37話 試練には合格しても
「っ!海斗くん!?」
「っ……!」
「カイト様!?」
三人が声を上げる。しかし、アウィスはそれを気にも留めずに三人に笑いかけている。
「ふふ、此処からが本番だよ。さあ、続きを始めようか!」
アウィスはそう宣言すると、フィール達の方に滑空しながら接近していく。そして今まで通り蹴りメインで応戦していく。
「カイト様!『生体再せ……」
「待て……!羽が、抜けてねえ……!抜いてからじゃ無えと、治せねえ……!」
その内にビアンカが再生魔法を行使しようとするが、俺はそれを止める。
俺の体には無数の凶器が刺さったままだ。それでは再生は出来ない。
だから、俺は羽を一つずつ抜いていく。だが、一つ抜くだけで激痛と少なくない血が溢れる。
「まだまだ時間が掛かりそうだねえ!早くしないと手遅れになるよ!」
「えっと、身体強化!はぁ!」
「……アクアカノン」
アウィスは俺を挑発しながらも、2人の猛攻を凌いでいる。だが、そこで俺はある事に気付いた。
此奴は、勝とうとはしていない。俺が復帰するのを敢えて待っている。
2人が傷付いた仲間の為に連携を取って時間を稼げるか。それを試そうとしている。
だが、きっと長くは待ってくれない。
根拠のない勘だが、俺はそう考えて痛みを極力無視して羽を抜き続ける。
一心不乱に、無心で、ただひたすら。
恐らく刺さっていた本数は100を超えていただろう。
俺はそれをようやく抜き終わる。その間、フィールの事もビアンカの事も美雪の事もアウィスの事も見てはいない。
きっと、彼奴らなら食い止めてくれる。足止めをしてくれる。そう信じているからだ。
「カイト様!『生体再生』!」
そして、俺が最後の一本を抜いた瞬間にビアンカの魔法が俺の傷を癒していく。耐え難き激痛が徐々に引いていく。
その間、俺はアウィスを食い止めている2人の姿を確認する。
フィールが放ったスパークマインを、美雪が剣で弾き電撃を縦横無尽に走らせる。アウィスがそれを風魔法で弾くが、それさえも弾き返して乱戦から抜けれなくする。
その間、フィールはフィールでスパークマインを放ちながらも魔導拳銃で研ぎ澄まされた狙いの弾丸を絶え間なく撃ち続けていた。アウィス自身を狙うのも然り、鉄球を弾くのも然り、アウィスが避けると思う方向に弾を置いておくなんて事さえしていた。
美雪は戦闘経験が薄い。だから、動きには無駄が割とある。だが、それをフィールが補助している。その上で、美雪に出来ることを任せながら。
今の俺には、あの中には入れない。なら、どうすればいいか。そんなのは決まっている。
魔法使いは魔法使いらしく、外野から攻撃すればいい。彼奴らなら、それさえも活かして攻撃してくれる。だから……
「……黒き光は我らをも包む『天堕』」
俺は即席でそれを援護するように魔法を創り、撃つ。
天に魔法陣が無数に展開され、そこから直径1メートル位の漆黒の極太レーザーがアウィスやそこに居るフィールと美雪、そして離れた所にいる俺とビアンカにさえ降り注ぐ。
それの全てを闇魔法で魔力を遮断しており、見ないで回避なんて真似は不可能である。俺も、フィールもビアンカも、アウィスも。
「んー……へえ、大したアイデアだね」
「ちっ……これでも分かるのか」
だが、アウィスは少し悩んでからにやける。それが俺にとっては悪魔の微笑みに見える。
「……美雪、こっち」
「えっ、ちょっ!?」
「まあ、そういう事ですね」
俺の仲間も美雪以外は俺の真意を察していたようで、三人ともレーザーが当たる場所に待機する。勿論、俺も移動する。
そして、
ドゴオオオオオン!
という音を立てて、レーザーが床へと到達する。だが、レーザーにはダメージ判定はなく、実際に壊れていくのはレーザーの外側だ。
実際、俺は体が入れ替わる前から想像力が重要な事ばかりしていたので、想像力で魔法を作るのも全く苦ではなかった。
詠唱で「我らをも包む」と言ったのは、「範囲に入れ」という事を示唆していたのだ。少なくとも、フィールとビアンカは察してくれるだろうし、美雪は察していなくてもフィールが補助してくれると踏んでいたからだ。
だが、フィールとビアンカが察する前に、アウィスが察したのは予想の範囲外だった。まあ、直前で気付いて避けると思っていたので、後々の行動はもう決まっているが。
「『天鎚』!」
「『事象記録』!『事象再生』!」
俺はアウィスの避けた先の頭上から風の鎚を振り下ろす。例え空気とはいえ、圧縮して、一点に絞って狙えばシャレにはならない威力にはなる。そして、それが二発だ。
「……これも」
さらに、フィールはフィールで拳銃でその方向に弾丸を乱射していく。例え強力無比な破壊の嵐の中でも、アダマンタイト製の弾丸は瞬時に消える事はなくアウィスの方まで迫っていく。
ドオオオオン!
