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6話 過去の親友

 結局、あの後特に詮索されたりはせずその日は終わりを迎えた。そして、今は龍人の里に来てから2日目、大体時刻は2時位だ。


「……で、本当に大丈夫か?というか、なんでわざわざ来たくもない場所に来たんだ?」


 俺はフィールに聞く。現在、フィールと二人で里を歩いているのだ。嫌な筈なのに、行きたいと言われて了承したのだが理由を聞いていなかった。午前中から散歩してるのにも関わらずだ。


 するとフィールは若干間を空けてからポツリと、決して響かない程度の大きさの声で言う。


「……あのまま引きこもってても、私がどうするべきかは分からない。だから、今の彼奴らを知る必要がある」


「なるほどな。ところで、今は気づく気配は無えが……もしも気付かれて、昔と同じような事になったらどうするつもりだ?」


「その時は、悩む事は無い。この手で、終止符を打つだけ」


「まあ、そうなるか。俺はお前の意思を尊重するよ。だが、昨日約束した通りお前が平静を欠いてたら止めさせて貰うぞ」


「分かってる。そうならないように、気をつけはするけど」


 もしも周りがこの会話を聞いたら、フィールの正体には気付いたかもしれない。だが、周りから視線こそ感じれどこの声を聞き取れるほどの距離にいる者はいないので気にすることも無いのだが。


「……まあ、俺としてはこの"景観"だけは壊れないで欲しいけどな。今となっては懐かしいものだし」


「……懐かしい?」


「ああ、言ってなかったか?この里の家とか、カエルムの屋敷とか。俺の故郷の昔風の建物って言えばいいのか?それにかなり似てるんだよ。他の所で石造りとか煉瓦造りが多かったから、木造建築なんて当分見ないと思ってたしな」


 そう、この里の建物は基本的に木造で様式も和風に近いものがある。フィールやビアンカが知らないのも無理はないだろうが、俺としては何処か懐かしい気持ちがあるのだ。


 だが、あくまで壊れて欲しくないのはその景観だけだ。俺からしたら、ここに住んでいる奴らなんて興味が無い。ただ、その風景に映っているだけだ。


「お前はどうなんだ?」


「……え?」


「いや、お前は懐かしいとか思わないのかってな。人に対してはそんな思いは抱けねえだろうけど、風景とかには思うところはあるんじゃないかってな」


 俺は、フィールにそう聞いてみる。人には怒りや恨みを抱いていたとしても、この地自体には何か思うところはあるのか。聞いたところでどうにもならない話ではあるのだが、何となく気になっただけだ。


「……なんとも言えない感じ。体だけはここに戻ってきたみたいだけど、心ではそうは思えないような。例え景色が変わらなくても、私からしたら醜く歪んだものに見えるから」


 6年前まで此処に居たとしても、今と昔では見えているものが違うから。体は此処を覚えていても、心は違う。確かに、なんとも言えない感じだ。


 人だけでなく、その場所すらも嫌ってしまう。それほどに負った心の傷は大きいというのに、何故明確な想いが分からないのか。


 その理由は、俺には知ることは出来ない。というより、恐らくフィール自身でさえ分かっていないだろう。


「……もう、あの時には戻れない。戻ろうとも思えない。……私は、こんな脆弱な平和の為に……」


 だが。今この時は、フィールからは明確な怒りを感じ取れた。いや、怒りというよりも最早殺意という方が正しいかもしれないほどだ。


「……お前がやるっていうなら、俺は止めはしない。今は別に、暴走してる訳でも無さそうだしな」


「……いや、いい。まだ、判断が出来そうにない」


 今のフィールは、無理やりにでも感情を押し殺そうとしているように見える。だが、そうしても感じられる殺意が俺には見えた。


 それでも、思い留まる意味は分からない。


 だが、分かったところでどうにか出来るものでも無い。俺にできるのは、フィールの意思を尊重することだけだ。


「……ぁ」


「?どうかしたか?」


 そんな会話をしてからしばらく無言で歩き続けた後。不意に、フィールがそんな小さな声を上げる。その視線の先にはフィールと同年代位に見える一人の少女がいた。今は木陰で何やら本を読んでいるようだが。


「……私の、()親友。物心ついた時から友達だった、数少ない人」


 フィールの話によると、その紅髪の少女はフィールの一番の友人だったようで、共に過ごした時間はカエルムを除けば最も多かったという。しかし、フィールは元という言葉を強調して言った。


