表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
92/170

5話 これからも、頼むぞ

 つい、そんな返事をしてしまう。


 先ほどまで相当な覚悟を決めてフィールと話していたカエルムが、突然親バカのような発言をしたのだ。俺を襲った衝撃は割と大きい。


「しょ、生涯のパートナー?なんでそう思ったんだよ」


「ランドから聞いたぞ。お前がハーレムを作っており、フィールはその中でも序列第1位にあると」


「ランドォォオオオ!!!」


 そしてその話を聞いた時点で、ランドを張り倒す事が決定した。ハリセンで1000回位叩くなり、魂操で黒歴史をほじくり返すなりして全力で後悔させてやる。


 だが、そんな事で衝動的に叫んだ俺を見てカエルムはニヤリと笑った。


「半信半疑だったのだが、その様子を見るに本当のようだな。して、フィールとはもう一線を越えたのか?」


「図られた!?あと、まだ一線は越えてねえよ!」


 想像以上に俺は動揺していたようで、誘導されていた事にすら気付かずハーレムを作ってるということを認めてしまう。事実だから否定は出来ないのだが、自分から認めたくは無かった。


 しかし、俺はその後のカエルムの表情と発言により、更に選択を間違えていたことに気付く。


「……ほお、"まだ"か。という事は、一線を越える予定は有るのだな?」


「ファ!?」


 更にニヤニヤしながら指摘するカエルム。先ほどまでの感情を押し殺した声じゃなくて、面白がっているような声だ。……さっきまでの暗さはどうした?


「フィールを死の淵から救い、守れるだけの力もある。その自分を偽らぬような性格も悪くない。更にランドの話によれば、フィール自身もお前を相当好いている。……儂としては、結ばれても全く文句は無いぞ?」


「……あんた、さっきまでの雰囲気は何処にやったんだよ」


「娘の事を考えたらこうなるのが親というものだろう?」


「答えになってねえよ……」


 話せば話すほど、この男の人物像が崩れていく。もう口を開くな、お前。イメージ崩れるから。


「……フィールが歩んできた苦行を儂は分からない。だが、考えられないほど凄惨なものだった事だけは容易に想像がつく。だから、礼を言わせてくれ。フィールを救い出し、笑顔を取り戻させてくれた事に」


 だが一転、カエルムは頭を下げる。流れについていくのが難しいとか内心思ってしまっているが、出来る限り平静を保とうとしながらそれに対応する。


「あの時は、俺が生き残る為に助けただけだ。……助けた動機は、礼を言われるほど立派じゃねえよ」


 俺が今言った通り、初めてフィールを助けた時は損得勘定で俺が得をすると思ったから助けただけなのだ。無論、もしもフィールに何かがあったらブチ切れるであろう位には好意を持っているが、その事実は変えようが無い。


 だが、カエルムは僅かに笑いながら言ってくる。


「ふっ、人との馴れ合い初めなんてそんなものだ。それが死と隣り合わせの状況なら尚更な。……だがな、儂にとって、フィールを助けてくれた事実も変えようの無いものだ」


 俺が助けた理由を変えられなくても、助けた事実も変わらない。重要なのは、今フィールが生きている事なのだと。


「それに、初めはだろう?今ではお互い両想いのようでは無いか」


「それ言われると否定出来ねえんだよなぁ……」


 俺は頭をガリガリと掻き毟る。その関係が悪いとは微塵も思っていない。寧ろ、とても良いことだとは思っている。


 だが、それを指摘させるのはやはり微妙な気分だ。というより、今思うとこの会話凄まじく馬鹿みたいな会話じゃねえか?