圧縮された大気がアウィスのいるところを押しつぶす。それは防げたとしても、避けようの無いものだ。
だが、天堕の効果が切れた後。
「……ふいー、やっぱり物理と魔法を同時に防ぐ結界は私には辛いか。あっちはオラクルちゃんの領分だからなー」
その三人からの猛攻を物ともせずにアウィスは姿を現す。その周りには薄い光の膜が張られており、それにはヒビが入っている。
「アレだけやってもやっぱりダメか」
「おふこーす!そもそも、この程度で傷つけられたら心外だよ」
「アレをこの程度という辺りが異常だよな」
「まあ、体も入れ替わってるからね。……まあ、試練は終わってないけどそろそろ体は戻すよ。『コンフュージョン』」
アウィスは余裕綽々でそう言いながらも、さっきと同じ魔法を発動させる。するとさっきと同じような感覚がして、さっきと同じように体が入れ替わって元の体に収まった。
「……で、これでまた戦闘して終わりか?」
「そーだよ。と言っても、今の調子でやってれば合格だけどね。というか、普通だったらこの時点で終わりだし」
「じゃあなぜ続ける」
「気分」
「……そーか」
「要するに、今までと同じでいいって事ですか?」
「まーね。まあ……」
久しぶりに、魂が躍動してるんだ。だから、中途半端な戦いは許さないよ。
俺の頭の中にそんな限りなく恐ろしい声音が響く。はっきりと、明瞭で、それでいて限りなく背筋を凍らせるような。
そして、アウィスを見ると……そこには悪魔……いや、魔王と言っても差し支えないような、邪悪な笑みを浮かべるアウィスが立っていた。
「んー、じゃあ、行くよ?『闇岩槍斧』」
アウィスはそう言うと、黒く輝くハルバードを顕現させる。神々しい見た目とは裏腹に、得物は邪悪な見た目でしか無い。
「そぉい!」
「おらぁああああ!?」
アウィスは急接近してきて、そのまま俺へと振り下ろす。俺は咄嗟に剣で防御したが、圧倒的質量によって腕に凄まじい衝撃が走る。
「っ!せいっ!」
だが、俺がハルバードを受け止めている隙にビアンカがライフダガーを持ってアウィスに斬りかかる。
「んー、甘い!って言いたいけど、本命はそっちかな?」
アウィスは腕を翼で弾きながらも、目はビアンカの左手……魔道拳銃を持っている手を見据えている。
ガガガガァン!
ビアンカは素早く引き金を引き、アウィスの逃げ場を無くしながらも心臓を穿とうとする。この速度で左右に1発ずつ、上に1発、本体狙いで1発という狙いで撃っているのだから流石としか言えない。
「ふっ、これくらい!」
だが、アウィスが翼を振るい、飛び出した羽が弾丸を相殺する。しかし、アウィスがその対応をしてるなら……
「……らぁ!」
俺は手首で剣を捻って打ち合いを止めて、すぐさまアウィス本体に刃を向ける。
ガシッ
だが、それすらもアウィスに防がれる。両脚で持っていたハルバードから片脚を離し、その空いた方の脚で剣を白刃取りするなんてふざけた真似を目の前でやってのけられた。
「ふいー、間一髪!」
「まだ終わらねえよ!『ブースト』!『身体強化』!」
俺はブーストと身体強化を発動させ、剣により一層力を込める。これで、現在の筋力は9000前後。でもって、近接型では無い大賢者相手なら……。
「おおお!?っ、とぉ!切られる所だった!」
流石の大賢者も押し負けたようで、脚を離すとすぐさま距離を取る。だが、その距離を取る動作には俺の全力をもってしても体が追いつかない。
しかし。
「……剣となれ『ソル・エスパーダ』」
その直ぐ背後からフィールが飛び出し、焔の剣を振るう。今の今まで透明マントを使って隠れていたのだ。フィールが援護してこなかった時点で奇襲を狙っているのは予想していたので、時間を稼いでいたのだ。
「なっ、『晶鎌』!」
それでも、アウィスは咄嗟に氷晶の鎌を作り出しそれを相殺してしまう。氷は熱気でそのまま蒸発し、焔は冷気で消えて無くなった。
だが、その行動で僅かには隙は生まれる。それを見て俺がアウィスを直接狙いに行き、ビアンカが両手でガトリングガンを構えて横方向の退路を断つ。
ドゥルルルルルルルルルルル!!!
