33話 恐怖と向き合え
カイトがネタ混じりだった直後の、ネタ一切なしのフィール編。まあ、フィール自体設定が重いので仕方ないのかもしれませんが……。
あ、残りの二人はそこまでシリアスばっかりにはならない予定ですよ?
「……その名は、『サンクト・グラディウス』」
「その名は、『カオス・ハスカ』」
私の繰り出した光の剣と、虚像が繰り出した闇の槍が衝突する。その魔法はお互い譲らず、鍔迫り合いを起こしている。
「龍人としては圧倒的に高い魔力。全ての属性を使える天賦の才。……そして、それに伴わない身体能力」
目の前にいる私の虚像は、魔法を受けながらそう囁く。その声は轟音の中だというのに私の耳にはっきりと届く。
「完全に龍化が出来れば、もっと彼の役に立てるのに。貴方にはそれが出来ない」
「……何が言いたいの?」
虚像は思わせぶりな発言を続けるばかりで、明確な事を言わなかった。
この空間に飛ばされてから、戦い続ける事約10分。ぶつかりあう度に何かを囁くのだが、伝えたい事がわからない。
だけど、今回は違った。今回だけは、明確に、そして私の心を揺さぶる発言を落とした。
「貴方は私。貴方が龍化出来ない理由は、私も貴方も知っている。……貴方を置き去りにした族長、貴方に石を投げつけた元親友、憎悪に満ち溢れた目を向けた里の皆。貴方は恨んでないって言ったけど、恐れてはいる。その恐怖は、未だに貴方を縛り付けている」
「ーーっ」
「皮肉ね。自分も龍人であると言うのに、恐らくこの世で一番龍人と言うものを恐れてる。そのせいで、龍人としての力が完全に振るえない」
虚像の言っている事に、私は心当たりがあった。
私は里にいる時から完全な龍化は出来なかった。だが、実は半龍化までは出来ていたのだ。これは、カイトにすら言っていない。
それが夢幻列島に行った後。私は最初の方は部分龍化すら出来なくなっていた。
空を飛ぶことも出来なくて。迫る魔物から、何も考えず逃げる事しか出来なかった。
皮膚が裂けようとも、爪が割れようとも、足が折れようとも、止まったら死ぬ。だから、私は必死に走り続けた。
木の実を食べて飢えを凌ぎ、水溜りの水を啜り喉を潤し、穴倉の中で苦痛を押し殺しながら眠りにつく。
その悪夢を続けて、どれだけの時間が経った頃か。
私は、ドラゴンが食い散らかした死体を見つけた。
私はそれに無心で食らいついた。
体が血で穢れる事も気にせず。血肉に齧り付き、引きちぎり、噛み砕き、飲み込む。
どれだけ続けていただろうか。
気がつけば、私の腕は龍のそれに成っていた。翼も生え、里にいた時の力が一部戻った。
理由はその時はわからなかった。だが、夢幻列島を降りてしばらくしてから、私はその理由を察した。
それは、「恐怖なんて忘れ去れるくらい、生きるのに必死だったから」。
恐怖よりも、生きる執念が勝っていたから。それが再び龍化出来る訳だったのだろう。
半龍化出来た時も、カイトに負けたくないと言う一心で他の事を考えていなかったから。その時は心に余裕があったからでもあるだろうけど。
……でも。
「これ以上、そんな誤魔化しで通じると思ってるの?ただ逃げてるだけで、解決すると思ってるの?あの時恨んでないって言ったのだって、トラウマから逃げるためだったんじゃないの?」
「……違う」
私は口ではそれを否定したが、心の中では否定し切れなかった。
本当に、私は恨んでいないのか?
あの悪夢から逃れる為に、無意識に遠ざけていただけではないのか?
「否定してるけど、その割には凄い動揺してる。ほら、魔法の制御が乱れてる」
「っ!」
虚像がそう言った瞬間、混沌の槍が光の剣を打ち消し、私へと迫ってくる。私は一瞬動揺してしまったが、それを縮地で飛び退き避ける。
「図星みたいね。何時までも逃げ続けて、前を向こうとしない。悪夢を押しつぶして、忘れ去ろうとしてる」
「違う!『メテオキャノン』!」
虚像の言う事を否定して、私は魔法を放つ。無数の火炎弾が虚像へと向かっていく。だが、
「どこも違わないよ。ほら、今もこうして逃げた。……『隕炎弾』」
虚像が私でも出来ない程に縮めた、その上で私よりも多い数と強い勢いのメテオキャノンが私のそれを打ち落とし、その上で私の足元に着弾して私を吹き飛ばす。
「……うっ」
私はバックステップをして衝撃を減らそうとしたけど、それでもかなりの衝撃が体を襲った。
虚像はその隙を見せた私に追撃を入れようとはしない。代わりに見下すような、期待はずれのような、そんな目を向けてきた。
「何時までも現実から目を背けて。そのままで、果たして彼はそんな貴方を見続けてくれるの?他の子達に取られちゃうんじゃないの?」
傷付いた私に更に重石を乗せるような言葉。それは、少しずつ私を精神面でも追い詰めていた。
本当に、カイトは私を見続けてくれるか?
