32話 中途半端な化け物
「……」
「……」
俺と、何かは見つめ合いながら両者一歩として動かない。だが、俺も相手も剣を構えて牽制する構えを取っている。
目の前にいる俺は、鱗で出来た籠手と鎧を身につけている。夢幻列島にいる時から使っている龍鱗の鎧だ。ラントやウルブスにいる時から付けてはいるが、パッと見だと何の鱗かは分からないので問題にはなっていない。
「……くくくっ、やっぱ俺だな。なんだと不思議がる前に戦闘態勢に入るか。まあ、分かりきってたことだけどな」
「……まるで全部分かってるみたいな物言いだな。まあ、どうせ俺のコピーとか、そんな類だろ?」
何かは笑いながら俺に言う。悪役笑いはあんまりしないと思うが、してみたいという気持ちは結構あるのでそれの表れだろうか。
俺は、アウィスの言っていたことからこれが俺自身のコピーだと判断する。もっとも、こっからどうするかはイマイチだが。闇を写すとは言ってたが。
「はっ、正解だよ。俺はお前、お前は俺だ。だから、お前の強みも弱みも、手に取るように分かる」
「だが、実力は同じだろ?それだと決着は付かない。なら、ここでは何をすれば良いんだ?」
俺は偽物にこの試練の意味を問う。普通は聞いても教えてくれる訳は無いのだが、
「あー、ここでは、お前の持つの弱み……俺がそれを突きつけるから、お前は自分だけの力でその問題の答えを見つければいい。どんな答えであっても、全てはお前の意思だ。そうすれば、俺が弱くなって勝負がつく。……あ、言っておくが、その問題から逃げようとしたりすると俺が強くなってbadendだからそこんところよろしく」
凄いあっさり教えてくれた。表情を見ると、「面倒くせえからさっさと終わらせてぇ」みたいな感情が見える。それで良いのか試練よ。
「ずいぶんあっさり教えてくれるんだな」
「面倒くせえからな。……だけど、考えさせる暇は与えねえぞ。それがルールだからな!」
偽物はそう言うと、俺に向かって縮地を発動させて迫る。俺は、それを同じく縮地を使って後ろに飛び退き、そのまま地を蹴って隙を見せている偽物に斬りかかる。
「ちっ!やっぱこの位は想定済みか!」
「そりゃ、お前は俺なんだろ?何するかは大体分かる」
ガキィン!
対する偽物の方も、俺がそうすると分かっていたようで危なげなく剣を受け止めている。力は全く同じ、ビクとも動かない。
「そりゃそうか。……だが、お前の力……まるで化け物みたいだよな」
「何を今更。そんな事は分かりきってるぞ?」
「それは知ってるさ。その力を、お前の彼女さん達も受け入れているってこともな。……だがその力、お前の家族が受け入れてくれるとでも思ってるのか?」
「……そう来たか」
俺は偽物が言いたい事を大体悟った。だが、もしかしたら違うかも知れないので目線で「さっさと話せ」と促す。
「魔物はおろか、人を殺しても嫌悪感を感じない。その上、片手で国を滅ばせるような力。愛する息子がそんな化け物に変貌して帰ってきたら、どんな顔をするんだろうなぁっ!」
偽物は俺の剣を弾き、素早く持ち替えてから俺の足あたりを狙う一閃を放つ。俺は、それをサイドステップして回避し同じく足を狙って剣を振るう。
「まず確実にショックは受けるだろうな。最悪、俺を嫌悪するかもしれない」
「ああ、そうだ。……だが、その割にはかなり落ち着いてるな。ここら辺を指摘すれば、多少は動揺すると思ってたんだが」
偽物は、落ち着いている俺が不思議なようだ。元が同じなのだから、理由くらいはわかると思ったんだが。
「お前は俺なんだろ?動揺しないことくらいは分かってた筈だろ」
「それは記憶とか、性格とかだけだ。人の心なんて、些細な衝撃で変わる。どんな事を言われたら、どんな影響が出るか。そこまでは流石に見通せねえよ」
