1話 卒業試験
「ほらほら、どんどん行っくよー!
降り注ぎ 欠片も残さず 砕け散れ!『輝星群』!」
「前々から思ってたが、何で屋内なのに隕石が降って来るんだよ!天井はどうした天井は!『魔防結界』!」
アウィスの五七五の川柳に応じて、無数の煌めき燃える小型の隕石が降り注ぐ。俺はそれに対して文句を言いながらも、すぐさま魔法対策用の結界を展開しそれを防ぐ。
ドドドドドドドドドオオオオオン!!!
結界は、それを受け止めているもののその隕石は際限なく降り注ぐ。この結界も、持ってあと30秒位だ。このまま、隕石以外の干渉が無ければだけれども。
「そこはまあ、私の結界の中だし多少はね?あ、そうそう。
岩よ溶け 紅蓮と成りて 焼き焦がせ!『溶鉱龍』!」
案の定アウィスは隕石で結界が割れるのを待つなんて甘い真似はせず、床から紅に輝く溶岩で出来た龍を召喚する。俺の記憶から読み取ったのか、この世界では見聞きした事の無い東洋型の龍だ。
「ゴァアアアアアアア!!!!」
溶岩の龍は咆哮を上げ、空を舞って隕石の中を飛んで俺の方へと向かってくる。隕石には一つも当たらず、その体をしならせながら全てを回避している。
「……ぉおおおおおお!!!」
俺はそれを見てから、結界を解除してすぐさま氷のブレスをその溶岩龍に向けて放射する。液体を殴るには、固めて固体にすればいい。簡単な理論だ。
「ゴァアア!!」
「『魔防結界』!っと、おら!」
そして、上から迫る隕石を結界で防ぎながら、紅から赤黒く変色し固まった溶岩龍を剣で叩きつけ砕く。だが、俺はその直ぐ後に縮地でその龍から遠ざかる。
その直後、
ドゴオォォォォオオオオオン!!!!
という音を立て、溶岩龍が破片と固まっていない溶岩を撒き散らしながら大爆発を引き起こす。危ない危ない。
仕組みはシンプル。水球を作り、熱を通さない結界に入れてから溶岩龍の中に仕込むだけだ。
あとは簡単、その結界で防げない攻撃を当てれば結界が砕けて水が飛び出し、中で溶岩と触れて水蒸気爆発を引き起こすというものだ。
何故壊す前からそんなことを知っていたかというと、これに関してはもう同じような事をやられているからである。あの時は普通に溶岩球だったが溶岩な事には変わりないので「ああ、これ入ってるな」と思った次第だ。
「まあ、流石に分かるよねー!まだまだ行くよ!
切り刻め 黒く染まりし 暴風よ!『黒刻斬』!
地を這いて 生を喰らうし 雷よ!『雷這蛇』!」
アウィスはそれに対して出来て当たり前だという事を口にし、またも川柳を作りながら魔法を発動させる。床や空気を引き裂きながら荒れ狂う暴風と、的確に俺の足元に向かってくる雷の蛇だ。
「『物防結界』!で、さっきからそのなんちゃって川柳はなんだ!?意味ねえだろ!」
俺は物理攻撃を遮断する結界を床から2メートル程の所に展開、そしてそこへ飛び乗る。これで、地を這う事しか出来ない蛇は攻撃が届かない。
その直後に、縮地を使ってアウィスの目の前に瞬間移動する。だが、それすらも反応していたようで普通見せるであろう驚きは見せない。
「気分だよ気分!
凍りつけ 刻も命も 何もかも!『アブソリュートゼロシール』!」
「んなっ!?オラァ!」
アウィスが放ってきた一つの小さな球。だがそれは、触れたものを問答無用で完全に凍結する超危険魔法。一度結界で防いだ事も有ったのだがその時は結界ごと凍り付かされてしまった位だ。
対処法としては、自分から離れた所でその魔法弾に別の物を当てること。だから俺は目の前にドラゴンの肉を放り投げ、そして
「『空間転移』!」
テレポートでアウィスの背後に回り込む。その直後、
ガキィィイン!!
