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幼馴染みside7 死ぬ気になれ

 そして、忍達が王都に戻ってから1ヶ月後。王城の食堂には、海斗と美雪を除く日本組の全員とバルス団長が居る。その中で、進行役の晶が全員を集めた理由を、そして前にフローレに話した事を説明していた。


 なお、今ここにはフローレは居ない。一週間位前に、帝国の皇帝と今後の対策について話し合うために帝都へと向かったのだ。馬車で片道二ヶ月程掛かるような長距離なので早期に出発する必要があったのだ。


 まあ、それはさて置き。晶が話した内容は、初めて聞く人にとっては限りなく衝撃的な物。それ故に、


「なんだよそれ!俺たちは魔王を倒す為に呼ばれたってのに、なんでそんな話になってるんだよ!?」


「そーよ!それに邪神が復活するかも知れないですって!?そんな事聞いてないわよ!」


 こんな風に文句を言う声が飛び交う。なお、今文句を言っているのは召喚された時にも文句を言っていたモブ……基、青山(あおやま)蒼太そうた赤城あかぎ紅葉もみじの2人だ。なお、チートは名前から想像が付くかも知れないが、蒼太が水魔法、赤城が火魔法た。あと、蒼太はついでだが鑑定も所持している。


「落ち着け!」


「落ち着ける訳が無いだろ!」


 忍が落ち着けと怒鳴るものの、蒼太は冷静さを欠いているが故に怒鳴りながら言い返す。


「……貴女達もこんな感じになったの?」


「いや?確かに驚きはしたけどここまではならなかったよ。まあ、彼処で1ヶ月位生きてたんだからもうなんでもありだよねっていう気持ちはあったけど」


「八重樫さん……貴女も大分変わりましたね……」


「私はそこまで自覚ないんだけどなぁ」


 忍が蒼太の対応をしている間、百華、玲子、宇佐美先生の三人はヒソヒソ声で会話をしている。海斗の諸行を知っている玲子、夢幻列島という死地にいたことを初めから知っていた宇佐美先生、そしてその両方を知っている百華。割と話は弾んでいた。


「レベル200の相手をしろだと!?無理に決まってるだろうが!」


「もともと倒す予定だった魔王がレベル300だったらしいからまだマシだろうが!諦めて腹くくれ!」


 だが、忍と蒼太の口論は終わる気配を見せない。このまま外部干渉が無かったら、永遠に話は平行線だっただろう。


『おーおー、大分荒れてんなー』


 しかしその時、忍にとっては良くも悪くも有るような、物凄く聞き覚えのあり、それで持って今この場に居るはずの無い者の声が頭に響く。


 勿論、それを聞いた瞬間に忍は頭の上に!マークが出そうな位ビックリし、そして辺りを見回す。それを見ている他の人達は首を傾げているが。


『そんな見渡しても俺は其処には居ねえっての』


「じゃあこの声は一体何なんだよ!?」


 それは、他ならない海斗の声だ。だがその声は他の人には届いてないようで全員揃って不思議そうな顔をする。

 

『んー、そうだな。まあ念話って奴だ。場所が無茶苦茶遠くて魔力が笑いたくなる勢いで減ってくが……まあそっちの方が良いって師匠に言われたからな』


「……師匠だって?」


『ああ。今は第二の試練をクリアしてそこで修行をつけて貰ってるんだ。俺らが本気を出しても擦り傷一つつけられない位には強いぞ』


 海斗の言う通り、これは《魂操》の効果の一つ、念話である。ただし、忍が《魂操》を持っていないがために声を送ることしか出来ないが。今は修行の一環で使わされている。


 そして、それで会話が通じてる理由はアウィスが空間魔法でその部屋の様子を覗き見て、それを壁に投写しているためである。それを海斗が見ているから普通に会話が通じているのだ。


『あ、あとさっさと俺がメッセージを送ってると伝えてやれ。お前今凄い変な奴だと思われてるぞ』


「あ、そうか」


 忍はそう言われて、現在の状況をその場にいる全員に伝える。すると、真っ先に驚いたのはバルス団長だった。


「はあ!?一応この部屋には盗聴とかを防ぐために色々と細工がされてるんだぞ!?勿論魔法対策の結界だって張られてーー」


『あ、忍。バルスに伝えてくれ。師匠曰く、『そんな結界、羽先一つでチョチョイのチョイよ!』、だそうだ』


 なお、アウィスは大聖堂の方でドヤ顔を決めている。だが、海斗はそれに対しては何もしない。と言うより、ハリセンとかで叩こうにも当てられないからであるが。


「……との事ですが」


「……仮にも国宝級のアーティファクトで張った結界だったんだがな」


『えー、何々?『私を止めたくば、そもそもその場所を認識出来なくなるような結界でも張っておけ』だってさ』


「んなもん国お抱えの魔導師でも出来ねえよ」


 実際、アウィスの解除魔法から逃れるためには、解除出来ないほどの強い力を持つ魔法か、その魔法そのものを認知させない以外の手段は無い。結界ならそれこそオラクル位の力は無いと厳しいほどだ。