偽物は、虚空から何かを取り出して剣を防ぎながら言う。何かというのは見えないもの、つまりは幻龍鱗鎖である。そこまでしっかりコピーされているようだ。
「それもそうか?まあ、取り敢えずは俺の答えを言わせてもらおうか。「その時に考える」。それが俺の答えだ」
「……いや、ちょっと待て。俺よ、話を聞いてたか?問題から逃げたら俺が強くなるって言ったよな?その証拠に俺が強く……?」
俺の言葉に物凄い呆れ顔をしてくる偽物だが、その顔はすぐに疑問に満ち溢れたものへと変わる。
「……何でだ?今のは完全に逃げる類のセリフだと思ったんだが。全然強くなってねえな」
「篭ってる意味の問題じゃねえか?なんなら今から説明してやるが」
俺はそう言いながらも、同じく幻龍鱗鎖を取り出して鞭のように偽物を打とうとする。偽物も同じような事をし、お互いの鎖が絡まって離れなくなる。
「じゃあ、言ってみろよ!その意味をよ!」
偽物はそう言いながら鎖から手を離し、剣を構えて俺へと迫る。そういう俺もまた、偽物と全く同じタイミングで手を離して剣を打ち付ける。
話の途中であれど、戦闘は止まらない。お互いが、お互いに一つの傷も付けられずに剣を打ち合っている。
「まず、親が受け入れてくれる可能性もある。その時は、そのまま問題は解決する」
「だから、そんな事はまずあり得ねえんだよ!」
偽物は一旦距離を置き、身体強化を発動させる。そして、地を蹴って滑空しながら俺に向かってくる。
「そうかもしれねえな。だけど、ダメな時の事を今考えて何が出来る?この穢れきった手をどうしたら清められる?もう既に、信じる以外の道は塞がれてるんだ。なら、行き当たりバッタリでぶつかるしかないだろ。……まあ、ダメな時のパターンも幾つかはあるけどな」
俺は偽物を受け流しながら言う。ちなみに、ダメな時のパターンというのは
1、幼馴染み達と協力して五人でどうにかする
2、追加でフィールとビアンカも入ってもらって7人でどうにかする
3、便乗させてやった借りとしてクラスメイトも動員する
4、魔王軍4名様日本ご案内
とか、そんな感じの他力本願である。やる場合は上から順だが、4番までは行かないで欲しいと思ってる。
まあ、これでどうにもならない場合は残念だが魔法行使 (ビアンカ曰く、闇魔法に洗脳とかそんなことが出来るのがあるっぽい)による記憶のリセットが入り1からリスタートする事になる。……行き当たりバッタリって割には結構考えてたなぁ。まあ、ゴリ押し感が否めないが。
「……ははっ、確かにその通りだな。俺はお前だから、その考えは理解出来る」
偽物は受け流された後も素早く急旋回してまたも突っ込んでくる。その速度はかなり速い。だが、充分に見切れる程度だ。
「だけどなぁ。残念だが、この試練はまだ終わらねえんだよ。一応、記憶を覗いたアウィスが判断したやつを突きつけるってルールなんだがな……なんかもう一つ良いのがあるって言ってな。本来一つだけなんだが、特例で二つになった。まあ、残念だったな」
偽物の俺は一旦距離を置いてから言う。というか、アウィスの奴なんて面倒臭い事を。一つで止めときゃいいのに。
「面倒だからさっさと終わらせてえってのに、俺のとこだけお題二つだぜ?それに、さっきの題の後でこれって色々と大丈夫なのか?って言いたくなるようなやつだし」
やれやれと肩をすくめる偽物。こいつ、さっきまで考える暇は与えないとか言って攻撃して来なかったか?思いっきり攻撃の手止めてんだけど。
「まあ、取り敢えず本題入らせてもらうぞ?」
「簡潔にな。どこから原稿取り出したのかは知らねえけど、まさか読みながら戦うつもりじゃねえだろうな?」
偽物は挙句の果てに原稿用紙を取り出して何かを確認している。……これって、俺の性格が原因とかじゃねぇよな?確かにシリアスを壊したりはしてたけど、そのツケじゃねぇよな?