という音を立て、俺たちの横を死の弾丸が風のように通り過ぎていく。俺でも触れたらタダでは済みそうにない壁だ。
前は俺、後ろはフィール、横はビアンカ。そうして、アウィスの逃げ道を塞ぐ。さらに飛行で若干体を浮かせ、飛ばれても先に対処出来るように構えておく。
「んー……前、横、後ろ。何処も逃げ場無しか。おまけに後ろの方で白井ちゃんも『天鎚』を撃つ用意をしてるみたいだから逃げても普通は当たる……特に合図すらして無いのに、ここまでやるか。良いよ、試練は合格。報酬は渡す事を約束するよ」
予想外なことに、アウィスは肩を竦めながら言う。てっきり、ここでも無理やり突破してくるかと思ってたんだが。
「言ったでしょ?戦闘力を試す試練じゃ無いって。まあ、でも……」
アウィスは俺の心を読んだのか、微笑みながら言った。だが、終わったと思って油断していた俺は次の言葉で甘かった事を自覚させられた。
「こうも言ったでしょ?久しぶりに魂が躍動してるって。試練関係なく、情け容赦無く、全力で暴れさせてもらうよ。『制限解除』」
アウィスがそう言った直後、アウィスの容姿が変わっていく。
金色だった翼や髪は漆黒へと染まっていき、元の状態を天使だとするなら今の状態は堕天使と言うべきだろうか。
エメラルドのように輝いていた瞳は色を変えサファイアのような輝きへと変わる。何処までも冷たく、奥が見通せないような恐怖を感じる。
「この姿になるのも数千年ぶりかぁ……。まともに体は動くか、な!」
アウィスがそう言った直後。
俺の視界は急激に変わった。
天井を写したと思ったら、壁を写し、最後に床を写す。そして、
ドゴォン!!
「がっ……な……にが……?」
俺は何が起きたかもわからずに床へと叩きつけられた。そして一拍置いてから顎と腹部と背中にいまだかつてない激痛が走る。
そして、俺は何が起きたのかを察した。さっきの一瞬の間に、その三箇所を蹴られたのだ。多分、顎を蹴り上げられて天井を向かせられながら飛ばされ、腹部に一撃をもらいその視界が下がって壁を写し、その直後に背中に脚を振り下ろされたのだろう。
考えれば想像はつくが、俺はその過程を実際には見る事さえ叶わなかった。
速すぎる。
しかも、体が動かない。たった3発だけな筈なのに、体が言う事を効かないのだ。
「なっ……!?」
「ほらほら、驚く暇なんて無いよ!」
ビアンカが驚き、一瞬だけ戸惑ってしまった。それゆえに、ビアンカの辿る結末は決まってしまった。
「『猛風』さあ、耐えてみてよ!」
アウィスが作り出したのは、拳大程度の空気の塊。威力としても、普通に殴られた程度の衝撃しか無いだろう。
だがそれが数百、数千の物量を兼ね備えていたら。そして、それが一つの例外すら無く一瞬の間すら開けず連続で激突してきたら。
「ぅ……あ、がっ……!」
初めは耐えていたが、物量に押され切ってそのまま押し負け、吹き飛ばされてしまう。まさに数の暴力としか言えない光景だ。
「っ!『六星嵐』!」
それを見てフィールが繰り出したのは、ストームシリーズの魔法を6個複合した魔法。弾数も威力も先程のアウィスのには及ばないが、少しでも数を揃えないと一つ足りとも届かないと判断したのだろうか。
だが。
「私に魔法を使った時点で、彼奴らでもない限り負けは必至だよ。と言うわけで、これは返すよ」
アウィスがそう言って、脚で床をトンっと鳴らす。その直後。
「!?そんな……!?」
なんと、アウィス目掛けて迫っていた弾幕が、全てフィールへと返っていく。しかも、それ全てがフィールのいる場所に収束して。
「ぁ……!」
無数の弾幕に吹き飛ばされ、床を転がり回る。戦闘経験が一番多いフィールでさえも受け身の一つも取れないほどの威力だったようだ。
フィールもビアンカも俺も手も足も出ずに手を床についてしまった。そして、俺は本格的に悟った。
やっぱ、まだまだ強くならねえと。
と。今の俺たちでは天地がひっくり返ろうとも倒せない相手。こんなのが、この世界にはまだまだ居る。
俺はそれを改めて、身をもって実感させられていた。
「え、あ、『事象再生』!」
俺がそんな事を考えている中で、最後に残った美雪は咄嗟に事象再生で魔法を再生する。先程のビアンカが食らっていたあの理不尽な弾幕だ。
だがそれでも。
「よっと」
「あっ……」
その直後に、美雪も床に手をつくことになった。アウィスの膝カックンによって。
あの猛攻の中でも、誰一人殺されていない。美雪に至っては傷すらつけていない。それが手加減している証拠でもあり、俺の中の恐怖がより一層大きくなった。
そして、俺たち四人は試練には合格したとはいえど完全に勝負には負け、ボロボロになりながら床に転がされていた。
よ、ようやく地獄の戦闘パートが終わった……。途中から描写が変になってる自覚もあるのに直すとさらに変になるという完全に負のスパイラルに突入しましたよ……。