 と、そんな事を話している内に無茶苦茶な現実を叩きつけた海斗に蒼太と紅葉が文句をぶつける。


「あんた強いんでしょ!?魔王軍の幹部だかなんだか知らないけどさっさと倒しちゃってよ!」


「俺らはお前と違って弱いんだよ!無理な事を押し付けんじゃねえ!」


 確かに、海斗とその他の人との間には越えられない壁が存在する。故に、この2人がこういう事を言うのも納得できない話ではない。


 だが。


『……召喚された時、俺はお前らより遥かに弱かったんだがな』


 忍の頭の中には、なんとも言えないような感情を乗せた海斗の声が響く。怒り、呆れ、その他諸々が混ざり合ったような声だ。


「「……?」」


 忍は、その声をそのまま伝えていく。しかし、海斗の初期ステを知らない二人は何を言っているのかいまいち分からない。


『ステータスはオール1、スキルは非戦闘系のみ。おまけにレベルが上がってもステは上がらなかった。……これの何処に強いって言える要素が有るんだ?』


「そ、そんな訳無いだろ!?嘘言うんじゃ無えよ!」


 海斗が告げた台詞を、二人は信じない。だが、海斗は話を進めていく。


 『それに関しては、バルス団長なり王女なり忍たちなり先生なりに聞けば分かると思うぞ。まあ、それは置いておいてだ。夢幻列島に送られてからステは1じゃあ無くなったが、それでも一般人程度。それで、あの魔境でこっちがどんだけ苦労したか分かって言ってんのか?』


「そ、それは……」


『分からねえだろうな。分かってるなら、弱いからだなんて事言わねえよな。こっちが死に物狂いで手にした力を、のうのうとしてたお前らが楽する為に使えなんて言う訳無えからなぁ?』


 なお、話を聞けば分かるとは思うが、今の海斗の機嫌はあまりよろしくなかったりする。まあ、理由が1ヶ月近くフィールにもビアンカにも美雪にも会えて無いとか、アウィスに切っ先一つ当てられないとか、レベルが中々上がらないとかそういうストレスが八割近くを占めているが。要するに八つ当たりというものである。


『で?お前らは弱い弱い言っておきながら大した修行すらしてねえんだろ?まともな戦闘経験だって積んでねえんだろ?』

 

「んな訳有るか!こっちだって冒険者になって魔物を倒したりはしてる!」


 海斗の挑発的な言葉に、蒼太が叫ぶ。だが、海斗はその言葉を止めることはなく、ひたすら煽り続ける。


『格下相手に、3、4人掛かりで、その大層なアーティファクトを使ってか?そんな安全第一みたいな修行なんかで強くなんかなれる訳ねえだろ』


「でも、それで死んだり、怪我したりしたらダメじゃない!それで戦えなくなったらーー」


 紅葉も蒼太も、海斗の言葉に叫び返していた。その次に飛んできた、理解が追いつかないような言葉を聞くまでは。


『じゃあこの1ヶ月で7回死んで、16回腕や足を消し飛ばされて、41回骨を折られてる俺はもう戦えるような状態じゃ無いよな?』


「「……は?」」


 蒼太も赤城も、宇佐美先生やバルス団長も、他のクラスメイトも、百華も晶も、聞いた言葉をそっくりそのまま言っていた忍も、全員がその言葉に理解不明の意を示す。


 余りにも残酷で、信じられないような話。だが、忍の頭の中に響いた声は、何時もの冗談交じりなんかの声ではなく滅多に聞かないようなガチトーンであった。故に、忍はそれを真実だと確信した。


「お、おい。7回死んで、16回腕や足を消し飛ばされて、41回骨を折られただって?お前、それならなんで生きてるんだよ」


『何でって……光魔法のレベル8で部位欠損の回復、レベル10で死者蘇生なんて真似も可能になるからな。まあ、そのせいで容赦無く殺されるこっちは堪ったもんじゃねえけど』


 アウィスにとって、人を復活させる事など些細な事なのだ。死体さえあれば、1日位前の死体までなら蘇生出来るくらいには。


 海斗がやらされている修行は、一度のミスでそんな風に普通は治せないような傷を負うものばかりなのだ。痛い目見たくなかったら、死ぬ気で避けろ。さもなくば死ね。そういう光景だ。


