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2話 そうだ、龍人の里に行こう

「……で、この後は何処に行く予定なの?王国?帝国?それとも別の所?」


 俺の体調が幾分かマシになってから、アウィスは聞いてくる。それは次の目的地についてだ。


 王国には、最後の一つの試練がある。早期に力を付ける為にはそこに行くのが一番確実だ。


 帝国には、三英雄の一人、フィオスト・ムスケルが残したという破壊神についての書物が遺されているという。知識を得て対抗策を練るにはだいぶ重要だ。


 俺はその二つの内のどちらを選ぼうか暫し悩む。どちらにも、大きすぎるメリットがあるからだ。


「……カイト」


 だが、俺のその考えを遮るかの如く、フィールが呼びかけて来る。その顔は、さっきまでの雰囲気とはうって変わって重く、覚悟を決めたような表情だ。


「なんだ?」


「……行く場所が決まってないなら、行きたい所がある」


 フィールは、俺の目を見つめながらそう告げる。その目には、僅かにだが恐怖心というものが見え隠れしている。


「……どこなんだ?」


 俺はその場所について聞いてみる。そしてその答えにより、フィールが何故恐怖心というものを感じているかがはっきりとした。


「……龍人族の里。私の生まれ故郷」


 故郷へ行く。それは、普通なら里帰りと言えるもの。恐れることは何もない。


 だが、フィールは違う。身に宿した力を恐れられ、自らの親によって夢幻列島へと置き去りにされた。そんな過去を持った上でその地へ舞い戻ろうとしているのだ。恐怖を感じて当たり前だ。


「……構わないが、なんでそこに行きたいんだ?」


 だから俺は聞いた。すると、フィールはその目を閉じて胸に手を当てて小さな声で言った。


「……私は、過去から逃げてきた。今も昔も、ずっと。でも、何時迄もは逃げてはいられない。そろそろ、どんな形でも決着をつけないと……」


 自分の闇に向き合え。それは、三ヶ月前にアウィスに課せられた試練。そこで、フィールは過去から逃げ続けてきた事を突きつけられたという。


 その過去が、自分を無意識の内に縛る枷となっていると。それこそが、完全な龍化に至れない要因の一つだと考えていると。


 だからこそ、どんな結末になってもそのトラウマに終止符を打ちたいとのこと。


「……まあ、それなら構わないか。三ヶ月もここで修行しておいて、時間が無いなんて事は無いからな」


 そこまで考えているならば、最早俺から断るなんて事は出来ない。それに、今まで俺は元の世界に戻る事ばかりに気を向けていた。それなら、たまにはその目的から外れても大して問題は無いか。


「お前らもそれで良いよな?」


「構わないよ」


「寧ろ、そのまま過去に縛られ続ける方がよっぽど問題ですよ。さっと行ってささっと解決してしまいましょう」


 二人とも、問題は無いと告げる。なんとなくだが、フィールの決意を聞いてから何時もより表情は険しくなってる気もするが。


「……ありがとう」


 フィールはそんな様子の二人にお礼を言う。よく見ると、目には僅かにだが涙が浮かんでいた。


「……行く場所は決まったみたいだね。そうなると、君達ともここで暫くお別れになるのか」


 と、そこで今まで沈黙を保っていたアウィスが口を開く。なんの変哲も無い言葉だが、その言葉によって美雪とビアンカの視線はフィールから外れた。恐らくだが、アウィスなりの気配りだろう。


 フィールはその隙に涙を拭って、何も無かったかのように振る舞う。泣いている所は、俺たちには見せたく無かったのだろう。


「まあ、そうなるな。……三ヶ月の間、ありがとな」


「こっちこそ、良い刺激になったよ。ありがとね」


 俺は、アウィスに頭を下げた。三ヶ月もの間修行を付けて貰ったのだ。それによって、俺たちは大分強くなれた。お礼を言うのは至極真っ当な事だ。

 

「……じゃあ、俺たちはそろそろ行く」


「そう。……君達に、混沌神様の加護があらん事を」


 俺はアウィスに一言言ってから、この空間の出口に向かっていく。三人も、それぞれ一言ずつ残してから俺の後についてくる。

 

 そして、俺らは三ヶ月の修行期間を終え、久しぶりにこの不思議空間の外へと出る事となった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……行っちゃったか」


