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31話 交錯の大聖堂

自分でもどうかと思う急展開。まあ、頑張ってついてきて下さい。すみません。

 もっとも、大聖堂と言ってもそこに見えるのは、壊れて荒れた建物の残骸に、ポツンと残っている扉だけだ。扉しか原型をとどめていないので、わざわざ開けて通る意味も無いように見える。


 その扉には、一つの紋様……羽を広げ、羽ばたくハーピィを形取った紋章が描かれている。魔王城で見た、例の本にあった紋章と完全に一致する。


「ねえ、海斗くん。本当にここであってるの?」


「あってるはずだ。この扉を開けると……!」


 俺は扉を意味もなく開ける。すると、そこに見える光景は、扉の後ろの光景ではない。何処かの教会とか神殿とかみたいな、そう言う建物の中の光景だ。


「……正直半信半疑だったんだが、本当にあったな」


「空間魔法ですかね。でも、規模が規格外すぎます」


「……それなのに、中からなんの気配も感じない。人も、魔物も。何もいないみたい」


 俺らは取り敢えずその建物?の中に入る。いくら不気味でも、入らないと始まらない。


 神殿?の中は大理石のようなもので作られており、ガラスから差し込む光によって白い輝きを放っている。もっとも、ここがどんな空間かはわからないのでそれが日光なのかは分からない。広さは学校の体育館とかのサイズを優に超えており、その場の異様さを感じさせる。


「……だけど、こっからどうすりゃいいんだ?特に別の場所に通じる所が見えるわけでも無い。その上、試練に関係しそうなものがある訳でも無い」


 そう、この部屋の中には大したものは無いのだ。光を取り込むガラス、ただ立ってるだけの無駄にこだわられた柱。教会みたいな雰囲気もあるのだが、椅子とか祭壇とかそう言う類のものは一切ない。


「もしかして、もう試練が始まってるとか?」


「……それは無い。それなら、こんなに静かな筈はない」


「私達は試練に関しては良く知りませんから、その辺りは経験者のカイト様とフィールさんに任せた方が良さそうでしょう。とりあえず、戦う用意だけはしておきましょうか」


 三人は三様の反応を見せる。不思議がる美雪、それを否定しながらも辺りを見回すフィール、おもむろにライフダガーを取り出して髪と目と服を変化させながらインフェルノバーナーを構えるビアンカ。


「まあ、警戒するに越した事はないからな」


「その通りだよ。油断したら死ぬような世の中だからね」


 俺が三人に声を掛けると、少々過激な返答が返ってくる。まあ、事実なんだけ……!?


「……おい、ちょっと待て。今、俺のセリフに返答したのは誰だ?」


 俺は三人の方を向いて聞く。すると、三人は不思議そうな顔になる。


「……違う」


「私も違います」


「私でもないよ?」


「空耳じゃない?」


「……四人目は誰だこの野郎。さっさと出てこい」


 俺は剣を取り出して、謎の声の主に告げる。声は聞こえるのに、何故か場所が分からないのだ。


「はいはい。でも、不法侵入しておいてその態度はないと思うよ?」


 その声の主は、あっさりと姿を現す。……俺らの目の前に落ちてくる形で。


 170センチ位はありそうな、結構高い身長。髪は金色で、結ばずに腰のあたりにまで伸ばしている。


 目はエメラルドのように輝き、俺たちのことを見据えている。服装はなんて言ったらいいかわからないが、一番近いので言うと「袖無しの巫女装束」と言えば良いのだろうか。


 そして、袖が無い理由。それは、腕というものが無かったから。


 本来腕が存在するところには、巨大で力強そうな翼が生えていた。髪と同じ金色の羽毛に覆われており、その羽は降りてきた際に数枚花びらのように辺りを漂っている。


「……ハーピィ、か」


「ご名答。で、何の用かな?侵略?拷問?暗殺?」


 目の前のハーピィは気軽な様子でサラッと三つの候補を挙げてくる。真っ先に挙げる候補がおかしい気もするが、それは置いておく。


 俺は警戒を緩めずに、そのハーピィに鑑定を発動させる。目の前にいるというのに、気配というものを全く感じず、ただただ不気味だったからだ。こんな所にいるのも合わせて、とても普通の奴だとは思えない。


 そして、鑑定結果は酷かった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「見せられないよ!」

種族「ヒ・ミ・ツ☆」

レベル「能ある鷹は爪を隠すってね!」


体力「結構脆いよ!」

魔力「凄く高いよ!」

筋力「大分低いよ!」

敏捷「割と速いよ!」

物防「柔らかいよ!」

魔防「相当硬いよ!」


スキル

「手の内は隠すものだよ?」


「ねえ、情報手に入ると思った?それなのに何も分からなくて今どんな気持ち?ねえねえ、教えてよ。悔しい?それとも怒っちゃった?きゃー怖い!」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 フェニキシアとか、イルネスとかとは270度位違ったベクトルの鑑定結果。それを見た俺は、