「……そして、私の力を直に見て知ってしまった、あの日の惨劇の元凶でもある」


「……なるほど、な。幾ら親友って言っても、根幹に根付いた考えは変わらなかったって事か。だから、全属性だという事に恐怖を感じた」


「……そう。あいつは、人一倍多属性を禁忌していた。この里にはそういう本が多いから、人一倍本を読んでた彼奴は一番影響を受けてたんだと思う」


「友情よりも、根付いた意識か。醜い話だな、いや本当に」


 俺はそう呟いた。だが、それに対してフィールは「でも」と言って言葉を続ける。


「今になって思えば、仕方がなかったようにも思える。多属性を嫌う彼奴と、全属性を宿す私。そんな関係、何時までも続く訳がなかったから」


「……確かに、そうかもな」


「……あんな偽りで塗り固めた友情なんて、破綻することは少し考えれば分かりきった事だった。それなのに、私はそれを隠し通そうとしてた。何時までも隠し通すなんて、出来る訳が無かったのに」


 空を寂しそうな目で見上げながら、そう語る。その蒼い目には何ともいえない光が見て取れる。


 しかし、聞こえない声量とはいえ立ち止まって会話をしていたからか。その紅髪の少女はこっちに気付いたようで、本を閉じて立ち上がりこっちに歩いてくる。


「あれ?この里じゃ見ない顔だけど……他所から来た人?」


「ああ、そうだが」


 俺は、怪しまれない為にも平静を装ってその少女に返事をする。それを聞いた少女は次はフィールに目を向ける。


「へえ、珍しい。……っと、あれ?何処かで見たような……?いや、でも他所から来た人に会った事あるはずないか」


 その少女はフィールを見た瞬間一瞬首を傾げたものの、フィールだとは気づかなかったようで自己完結する。その際、フィールの眉がピクッと、よくよく観察しなければ見えない程度に動く。


「……ええ。私と貴方は初対面」


 しかし、それも一切悟らせずにフィールは話を促す。無言を貫くよりも多少会話をした方が怪しまれないと思ったからか。


「……?あっ、気にしないで。えっと、私はフラン。まあ、ただの読書好きの少女よ。貴方達は?」


 フランと名乗るその少女は、フィールの声と口調を聞いた時再度首を傾げる。だが、またもフィールには結びつかなかったようで直ぐに首を振った。他の者たちに比べたら疑問は浮かべているものの、気付きそうには見えない。


「俺は黒野。まあ、ただの冒険者だ」


「……私、は……」


 フランの質問に対して俺とフィールは答えようとするものの、フィールは声が突っかかってしまう。偽名を言えばいいというのは理屈で分かっているのだろうが、どうにもうまく言えないようである。


「……フィア」


 そして一拍置いてから出てきた名前は、偽名としては成り立つものの元の面影を大きく残すようなものであった。そして、それを聞いたフランは今度は一瞬だけ眉を寄せ、すぐさまそれを直して色々な事を聞いてくる。


 冒険者としてどんな事をして来たのか。


 どうして此処に来たのか。


 人族の街はどんな所なのか。


 俺たち二人はどんな関係なのか。


 そんな質問を次から次へとして来るので、実際対処に困った。少し話してトンズラしようと思ってたのに、トンズラするタイミングが無かったのだ。


 なお、話に関しては当たり障りの無いことを、現在進行形で口裏を合わせながら言っていた。念話って便利。


 ただ、一つだけ念話で打ち合わせをしなかったのもあったが。


「ところで、二人ってどんな関係なの?」


「「恋人」」


 こんな感じであった。マジで無意識に言葉が飛び出して、自分でも割と驚いた。実際好意を抱いているので否定するつもりはないが。


「えーと、えーと、他に聞いておきたい事が有ったはずなのに……」


 そして、質問攻めが1時間くらい続いた辺りで、そろそろ質問したい内容が減ってきたようである。フィール曰く「知識欲旺盛な奴だった」だそうで、多かれ少なかれ何かしら聞いてくるのはもともと予想はしてたとか。なら先に言ってくれと思ったりしたが時すでに遅しだった。


「……流石に話し疲れたんだが」


「あ、ごめんなさい!つい色々聞きたくなっちゃって……」


 それはともかく、話題を探している状態になったので俺は話を切り上げたいとの旨を伝える。すると、フランは驚いたような表情をして即座に謝ってくる。


「いや、別に構わねえよ。で、満足はしてくれたか?」


「はい!今日はありがとうございました!」


 フランはそう言いながら、嬉しそうな、しかし何かを含んだような顔をして頭を下げてくる。可愛らしいとは思うものの、フィールの件と絡んでいるとなるとどうにもあまり良い目では見られない。