と言う音を立て、肉は一瞬で氷像と化す。凄まじい冷気を肌で感じるが、体に害がある程のものではない。
「『龍気展開』!『斬撃結界』!」
そして俺は今まで実戦投入はしていない、今日の日の為にアウィスにも見られないように影で練習してきた二つの技能を使う。
龍気展開は、龍魔法レベル10で覚えた龍種の奥義とも言える技だ。龍属性という特殊な魔力を全身に纏わせ、ステータスを強化した上で相手に触れただけで傷を負わせる魔法だ。発動中は赤黒い光が自分の体を包む。
斬撃結界は、魔法創造で創り出したオリジナルの魔法。結界を盾のように展開するのではなく、剣のように展開し近づく者を切り裂く攻撃的な魔法だ。威力はそこまででもないが、手数が結構多いのでそこまで気にならない……とは思う。
「なっ!?」
それには、アウィスも動揺を隠せない様子だった。だが、やはりというか、隙という隙は見せてくれない。すぐさま、鋭利な羽を飛ばして攻撃を仕掛けてくる。
しかし、ここまで来て引くわけにはいかない。恐らく、この機会を逃したらここまで接近するのは不可能になるから。
だから、
「痛えなあおい!ふんぬぁ!」
「ええっ!?そうくる!?」
俺はそれを避ける事も、防ぐ事もせずに身体に突き刺しながらアウィスへと迫る。そしてそれと同時に斬撃結界をアウィスの退路を塞ぐようにして回り込ませる。
「喰らいやがれぇ!」
「喰らってたまるかぁ!『聖剣』!」
俺が右手で剣を振り抜こうとすると、光の剣を顕現させ俺本体を討ち取ろうとする。
だが、この自体を想定して龍気を展開していたのだ。それ故に、俺はその光の剣を、左手で掴み取る。
「あっ、龍気!?」
龍気展開は、全身に魔力を纏わせる。それ故に、本来掴んだりすることなど出来ないような魔法だろうが、掴み取ることは一応可能になるのだ。
そして、その直後。
チッ
という音とともに、アウィスの頬を俺の剣の切っ先が掠める。それとともに、その頬に僅かだが紅い血が滲む。
それは、僅かにでもアウィスに傷をつけた証明。そして、それこそが俺が今までやる為に必死になっていた目標。
「……「非覚醒状態の私に、僅かでもいいから傷をつける」。確かに、海斗君はそれを成し遂げた。これで、君達の卒業試験は合格とするよ」
そう、俺が今までやっていた戦闘は、唯の卒業試験だ。合格条件は先程言われた通り、「非覚醒状態のアウィスに僅かでもいいから傷をつける」。それだけだったのだ。
……それだけだったのだが、この試験は1週間前から挑み続けている。つまり、これまでは傷一つ付けることすら出来ずにボコボコにされていたという事。
ある時は、前触れなく堕ちてきた『デスコメット』に潰されて死亡。
ある時は、翼や脚で殴る蹴る等の暴行を受け死亡。
ある時は、顔にピッタリと水球を張り付かされ溺れて死亡。
ある時は、自称ネタ技、『フェザースクリュー』(高速で回転し鋭い羽を周囲にばら撒きながら相手に突っ込む)という技を喰らい上半身と下半身が分かれて死亡。
そんな風に、何回も殺され何回も蘇生されて来たのだ。辛かったなぁ、凄く。
まあ、そんな所為かステは恐ろしい位に変化したが。
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黒野 海斗
種族 人間
レベル127
体力 5210
魔力 5210
筋力 5210 +200
敏捷 5210 +500
物防 5210 +800
魔防 5210 +500
増加量23700
スキル
剣術レベル12 縮地レベル12 身体強化レベル12
飛行レベル12 隠密レベル9 探知レベル8
空間魔法レベル12 高速詠唱レベル12
龍魔法レベル11 全属性耐性レベル5
鑑定レベル12 隠蔽レベル12
《創造》レベル12
《覚醒》レベル2
《魂操》レベル2
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レベルは31上昇、スキルもレベル10を超えない物の方が少ない程にまでなった。おまけに、火と風と氷しか無かった耐性もいつの間にか全属性耐性になっている。
「それにしても、三ヶ月間お疲れ様。辛かったでしょ?」
「アレは辛いだけで済ませられるようなものじゃ無かったけどな」
この三ヶ月間を辛いという言葉だけで表せるようになる頃には、既に感覚がズレまくっていると思う。俺のそんな心情も察したからか、アウィスは苦笑いを浮かべる。
「ふふ、そうかもね。……まあ、本当の苦行は此処からだけど」
「は?」
だが、その苦笑いを浮かべた当人からは不穏な言葉を告げられる。なんか、申し訳無いというか、やっちまったというか、そんな表情をしていた。
「……取り敢えず、既に結界とかは解除したから、もう三人には会えるようになってるんだ。ただ……」
「ただ?なんか凄い嫌な予感がするんだが」
俺が恐る恐るアウィスに聞くと、なんで反応したら良いか分からない台詞が聞こえる。何が起こるんですかねぇ?
「……えっとね?三人ともちょーっと面倒臭い状態になっててね。今、訓練中にすら見せなかったような超猛スピードでこっちに迫って来てるんだよ。多分、全力で逃げないとーー」
バァン!
