38話 滅びとは何なのか?
「ごめん。ちょっとやり過ぎた」
俺たち三人を美雪が回復させてくれた後、アウィスが開口一番言って来た言葉だ。
さっきの覇気は何処へやら、姿は元の金髪碧眼に戻っており、今は腰を60度位曲げて謝罪をしている。
「まあ、別に構わねえよ。自分の無力さも自覚させられたしな」
「……あれは、驚いた」
「正直もう二度と戦いたくないです」
俺たち三人はそこまで怒ったりはしていない。だが、俺は感謝、フィールは驚愕、ビアンカは恐怖という三人とも別の感情を抱いているが。
「……うん。で、取り敢えず先に報酬を与えちゃうよ。ちょっと皆動かないでね」
アウィスはその心を読んだのか顔を上げると、報酬を渡すと言って翼を持ち上げて魔力を放出し始める。
すると、アウィスの周りに何やら文字のような物が浮かび上がってくる。但し、意味が理解できる言葉ではなくプログラミング言語と言うのが正しいのだろうか。
その文字は、アウィスの正面に移動してきて一つに纏まっていく。無数の言葉が出てきて、正面に移動し、一つになっていく。それが三分程続く。
そして、文字の出現が止まり。全ての文字が一つに纏まった。そのあと、
「……『複製』」
アウィスがそう呟くと、その光の玉が四つに分裂する。大きさなどは変わらず、全く同じものが三つ増えただけのようだ。
「はい、受け取って。これが、私が与えられる力だよ」
アウィスがそう言うと、その光の玉は俺たち一人一人にゆっくりと向かってくる。
光の玉は、ゆっくりゆっくり俺へと向かって来て、俺の心臓の辺りに迫ったと思うと、そのまま中に吸い込まれていく。痛みなどは特に感じはしなかった。
だが、
「っ……」
痛いわけでは無いのだが、咄嗟に頭と心臓の辺りを押さえてしまう。今この瞬間、俺が今まで知る由もなかった力とその知識が頭と、魂に刻み込まれたのをはっきりと感じたからだ。
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黒野 海斗
種族 人間
レベル96
体力 4900
魔力 4900
筋力 4900 +200
敏捷 4900 +500
物防 4900 +800
魔防 4900 +500
増加量23700
スキル
剣術レベル8 縮地レベル6 身体強化レベル6
飛行レベル7 隠密レベル4 空間魔法レベル7
高速詠唱レベル2
龍魔法レベル4 火耐性レベル3
風耐性レベル3 氷耐性レベル3
鑑定レベル12 隠蔽レベル12
《創造》レベル12
《覚醒》レベル2
《魂操》レベル2
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《魂操》
分類 特殊スキル
説明
魂に直接作用する事が出来るようになるスキル。波長による個人の特定、念話、記憶の閲覧及び改ざん、魂の入れ替え、対象指定など出来ることがかなり多い。扱い方は要確認。
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「……こりゃ又とんでもないもんを渡してきたな」
「まあ、私手作りのスキルだから当然だよね。あ、今まで私が心を読んだり、記憶を見たり、魔法を追尾させたりしたのもこのスキルの恩恵だから」
「……追尾はどうやったの?」
「魔法に、一定の魂の波長の相手を追い続けるような仕組みをつけただけだよ。多分、一週間も練習すればフィールちゃんも出来るよ」
覚醒とは違って他のスキルに大幅な影響を与える訳ではないが、それでも充分すぎるほど凶悪極まりないスキル。魂の入れ替えとか記憶の改ざんとか下手な傷つけ方するよりもエグい。
「って、ちょっと待て。お前の手作りって言ったよな?スキルって作れるもんなのか?」
スキルは作れる。こいつは今言外にそう言った。もしもそうなら、俺が作れても不思議じゃ無かったのだが、
「作れるのは私だけだよ。私の固有能力は「魔力を使い物体及び概念を生み出す能力」だからね。黒野君の作る能力とは根本から違うんだよ」
「……要するに、材料無しで物とか、スキルさえも作れると」
「そーだよ」
俺は床に手をついた。俺の能力には、ある程度の自信はあった。だが、その完全上位互換の能力があった。落ち込まずに居られるだろうか、いや、落ち込むだろう。
「……まあ、デメリットが大きすぎてなかなか使えないんだよね」
「へ?」
だが、アウィスはデメリットが大きいという。俺の能力の方にはファストクリエイトの劣化以外にはこれといってデメリットは無かったので、少し気になってしまう。
「例えば、一杯の紅茶を作るとする。それを初めて作ったとき……どのくらいの時間が掛かったと思う?」
「……三分位じゃ無えのか?」
アウィスが聞いてきた質問に、俺は指を三本立てて答える。無から物体を作るにしても、紅茶程度ならそんな時間は掛からないと予想したためだ。
「んー、惜しい!答えはね……三週間だよ!」
「……は?」
惜しいと言ってたからてっきり2、3分位の誤差だと思ったら、まさかの週単位で違っていた。というか、そんなに時間が掛かるのか?
