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36話 例え体が変わっても

「いやー、酷かった。全員合格だけども、最終的な結末が、ね?」


「言ってやるな。ビアンカと美雪は気にしてるんだから」

 

「アウィスさんが気を利かせてくれなかったら死んでましたよ私」


「いや、死んでたよ?蘇生させたけど」


「マジですか!?」


「サラッと凄いことしてるなぁ……。流石にそれは私でも無理だよ」


「……一時間以内なら、私には出来る」


「やっぱこっちの世界の命って軽いな……」


「って、言っても光魔法でやる場合レベル10以上が必須だけどね」


「あ、一般的には重いのか」


 俺は試練が終わった後、最初に元いた場所に戻ってきた。そのあと少し待って重症のビアンカが出てきてアウィスが蘇生、そのまた少し後にそこそこ傷付いたフィールが出てきて自前で治療して、そこから大きく開いてボコボコの美雪が出てきて同じく自前で治療。その後少し置いてから今に至る。


「で、さっさと次の試練に行きたいんだけどいい?実の所さっさと戦いたいんだよね」


「……おいちょっと待て。戦うって、お前がだよな?」

 

 俺はアウィスがそわそわと翼を動かしてるのを見て鳥肌が立つ。


 此奴は、仮にも大賢者。俺らが束になっても敵う相手ではない。そもそも、力の限界すら分かってないのだから。


 そんな相手と戦う?滅茶苦茶怖いんですけど。覚悟はしたけれども、流石に自殺するのはお断りだ。


「もっちろん。あ、手加減はするから心配しなくていいよ。だって、次のは戦闘能力を試す試練じゃ無いからね」


 俺のそんな心情を察したからか、アウィスは補足する。でも、それはそれで不安がヤバイ。戦闘能力を試さない戦闘って何だ。


「それが何なのかは……まあ、実際に見せた方が早いかな?対象選択。黒野、フィール、ビアンカ、白井……」


「ちょっ!?この流れで始めんのか!?」


「……っ!?カイト、この魔力、尋常じゃ無い!何か、物凄い嫌な予感がする!」


 フィールでさえも、慌てるような魔力の波動。もしも戦闘中にそんなものを当てられたら、確実に隙を晒してしまうような程の。


「ミユキさん!構えて下さい!」


「う、うん!分かってる!」


 ビアンカと美雪も、咄嗟に戦闘態勢を取る。二人とも試練でボコボコにされたからかなり警戒しているようだ。というか、ビアンカに関しては死んでたみたいだからなおタチが悪い。俺はあの時は気絶してたと思ってたからな。


「効果選択・交錯。対象固定。異常確認……異常無し。……実行!『コンフュージョン』!」


 その直後に、何とも言えない光が当たりを覆う。心地よくもあり、それでいて吐き気を催す邪悪さもあるような。


 その光は、そんな長い時間輝く訳でもなく、そのまま輝きを失っていく。

 

 そして、目の前には相変わらずアウィスがいるだけ。だけども、何故かさっきより少し大きく見える。

 

 その後、俺は三人に何かあったかと聞こうとして……完全に硬直した。


 俺が横を向くと、黒い目が俺の方を見ていた。


 俺よりも2、30cmは高い身長で、キョトンとした威圧感の無い顔。龍鱗で出来た防具を着けていて、手には黒い片手剣を握っていた。


 そう、そこに居たのは俺だった。目も髪も体も何もかもが俺だけど、俺は此奴が俺のコピーとは思えなかった。


 これがコピーなら、俺は何故縮んでいる?


 でも、これがコピーじゃ無いなら。嫌な選択肢が俺の頭の中には浮かんでいる。


 そして、俺はそれを確かめる為に腕を前に伸ばしてそれを確認する。


 男のものとは思えない細く可憐な腕。その腕には見覚えのある腕輪が嵌められている。


 俺が、フィールとビアンカに渡してある収納の腕輪というものだ。んでもって、俺はアイテムボックスが使える以上そんなものは着けていない。


 その後、非常に嫌な予感がしながらも胸の辺りに手を当てた。すると、柔らかい弾力が返ってくる。


「……『点火』」


 最後に、指先から火を出すイメージで魔力を込めて詠唱をしてみる。すると、俺は火魔法なぞ持っていないはずなのに呆気なく火が点く。


「……」


 これで俺は全てを察した。だが、念の為に隣にいる誰か(・・)に聞いてみる。


「なあ。俺は誰だ?」


「……見た目はフィールさん、中身は海斗くん?」


 俺の隣にいた俺……もとい美雪はそんな返答をしてくる。


 要するに、全員の体が入れ替わってるって事でした。

 

 少なくとも俺の体には美雪が入っていて、フィールの体には俺が入っている。本当に悪い冗談だ。あと、身体能力の差からか体が結構重い。


「……一応点呼を取りたい。まず、フィール」


「……はい」


 フィールはいつも通りの口調で返事をする。但し、ビアンカの声で。


「……次、ビアンカ」


「はい」


 ビアンカも同じように、そして美雪の声で返事をする。


「で、美雪は分かってるからいいか」


「ちょっと!?」


 美雪はさっきの会話で察しているので、俺は得た情報を頭の中で纏める。今ある情報だと、俺がフィールの体に、フィールがビアンカの体に、ビアンカが美雪の体に、美雪が俺の体に入っているようである。