「……死者蘇生の方は知らねえが、欠損回復の方は聞いた事は有るな。だが、今の世にそんなのが出来る人は聞いたことがねえが」


 バルス団長でさえも、蘇生に関しては知らない。それほど高度な技術を使い、文字通り死ぬ気で修行をしている海斗。


『まあ、お前らにそこまでやれとは言ってねえけどな。とりあえず、全員考えが甘い。この世界は小説や物語ほど甘くは無えんだよ。弱けりゃ死ぬ。そういう世界だ。確かに死ぬのは怖いだろうよ。だが、死ぬ気で強くなろうと思わねえと強くなんか慣れねえんだよ』


 その言葉は、死ぬ苦痛を知っている海斗だからか。この場にいる全員を押しつぶすような重みというものが感じられた。


「「……」」


 さっきまで喚いていた二人も、そこまで狂気じみた修行というものを聞かされてしまうと何も言えなくなる。そこまで血の滲むような努力なんてしようとすらしてこなかった。そんな自分が、考えもしないような努力をしている者に何を言う権利があるだろうか。


『……はあ、こんな話はするつもり無かったんだがな。じゃ、そろそろ念話切るわ』


 だが、そんな考えをさせた元凶である海斗は、そんな事を言い残してそれっきり念話を送らなくなった。


 暫くの間沈黙が続く。それぞれの頭の中に、それぞれ思うことがあるのだ。


 恐怖、不安、焦り、喜び、期待、安堵。誰がどんな思いを抱えているかははっきりと分かるものではない。


 しかし、この場にいた者の頭の中では、海斗の放ったあの警告が永遠と木霊していた。


 


 


「……お前の希望通り、取り敢えずあの場から抜けて来てやったぞ」


 あの後、忍は1人あの部屋から出てきて庭の方に出てきて呟く。すると、頭の中には感心するような声が聞こえてくる。


『……よく気付いたな。特に示唆するような台詞を言ったつもりは無えんだがな』


 海斗は、念話を切ってはいなかった。ただ、あの場では言いづらい事があったからこうして忍が1人になるのを待っていたのだ。


「何年一緒に過ごしてると思ってんだ?お前が他に言いたいことがあるみたいな感じがしたんだよ」


『顔も見ないで分かるもんなのか……?』


 実際、海斗も幼馴染みやフィール、ビアンカ相手ならば無意識に似たような事は出来るのだが……本人は無意識故に気付いてはいない。


「割と出来るもんだがな。で、あの場じゃ言えないような話ってのは何なんだ?」


「ああ、それはな……」


 海斗は、アウィスから得た情報……その全てを、忍に余すことなく伝えた。特に、破壊神と三天使の話を重点的にだ。

 

 そして、それを静かに聞いていた忍は、話が終わった後に深い溜息を吐く。


「はぁ……確かに、こんな事伝えられねえな。お前でも倒せない相手と敵対する事がほぼ確定してるか……そんな絶望的な状態だって知ったら彼奴らが暴れねえわけがねぇ」


『……お前は大分冷静なんだな』


 海斗は、忍でも相当衝撃を受けると予想していたのだが、思いの外冷静だったので割と驚いている。なお、その隣でアウィスも地味に驚いている。


「お前も言ってただろ?死ぬ気で強くなろうと思わねえと、強くなんかなれねえって。なら、死ぬ気で努力して少しでも抗ってやるって思っただけだ。多分、この話を百華と晶に言っても同じ反応が返ってくるだろうよ」


『……そうか。まあ、お前がこの情報を誰に伝えるかはお前に任せる。お前なら、その辺の判断はしてくれるって期待してるからな?』


「変にハードル上げるなよ……」


 そして、何時ものように真面目な中でふざける海斗。忍は呆れながらも、これのお陰で重い雰囲気が変わったりすることもあったなと懐かしく思う。


「……やっぱ、変わった所もあるけど根本は変わって無えんだな」


『あ?何か言ったか?』


 忍の呟いた声は小さすぎて海斗には届かなかった。だが、忍はその二度目は言わずに話を切り替える。


「伝えたい事ってのはそれだけか?」


『ん?ああ、それだけだ。じゃあ、長くなったし俺も魔力不足で頭がクラクラしてきたから、今度こそ念話を切るぞ』


「ああ。……頑張れよ」


 海斗が念話を切る直前に、忍はそう呟く。そして、それに応じてくくっと笑う声も微かに聞こえた。


 その声も聞こえなくなり、静寂に包まれた忍は目を閉じて思いを馳せ、そして誰にも聞こえないような声で呟く。


「……例え、神と敵対する事になっても。何回も死ぬような苦痛を味わっても。そして、異世界に放り出されても。お前はお前だよ。海斗」


 この言葉は、先日のバルス団長の声とは違い、大賢者の耳にすら入ることなくそのまま虚空へと消えていった。

海斗くんおこだよー!


まあ、『10倍濃縮メテオキャノン』とか、『ホーミングアネモストロヴィロス』とか、『投げソル・エスパーダ』とかそういう類のを毎日毎日やられてたらそりゃストレスも溜まるよね!

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