「えーとね、私の能力で物を作る場合……黒野君が分かりやすいように言うと、「セーブ無しで、ノンストップで、実行するまでどうなるか分からないプログラムを作る」みたいな感じだからね。一度作った物ならそんな時間は掛からないけど、初めての時は試行錯誤を繰り返してようやくっていう感じなんだ」
プログラミング。日本にいる時に多少調べて見たことはあるが、実際訳がわからなかったもの。それを保存無しで休む間も無く作り続ける。
「……調子のってすみませんでした」
「ちょっ、謝らないでよ。なんかこっちが変な気持ちになるから」
俺が頭を下げると、アウィスは露骨に困った表情をする。完全上位互換とか思ってた過去の俺を問い質したい。
「すまん、つい、な」
「まあ、そんな気にはしないけどさ。で?試練終わったから大体の質問には答えるけど。何が知りたい?魂の記憶についてはもう理解してると思うから、今のままで帰れるかとか、私が何のためにこんな試練をやってるかとか。色々と知りたいことはあると思うけど」
アウィスは俺の謝罪を受け流して、シリアス顏になって聞いてくる。確かに、その辺の話は大分気になってはいる。
「そう、だな。じゃあ、まず。俺が最後の試練をクリアしたら、俺は元の世界、日本には戻れるのか?」
「戻れるよ。空間魔法を極限まで上げて、空間を割いて繋げるような魔法を作れば必ず。……もしもオラクルちゃんが健在なら、今ここで返す事も出来たんだろうけど」
アウィスは確信を持って言う。だが、さらっと言った後半の内容が非常に気になる。
「オラクルちゃん?そいつさえいれば帰れたのか?」
「うん。あ、オラクルちゃんって言うのは……ビアンカちゃんなら知ってるよね?」
俺が聞くと、アウィスはビアンカの方を向いて聞く。そして、俺はその流れで大体の事を察した。
「はい。……貴方と同じ三英雄の一人、予言者オラクル・ヴァールザーガーであっていますか?」
「うん、あってるよ。未来を見通す予言魔術の使い手にして、この世で最も空間魔法に精通していた大魔導士。空間魔法じゃあ、私でさえ勝てる見込みが無いほどのね」
三英雄の一人、予言者オラクル・ヴァールザーガー。三英雄の中でも空間魔法を専門とする者なら、確かにこの場でも返して貰えたかもしれない。
「だけど、オラクルちゃんは私と同じように魂としてこの世界に残る事は選ばなかった。一応、王都の方に彼女の残した本は残ってるから行くときには見ていくと良いよ」
「……残ってる確証はあるのか?」
王都にオラクルが残した本がある。だが、数千年前に書かれた本が残ってる保証など何処にもある筈が無い。それなのに、アウィスは残ってるという。
「あるよ。彼女の残した事は、今もこの世に残ってる。……君がここに居ることが、一番の証明だよ」
「……は?」
名前さえ知らない本の存在を、俺が証明している?此奴は、何を言っているんだ?
俺は頭の中で考えてみるも、答えが一向に思いつかない。俺が王都でその本に触れた事があるのか?いや、俺があの城でろくに書物に触れてない以上、それはない。
「……オラクルちゃんも、私と同じように後世に残した物はあるんだ。そして、それがあったからこそ今君はここに居る。……この世界、ケイオスピアとは違う世界から勇者に成り得る存在を召喚する召喚魔術。それを、マンサーナ王国に残したんだよ」
「なっ」
俺がこの世界に来てしまった理由。それは、三英雄が召喚魔術というものを作り出したから。だが、何故そんな物を作り出したのか?