「死ね」


「どストレート!?」


 つい、マジの殺気を出しながらマジな勢いで拳を突き出した。敏捷5000から繰り出される拳は、見事にハーピィの腹に吸い込まれ……


 ……ることなく、ハーピィは体を仰け反らせてサッと回避する。


「危ないよ!当たったらどうするのさ!」


「いや、あのふざけた鑑定結果が出たら殴りたくもなるだろ?」


「そもそも無断で鑑定使うのはマナー違反なんだけどね?そこんところ理解してる?」


 そもそも、9割方敵な相手にマナーとかを気にする必要はあるのか。


「いや、そうかも知れないけどさ!1割敵じゃ無い可能性もあるでしょ!?」


「まあ、その通りだけども……って、俺その部分口に出したか?」


 俺がそう言うと、そのハーピィは、


「あ」


 と、ぼそりと呟いた。なんかやらかしたみたいな、そんな表情をしている。


「……マジでお前何者なんだよ。限界超えた鑑定弾くわ、心読むわ、気配が全く掴めないわ」


 此奴からは、イルネスのような威圧感も力も感じない。だが、その何も感じない不気味さが彼奴とは違う恐怖を生み出している。


「私はただのハーピィだよ?住み心地の良い此処に居ついてるだけの」


「ただのハーピィがこんなに恐ろしい奴であってたまるか。そうだろ?アウィス(・・・・)


「あれ?なんで私の名ま……あ」


 俺はハーピィ……もとい、大賢者(・・・)アウィス・ラパクス(・・・・・・・・・)にカマをかける。すると、あっさりと引っかかった。それでいいのか大賢者。


 アウィス・ラパクス。魔王城にあった例の本の著者であり、三英雄と呼ばれる者の一人。


 遥か昔に魔導機械文明が終わった少し後、訪れたという「滅び」から世界を救ったと言うことである程度前までは語り継がれていたという。


 知られていたことは、彼女がハーピィである事。たったそれだけだったと言うが。


「……知り合い?」


 だが、魔王城にいなかった美雪は状況が飲み込めていない。まあ、仕方が無いのだが。


「いや、赤の他人だ。だが、かなり特殊な人物だから名前は知ってた。その辺の流れは……ビアンカ、説明よろ」


「もしもーし?私はまだアウィスだって認めた訳じゃないんだけど?」


「さっき口を滑らせてなおそんな事を言うか。諦めて認めろ」


 俺は説明をビアンカに任せて、アウィスの方を向く。片翼を腰に当て、片翼で額を抑えている。そして深い溜息を吐く。


「……正体明かすのは試練の後だって決めてたんだけど、まあいいか。察しの通り、私はアウィス・ラパクス。今は語り継がれてない三英雄の一人だよ。でも、流石の私でも数千年なんて体が持たないから、普段は魂だけの状態だよ。今は魔力で仮初めの体を作ってるけどね」


 サラッとトンデモナイことを言っているアウィス。魔力で体を作ってるとか、数千年も魂だけでいるとか、常識を遥かに逸脱している。


「常識を逸脱してるのは君達も同じだと思うけどね。化け物勇者に全属の龍人、異端のホムンクルスに堕族。どんなパーティ編成してるのさ」


「……っ!?」


「驚いてるね?私も鑑定位は使えるからその位は分かるよ」


 でも、俺が驚いたのはそこではない。どうして、アウィスは俺が勇者だと知ってるのか。そして、堕族とはなんなのか。堕族は美雪の事だろうが、美雪はれっきとした人間で心当たりは無い。


「んー、ここら辺は先に説明しちゃってもいいかな。私が黒野君を勇者だって知ってるのは、「魂の記憶」を覗かせて貰ったから」


「魂の、記憶?」


 聞いたことの無いワード。そして、そんな事が出来るのか。だが、心を読むことが出来たのだからそれくらいはできるのかもしれない。


「そう。人は、脳とは別に魂にも記憶がある。私は、その魂の方を見る事が出来る。君が日本でどう過ごしていたか、どんな風にしてこの世界に来たか、そしてどんな道を辿って来たか。全部見させてもらったよ」


「……」


 俺は何も言えない。その道が果たして正しいものだったのか。この道を進み続けて、俺は目的を果たせるのか。聞きたいことは色々あるはずなのに、声にする事が出来ない。


「正しいか正しくないかは、君自身が決めること。私が指示する事は出来ないよ。まあ、魂の記憶についてはこの位にして、次の堕族について行こうか」


 アウィスは話を次のトピックに進める。まだ聞きたい事は山ほどあるのだが、それはどうせ試練の後とか言うのだろう。

 