アウィスがその言葉を言い終える前に。端の方にあった扉が勢いよく開かれる。いや、壊されると言う方が正しいか。
「!?」
そしてその奥から、三ヶ月ぶりに見るフィール、ビアンカ、美雪の三人が姿を現した。現したのだが……気のせいだろうか、目が逝っている気がする。
フィールは赤黒い龍気を、ビアンカは紅の身体強化の光を纏っている。美雪は特に何も展開はしていないが、口が三日月のようにうっすらと開いていて不気味さでは一番である。
「……お、お前ら、一体どうした?なんか雰囲気が違うんだが?」
「カイト……カイト……!」
「何も変わりませんよぉ〜いつも通り私はカイト様の下僕ですよぉ〜」
「うへへへへ〜」
前言撤回。なんかではなく、凄いだった。最早、別人と言われても不思議じゃ無い位に雰囲気が違う。
「……」
「「「……」」」
暫くの沈黙。その間も、三人はジリジリと俺の方ににじり寄ってくる。
だから、俺は
「逃げっ」
「「「させるか!」」」
逃げた。後ろを向いてダッシュ。すると、後ろから一瞬ビクッとなるような大きさの怒声が響く。なんか、フィールがそこまでの大きさの声で叫ぶのって初めて聞いた気がする。
「落ち着けお前ら!」
「私は落ち着いてますよぉ〜!っと〜捕まえたぁ〜!」
俺が叫んで主張しても、三人は聞く耳を持たない。そしてそれどころかビアンカは縮地まで使用してこっちに迫ってくる。怖っ!?
俺は腕をガッシリと掴まれたが、それを逆に利用してそのまま腕を振り回し、上から接近していたフィールに叩きつける。それと同時に、ビアンカは掴んでいた腕を離す。
「「痛いっ!?」」
二人共地面を数回バウンドしてから体を摩っている。俺はその光景を見て一瞬安堵しかけたが、直ぐに周囲の警戒を戻す。
「えへへへ〜」
「美雪、お前もか……。『物防結界』」
美雪が背後から迫ってきたので、俺は呆れながらも結界を展開して美雪を閉じ込める。
「あはははは〜」
「……もう、なんて言ったら良いか分かんね……おぶっ!?」
俺は閉じ込めておきながらも、結界の中で不気味に笑っている美雪を呆れた目で見つめていた。だが、その直後横から凄まじい衝撃に襲われる。
「……ふふっ」
「今度は逃がしませんよぉ〜」
いつの間にか復帰した二人が、縮地を使って俺の体にしがみついて来たのだ。それに不意をつかれた俺は右腕をフィールに、左腕をビアンカに抑えられそのまま床に叩きつけられる。
「……『ルーズ・フライハイト』」
「何を……うぐぅ」
俺は二人を振り払おうとしたのだが、フィールのその一声によって唐突な頭痛に襲われる。それによって、体に力が入らなくなる。
「へへヘぇ〜大人しく身を委ねるが良いですよぉ〜」
「……ふふふふふふ」
二人は、そんな事を言いながら顔を寄せてくる。それに対して俺は抵抗する事さえままならない。
まさか、二人に組み伏せられる時が来ようとは。非常に屈辱的な気持ちは有るのだが、はっきりと嫌だとは言えない複雑な気持ちだ。
まあ、例え嫌だと言おうとも、俺に逃れる術は無いのだが。それゆえに、俺は諦めて二人に体を委ねようとしたのだが……。
「はいはいそこまで。美雪ちゃん!GO!」
「え、えっと、『精神再生』!で良いのかな……?」
突如、アウィスと美雪の声が俺の耳に入ってくる。そしてその次の瞬間には二人に柔らかい光が降り注ぎ、先程までの狂おしく妖艶な雰囲気ではなく、修行を始める前の雰囲気に戻る。
そのまま、しばし見つめ合う俺ら三人。だが、その直ぐ後に二人が急に顔を真っ赤に染めて大きく後ろに飛び退く。
「わわわわわ!?」
「……!?……!?」
ビアンカは会話にならない言葉を言い続け、フィールは俺と自分の腕を交互に見続けている。
「なななななな!?」
「……なんで!?なんで!?」
……美雪のお陰で二人が元に戻ったと思ったのだが、なんか今度は違うベクトルにおかしくなった。恐らく、さっきまで自分がしていた事に対する後悔とか羞恥とかそんな感じだとは思うのだが。
「この二人が此処まで取り乱すなんて珍しいね」
「確かに。特にフィールさんは何時も落ち着いてるから」
二人も、それに関しては物珍しそうに見つめている。特にフィールが赤面している姿は俺でもあまり見たことが無いので相当珍しい物だと思う。
まあ、そんな感じで色々考えながら二人を見ていたら3分後位に、視線に気づいた二人に結構強い勢いで殴られたのだが……それに関しては、普通に痛かったと言っておこう。
『ルーズ・フライハイト』
意味・自由を奪う
効果・対象の魔力を掻き乱す。魔力が多ければ多いほど体調が悪化し、行動に制限が掛かる。あくまで影響するのは魔力なのでいきなり吐血して死んだりとかはしない。
これは効果が分かりづらいと思ったので一応載せておきます。というより、これから新しい魔法が出た時こうして補足説明したほうが良いですかね?