「そろそろ状況を察したかな?実際に見た方が分かりやすかったでしょ?」


「分かりやすいけど、まさかこの状態で戦えとか言わねえよな?」


 アウィスが笑いながら言ってきたので、俺は若干威圧感を出しながら聞く。まあ、全く動じないが。


「その通りだよ。だって、次の試練で試すのは"絆"。例え体が変わっても、仲間の戦い方でいつも通りに戦えるか。それを試すためなんだから」


 つまりは、仲間の戦い方と言うものをしっかりと見ているのか。その上で、体が変わっているという状態で連携が出来るのか。そう言うのを確かめるための場所だろうか。


「私はね、三英雄一の戦闘狂なんて呼ばれてた時もあった位だからね。絆とか信頼関係なんて戦えば分かるよ」


「随分物騒な大賢者だなおい」


 このフリーダムさで戦闘狂。その他二人の大賢者はさぞかし苦労した事だろう。弱ければまだしも、その上で洒落にならないスペックなのがなおタチが悪い。


「まあ、それは置いておいて始めようか。……『双陽剣』」


 アウィスはその突っ込みを気にもとめず、早速魔法を発動させる。なお、持つ手が無いのでその物騒な脚で持ちながら飛んでいる。


「ちょっ!?手加減するって割には早速ソル・エスパーダ二本とかどんな冗談だよ!」


「なんならムスペルヘイムを15個同時展開とかも出来るけど、そっちの方がいい?」


「ざけんな!三人とも!先日の打ち合わせ通りに動くぞ!しっかり自分の体の役割通りにな!」


 手加減なにそれおいしいの的な魔法を発動させてきたアウィスに怒鳴りながらも、三人に指示を出す。


 先日の打ち合わせというのは、昨日の夜寝る前に連携とかの打ち合わせをした時の事である。なんだかんだでビアンカが加入してから多対一の戦闘はしていなかったから話し合って決めておいたのだ。


「よっ!えい!」


 まず、美雪が剣を持ったままアウィスの方へ接近し、俺と大差ない様子で剣を振るう。さっき俺が魔法を使えたように、きっとスキルなどは体に残ってるのだろう。


「……ふっ!」


 それに続き、フィールも素早く接近する。入れ替わったばかりだというのに身体強化も発動させているところを見ると適応能力の高さが伺える。


「二人とも、慣れてないのによく見てるんだね!でも、それじゃあ届かないよ!」


 アウィスはそんなことを言いながらも、脚で持つソル・エスパーダ……すら使わず、翼で剣を受け止めている。


「ええっ!?」


「っ、風魔法!?」


「そ、正解。風魔法で剣の勢いを緩めて、剣筋を乱れさせた。一度剣筋が乱れれば、抑えるのは余裕だよ」


 フィールが驚く程の魔法の精密さ。マジな方で洒落になっていない。というか、そんな使い方まで出来るのか。


「『炎線』!貫け!」


 そして、俺は剣を受け止めているアウィス目掛けて様子見で炎のレーザーを放つ。勿論、そう当たるとは思ってないが。


「まあ、勿論そう来るよね。『霧散』」


 アウィスがそう呟くと一瞬体に変な感覚が走ったと思うと、今この場に出ていた全ての(・・・)の魔法が霧散する。フレイムレーザーも、ソル・エスパーダも、そしてあろうことか身体強化まで解除される。


「っ……何?今の……」


 フィールが物凄く驚いた顔をしている。魔法を無条件で解除する魔法。そんなものがあったら過去に使っている筈だ。


「ん?無属性魔法の応用だよ。仕組みさえ理解すれば無属性と魔法創造がそれぞれレベル3もあれば普通に出来るよ」


「……そんな事、普通は思いつかない」


「悪いけど、これに関しては私の発案じゃ無いからね。初めてやられた時は私も驚愕したよ」


「私は話にすらついていけてないよ!」


 三人はこんな事を言いながらも、近接戦を繰り広げている。アウィスは短剣や片手剣を脚で弾きながら空を舞い、蹴りで応戦している。というか、賢者が二対一で笑顔を崩すことすらないってなんだよ。賢者って基本魔法職じゃねえのか?