「……なあ、カエルム。今してた会話って、すごく不毛なもののような気がしてきたんだが」


「ふむ、確かにお前について知りたいことは大体分かったからの。少し真面目な話に移らせてもらおうか」


 俺がそう聞いてみると、カエルムは俺について知りたいことは分かったということで、真面目な話題を振ってくる。


「確か、過去と決別する為の動機を聞いていなかったのでな。……大体、想像はつくがの」


 カエルムは、フィールに目的を聞いただけでその理由を聞いていない。おそらく、必要以上の詮索は良くないと思ったのだろう。こっちとしてはありがたい限りだがな。


「……フィール曰く、「私は過去に縛られてる」だそうだ。龍人というものに少なからず恐怖を抱いている。それが、おそらく龍化しきれない理由だってな」


「やはり、か」


 俺がその理由を伝えると、カエルムはゆっくりと頷く。予想していたものと一致していたようだ。


 だが、その顔は暗い。まるで、それではダメだと読み取れるような表情だ。


「……だが、おそらく過去と決別したところで龍化には至れぬ。儂の勝手な予想だがな」


「勝手な予想、ねぇ。でも、そう思う根拠ってのは有るんだろ?」


「当たり前だ」


 カエルムは、それでは望みは解決しないと。そして、そう思う根拠というものが存在するという。そう言いながら、俺に一冊の本を投げ渡してくる。


「おっと、これは?」


「この里に伝わる一つの伝承……その原本だ」


 俺はその本をペラペラとめくっていく。内容は、悪に落ちた龍人を、正義感に満ち溢れた龍人が止めるというありふれた内容のもの。


 だが、その悪に落ちた方の龍人が、フィールと同じく全属性を扱える者であったと。確かに、そこには何らかの共通点がありそうに思える。


「……この伝承さえ無ければ、フィールは追い出されなかったかもしれん。複属性が忌み嫌われる理由となったのは、この伝承だからな」


「でも、それをわざわざ引っ張り出してきたって事はそこに何かがあるって事だろう?」


「あくまで儂の予想だがな」


 だが、俺が読んだ限りではそれらしい事は見つからなかった。龍化に関しても、別段描写などはされていなく、戦いは人形態のままで行われているようだった。


 しかし、少し考えるとそこで違和感が生じた。


「……ん?人形態のままだと?」


「気付いたか。この敵役となった龍人が龍化した描写は一度としてない。正義側の者は周りを巻き込まないようにという理由のようだが、敵役の方にはしない理由が無いのに、だ」


 フィール曰く、龍化すれば魔力が時間経過で減る代わりに身体能力が跳ね上がるとのこと。それなら、龍化ができるならば使わないという理由が無いのだ。それを使わないということは……。


「使えなかったって、事か?」


「恐らくは、な。飛んでいる描写はある以上、部分龍化まではしておるとは思うが。……今のフィールと、似ているとは思わんか?」


 部分龍化までは出来るが、龍化までは出来ない。その状態は確かにフィールに似ている。だが、似ていない部分もあり、むしろそれが問題でもある。


 フィールは、恐らく無意識の龍人への恐怖が龍化を妨げている。だが、この本の龍人は恐れなどは抱いていないのにも関わらず龍化が出来ないと見られるのだ。


「勿論、これには何も関係ないかもしれない。だが、念の為これの事は頭に入れておいて貰いたい」


「入れない訳にもいかねえだろ……。俺もこれは何かしら関係があるとしか思えねえからな」


 カエルムの言う通り、この内容は頭に叩き込んだ。ここにきた目的の一つが龍化関連なのでそれに関係しそうな情報を放っておくわけにはいかない。


「……だが、なんでこんなのを調べた?気にしなけりゃ読み飛ばしちまいそうなものだけどな」


 俺はカエルムにそう問いかける。恐らく、これを調べたのはフィールを置いてきた後。フィールの力について調べるなら、明らかに遅いのだ。


 だが、そう聞くとカエルムは溜息を吐きながら言う。


「……ただの自己満足だ。フィールの持つあの力が、恐れるものではなかったと証明したかっただけのな。……もっとも、他に分かった事は不気味さを掻き立てるようなものだけだったがな」


 それは、追い出してからでは意味のない行為。だが、フィールを化け物として認めない為の足掻きだ。


 先程見せていた親バカっぷりを見れば、フィールをどれだけ想っていたのかが良く分かる。それだから、そんな事をしたんだろうな。


 しかし、俺としてはそんな事は重要なことではなかった。カエルムが、最後に言った事に比べればだ。


「……他に分かった事があるだと?更に、それが不気味さを掻き立てるものだって?一体どういうことだ?」


 フィールの力について何かしら分かった事があると。そして、それが良くないものではあると。そう言われたら気にならない訳がない。

 