「うん、まあ、その通りだよ。で、堕族について。これは黒野君も思ってたみたいだけど白井ちゃんの事だよ」


「やっぱそうなのか。だが、それはどういう事なんだ?」


「それを今から説明するよ。……堕族っていうのは、単なる通称であって種族を表す言葉じゃ無い。だから、人族も獣人族も魔族も堕族になり得る可能性はあるんだよ」


 アウィスはそう言う。ついでにボソッと「まあ、今の時代じゃ、ほとんど知られてないみたいだけどね」と呟いている。


「可能性ってどういう事だ?なんか条件があるんだろ?」

 

「そうだよ。堕族は「極限の意思によって”常軌を逸脱した力”に目覚めた者」の事を総称する言葉。……君は白井ちゃんの力について見た筈だから、その力については分かるよね?」


 美雪の力。それはあの【再生魔法】の事だろう。確かにあれは常軌を逸脱している。だが、


「……まあ、呼ばれる理由は分かった。でも、それなら何故堕族って呼ばれるんだ?明らかに悪みたいなイメージを植え付けられる呼び名だと思うんだが」


「極限の意思によって目覚める力。でも、極限の意思っていうのは生半可なものじゃダメなんだ。「全てを投げ捨てて復讐する」とか、「何もかも、消えちまえ」とか、そう言う負の感情でもない限り極限まではほとんど届かない。そして、そんな意思を持った者が、それを成せるだけの力を得たら。どうなるかは、分かるよね?」


 アウィスの言う通り、そんなのは言うまでもない。その意思の通り行動するだけだ。


「まあ、白井ちゃんはそれに当てはまらない特例の方に入るけどね。こんな例は早々見ないから私も内心驚いてたよ」


「……ところで、美雪が目覚めた意思ってのは、どういう内容なんだ?」


「良く言えば恋心、悪く言えば色欲」


「……愛が重い」


 ちなみに、この辺の会話はビアンカと美雪は聞いていない。フィールは聞いているが、空気を読んでいる。


「まあ、愛なんて大きさこそ違えどそんなものだよ。……で、どうするの?これ以上の情報提示は試練受けてからじゃないとしてあげないよ?」


「ちっ……もっと情報得てからにしたかったんだけどな……」


「その魂胆も分かるからそうしたんだからね?」


 アウィスは試練を受けないとこれ以上は教えてくれないという。試練は受けるつもりだから順序が変わるだけなのだが折角だから聞くだけ聞いてからにしたかった。


「あれ?話終わっちゃった?」


「申し訳ありません。少々解説が長引きました」


 アウィスが話し終わってしまったところで、美雪とビアンカの二人が復帰してくる。既に手遅れだが。


「……遅い。もう手遅れ」


「やはりですか。で、もう試練を始めるところだったりしますか?」


「いや、まだ始めはしな「そうだよ」いや、ちょっと……」


 ビアンカのセリフを否定しようとしたのだが、アウィスが勝手に話を進めてしまう。実力はさておき、こんなのが本当に大賢者だったのだろうか。威厳がない。


 だが、俺が不満を込めた目でアウィスを見ると、


「ええい!私はウズウズしてるの!此処に人が来たの、どのくらいぶりだと思ってるの!?千年超えてるんだよ!私が必死こいて考えた試練受けてくれる人ほとんどいないの!クリアしてくれた人なんて誰もいないの!ほら、さっさと受けてクリアしてみせろ!」


 キレた。どうやら、頑張って試練作ったのに誰もクリアしてくれなくてつまらなかったとのこと。それなら難易度下げろとも言いたくなるが、そうはできない事情でもあるのだろう。


「落ち着け。冷静になれ」


「なれるか!もう試練を始めさせて貰うよ!ちなみに二段構えだから!」


 俺が宥めようとするも、アウィスはそのまま試練を始めようとする。アウィスの周りに、見たこともない魔法陣が展開される。


「第一波!『己ノ闇ヲ写ス鏡(自分の心を見つめ直せ)』!アンド『空間断絶(自分一人で頑張れ)』!」


「ちょっ」

 

「っ!?」


「なっ!?」


「わわっ!?」


 アウィスが二つの魔法の名前を叫ぶと、辺り一帯が眩い光に包まれる。聞いたこともないが、魔法名で何をさせたいかの目的はつく。


 そして、その光が止む頃には。


 既にアウィスもフィールもビアンカも美雪も姿が見えず、その場にいるのは俺と、目の前にいる俺そっくりの何かだけだった。

ここで、残念なお知らせがあります。

次以降のパートは、しばらくペースが落ちます。理由としては……


ここから大体5〜6パートは戦闘パートになるということ。第一波の海斗視点、フィール視点、ビアンカ視点、美雪視点で計4つ、第二波で1か2パートの予定だからです。

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