 海斗達が去り、一人残されたアウィスは天井を見上げながら一人呟く。


 その声は、別に誰かに届くものではない。だが、その当人はそんなことは別段考えはしない。


「四人とも、この三ヶ月で私でも驚く位に成長したなぁ。特に、海斗君とフィールちゃんは物凄い伸びが早かった」


 その言葉の通り、フィールと海斗の成長速度はビアンカと美雪のそれを大きく上回っていた。それは、空の上で命を賭けた戦闘というものを何度も経験しているからだろうか。


「……二人なら、私の用意した最後の試練……あの本にも書いてない、本当に本当の最終試練をクリアしてくれるかもね」


 アウィスはふふっと笑いながら、その時を楽しみにする。今まで魂のみと成り果ててまでここに残り続けた本当の意味に気付くかもしれない者と出会えたのだ。期待しない筈が無い。


「まあ、それまでは相応に時間は掛かるだろうから、大人しく空間魔法で覗き見でもしてようかな。彼等なら、見てて退屈するなんて事は無いだろうしね」


 そう言いながらも、空間魔法を展開して今しがた出て行った海斗達の姿を補足する。海斗とフィールが空に浮かび、それに続いてビアンカと美雪が飛行板を使って飛んでいく。


 来た道を引き返すように、猛スピードで進んでいく四人。途中何回か魔物の姿が見えるものの、本能でその力量差を察したのか直ぐさま逃げていく。


「……この様子だと、里に着くのはそんなに時間は掛からないかな?」


 アウィスの言う通り、里までの距離はそこまで遠くはない。実際、このままのペースで行けば3日程度で着くだろう。


「……ははっ」


 そんな事を考えていたアウィスは不意に妖しく微笑み出す。それと同時に、あの時のように黒髪黒羽で蒼眼の姿へと変貌していく。


「無知ゆえに、無情にも最強の盾となり得る彼女を追い出した彼らにはどんな末路が待っているんだろうね。守護者(ガーディアン)を敵に回した時、どんな惨劇が待ってるんだろうか。フィールちゃんが、最凶の刃にもなり得る諸刃の剣だって、彼らは考えてもいないから……」


 今のアウィスは、過去の己とフィールを重ねていた。


 本来存在し得ない(・・・・・・・・)全属性に対する適正を持って生まれ、その不気味さゆえに恐れられ孤独となった遥か昔の己と。


 その境遇は、差異こそあれど似ているところがある。だからだろうか。アウィスが進みかけた最悪の結末を、フィールに置き換えて幻視してしまうのは。


「……今のフィールちゃんにはあの時の私とは違って解り合える仲間がいるから大丈夫だとは思うけどね。だけど……」


 アウィスは、最後にそう呟いてそのまま口を濁す。


 確かに、フィールには解り合える仲間がいる。だから、道を踏み外すことはしないと思っている。


 だが、何故だろうか。




 アウィスの脳裏には、返り血を浴びてなお止まらず目につく限り龍人(同族)を葬り続ける……過去のアウィスがした事と同じことをするフィールの姿が焼き付いて離れることは無かった。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……なあ」


「……何?」


「……なんか、魔物が視界に入る前から逃げて行くんだけど」


「野生の本能って凄いですよね」


「そこまでかぁ……」


 飛んでいて魔物の気配を何度も感じたものの、直ぐさまその魔物は進路を変えて逃走を図る。一度や二度だけじゃなく、既に10は軽く超えている。


それを意識すると、またもや自分が人から離れたんだなーと思い、多少は落ち込んでしまう。化け物になる覚悟はしてあるのだが、特に緊迫した状態じゃ無いとこういう些細な場所でダメージを受けたりする。