「へいへい。えーと、こっちの議題は「中途半端」って事だな」
「中途半端?」
俺は臨戦態勢を取ったまま聞き返す。勝てばいいのだろうが、いいのだろうが流石に原稿用紙を読んでいる相手に容赦なく遅いかかるのは如何なものなのか。
「そ。化け物の域に達していながら、人の域に残ろうとするその心意気。……そんな中途半端な場所に立ってて本当に大事な時、三人や幼馴染みを守り切れるのか?」
「……っ!」
偽物の言葉は確かに的を得ていた。先ほどの化け物を否定する流れから化け物を肯定出来る議題にするのはどうかとも思うが、そんな些細な事を気にできないほど今のセリフは俺の心を揺さぶった。
確かに、俺は相当強くはなっていた。だが、それでも勝てそうに無い存在を見つけてしまった。
今さっき出会った大賢者アウィス・ラパクス。ウルブスにいる時に見つけてしまった地獣神ベヒーモスことイルネス。そして、会ってこそいないがそれと同じ立ち位置にいる空鳥神ジズと海蛇神リヴァイアサン。最後に、それを作り出したと言う謎の神。
全てが全て敵になるとは限らない。だが、もしもそれらと敵対した時に、俺は三人を守れるか?
戦わないようにする。それが妥当な判断だが、もしものことと言うのはある。その時、今の俺に何が出来る?
「……って、凄え動揺してんな。つーか、これならこれ一つで良かったんじゃねえか?」
「……かもなぁ。自分でも、ここまで動揺しちまうとは思ってなかっーーっ!」
偽物は、原稿用紙から目を離して、それをしまいながら言ってきた。だが、それに俺が返答する時。偽物は縮地を使いながら俺の足の辺りに斬りかかってくる。
ガキィン!
「うぐっ……」
俺はその剣を逸らそうとしたのだが、僅かに反応が遅れてしまったがゆえに太ももの辺りを三分の一ほどザックリと切られる。それに伴い、血が吹き出し激痛が俺を襲う。
「……お前、原稿読んでる俺の事襲わなかったろ。そう言うとこが、中途半端だって言ってんだよ」
「はぁ、はぁ、そう、だな」
きっと、夢幻列島にいた時の、色々とズレてた時の俺なら容赦無く切ることは出来ただろう。だが、地上に降り、常に迫る命の危機から解放されて気が緩んでしまったが故に喰らってしまった攻撃だ。
「化け物として全てを潰して行くか?それとも、人を貫いて今この場で逝くか?」
偽物は動きが鈍った俺に剣を突きつける。人の道を捨て願望を果たすか。人のまま生き、そのまま死に逝くか。俺には、その答えは決められそうに無い。だが、一つそこで分かってしまった事があった。
「……はははっ。そういう事か」
「何がおかしいんだ?……ってまさか!?」
「ああ、その通りだよ!中途半端なのは、俺であるお前もなんだよ!」
俺はステータス分配機能を使って、魔防の大部分と魔力の半分程度を全て敏捷の値に充てた。それにより、実力が拮抗していた偽物に対して、速度の大幅なアドバンテージを得る。
そして、俺は手に握っている剣をただ横に振り抜く。偽物はそれに反応していなかった訳でない。
だが、ここで俺を止めても、剣の勢いは止まらない事を察したのだろう。それゆえ、そいつは全力の退避行動を取った。
「っ!あぶな……ぐあ!?」
だが、全力の退避行動というのは、その後に隙が生まれる。素早さが相手よりも早くない限り、その隙は致命的だ。
俺は空中に逃げた偽物に、同じく空中に飛びながら追撃を食らわせる。隙が大きかった故、普通に命中した。
「はぁ、はぁ、お前は、さっき俺に選択肢を与えてた。その場で殺しちまえば勝負はついたのに、それをしなかった。化け物になっちまえって言ってる本人が化け物じゃないってのは皮肉な話だな」
「……元は同じだからなぁ。まあ、そうもなる」
偽物は溜息を吐く。そして、息を吸い込んでから言った。
「だけどな。やっぱりお前は甘い。この間にも普通に攻撃出来るくらい非情にならないと、大事な物はその手から零れ落ちるぞ?」
ガシッ
偽物はそう言いながら、剣を持つ俺の手に掴みかかった。そして、そのまま俺を力任せに投げ飛ばす。
「うおおっ!?」
俺は反応が遅れてそのまま投げ飛ばされる。そしてそこへ今度は偽物の投げた剣が飛んでくる。
「避け……いや、ちげえ!バスティオン!」
俺は横へ回避しようと思ったのだが、何やら嫌な予感がした為にとっさにバスティオンを取り出してガードをする。
ゴォォン!
