表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/170

29話 眠れなかった訳

「……滅茶苦茶眠いけど、もう日が昇ってやがるんだよなぁ。流石に眠るわけにもいかねえし……」


 俺がようやく眠くなってきたときには、すでに東の彼方から赤い朝日がこんにちはしていた。未だ誰も起きてきてはいないが、寝顔を見るとそれはそれは気持ちよさそうに寝ていた。対して、俺の顔を鏡で見たら幽鬼のような顔をしていた。


 俺は暇なので、なんとなしにフィールの寝顔を覗き込む。何時もは隙が無く冷静な印象を受けるが、寝顔は無防備で心地よさそうにスヤスヤ眠っている。

 

 俺は出来るだけ気配を出さないようにして覗いていたのだが、不意にフィールが両目を開ける。どうやら気付かれてしまったようだ。


「!?……って、カイト?」


「おう、海斗だ。確かに覗き込んでたのは悪かったが、縮地までして逃げられると悲しいぞ?」


 フィールは素早く体を起こすと、縮地を使って後ろに飛び退いた。流石にそんなことをされたら俺も傷つく。


「……ゾンビみたいな顔してるから」


「ゾンビて……。まあ、さっき自分でも確認したから酷いのは分かるが……」


 フィールに指摘されて、大体自分の所為だと知る。確かに、幽鬼が顔を覗き込んでたら俺は取り敢えず拳を突き出すと思う。……顔に魔法撃ち込まれなくて良かったなぁ。


「……寝てないの?」


「お前らが寝た後嫌なもん見ちまってな。まあ、それは出発した後に話す。……流石に、此奴らには話してもどうしようも無さそうだからな」


 俺は忍達を指差しながら言う。此奴らには隠し事をしたくない気持ちはあるのだが、アレを教えたところで無駄に不安を与えるだけのような気がするのだ。


「……気付けなくてごめんなさい」


「いや、流石に寝てる中気付けとは言わねえよ」


 フィールが申し訳無さそうに言ってくるが、流石に俺はそこまで理不尽では無い。まあ、あの時は出来れば支えてくれる人が欲しかったが。それほど恐怖を感じてたし。


 と、そこで俺とフィールの会話に反応してしまったのか、どこからかゴソゴソという音が聞こえる。


「んん〜……おはよ〜……」


「……いや、寝てろ」


「朝から酷いなぁ……。女子にかける言葉じゃ無いよ……?」


「こっちも驚いてんだよ。これまで寝坊ばっかで遅刻ギリギリで走ってきてた百華がこんな早朝に起きてるんだからな」


 そう、起きたのは百華だ。美雪でもビアンカでもない。正直此奴らが起きてからだと出づらかったから起きる前に出ようとしてたんだが。


「たまには早く起きてもいいでしょ。……折角だから、ビアンカさんとユキちゃんが起きるまで色々話をさせてよ。特にユキちゃんの事について、ね?」


「……そう言うのはもっと早く言うべきじゃないのか?」


「何時もフィールさんとビアンカさんがくっついてて話しづらかった」


「今もフィールいるんだが?」


「私がフィールさんより早く起きれるとでも?」


「胸を張って言うな」


 つまりは、「本当は二人がいない時に話がしたかったけど、時間がないからしゃあない」との事だ。この辺の雑さ加減は日本にいた時から変わらないようだ。


「まあ、良いけどよ」


「ありがと」


 俺が許可を出すと、百華は一息ついてから話し出す。


「ユキちゃんは、この二ヶ月近くずっと不安だったんだよ。側から見たら普通だったけど、ふとした拍子に気分が暗くなったり、虚空を見つめてたり。ずっと心配してた」


「……明るい彼奴からはなかなか想像付かないな。やっぱり、そんだけ心配掛けてたのか」


「当たり前だよ。……ユキちゃん、日本にいた時から私に何度も相談しに来てた位だからね。勿論、どうすれば海斗が振り向いてくれるか?とか、海斗が好きな物ってなんだろう?とか」


「……日本にいた時なら、多分素直に告白されれば落ちてただろうに」


「私もそう言ったんだけど、恥ずかしいって言って出来なかったんだよね。恋なんて、そんなもんだと思うのに」


 美雪が俺を心配してくれていた事を改めて聞くと、とても申し訳無くなってくる。あの明るい美雪がそこまで不安に駆られる姿なんて、俺には予想が付かない。

 

「……だから、さ。例えフィールさんやビアンカさんが居ても、ユキちゃんを疎かにしないであげて。ユキちゃんが悲しんでるのを見ると、私も悲しくなるから」


「……それに関しては、美雪に警告はしたぞ?」


「これは私個人の頼みだよ。……いや、脅しの方がいいのかな?」


 百華は妖しく微笑む。まるで日本にいた時とは別人の顔だ。やっぱり、此奴は変わった。


「脅し?何をする気だ?」


「もしも再会した時に、ユキちゃんが悲しんでたら……日本に帰った後、海斗をモデルにしてWeb小説でも書こうかな。落ちこぼれが魔境に飛ばされて、化け物兼女誑しになって帰ってくる。そんなストーリーはどうかな?」