「あー、半龍化、『雷槍』『聖槍』」


 俺は取り敢えずそれを見ながら、体が覚えている通りに魔力を流して腕、翼、尾、脚を龍のそれにする。そうすると、今まで身体能力の差のせいで重かった体が幾分か軽くなる。まだ本調子にはならないが。


 そして、魔法の中でも弾速が速くて定点攻撃の「ライトニングランス」と「ホーリーランス」を一つは間を縫うように、もう一つをフィール目掛けて撃つ。

 

 勿論、フィールならその位は避けてくれる。これは昨日の打ち合わせでは言っていない連携だが、夢幻列島にいた時に何回かやっている。


 仲間を死角にして、魔法を直前まで隠す。単純ながらも効果的な策だ。ただ、よほどの察知能力があるか信頼関係があるかでないと逆に仲間から背後を取られる事になるが。


 そして、今回も予想通り避けてくれた。ギリギリまで引きつけて、完璧なタイミングでだ。


 だが、


「穿て」


 アウィスは、最早詠唱ですら無い言葉を呟き、俺の出したのと同じ魔法を俺の出したところと全く同じところに放つ。間を縫って出した方も、フィールで隠していた方も。


「ははっ、いい戦法だね。でも、まだ足りない。……じゃ、そろそろこっちも反撃させてもらうよ」


 アウィスが笑いながらそう言った時、体に寒気が走る。恐怖というのが一番正しいだろう。


 そして、アウィスは無数の風矢を展開する。それだけなら、全く問題は無かった。それだけなら。


「んなっ!?」


「ええ!?」


「っ!」


「これは!?」


 その全てが、俺たち四人を追尾さえしていなければ。


 自機狙いなんて優しいものでは無い。打ち消さない限り、何処までも付いてくるというタチの悪すぎる魔法。しかも、現在のビアンカには打ち消す手段はない。


「ちっ、『風矢』!『風矢』!『風矢』!……」


 俺はビアンカを狙っている風矢を正確に狙って一つずつ相殺していく。まだ相殺されていない矢も落ちまくっている身体能力で的確に避けるビアンカも大概だが。


 残る2人も、美雪は空間魔法で結界を張りそれにぶつける事で打ち消し、フィールに至ってはそれを躱しながらそれすらもアウィスに当てるつもりで攻撃を続けている。


 風の矢がアウィスの死角に来るように誘導して、それを避けてアウィスに向かわせる。勢いは死なないから直前で避ければそういう事も出来る。


 だが、アウィスの方もそれすらも回避し脚で応戦を続ける。……だが。


「……吹き飛べ」


「おっ!?危なっ!?」


 フィールはその中で突如魔導拳銃を取り出しごく自然な動きで発砲する。初めて使うとは思えないほど滑らかな動きだ。


 しかし、まさかのそれすらも見てから回避余裕精神で回避してしまう。そして、その直後


「っと、じゃ、そっちが吹き飛ぼうか」


「なっ……あぐぅ……!」


 アウィスが目で追うことすらままならない速度で痛烈な蹴りを放った。それによりフィールは後ろに大きく吹き飛ばされ、さらにその脚の爪により当たった腹部の辺りを切り裂かれている。おまけに、


「がはっ……」


 周りを舞っていた矢はここぞとばかりにフィールへと激突していく。その度にフィールは苦悶の声を上げ、体は傷ついていく。


「フィールさん!『生体再……」


「そう簡単にさせると思う?」


 ビアンカは即座にそのフィールを再生させようとするが、アウィスはそれを許さんとビアンカに迫る。だが、そこで阻止なんて俺らもさせるつもりは無い。


「美雪!」

 

「分かってる!」


 俊足で迫るアウィスを縮地で接近した美雪が止める。その僅かな時間に俺はアウィスのやろうとした事を予想してその対策をしておく。


「行け!」


 アウィスは上に向かってファイアボールを三個ほど放り投げる。右斜め上、真上、左斜め上というように投げ分けられていたが、そこら辺も含めて予想通りだ。


「……おおっ!」


 俺はそれに対して全属性の放射ブレスで対抗する。範囲が広いからそこそこの範囲をカバーできるし、全属性だからどの属性が来ようとも対処はできるからだ。


 そして、その行為で時間稼ぎが出来たことにより、ビアンカの魔法が完成する。


「『生体再生』!」


 ビアンカのその魔法により、フィールの傷が急速に治っていく。鍛錬を重ねれば、回復で右に出るものはいなくなるだろうなぁ。


 それを見届けてから、アウィスは顎に翼を当てて、少し悩んでから言った。


「この中だと……間を縫うような援護射撃に、的確な魔法の相殺。なんだかんだで黒野君が一番危険かな?だから……」


ーー先に潰させてもらうよ。


 アウィスの口が三日月のように割ける。俺はそれを見た直後、一瞬だけ硬直してしまった。


 過去のどの時よりも死の恐怖というものを感じた瞬間だった。精錬された濃厚すぎる殺気。三人の様子から、多分それを感じているのは俺だけなのだろう。


 そして、それから立ち直る前にアウィスは急接近してくる。美雪とフィールがそれを妨害するもアウィスはその前線を抜けてきてしまった。


「『羽針乱刺』」


 アウィスは俺の目の前に立って、広げていた翼を瞬時に俺の方へと向けた。その瞬間、途轍も無い激痛が俺を襲った。


「な……うぁ……あぐ……」


 その翼を向けた瞬間。無数の羽が俺の体に刺さったのだ。その羽は鋭利なナイフのように、俺の胴体の至る所に突き刺さっている。

 

「……まずは一人。ほら、しっかりしないと全滅しちゃうよ?」


 アウィスはそんな俺から目を離すと、残りの三人に悪魔のような微笑みを浮かべていた。

体の入れ替わりとか作者的には拷問です。


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