その予想は当たったようで、俺の直ぐ左を冷気の球が通り過ぎる。あの時避けようとしてたのは左だったので、避けてたら命中してた。
「ちっ……多少思考回路に差異が出てきたか?」
「どういう事だ、よ!」
俺は質問をしながらも、痛む足に鞭打ってバスティオンを構えたまま突進する。そして、一応ブレスを撃つ用意をする。
「俺はな、アウィスが試練開始前に読み取った情報から作られたんだ。だから、試練開始後のお前の変化は適応されねえんだよ。だから、お前が少し変わっても、俺はそのままなんだよ。……で、いい加減答えをーーあがぁ!?」
俺は偽物に向けてシールドバッシュを放つ……と見せかけて盾をしまって即座にブレスを放つ。そのブレスは回避行動を取るのが遅れた偽物の肩辺りに命中し、その部分を凍りつかせる。
「答え、か。戦闘中ずっと考えてたが……今思うと、そんなのは初めから分かってた気もするんだよな」
「……は?」
俺は戦闘中、ずっと考えていた。だが、その途中で一つの結論に辿り着いた。
「フィールも、ビアンカも、美雪も。俺は"ただ守るべき存在”とは思って無かったんだよ」
「……続けろ」
偽物は凍りついた肩を炎のブレスで無理やり解凍しながら言う。
「俺は、今までフィールやビアンカ、それに美雪も守りながら戦っては来なかったんだよ。彼奴らは、俺の後ろじゃ無くて横に並んで戦っている」
三人とも、俺に守られるだけの奴らじゃない。お互いに守りあって戦う仲間だ。
「……」
「確かに、俺一人じゃ勝てないかもしれない。だけど、俺には仲間がいる。三人も俺ほどじゃねえけど既に人外の道を進んでるんだ。もしもそれでもダメならもっと強くなればいい。血が滲むような努力をすればいい。違うか?」
俺は偽物に斬りかかる。偽物は剣でガードをしたが、そのまま剣は弾き飛ばされた。
「……違わねえよ。それに言っただろ?どんな答えを出すかはお前の自由だって。その答えがあってるかどうかはお前次第だ」
「みたいだな。剣が弾き飛ばされたってことは、つまりお前が弱体化したって事だからな」
俺は再度剣を構えた。そして、そのまま心臓めがけて剣を突き刺す。偽物は、然程抵抗しようとはしていない。
「……最後に、お前じゃない俺からの警告だ。お前の進む道は、お前の考えるほど甘くはない。だから、お前はお前の決めた覚悟を貫き通せ。それすら出来なければ、全てを失うだけだ」
偽物が最後に言った言葉。その言葉は重く、一瞬だけだが俺の心に揺らぎを与えた。
だが、俺の剣は止まることなく、偽物の心臓を寸分違わず貫き、偽物の体は黒い煙となり掻き消え、そこには何も無かったかのように何一つ残す事は無かった。
論理が破綻している気がしないでもないですが……そこは目を瞑ってください。