「止めろ。マジで止めろ。俺の精神がメルトダウンするから」


 百華の提示した事は、かなりエグかった。赤の他人には俺がモデルなのは分からないが、書かれる側は心に大ダメージ必至だ。


「そうなりたく無かったら、ユキちゃんの事を悲しませないでね。フィールさんがいる中で言うのもどうかと思うけど私はユキ海を応援するから」


「カップリングっぽく言うな。……まあ、絶対に邪険にはしないと約束する」


「もう一押し欲しいけど……まあいいよ。もしも悲しませたら海斗が辛いだけだしね」


「この野郎……」


 天然だった百華は何処へやら。もうすでに塵芥になってしまったようだ。


「……ふぁ〜……。あ、おはようございます」


「あ、おはようビアンカさん。……じゃあ、話はこのくらいにしておくね」


 百華は話を続けようとしたのだが、そこでビアンカが起きてくる。まあ、此奴らなら話してれば起きてくるからなぁ。


「……あとはミユキだけ。起こす?」


「まあ、体揺するくらいなら良いんじゃないか?美雪は朝に強かったはずだから多少刺激すれば起きるだろうし」


 俺がそう言うと、フィールはゆっくりと寝ている美雪を揺する。すると、それほど時間をおかずに美雪が反応する。


「うーん……あ、フィールさんおはよう……って、海斗くんどうしたの?凄い顔してるけど」


「一睡も出来なかっただけだっつの。今は超眠いがな」


「寝ますか?運びますよ?」


「男のプライドが許さないから遠慮するわ」


 俺が寝られなかったと言うと、ビアンカが提案してくれる。だが、それはしたくない。


「……もう出発だよね」


「ああ。四人とも起きたからな。彼奴らが起きると出づらくなるから、早めに出よう」


 なお、百華は美雪が起きる前に狸寝入りに入った。ここで起きてしまうと別れが一層辛くなるからという、百華なりの気遣いだろう。


「うん、分かった。……じゃあ、皆。私は行ってくる。皆も元気でね」


 美雪は、寝ている三人に言葉を残す。……もしここで百華が起きてるって言ったらどんな反応するんだろうな。言わないけど。


「……これ以上居ると、行きたくなくなっちまうかも知れないからな。早く行こう」


「そうですね。……私達は行かなければいけませんからね」


「……勿論。長居したから」


「だよね。……じゃあ、行こう!」


 そして、俺たちは部屋から出て行く。三人は、後ろを振り向かない。振り向いてしまったら辛いからだろう。


 だが、俺は振り向く。そして、起きている百華に一言伝言を残す。


「……お前は変わった。昔の頼りないお前じゃない。だから、二人をしっかり守ってやってくれ」


 返答は無い。だが、百華はサムズアップをして了解の意を示してくれる。


「海斗くんー?早くー!」


「ああ、悪い。今から行く」


 俺は美雪に呼ばれて部屋を後にする。……次の目的地は相当危険だろうが、百華に二人を任せたように、美雪も、フィールも、ビアンカも。全員守る。そう、誓ってから。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……なんで、眠れなかったの?」


 ウルブスを後にしてから間もなく、フィールが聞いてくる。確かに、出たら説明するって言ったな。


「その前に一つこっちから聞かせてくれ。『地獣神ベヒーモス』って奴は知ってるか?」

 

 だが、その前に俺は念の為にフィールとビアンカに聞く。イルネスが、どれほど認知されているのか。それを確かめるためだ。


「……一応、名前だけなら」


「私の知識だと、何時頃からか姿を現したが、表れる度に大きさに差異があったとか。あと、同類の存在として、『海蛇神リヴァイアサン』と、『空鳥神ジズ』というのがいるというのも記憶にあります」


 やはり、ビアンカは知識の幅が広い。……だが、正直な所知りたくない知識だが。大きさまで調節可能?止めてくれ。


「リヴァイアサン……?確か、夢幻列島の下の海に居るってお城で聞いた気が……」


「……そんなとこにそんなのいるのか……」


 まさかのリヴァイアサンの場所は判明済みだった。それに、そこには近づかないから然程問題は無さそうだ。危険なのは空鳥神の方だが。


「……で?それが?」


「ああ。……昨日感じてた、あの気配。アレの正体が、地獣神ベヒーモスだったんだ。鑑定したら、正直嫌な事が分かったけどな」


 俺が三人に言うと、フィールとビアンカは特に驚いた様子を見せる。美雪はベヒーモスというものの立ち位置が未だ完全には理解していないようで、二人ほどは驚いていない。


「嫌な事……ですか?」


「知りたくなかったな。……まず、彼奴の名前はイルネス。ベヒーモスっていうのは、この世界の人が勝手につけただけの名前だ」


「……それだけなら、そこまで問題ないんじゃ?」


 フィールが言うのは最もだ。だが、これは一番どうでも良い情報でもある。


「そこまでならな。……鑑定したら、ステータスは無かった。見れないんじゃ無くて、無かったんだ。説明文にも、生物にあらず、ステータスと言うものを持たないってあったしな」