もしも、見捨てられてしまったら?
また、一人になるの?
一人は、嫌だ。
もう、あんな苦痛は味わいたくない。
私の頭の中に、そんな言葉が渦巻く。それは、私の心を掻き乱していく。
「……復讐、したくない?」
「……え?」
虚像の、先程までの私を貫くような口調とは違い、甘く唆すような囁きが聞こえる。
「貴方を追い出した彼奴らに。過去の貴方を殺した彼奴らに。貴方の道を捻じ曲げた彼奴らに。復讐したくない?」
「……」
その声は、私の奥底にまで響いてくる。私の心を掴んで揺さぶる。
「恐怖を与える存在は、それを遥かに上回る恐怖でねじ伏せればいい。彼奴らがそうしたように、圧倒的力で押しつぶしてしまえばいい。……貴方がそれを望むなら、私はその力を与えてあげる」
私はその言葉を前に何も言えなくなる。
虚像の提案を飲み込めば、私は彼奴らに復讐出来る。
だけど、それはする必要のある物なのか?
「……違う」
「何が違うの?」
私の口から、意識する事なく言葉が漏れる。
確かに、私は彼奴らを恨んでいたかもしれない。
でも、あの時にも言った通り。
あの悪夢があったからこそ、今の私がいる。
「確かに、あの恐怖は消えてはいない」
「なら、何故貴方は復讐を選ばないの?」
恐怖はまだ私を縛っている。
私は過去を恐れてる。
それでも……
「それでも、私は過去と向かい合う事を誓う」
「……そんな言葉だけで、どうにかなると思ってるの?」
言葉だけでどうにかなる問題じゃ無いのは分かってる。だが、そもそもこの言葉は虚像に言っている言葉ではない。
私が、私自身で覚悟を決める為の言葉。だから、言葉はただの補助的な意味しか無い。
「……この試練が終わったら、カイトに頼んで龍人族の里に連れて行ってもらう。ここじゃあ、過去を乗り越えようにも肝心な奴らがいないから」
「……」
いつかは向き合わなければいけない現実から、逃げ続けるのはもう止めだ。私は、過去を乗り越えて前に進む。
「貴方は弱い。乗り越える事すら出来ず、そのまま押しつぶされてしまうかもしれない。更に心を縛り付けられるだけかもしれない。それでも、貴方の決意は変わらない?」
「無論」
私は悩むこともなく即答する。もう、決意は固まった。なら、後はこの試練を終わらせるだけだ。
虚像は、そんな私の様子を見て、
「……はぁ」
と溜息を吐いた。
「大体予想はつくけれど……何が貴方をそうさせるの?」
虚像は私に尋ねてくる。まあ、そんなものは決まっている。
「勿論、カイトの為」
私は自信を持ってそう答えた。だが、
「違うわね。それは精々、理由の六割位にすぎない」
虚像は、その答えの一部を否定した。でも、残りの四割は私はわからない。
「まあ、自覚が無いなら教えてあげる。残りの四割は、彼を取り巻く賑やかな環境。ビアンカやミユキも然り、旅の途中であった賑やかな人々も然り。貴方は、そんな6年間求めて止まなかったものの為にとも思ってるのよ」
6年間、私はずっと孤独だった。
夢幻列島にいた最後の時はカイトと二人きりだった。
でも、ビアンカやミユキがいる今の現状と、私はどっちが幸せか?
私は、胸を張って今と答える。
確かに、カイトが他の女の子とイチャイチャしてるのは少し不満ではある。
けれど、私がその騒がしい日常を楽しんでいるのも事実だった。
だから、私は思わず言い直した。
「カイト達の為」
「ふふふ、そうね。……じゃあ、彼等の為に私を、貴方の弱さを断ち切って!」
虚像は一瞬だけ微笑むと、元の鋭い表情に戻って宣言してくる。だが、私はすでに魔法の用意をしていた。
「『ヘキサゴナル・インパクト』」
6色の弾丸が、私の声を引き金にして放たれる。ビアンカの銃とかいうものよりは遅いけど、弾速は結構速い。
「っ『エーテルジャベリン』!」
虚像はそれを見て一瞬だけ悩んだ後、無属性魔法の「エーテルジャベリン」を放ってくる。
無属性は、どの属性にも効果的ではないけど逆にどの属性も弱点にはならない。だからこそ、6属性の弾丸に無属性魔法を使ってきたのだろう。
その槍は、丁度6個の弾丸を打ち消した瞬間に霧散する。勢いが弱かったようだ。
私は、その隙を見逃さずすかさず次の魔法を放つ。
「『アネモストロヴィロス』、『ヘル・プロミネンス』!」
放った竜巻に、紅炎を被せるようにして発動させる。それによって、全てを焼き尽くす竜巻と変化し虚像へ向かっていく。
「……『ウィンドサイズ』!」
虚像はまたも悩んだ後に、風の鎌で竜巻を切り裂く。そして、一瞬だけ開いた場所に即座に飛び込み竜巻を抜けてくる。
