらしい。それを俺たちの家の近くに設置したとの事だ。
勝手に設置した事は感心せんが、いちいち魔力を使わなくても行き来出来るのはありがたい。
詳しく教えてくれると思ったが、
「この8つの島については行った時に説明してやるのじゃ!」と言われたので詳しいことは分からずじまいだ。 まぁその時に聞かせてもらおう。
「それではこのウィーゼ島について説明するのじゃ! すこーし長くなるかもしれんが、まぁその辺の木になっとる実でも食べながら聞いとくれ。ああ安心せい、ウィーゼ島になっとる実は毒性はないからの」
「……なぁ、他の島には毒がある実とかあんのか?」
「ワシが創ったのじゃ!」
何のために創ったんだこいつ! 誰も得しねーだろ!……まぁ、ウィーゼ島のは毒性ないなら安心して食べれるな。お供なしで長話を聞くのは中々辛い。
蓮は辺りを見渡し美味しそうな実を探した。
アルマの木は別だが、その他の木になっている実は中々美味しそうだ。橙色のもの、桃色のもの……赤くて丸い、まるでリンゴのような実もなっているな……てかあれ、本物じゃね?
俺はリンゴもどきをむしり取り、豪快に皮ごと口に運んだ。シャキッとした歯ごたえ。甘みとほんの少しの酸味。元の世界で食べ慣れた味がする。そしてこの芳醇な香り…… 間違いない。リンゴもどきじゃなくてリンゴだこれ。……多分俺の世界の神様が作ったんだろーな。ベガと違ってまともなんだなうちの神様。
「マスターの真っ赤な果物美味しそー! スーも食べるー!」
「ボクもたーべよっと!」
スーとスピカはリンゴをひと口食べると、顔が少し緩んだ。どうやらお口に合ったらしい。シロ、クロ、イアンはそれぞれ白い草を食べることにしたらしい。とても美味しそうに頬張っていた。
各々長話のお供が決まったのを確認し、ベガはウィーゼ島についての説明を始めた。
「ここ! ウィーゼ島はの! ワシと蓮のとこの神で作った最初の島なのじゃ! 他の七つの島よりも大きく、それぞれの島の特色もあるのが特徴の一つじゃな!」
「ん? どゆこと?」
「そうあわてるでない、今から説明するとこじゃ。この島自体は草原をイメージして作った島なのじゃ。それゆえこの島の中央部にはどでかい草原や所々に林や湖があったじゃろ? 」
確かに草原は森や砂漠に比べてかなりの広さだったな。クロとシロがいなかったらかなり疲れてたろーしな。
……それよりもやばい。このリンゴめっちゃうまい。蜜も沢山含んでるし、元の世界でもこんなに美味しいのは中々ないだろう。
「まぁ最初は草原や林しかない島だったんじゃがの、他の島を創り終わった後に物足りなく感じてしまったんじゃよ。そこで! この島に他の島の特色を備え付けてみたんじゃよ! まぁ少しは他の島より緩和したがの……」
……病みつきだなこのリンゴ。あ、あそこに金色の果実があるな、食べてみよ……
「お主聞いとるのか! ワシのスーパーベリーグッドの説明を!」
「聞いてるよ……もぐもぐ。この島は……もぐもぐ、果物が美味しい島って……もぐもぐ、事だろ? ゴックン……この金色の果実もうめえ……次はあれにしよ……」
「聞いとらんでないか! 蓮! お主どんだけ食っとるんじゃ! 少しは話をまともにきけ!」
「あはは、レーくんの代わりにボクがちゃんと聞いてるからさ、ベガちゃん説明続けてもらえるかな?」
「おおスピカとやら! お主はええ子じゃな!おかげでやる気が湧いてきたのじゃ! 」
俺にかまってもらえないベガにスピカが手を合わせながら説明を続けてもらえるよう頼んだ。
その甲斐もあって、ベガは機嫌よくウィーゼ島についての説明を続けた。主にウィーゼ島にある植物やその使用方法についてだった。俺がベガの説明で1番驚いた事はこの島には俺が収納した魔物以外にも生物がいるという事だ。まぁいつか会えることを願おう。
説明がようやく終わりそうな頃にはペット達はいつの間にか寝てしまっていた。クロとシロを枕代わりにしてスーとイアンが寝ていてとても愛らしい……
「……とまぁこんなところかの。以上、ウィーゼ島の説明は終わりじゃ!」
「長かった…… もうどっと疲れたわ……」
「ボクもだよ…… スーちゃん達が寝た時には逃げ遅れた気持ちがしたよ……」
「ベガにあんだけ説明してもらったけどよ、あんまり覚えてる気がしねぇ…… 」
「ボクもだよ……」
まぁそれは当然っちゃ当然のことでもある。なにせ俺とスピカは5時間もベガから説明を受けていたのだ。その内容を全て覚えるだなんて不可能だろ? ほとんどのベガの説明が水泡に帰しちゃったね。
蓮が疲れた頭でベガの説明の必要性があったのかどうかを考えてしまっていると、ベガが案ずるな、とばかりにニンマリと笑った。
「ふふん! お主らが覚えきれないことくらいワシにはお見通しじゃ! 凄いじゃろ!」
いや別にお前じゃなくても少し考えりゃ小学生でも分かることだろ。
小学生でも自慢しねーような事自慢してくんじゃねーよ。 あ! 身体だけでなく頭までロリっ子に……
「ん? 死にたいのか蓮よ?」
すみませんでした、私が悪うございました、だからその拳を抑えて!
「まぁいいじゃろ、ワシは心が広いしの!」
「それはそうと、ベガちゃん、お見通しだったならどうにか出来なかったの? 記憶のスキルをボク達に与えるとかさ」
む、スピカの言う事もごもっともだ。聞いたことをなんでも記憶出来るスキルとか、こいつにとっては簡単に創れるよな?
「ふふふ、そんなものは必要ない! もっと簡単な方法があるのじゃ!」
そう言うとベガは俺とスピカにあるものを渡してきた。それはとても頑丈そうな緑色のカバーをしていた。それを開いてみると、何百もの紙に沢山の字が書き記されていて、時々絵や図解が載せてあったそれはーーー
「……おい、これ本だよな? 何が書いてるんだ?」
そう、本だった。しかし問題はそこではなく、タイトルだ。
……絶対にこの本のタイトルは『グリズリ百科事典 ~ウィーゼ島編~』 なんかじゃない。緑のカバーに無駄に達筆に書かれてなんかない。
その少しの淡い期待をこめながらベガに聞くと……
「そう、本じゃぞ! ワシが直々に作ってやったのじゃ! それさえあればこの島のことはなんでもわかったと言っても過言では……」
「先にそれを渡せよこの駄神がぁぁぁ……」
俺とスピカは膝から崩れ落ちてしまった。
ウィーゼ島
8つの島の中央に位置する島。草原が大部分を占める。ベガに多くの生物や草を作った。
代表例はアルマの木である。
アルマの木
剣や防具を1ヵ月ほどで実らせる。
作られる武器や防具の種類、長さ、材質、強度はランダムで決まる。
運が良ければ聖剣クラスのものも実らせる可能性がある。




