30話 魚じゃなくね?
「……おはよう」
「おはようございます。ぐっすり寝てましたね」
「ああ。だが、一つ良いか?」
「なんでしょう」
「なんで俺はベッドで寝てるんだ?そしてこの部屋はなんだ?」
俺はビアンカにおぶって貰って寝ていた筈だった。だが、気がつくとベッドに横たわっていて知らない茶色の天井を見上げていた。
「フィールさんが30分程度でやってくれました。土魔法で。カイト様が寝ていた為テントも取り出せませんでしたからね」
「なるほど……ってちょっと待て。今何時くらいだ」
ビアンカの発言だと、拠点を作ったみたいな意味になる。ぐっすり寝ていたとはいえ、そんなに時間は経ってないと信じたい。
「夜の6時前後です。フィールさんとミユキさんは今外で料理中です」
ビアンカがそんな事を言う。だが、俺はそのセリフを聞き逃さなかった。
「って、フィールが料理してんのか!?」
「え、あ、はい。してますが」
「……マジかぁ……」
俺は頭を抱える。美雪がいるから最悪な事態にはならないだろうが、そこまで期待は出来ない。
「え、何か不都合があるんですか?」
「あー、ビアンカは知らなかったか。……彼奴、料理出来ねえんだよ。ダークマタークッキングじゃあねえけど、焼く以外の調理が出来ない上に火を通しすぎた位が標準って言う微妙なラインのな」
「それは……確かに微妙なラインですね」
ビアンカも納得してくれる。此奴は料理は普通に出来る。数百年一人暮らししているから当たり前ではあるが。
「だろ?……流石に途中で止めろとも言えないからなぁ。美雪に期待するしかない」
「その通りですね。……あ、ちなみに今回はこれまたカイト様が寝ていた所為で食材が取り出せなかった為、焼き魚です。そこら辺の川からフィールさんが手掴みしてました」
「……急いで調味料届けてファストクリエイトで米用意するわ」
俺はビアンカのそのセリフを聞いた後、ベッドから飛び退いて大急ぎで外に向かう。と言っても、ワンルームでベッドが4つあるだけの部屋なのでドアを開けるだけで出られるが。
そして、扉を開けると香ばしい香りが漂ってくる。まあ、調味料とかはやっぱり無いようだが。
「あ、おはよう海斗くん」
「……おはよう」
「ああ、おはよう。……で、何その魚」
俺が扉を出た時から目に入っていた、二人の後ろで火に焼かれている魚をじっくり見つめる。
「……ただの魚」
「ちょっと大きいから、火を通すのが難しいけどね」
「美雪。お前のちょっとの感覚はおかしい。と言うより、それは魚じゃ無くて、蛇じゃ無えか?」
俺は目の前で串に刺されている魚……もとい、蛇を見る。全長5メートル前後、胴回り30センチ位。地球にいる最大級の蛇、アナコンダと同じくらいの大きさだ。もっとも、しっかり開いて内臓などは取り除かれているが。
エラもあって、胸ビレも背ビレもしっかりとある。だけど、それ以外は完全に蛇。どっちに分類されるかは分からない。
「一応、アクアサーペントという蛇の魔物なのですが、今の時代だと調理法とかは魚と同じようなものばかりのようですよ」
だからって魚扱いされたらこの魔物が可哀想な気がする。いや、現在進行形でじっくり炙られてるから可哀想なのは確定だが。そろそろ食べ頃っぽそう。
「だからって……っと、そうだった。美雪、塩だ。使ってくれ」
「あ、ありがと。流石に味付け無しだと虚しいからね」
「それは激しく同意だな。……じゃあ、俺はちょっと米用意するわ」
俺は茶碗を取り出して、適当に米と水を入れてファストクリエイトを行う。すると、炊きたて?熱々の米が出来上がる。
「もう何回か見たけど、相変わらず凄いね。……もしも目的が戦闘じゃなくて生存だったら初めから無双出来てたかもね」
「かもな。まあ、今無双出来てる訳でもねえけど。……って、食事前にこんな暗い話をする必要もねえだろ。全員分出来上がったから、ここに置いとくぞ」
俺は米を新しく取り出した石の机に置いて話を切る。この話を続けても誰も幸せにはならないと判断した結果だ。と言うより、俺の性格上シリアスは苦手な分類に入るのだ。出来れば避けられるシリアスはできるだけ避けていきたい。自分でその雰囲気を作ってしまう事も多々あるが……。