「ほ、ほら。こっちは四人だよ?魔物だって、四体一は嫌だって事じゃ無いの?」


 美雪は必死にフォローしてくれる。だが、今の俺にとってはそのフォローは意味はないのであった。


「……さっき、地上にいた10匹位で固まったコボルトが一目散に逃走したんだが」


「あ、ごめん」


 相手の方が頭数が多くても逃げ出されているのだ。最早、数の問題ではなかった。


「……まあ、レベル5とかその位のコボルトなら仕方ないかも知れないんだけども」


「その程度の魔物なら、そこそこ強い冒険者や魔物からは逃げますしね」


 コボルトは本来レベル5程度の群れを成す魔物で、性格は割と臆病。それなら、俺たちから逃げても当たり前で済まされる。そのコボルトなら。


「……だが、さっき逃げたコボルト……一瞬姿が見えたから鑑定してみたけど、レベル50程度のベルセルクコボルトっていう個体だったんだよな」


 俺たちから逃げたコボルトは、通常の10倍ものレベルを誇るコボルトとは思えない力を持つコボルトだったのだ。それでも逃げられるって……。


 なお、修行期間中にアウィスから「魔物百科事典」と言う物を借りて読んでいた為、名前さえ見れば大抵の魔物の特徴は解る。……ちなみに、著者はアウィス・ラパクスだった。


 それはさておき、そのレベル帯の軍勢にも逃げられる程の存在感を放っているらしい俺たち。だが……


「でも、やっぱり人って奴はそう言うのには疎いんだな」


 俺は、そこそこ近くに1人の人らしき気配を察知した。らしきというのは、純粋な人の気配ではないという事。


「……私と同じ、龍人の気配」


「だよな、やっぱり」


「私は流石にそこまでは分からないかな……」


 そう。その気配は龍人の気配。多少なり龍の気配を感じるからほぼ確定だろう。

 

 まだ里までは遠いのだが、こんな場所にいる龍人。一応、接触しておいた方が良いかもしれない。


「どうする?降りて接触を試みるか?」


 俺は一応フィールに確認を取る。今回はフィールの希望で行動しているので、龍人関連の事は出来る限りフィールに確認を取る予定でいる。


「……そうしたい。こんな所にいるって事は、多分あの里一番の変わり者(・・・・・・・・)だから……」


「もしかしたら、他の龍人と認識が違うかもしれないと?」


「……うん。それに、もし其奴ならあの時里にはいなかったから、多分露骨に敵対されない限りは平静でいられると思う」


 フィールが追い出された時には、里にいなかった者。それに、里一番の変わり者でもある。確証は何一つ無いが、他の龍人よりは話がスムーズに進みそうな気がする。


「じゃあ、降りて接触するぞ。一応、三人とも気配を消しておけ」


「……了解」

 

「分かりました」


「おっけー」


 そして、俺たちは気配を消してその方向に進んでいく。三人の気配は、フィール以外の二人のものなら俺でも感じられる。フィールのは視線を外したら見失いそうな位分からないが。


 その場所に到着するのに五分と掛からなかった。今はちょうどその龍人の頭上の木の上に着陸したのだが、気づく様子は一切ない。


 その龍人は、茶色の髪をボリボリと掻きむしっている。その掻きむしっている手からは鱗と鋭利な爪が生えており、加減を間違えたら普通に痛そうな気がする。

 

 翼は無く、龍化している部位は腕と脚、そして尻尾だ。恐らく、ランドドラゴンという地龍が元となっている龍人だろう。


「……あれ?あの人……」


 その龍人を見た美雪は、顎に手を当てて何かを悩んでいる。

  

「どうかしたか?」


「うーん、やっぱりそうみたいだね。私達、龍人の里に行ったことあるって前に言ったよね?」


「ああ、言ってたな」


「この人、その時に最初に会ったランドっていう人みたいなんだよ」


 まさかの、美雪が面識ありの人物だった。これは、色々と好都合な気がしてきた。


「なるほどな。それなら、お前から声を掛けた方が良さそうだな。まあ、そうと決まればこっから飛び降りるか」


 俺たちは、一斉に木から飛び降りる。別に音を消したりはしていないので、ランドという龍人は普通にそれに気づく。


「……!?」


 ランドは、俺たちのいる方に向かって急速に振り向きながらも、バックステップをして距離を置く。そこそこ、いや、大分腕前は良さそうだ。


 だが、そんな警戒心を露わにしているランドに、美雪が緊迫感の全くない声を掛ける。


「久しぶりです、ランドさん」


「……っあ、ミユキか!?」

と言うわけで第4章、龍人族編です。

実はまだこの章の結末決まって無いんですが……取り敢えず、何時もよりはシリアス成分が多めにあると思います。何せ、フィールの設定がシリアスの塊ですからね。

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