馬鹿の考え!
~一言でわかる前回のあらすじ~
レオンは金〇を蹴られた
「スーちゃん! 早くそこをどいて!」
スピカが魔法の準備をしながらスーにむかい叫ぶ
「ダメだよ…… いくらスピカねーちゃんでも…」
「いいからどいてよ!」
「嫌!」
スーは後ろのモノを守るようにスピカとの間で大きく手を広げて立ち、真剣な表情で俺たちを見つめる。その目はスピカに懇願しているような感じがした。
あ、俺がなにしてるかって? 体育座りでこれを見てんだよ。俺が入る余地すらねーよ。久しぶりの疎外感だよ。……ぐすん
「スピカちゃん! これ以上邪魔するなら実力行使するよ!?」
「むむむむむ…… ま、負けないもん!」
スーはスピカの脅迫にも負けず、戦闘に応じるようだ。全く……なんでこんなことになったのやら……
「 ファイアボール!」
「私の家族を……殺させはしない!」
戦いの火蓋がきって落とされた。
□□□
なぜこんなことになったのか。それを説明するには少し時を遡らなければならない。
俺はギルドの試験の次の日、まぁ今日だな。ギルドに行くと予想通りにCランクとなったことを告げられた。スーやスピカもすごく喜んでくれた。そして、スピカがこのまま初依頼をしようと誘ってくれた。 そこで俺はDランクの依頼を受け、フォート森に向かいジャイアントラオペの討伐依頼を受けた。
これが悪手だった。今、この悲惨な状況はこの瞬間に確定されていたんだ。
俺たちは馬車に乗り、フォート森へとむかった。しかし、俺とスーはジャイアントラオペを見たことがなく、何を倒せばいいか分からないことに気づいた。
スピカはジャイアントラオペを倒したこともあるらしく「じゃあボクに任せて~」といってスピカを軸にジャイアントラオペを探した。
「スピカねーちゃん! あれがジャイアントラオペ?」
「いや、あれはブラックウルフだね。肉食に見えるけど草食でかわいいんだよ~」
「狼なのに草食っておかしいだろ!」
さすが異世界。常識が通じないとこの時は感じた。スピカは当たり前だよ? みたいな顔してるしそうなんだろーな。
スーはいつの間にかブラックウルフにそこら辺の雑草を持ってブラックウルフに食べさせていた。スーも狼が草食なのには疑問を感じないのか。
この様子だとジャイアントラオペってどんなモンスターなんだろ? 意外とちっちゃかったりな。
「なぁスピカ。ジャイアントラオペはまだいないのか?」
「んー? あ、あれだよあれ!」
スピカが指さしたその先には……
どでかいイモムシがいた。
□□□
そして今現在、ジャイアントラオペを倒す倒さないという議論からスピカとスーのバトルが始まってしまった。当事者であるジャイアントラオペは体育座りでいる俺の横に大人しく移動してきた。
俺とジャイアントラオペの空気感が凄いな。久しぶりだなーこれ、この世界にやってきた日以来か……
「キュピッキュピッ」
俺の横のジャイアントラオペが俺を慰めるように優しく鳴く。やさしいな、お前。
あーしかしなんでヒントは沢山あったのに、ジャイアントラオペがイモムシだと気づかなかったかな~
考えりゃイモムシの種族名、グリーンラオペにゴッドラオペだもん。ラオペがイモムシの意味を表してたんだね。
もっと早く気づいとけばこんな依頼受けなかったのに…… もっと考えろや数時間前の俺!
蓮が少し前の自分を叱っている目の前ではスーとスピカの戦いが繰り広げられている。
ジャイアントラオペがイモムシだと知ったスーは「私の家族だよ? 倒しちゃダメ!」と蓮とスピカに訴え、倒そうとするのを邪魔したのだ。
「やるねぇ……スーちゃん!」
「ねーちゃんこそ!」
2人は肩で息をしながら睨み合っている。スーが攻撃してもスピカは転移魔法で避け、スピカが攻撃してもスーは軽やかに避ける。素人である俺が見ても2人の攻防は拮抗している。
「キュピッキュピッ!」
「ふふふ……待ってて私の家族! 倒させたりさせないんだから!」
「ふふふ……それは無理だよスーちゃん! ボクは仮にAランクの実力者。本気を出したらスーちゃんなんか敵じゃないんだよ!」
スピカが力をこめると、スピカの周りが赤く光りだし、空気が振動しているのが肌で感じる。
「降参するなら今のうちだよ? スーちゃん」
「ま、ま、負けないもん…… 家族を倒させたりさせないもん……」
スピカの迫力におされ、スーの自信が薄れてしまったようだ。実際俺やジャイアントラオペを少し肩が震えてしまった。レオンがアホすぎて実感していなかったが、流石にAランクは格が違うということだろう。
「ふふふ、じゃあすこーし眠っててね。紅炎の……」
「スピカ、ストーップ!」
「マ、マスター……」
流石に見ていられなかった。だってスピカの目はマジだし、スーがガタガタ震えて泣き目になっちゃってるんだもん。ついでに俺の横にいたジャイアントラオペも助けを求めるように俺を見つめてきたしな。
「……なんだいレーくん。邪魔しないでおくれよ」
ギロリと俺の方を睨む。俺の背筋が少し凍った気がする。怖いよスピカ……
でもほら、少しジャイアントラオペにも情がわいてしまったしね。
「スピカ、少し落ち着けよ。依頼失敗でいいじゃないか。流石にもう殺せないよ……」
「……甘い、甘すぎるよ。そんなんじゃこの世界を生き残れないよ? 他の世界からきたレーくんは分からないかもしれないけどさ、魔物ってとっても危険なんだよ? そりゃスーちゃんみたいにテイムされてる魔物なら大丈夫だよ? でもね、他はボクら人間を殺そうとするのが普通なんだよ」
「スピカ……」
「スピカねーちゃん……」