「そうだね。……ところで、これってどう切り分けたら良い?1人当たり1メートル25センチ位?」
「そんな量食えるわけねぇだろ。……食いきれなかった分は俺が保管しとくから、食べたい量だけ切り取れば良いと思うぞ」
美雪が突拍子も無い事を言う。ネタに走っているのかとも思ったのだが、顔を見たらマジでそう思っていたようで内心で溜息を吐く。どうやら百華がマトモになった分、美雪がダメになってしまったようだ。……他の原因を考えるとすると、俺と再会するまでの緊迫の反動だろうか。
「……じゃあ、私はこの位」
まずはフィールが俺の取り出した皿を持って近づき、風魔法の一つ、『ウィンドカッター』で50センチ程を切り分ける。魔法使うなとか、量多くね?とかいう言葉は野暮だ。そんなのは今更である。
「じゃあ、私はこの位ですね」
次はビアンカがライフダガーでサクッと50センチ程……を2枚分切り取る。1メートルを一枚にしなかったのはどう足掻いても皿に乗り切らないためだ。
此奴に関しても、量について言うのは無駄である。此奴にとっての食事の意味は魔力であり、食材から得られる魔力はそこまで多いものでは無い。夢幻列島並みの魔物のならそこそこ量は減らせるが、地上にいる程度の魔物では魔力の密度がそこまで高くない。そのため、必然的に量が多くなってしまうのだ。
あと、ライフダガーで切ったのは丁度いい刃物が無かったとのこと。これを捌いた刃物は何処やったんだと聞いたら、
「フィールさんが魔法で……」
と、美雪が目を逸らしながら言っていた。俺がアイテムチートを使えないときはフィールの魔法チートでどうにかなってしまうようだ。……多分、それもダメな時はビアンカの機械チートが待っているだろうが。隙を生じぬ三段構え。
「そんなに食べて太らないのが羨ましいよ……。あ、海斗くん刃物貸して」
「はいよ」
美雪は不満そうにそう言いながらも俺から刃物 (俺が夢幻列島にいる時から使っている剥ぎ取り用ナイフ・アダマンタイト製)を借りて5センチ幅位を切り取る。
なお、5センチ幅と言ったが、横5センチ、縦が約20センチなので決して少なくは無い。ついでに言うと、この蛇結構ふっくらしてるのでボリュームもありそうだから普通程度の女子には辛いかも?位の量はある。
だが、美雪にはそんな心配は要らない。一応言うと、魔法とかは結構疲れるのだ。カロリーとかも結構消費する。つまり、日本にいる時よりは格段に食事量は増えている。まあ、それでもフィールやビアンカ程食ったら太る……いや、普通は食べきれないか。
「じゃあ、最後に俺か。よっと」
俺は美雪からナイフを返してもらって、10センチ位を切り落とす。今日は夕方だと言うのにこれが最初の食事なのだが、朝食みたいな感覚なのでそんながっつりはいける気がしない。充分多い?錯覚だ。あと、その後残りをアイテムボックス内に放り込む。
「「「「頂きます」」」」
俺らはそうして、肉に齧り付く。美雪は最初は若干躊躇ったが、すぐに齧り付き始めた。
「中々美味えな。……あと、美雪は一瞬躊躇ってたけど、なんかあったのか?」
「この世界に来てからオークとかミノタウロスとか食べてきたけど、蛇型なんて食べるの初めてだから、ちょっと、ね」
そう言われて、俺はある程度は納得する。確かに、日本にいた人が好き好んで蛇を食べるかと聞かれたら、ノーと答える。……蜘蛛を美味えといって食ってた俺はどうなるのだろうか。
「まあ、気持ちは分かるが……今更じゃ無えか?俺があの城で最後に食った食事なんて蛙だったじゃねえか」
俺は何気なく、美雪にそう言った。だが、美雪の顔が一気に驚愕に変わる。
「……え?私そんなの食べた記憶無いよ?」
「俺と、俺が教えてやった忍以外は全員鶏肉だと思ってただろうな。かなり似てたから。鑑定でも持ってねえ限り分からなさそうなレベルだったな」
美雪はそれを聞いた後、深い溜息を吐く。流石に心に来てるのか?と思ったのだが、
「はぁ〜。それならわざわざ気にする必要無かったんだね。それなら、心置きなく食べられるよ」
全然平気だった。大分図太くもなってしまったようだ。あの、学園物とかで純粋乙女のメインヒロインを飾れそうな美雪はどこへ行ってしまったのだろうか。夢幻の彼方だろうか。それとも、深淵の奥底だろうか。