「まあ、それならこっちも話した甲斐があったよ」


「……じゃあ、さよなら」


 俺たちは、そう言って手を振りながらその場を後にする。フランには見えないように後ろに振り向いた直後、フィールは深い溜息を吐いていた。


「大丈夫か?」


 俺は遠ざかってからフィールに聞く。長々と話していたせいで大分神経をすり減らしていたようで、疲労が溜まっているようだった。


「……いつ気付かれるかも分からなかったから、正直気が気じゃ無かった。流石に、まだ明かすには早いから」


「だろうな。まだ、判断できるほどの情報は集まってないから、下手にバレると戦争コースだもんな」


「うん。流石に、そうなったら止められないから」


 フィールは疲れた様子でそう言う。その時は、まず間違いなくこの里は滅ぶだろう。だが、滅ぼしてから後悔しても遅いというのは大きな問題でもある。


「……まあ、取り敢えずバレずには済んだんだ。さっさと屋敷に戻って休もうぜ」


「……うん。そうする」


 だが、今回はバレずには済んだから問題ないと。そういう事にして、俺たちは今日の情報収集を終えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……やっぱり、過去は変えられないんだね」


 夜、全ての人が寝静まった中ベッドの上で紅髪の少女フランは一人ポツリと呟く。


 その声は、後悔に満ちた声。取り返しの付かないものを失った事を再度自覚し、悲しみに包まれているところだ。


「偽りで塗り固められた友情、か。確かに、そうだったかもしれない。フィール(・・・・)は、確かにあの事を私に隠してた。でも……」


 そう、フランは海斗とフィールが遠くで、他の誰にも聞こえないような声で話しているのを聞いていたのだ。今の今まで誰一人にも話した事の無い、彼女自身の宿した力によって。

 

「『地獄耳』……。どんな些細な音でも、聞き逃す事がない。こんな能力を持ってて、なんでフィールの事を化け物だなんて言えたんだろう」


 地獄耳。それが、フランの持つ能力。音が認識できない程度でも、僅かにでも届いていれば明瞭に聞こえてしまうという能力。その力のせいで、海斗とフィールの会話を聞いてしまったのだ。


「……そもそも、こんな力さえ持ってなければ。フィールが魔法を使ってるとこなんて見ることは無かったのに。そうしてその力を知る事も無かったのに」


 フィールが力を知られた理由。それは、遠くの森の方で魔法を撃っていたところをフランに見られたからである。それも、火を撃った後水、水を撃った後風……といったように二属性だけでなく、全ての属性の魔法を。


 きっと、二属性程度ならフランも自分の力を明かして笑い合っていたのだろう。お互い、すごい力を持ってる程度で済んだのだろう。


 だが、全属性ともなると話は違かった。


 この里にいる者にとっては、それは大きすぎる衝撃である。書物というものに人一倍触れてきた少女にとっては尚更。


 それ故に、彼女は気が気では無くなってしまったのだ。人の事を言えないと分かっていながらも、その力を恐れてしまったから。


「あいつ、かぁ。やっぱり、もう親友だなんて思ってくれる日は永遠に来ないんだろうな。私達がした事は、変えようが無い事実だから」


 フランの目から、一筋の涙が零れおちる。


 フィールが生きている事を聞いてしまったが、またも聞いてはいけない事を聞いてしまっと、自分を責める。


 もしも、フィールが昔のようにフランの事を名前で呼んでいたなら。フランは、静かに嬉し涙を流したことだろう。


 だが、聞こえてしまった声は里にいる時にすら聞いたことのないような冷めきった声。昔見せていた温かみというものは、そこからは殆ど感じられなかった。


 それを聞いた時の衝撃はとても大きかった。だが、それは決して周囲には悟らせてはいけない。だからこそ、演技までして周囲を誤魔化そうとした。


 それは、結果としては大成功だったといえよう。なにせ、海斗とフィールの目さえ欺いたのだから。


 なにせ、フランは昔から騙すのと隠すのは得意なのだ。過去一度の、最悪最大の失態を除けば誰にも気付かれた事すらない程に。


「……私には、このくらいしかできない。でも、今度こそは、誰にも悟らせないことを誓うよ。これが、あの時の償いになるとは微塵も思えないけど」


 だから、今度こそは。誰にも気付かれないように、全てを欺き続ける事を誓う。


 それが、助けになるとは到底思えもしないけれども。せめて、出来るだけのことはしたい。そう思ったからだ。


「……だから、さ。出来れば教えてほしいな。貴方が、一体何をするのかを」


 フランは知らない。その部分の会話は、その耳には届いてはいなかったから。


 しかし、予想だけはしている。


 それは、復讐する為だと。


 ただし、フランは止める気も逃げる気も全く無いが。


 復讐するというなら、大人しくその刃を受けて償う。


 それが、彼女の意思だ。


 ただ、彼女は予想もしていなかっただろう。


 その刃は、自分が思っていたものよりも遙かに強大で、そして、激しい怒りに満ちたものだとは。

サラッと気付かれる。

なお、フィールが帰ってきたと知った場合、今まで出てきたカエルム、ランド、フラン以外の龍人なら大パニックになります。それほど恐れられてたので。むしろ、この里に住んでて騒ぎ立てないこの三人が異常なんですがね。

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