 それゆえ、俺はつい威圧を乗せてしまうほどカエルムに迫ってしまった。それについては、後々で謝っておいたが。


「あ、ああ。それはな……」


 カエルムは、俺に迫られてから戸惑いながらも語り始めた。そして、その内容は確かに不気味さを掻き立てるものであった。


 一つ。全属性の力を持つ生物は、どの種にも存在し得る。例え、本来なら魔法を全く使わないコボルトなどでもその力を宿すことがあるとのこと。事実、何度かそのような事例が確認されており、大規模な討伐隊が組まれたりしたとのこと。


 二つ。その力は親から子に移る事は無い。基本的に魔導師の才というものは遺伝するらしいのだが、これに関してはその枠組みから外れているという。


 三つ。それを持つ生物は、必ず蒼い瞳を持ち何処かに漆黒の部位を持っていたとのこと。コボルトなら体毛、人なら毛髪のように種族によってその部位は違えど、必ずその特徴はあったという。


 四つ。それを持つ生物は、全属性以外に何かしらの超越した力を所有していたらしい。だが、それは複雑すぎた故に使いこなせるものはいなかったとか。


 そして最後に。その力を持つ者は一度に複数体姿を現した事は無い。全属性を持つ者が生きている間は、それに属する魔物も人も亜人もそれ以外に確認されなかったようだ。


 この五つが、カエルムの調べ上げたという内容らしい。到底一人では調べ上げるのが不可能なような内容にも思えるが、その情報には幾つかではあるが疑問が生じる。


 全属性を持つ者が、同じ時に2人以上存在しない。そしてそれは蒼目に黒髪を持つ。それら二つに当てはまらない者が、俺の記憶には存在するのだ。


 金色の髪を靡かせ、碧色の瞳を輝かせる大賢者アウィス。カエルムの挙げた条件には当てはまらない筈なのに、彼女は全属性を有している。


 それは間違えようがない。三ヶ月の間戦った中で、火水氷風雷土光闇無の計9属性全てを使用して来たのだから。


 その上アウィスがいる以上、一人しか存在しないという前提が成り立たないのだ。フィールとアウィスの二人が、全属性を有す二人が同時に存在しているのだから。


 だが、カエルムの上げた情報も決して無視は出来そうに無い。調べた方法を聞いてみたところ、王国や帝国の国立図書館というところで歴史書を片っ端から読み漁ったり、他の種族に伝わる伝承を調べて回ったりと各所から膨大な情報を集め、その中で共通する物だけを選んだというのだ。そこまでして残った情報が、唯のでまかせだとは俺には思えない。


「……確かに、不気味って言えるかもしれないな」


「そうだろう?……フィールは化け物なんかでは無いと証明するために調べたというのに、これでは本末転倒な気もするがな」


 カエルムはそう自嘲するものの、声は疲れているように感じる。


 娘が化け物ではなかったと証明したいのに、出てくる情報はむしろそれを肯定するような謎に満ち溢れたものばかり。精神がすり減るのも無理は無いのかもしれない。


「……そんなもの証明したって、人の中に染み付いた考えってのはそう簡単に変わらねえけどな。それに、フィールが化け物なんかじゃないっていう事実は俺らが知ってるんだから、然程気にする必要も無えんじゃねえか?」


 俺はカエルムにそう告げる。証明なんかしなくても、分かってる者はいるという事を。


 俺やビアンカや美雪、それにランドとカエルム。今この里にいる者だけでも、これだけは分かってる者がいる。


 俺はそれをカエルムに認識させる。大分精神的に来ていたようなので、これで多少マシになってくれることを祈る。


「……それもそうかもしれんな。儂としたことが、此れ程近くにいる者も見落としていたのか。そろそろ歳かもしれんなぁ……」


 結果的に多少余裕ができたようだが、さっきとは別の理由で疲れたようで溜息を吐く。


 俺がそれを見ている途中、俺はふと時間が大分経っている事に気づく。主に、あの不気味性の話のところで大分時間を食っていたのだろう。


「っと、やべえ!大分時間経ってやがる!カエルム!これ以上長引くと色々詮索されるから行かせてもらう!」


 俺はカエルムに一方的にそう言って、部屋を飛び出してフィール達が行った方に向かう。


「……これからも、フィールを頼むぞ」


 そして俺が走りだす直前に、カエルムのそう呟く声が俺の耳に届いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