「お、おう。そうか」
「逞しくなっちゃったでしょ?でも、海斗くんにはまだまだ及ばないかな」
美雪は笑いながら言う。だが、個人的には嬉しいやら悲しいやらだ。
「この生活に適応してくれるのは嬉しいんだけどな……。俺やフィールみたいに末期にはなって欲しくねえなぁ」
「そう?私は寧ろ行き着くとこまで行こうかなと思ってたんだけど」
「頼むから止めてくれ。次に彼奴らと会うのが気まずいから」
もしも、忍達に次会うとき、美雪が豹変していたら。その時はその時で、たとえ美雪が笑っていても百華に (精神的に)殺される気がする。小説的な意味で。
「……話の途中ですが、今後の予定確認していいですか?」
「おう。……ほら、そんな顔すんなって。この話が終わったら再開するから」
ビアンカが俺と美雪の話を遮って声を張る。美雪が若干眉間に皺を寄せるが、俺が一言言うとすぐに嬉しそうな顔をしてビアンカの方に顔を向ける。
「次の目的地はかなり遠いので、馬車でも二週間程掛かります。なので、ミユキさんにはこれの練習をお願いしたいのですが」
ビアンカはそう言うと、忍や晶にも渡した飛行板・改……を俺と共に更に改良したバージョンlllを取り出す。
これは、改をベースにし、フライタイトの量を多くした上で俺のエンチャントによってレベル2相当の飛行をエンチャントしたものだ。これにより、操作の自由度が大幅に増している。
代償と魔力消費量が若干増えたが、クラウディア程度の魔石でも最大速度で300時間以上は稼働させられるため、そこまでの問題は無い。
「足を引っ張らない為なら頑張るけど、これってそんなに簡単に乗れるものなの?」
「シノブさん達に渡したリミッター付きなら一時間も練習すれば乗れます。ですが、こちらはそれよりも二倍近い速度が出るのでもっと練習しないとダメですね」
ビアンカの言った通り、忍達に渡したアレは制限が掛かっており、最高速は出す事が出来ない。もっとも、その半分でも慣れてないと相当危険だが、彼奴らならきっと問題は無い。
「……所で、どの位の速度が出るの?」
「このリミッター無しで時速100Kmくらいは出せます」
「馬車の速度は?」
「普通の時速20Kmくらいです」
「……5倍かぁ……」
馬車で2週間なんぞ、これを使ってしまえば3日で着く。……なお、俺とフィールだけでビアンカと美雪を置いていった場合はもう1日減らせる。
「……まあ、俺が昼に美雪を担いで、夜に地道に練習するっていう方針でもいいぞ?確かに早く使えるようにはなっては欲しいが、急ぎすぎで事故っても困るしな」
「うーん……じゃあ、明日1日だけお願いしてもいい?それ以降は、足並みを揃えられるように頑張るから」
俺が美雪に提案すると、明日1日という制限付きでその提案を受ける。いい心意気だ。
「了解だ。……話はそれだけか?」
「ええ。では、話を再開してて下さい」
ビアンカはそう言うと、既に半分にまで減った蛇肉を食べるのを再開する。種族的に仕方が無いのだが、物理的に考えると普通は入らないはずなのだが、それは気にしたら負けというものだろう。
「分かった。……えーと、なんの話してたんだっけ?」
「やべえ。俺も忘れた。こういうのって、良くあるよな」
ビアンカの話が終わって話を再開しようと思ったら、肝心の内容を忘れてしまっており、俺と美雪は顔を合わせて笑う。
まあ、それでも適当に話題を出して、それを面白おかしく話し続けて、その途中で美雪は寝てしまった。俺が寝ている間もずっと歩き続けてた筈だから、大分疲れが溜まっていたのだろう。
「……はぁ。疲れてるなら、言ってくれりゃ良いのにな」
俺は美雪を持ち上げて、フィールが作った部屋の中に運び込んでベッドにそっと寝かせる。置く時に「うーん……」と言って一瞬起きそうになってしまったので結構びびったが、起こす事はなく寝かせる事は出来た。
その後、俺は二人と交代で夜の見張りをする。と言っても、スタンピードの所為で陸の生息する魔物も人も殆どいないので特に何も無かったが。
そして、そのまま大した事も無く3日間が経過し。
俺たちは目的地、「交錯の大聖堂」へと辿り着いた。