「生物じゃない?じゃあ、本当に神なの?」


「寧ろ神なら良かったんだが……。実態は、なんかの神によって作られた何かだ。だから、俺でも勝てない奴だってのに、それの上に更に何かがいる」


「……辛い」


 フィールが小声でそう言う。この世有数の魔境で無双出来るくらいになったのに、それでも確実に勝てない相手。そんなのが、最低四体いる。辛いってレベルではない。


「で、最後。……サーチ経由で鑑定使ったら、それがバレた。おまけに伝言まで貰っちまったよ」


「……今から殺しに行くとかじゃ無いですよね?」


「ちげえよ」


 もしもそうなら、昨日の時点で全員叩き起こして、在庫の魔晶石と吸魔石と魔石を使って最大限までドーピング、それから撃退の準備をしている。と言っても、吸魔石のストックは大分減ってきたので多分そこまでは増やせないが。逃げない理由?アレから逃げれる自信がない。


「ごほんっ。『……へえ。彼奴ら以外にも、こんな事が出来るのがいたんだ。本来なら、これは宣戦布告になるけど……面倒くさいからいいや。でも、こういうのはやめた方がいいよ。私は許すけど……彼奴らは多分、やられたら滅ぼしに行くから……』っと、こんな感じだ」


「……割と丁寧」


「言ってることは物騒な気が……」


 美雪とフィールがそんな事を言っているが、ビアンカだけはシリアス顏だ。この言葉の意味を理解したようだ。


「……これはつまり、気分次第では私達を滅ぼしに行った。そう言う事ですか?」


「多分な。あと、お前の言ってた空鳥神の方は場所が分からない上に喧嘩を売ったら滅ぼしに行くって言ってるんだ。恐ろしいってレベルじゃねえぞ」

 

 何処にいるかも分からない絶対的な脅威など、考えたくもない。それは二人も同じようで、顔が引き攣って行く。


「サーチ越しにバレるなんて考えてもなかったからな。相当怖かったし、そもそも彼奴の威圧感だけは今思い出すだけでも寒気がする。……まあ、そんな感じで恐怖心を植え付けられた結果、眠れなかった。それが原因だ」


 一応、今の話の内容はどうして俺が寝れなかったのかという内容だった。それを主張する為に、俺は1度話を切る。


「……お疲れ」


「其奴はどうも。……ああ、やべえ眠くなってきた」


 俺は一通り話を終えたところで、睡魔に襲われる。話を止めたのが間違いだったかと思ったりもするが後の祭りだ。


「寝ても良いですよ?私が運びますから」


「流石にそれはプライドが……」


「寧ろ、戦闘になった時にその幽鬼状態だと困るので寝てください。もし何かあったら起こしますから」


 ビアンカが屈んで背中をさしだしながら言う。だが、それは気が引けた。だが、


「いや、それでも……」


「気にしないでいいですから」


「そうは言ってもだなぁ……」


「早くしてください。しゃがむのも疲れるので」


「それなら立てよ……」


「カ イ ト さ ま ?」


「……分かったよ」


 俺は断り続けてたのだが、最後にビアンカが殺意まで発したのを感じて諦める。そして、ビアンカの首の方に手を回す。


「では、カイト様はしっかり休んでてくださいね?」


「ああ」


 ビアンカは俺をおぶった後、サッと立ち上がり歩き出す。揺れが全くないわけでもないが、大きい訳でもなく、その小さな揺れが俺の眠気を更に加速させていく。


「……じゃあ、寝させてもらうわ。悪戯するなよ?」


「しませんから、安心して眠って下さい」


 ビアンカがそう言うが、正直安心出来ない。そう言おうとも思ったのだが、それより先に眠気の限界に達してしまい、俺は意識を夢の世界へと手放した。


 

イルネスの姿ですが、モンスターハ○ターのジンオ○ガをベースに、尻尾以外の甲殻部分にも毛を生やして全身の毛が黒、角が前向きで目が紅。大方そんなイメージです。


あと、「ベヒーモスとリヴァイアサンは分かるが、ジズってなんだ!」って人はググって下さい。説明し辛いので。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