「……それは、如何して作り出された?」
「……ここで詳しく話すと大幅に話が逸れるから一言で言うと、「再度迫る滅びの脅威を退ける為」かな。滅びって言うのは、私がここの試練を残した理由の所で説明するから割愛させてもらうけど」
再度迫る滅びの脅威。それが、何を表すかは俺には分からない。だが、
ーー魔導機文明が終わった少し後に、世界を滅びから救った三人の英雄の一人として。
魔王城の禁書庫で、ビアンカが言っていた言葉。
少なくとも、その滅びと今回言っている滅びが同じ事だというのだけは理解できた。
「……だが、今はその滅びはこの世界には無いんじゃなかったのか?お前らがそれから世界を救ったって言ってたんだからな」
俺はそう思っていた。だが、アウィスは目を閉じて首を振った。
「……あの召喚魔術は、発動には条件があるんだよ。一つは他世界からの介入が無い場合、5年以内に滅びが復活する事」
「って、事は……」
「うん。私達は、滅びを封印したに過ぎない。だから、まだその脅威は消え去ってはいない」
滅びは自然災害ではなく、封印出来る何かであり、三英雄はそれを封印する事までしか出来なかった。それが復活するまで時間が無い。だからこそ、俺たちの召喚は成功したのだという。
恐らく、その仮定未来に関しては予言者の名の通り未来を見通す術式が組み込まれているのだろう。しかし、そういうのが分かるなら何故異世界の人を呼び出したりするのだろうか。
「それはわかったが……蘇るのが分かるなら、阻止は出来るんじゃ無いのか?」
俺はアウィスに聞いてみた。だが、アウィスはそれにも首を振る。
「……オラクルちゃんの見れる仮定未来は、一つだけじゃない。流石に異世界の因子が関わったりしたら明瞭には見通せないみたいだけど、この世界だけの事ならそういう道を辿った後の事も見通せるんだ。だから、あの術式がそう判断した時点で、私達だけじゃ詰んでるんだよ」
幾ら予言が出来るとはいえ、イレギュラーが介入した未来までは見通せない。もともと不確定なものをさらに不確定なものにするのだから当然かもしれない。だがそこに希望を見出しているわけだが。
「……あと、もう一つの条件。この条件の方が、さっきの条件より重要なんだ」
「……それはどんな条件なんだ?」
「……滅びが復活した時、その魔手が伸びると思われる世界が他にある事。そして、召喚する勇者は、その世界の住人から選ばれる」
滅びは世界を超える。そして、この世界が滅ぶとしたら次は俺らの世界に、地球にやってくるかもしれない。アウィスはそう言っているのだ。
なお、それを聞いているフィール達三人は何も言わない。この話がいまだかつてないほど重要な内容だからか、空気を読んで黙っていてくれているのだ。
「……なあ、滅びってのは、一体何なんだ?」
俺はアウィスにそう聞いてみた。だが、
「言ったでしょ。それは後で話すって。……で、とりあえず話を戻して空間魔法で戻れるかって話だったよね」
アウィスに話を逸らされてしまった。本当は今すぐにでも聞いた方が良いのだろうが、どちらにしてもこっちの話も重要なのでそのまま話を続行する。
「あ、ああ。続けてくれ」
「うん。……まあ、今の話の通り、異世界からこの世界に人を召喚する術式自体はあるんだ。だから、その行きたい世界の座標さえ特定出来れば行き来する事は可能になる。そして、その座標を知っているのは……その世界から来た君達だけなんだよ」
アウィスが俺と美雪を翼で指しながら言った。美雪はそんなの分からないみたいな顔をしているが、俺には何となくだがその感覚が分かる。
空間魔法を覚えてから、特に意識していなくてもそう言うのが何故か分かるのだ。細かい理屈は分からんが。
「……だから、俺自身が試練をクリアして限界を上げなきゃいけねえって事か」
「そういうこと。オラクルちゃんなら多分召喚した時の魔法陣から座標を逆算してどうにかできると思うけど、私には流石に無理。……まあ、帰る方法に関しては今のままの方針で大丈夫だから安心してよ」
アウィスは微笑みながら言う。取り敢えず、これで帰る手段についてははっきりとした。だから……
「……じゃあ、アウィス。帰る手段についての話は終わったんだ。だから、教えてくれ。お前は何で魂だけになってまでこの世界に居続けているんだ?この試練は何の為に作ったんだ?そして、滅びってのは、一体何なんだ?」
俺はアウィスに質問を重ねる。少なくとも、今のままでは滅びについて知らない限り迂闊な行動は取れない。日本に帰れても、そこで滅んでしまったら意味は無いのだ。だから、少しでも情報を集める必要がある。
「……分かった。じゃあ、全てを話すよ。全ての発端は、私達が生きてた時代……魔導機械文明の時に起こったんだ」
そして、アウィスは暗い顔をしながらこの世界で起こった事を、そして本当の敵が何なのかを語り始めた。
滅びの存在については別の表現で何回か出てきています。まあ、と言っても正確な情報は開示されていませんが。