だが、服は所々裂け、焦げていた。タイミングを掴めば、私なら無傷で抜けられそうなのにである。
「……弱体化してる?」
「そうよ。貴方が闇に対する答えを見つけて向き合えば、私は弱体化する。逆に逃げれば強くなる。そういう試練だもの」
自分の負の感情と向き合い、克服出来るかどうかを確かめる為の試練。私は向き合う事を誓っただけであり、まだ克服はしていないのだが原因がここにいない以上仕方ないのだと言う。もっとも、それでも遠ざけたりしたら強くなると言っていたが。
「……じゃあ、後は貴方を倒すだけ?」
「ええ。それで、貴方の試練は終わる」
虚像は淡々と言う。でも、私にとっては嬉しい言葉だ。
「なら、私は貴方も越えてみせる。そうじゃないと、私の覚悟を示せないから」
「その心意気よ。……でも、私だって容赦はしない。油断したら、死ぬわよ?」
そして、私達は同時に魔法を放ち続ける。
「『溶球』」「『凍球』」
火魔法のマグマボールと、氷魔法のアイシクルボールがぶつかり合い。
「『メテオキャノン』」「『ダイアモンドダスト』」
無数の炎弾を、凍てつく冷気が掻き消していき、
「……その名は、『ブリッツガン』!」
「その名は、『アダマース・スクーレ』!」
雷の砲撃と、金剛の斧がぶつかり合い、お互いに弾き合い、
「その名は、『メイル・グラナーダ』!」
「その名は、『ヴァン・アルクス』!」
海が出現したような剛流と、全てを押し返す風の矢が激突し、お互いが傷を負う。
例え虚像が弱体化していても、元は同じ。そう簡単に打ち破れはしない。
どれだけ魔法を撃ち込んでも、同じように魔法を撃たれ相殺される。
それならば。
「……そろそろ、終わらせる」
「……そうね。これ以上、長引かせる意味も無いし」
そして、私達二人はお互いに詠唱を開始する。今回は両方とも同じ魔法の詠唱だった。
「「この世に満ちる、神秘の力よ。我に従え、我にひれ伏せ……」」
私達が詠唱をするにつれ、私達の周りに灰色の光が満ちてくる。
「「それは破滅へと導く力。この世の全てを打ち砕き、絶望を撒き散らす暴威の嵐……」」
その光は私達の詠唱に応じるように、渦巻き、点滅し、だが少しずつ輝きを増していく。
「「平和な終わりなど認めない。優しい世界は虚空へと消え、人々の笑顔は硝子のように……」」
次第に、お互いの魔力が反応しあい、ぶつかり合い、鍔迫り合いを起こし始める。だが、私達は詠唱を止めない。
「「我はここに一つの願いを残す。……この美しく、残酷で、儚く、醜い世界に終焉を!『カタストロフィ』!」」
私達がそう叫んだ瞬間。私達を取り巻いていた灰色の光がより一層強まり、お互いの方へと迫る。
ゥヴォォォオオオオオオン!!!!!
その灰色の光は、お互い反発するようにしながらもぶつかり合う。それに伴い、激しく体の中を直接掻き回されるような感覚が私を襲う。
無属性魔法は、魔力に作用する魔法。例え余波だと言えど、その影響が無いわけが無い。さらに、今回の魔法は無属性魔法レベル10に位置する魔法「カタストロフィ」。もしも本体を喰らったら、私でも原型が残るか分からない。
その破壊の波動は、お互い一歩も引かずただ押し合っている。これで、押し負けた方の負けが確定する。だから、私の額には焦りを表す汗が流れる。
どれほどたった頃か。終わりは唐突だった。
虚像の方のカタストロフィが突然霧散し、私のそれが一直線に虚像へと向かっていく。
私のも大分勢いは落ちてしまっているが、止まることは無く突き進む。
「……貴方の勝ちよ。だけど、最後に一つ言わせてもらうわ。貴方がいくら強くても、心は傷を負っていく。でも、決して折れないで。でないと、貴方はその手で……」
虚像はそう言い残して、暴威の嵐に飲まれ。
後には、最初から無かったかのように何も残っていなかった。
おまけ
各属性 (無属性除く)のレベル9魔法
火魔法 ソル・エスパーダ
訳 太陽の剣
水魔法 メイル・グラナーダ
訳 海の手榴弾
氷魔法 クリスタル・ファルクス
訳 水晶の鎌
風魔法 ヴァン・アルクス
訳 風の弓
雷魔法 ブリッツガン
訳 雷の銃
土魔法 アダマース・スクーレ
訳 ダイアモンドの斧
光魔法 サンクト・グラディウス
訳 神聖な剣
闇魔法 カオス・ハスカ
訳 混沌の槍
一応、全て意味はあります。ですが、言語は滅茶苦茶なので何語か気になる方は頑張って下さい。
なお、他に今まで出てきた魔法も全て何語かは決まってませんが意味のある言葉にはなっています。