スピカが言っていることは分かる。危険な存在である魔物を見逃すということは、他人に危険が及ぶという事だ。スピカは昔のトラウマもあって魔物を助けるような事は許したくないのだろう。
「情に流されるのはいちばんダメだよレーくん? 辛いけどそこはしっかりしないと……」
「じゃあ魔物と友達になろうぜ」
「は!?」
俺の言葉が余程意外だったのか、スピカが目を丸くしながら俺を見る。スーやなぜかジャイアントラオペまで俺の方を向く。
「いや~スピカの話もわかるよ? そりゃ危ない魔物とは戦わなきゃいけないでしょうよ」
「なら……」
「でも! ジャイアントラオペみたいに安全な魔物だっているかもしれないだろ? 」
「キュピキュピ!」
「そーだよ!」
ジャイアントラオペとスーは俺に賛成のようだ。
「それも分かるけど! 人間と魔物の共存なんて無理だよ! 魔物は人間の敵なんだよ!?」
やはりスピカは反対のようだ。顔を真っ赤にして俺に反論する。しかし俺は負けんぞ。スピカは俺の職業知ってんのか? 全く……
「俺は魔物使いだぞ? 魔物がいなきゃ何もできねー雑魚だ。人間と魔物が共存できることを俺が証明してやるよ」
「キュピキュピキュピ!」
「スーも手伝うよ!!」
俺の言葉にスーとジャイアントラオペはスタンディング・オベーションで拍手をする。まぁ最初から立ってたんだけどね。
スーは少し俯いて考え込んでしまった。俺を見ようともしないであーでもない、こーでもないとブツブツ呟いている。
呟きをやめ、ゆっくりこちらを見る。
「呆れたよレーくん。君は大馬鹿者さ。敵と仲良くしようだなんて馬鹿としか言いようがないよ」
呆れたように俺にそう話す。その雰囲気は殺気のようなものも感じる……
寒気が止まねぇ……俺、スピカに殺されるじゃね……
あ、クソ、スーの野郎俺の後ろに逃げやがった。お前らのためにやってんのに!
「ス、スピカさん……?」
恐る恐るスピカの様子を伺う。ハァと一息つくと、スピカが言葉を続ける。
「馬鹿を説得するのは骨が折れるよ……
分かった。レーくんの考えに賛同してみるよ。でももし、レーくんに危険が及ぶならすぐに魔物は殺すからね……? それでいいでしょ?」
「おう! ありがとな!」
「スピカねーちゃん大好き!」
スピカも賛同してくれたようだ。雰囲気がいつものほのぼのしたものに変わる。
「キュピキュピ!」
ジャイアントラオペが俺の目の前に来て、何かを伝えようとしてくる。うーん、なんだろ?
「スー、ジャイアントラオペが何言おうとしてるか分かるか?」
「えっとね、頭を撫でてほしいみたいだよ! 友達の証だって!」
ほうほう。俺はジャイアントラオペの頭を撫でてやる。すると不思議なことに、ジャイアントラオペが光の玉となって俺の中に入る。
《使役対象:ブラックウルフが増えました》
《使役Lv3 を手に入れました》
《使役対象:ラオペ種が増えました》
《派生スキル 魔物収納を手に入れました》
《1000の経験値を手に入れました》
《10にレベルアップしました》
え、なんか手に入れたんだけど。てかジャイアントラオペが俺の体に入ってったんだけど。この魔物収納ってやつかな?
「こんなの見たことないよ! なにしたのレーくん!?」
「なんか派生スキルを手に入れたとかで…」
そう言いながらステータスを開いてみると……
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名前 雨宮 蓮
年齢 17
レベル 10
ジョブ 魔物使い
スキル 使役Lv3 調査Lv1 教育Lv1 創造Lv1
魔物収納
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やっぱり増えてるし、使役はレベルアップしてるな。まずは使役のスキルを調査スキルで確認してみると
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スキル 使役Lv 3
魔物を使役する。
使役対象 ラオペ種
ブラックウルフ
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使役対象が増えたね。特にブラックウルフはなかなかの大躍進じゃない? あいつ可愛いし嬉しいわ。……食費もかからなそうだし。
次に魔物収納の情報を見ると
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スキル 魔物収納
魔物を異空間に収納することが出来る。
対象 友好関係を築いた魔物
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ふむふむ、ジャイアントラオペが居なくなったのはそういう原理か。なんかぴったりのタイミングでスキル取れたなー…… 誰かの作為的なものを感じる……
あ! ベガか! あいつ創造スキルくれる前に俺に何かしてたよな! 俺の効果がこれなのかな? 次会ったとき問い正そう。
「レーくん、なにがあったのさ!」
「そうだよマスター! 説明して!」
おっといかんいかん考え込んでしまったようだ。2人に説明すると、スーはとても喜んでいて「スーもしまって! あの子と遊んでくる!」と言ったので、魔物収納で異空間へとばした。スピカは使役のスキルがレベルアップしたことにとても驚いていた。使役がレベルアップしたのは初めてだそうだ。
「ま、帰ろーぜスピカ。今日も色々あって疲れた」
「そーだね……」
俺のスキルがレベルアップしたり、スピカとスーの戦いがあったり、今日は疲れた。なんで魔物収納しただけで経験値を貰えたのかとか色々謎が残るが、それは明日考えよ……




