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24話 蹂躙劇

「……えっと、一本取った?お前が?」


 非戦闘向きとフィールに称された美雪が戦闘向きのフィールに一本取った。普通に考えたらありえない話だ。


「えっと、本当なのか?フィール?」


 俺はその真偽を確かめる為にフィールの方を向く。


「……………………」


 フィールは答えない。だが、その顔は苦虫を101匹位噛み潰したような顔をしてるので事実だろう。


「……本当みたいだな。どんな戦いだったかは分からねえけど」


「……意表を突かれただけ。今戦えば封殺できる」


「戦いに待ったは無えからなぁ。一本は一本だろ」


 フィールは弁明しているが、戦いは不意を突こうが姑息な手段を使おうが勝てば良かろうなのだ。それで負けても対処できないお前が悪いと言われるのが現実である。


「ふふふふふ。そうだよね。と言うわけで、私も参加させてね。三人には遅れをとるけど、充分活躍出来ると思うから」


 美雪は俺の方を向いて怪しげに笑う。どんな攻撃手段を使うかが全く分からないが、何故か信憑性のある雰囲気だ。


「分かった。なら、初撃を任せる。余裕のある内にお前の力を見せてくれ」


「分かったよ。じゃあ、しっかりと見ててね」


 美雪はそう言うと、両手で杖を構える。そして、聞いたこともない詠唱を始める。


「……全ての生命に秘められし治癒力よ。今此処で荒れ狂え。『過剰再生』!我此処に記録す、『事象記録』!」


 美雪が魔法を詠唱すると共に、魔物の軍勢に白い光が降り注ぐ。決して攻撃性を持たなさそうな、そんな光だ。


「「「「「ガァァァアアア!!??」」」」」


 だが、その光を浴びた魔物達は苦しそうに、のたうち回る。肉が裂け、血を吐き、地に崩れ落ちていく。


 回復魔法が為すべきものでは無いような、圧倒的な暴力。魔法名からして、再生しすぎた体に耐えられなくなったようだ。おそらく、あれば回復魔法での回復は不可能だろう。寧ろ悪化しそうだ。


「まだまだ!我此処に再現す!『事象再生』!」


 美雪はその光から逃れた魔物に向けて続けて魔法を放つ。先程と違う魔法の筈なのに、『過剰再生』と同じ光が魔物達に降り注ぐ。


「おいおいおいおい……こんな魔法見たことねえぞ?」


「……『事象再生』はともかく、『過剰再生』は私の時は使って来なかった。私も見るのは初めて」


「まあ、そこら辺は後でじっくり聞けばいいでしょう。私達も攻撃しましょうか」


 ビアンカはそう言いながら、前に見せてくれたガトリングガンを二丁取り出して両手で構える。


「……私もやる。私が一番だって事を証明する」


 フィールも両手に魔力を集め、魔法の発動準備を整える。


「キル数で順位付けすると俺がビリになるんだがな……」


 かくいう俺も、口に魔力を貯めてブレスの発射準備を進める。今回は火属性だ。


「では、行きますよ!」


「『メテオキャノン』『トゥエルノレイン』」


「うおおおぉおお!!」


 声をあげ、俺ら三人が同時に攻撃を開始する。


 ドゥルルルルルルルルル!!!!


 ボボボボボォン!!バリバリバリバリィ!!


 ボォンボォンボォンボォンボォン!!


ビアンカが機関銃を薙ぎ払い、地上にいる魔物をミンチにしていく。その連射速度ゆえ一匹に2、3発当たって無駄が出てしまっているが、接近する魔物の殆どを撃滅する。


 フィールが無数の火球と雷を作り出し、空中にいる魔物に襲いかかる。たまに運良く回避してるのがいるが、当たらなかった魔法は地上へと落ち、また別の魔物の命を刈り取る。


 俺はボール型のブレスを空に撃ち出し、山なりの軌道を描いて軍勢の中に落としていく。前線はビアンカが封じているから奥の方から潰していくつもりだ。


「皆凄いね。……じゃあ、技を借りるよ。我此処に記録す、『事象記録』からの我此処に再現す、『事象再生』!」


 美雪は俺たちの攻撃を見てまたも詠唱する。先程『過剰再生』を放った筈の『事象再生』は、今度はフィールの放った『メテオキャノン』と『トゥエルノレイン』を放つ。


 だが、これで大体この魔法の効果は察した。恐らく、ある程度前に起きた現象を記録して、それをもう一度起こす。そんな感じの魔法だろう。……大方、フィールはオリジナルの魔法でも使った後それをそのまま返されたんだろうな。光しか使えない筈の美雪が火とか雷とか使ってきたらそりゃ動揺もするわ。それにフィールの魔法は物量で押しつぶすタイプだから、それをそのまま返されたら回避も辛いだろうし。


「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ、はぁ……やべえ、疲れた」


 ちなみに、俺はそんな事を考えながら全力でブレスを連射してた。口から撃ってる為発動中は息が吸えず、徐々に息苦しくなってきた次第である。


「カイト様。私の機関銃使いますか?」


「いや、いい。まともに撃てる自身が無いからな」


 ビアンカが遠距離攻撃の手段を提供しようとしてくれるが、俺に銃器が使えるとは思えないので拒否する。サンダースターもこの中に放り投げたらビアンカの銃弾に当たってどうなるか分からないので結局は息を整えてからブレスを吐くしか無いのだが。


「ちっ……ワニみたいな魔物が五匹位抜けた!対処してくれ!」


 俺が呼吸を整えている間に、ビアンカの機関銃を潜り抜けてワニ型の魔物が前線を抜ける。体躯が低かったせいで射線に入っていなかったのだろう。


「おうよ!」


「任された!」


「分かった!」


 俺が叫ぶと、三人はそれに応じて構える。ちなみに相手は横目で鑑定した結果「ランドアリゲーター」と言う魔物で、レベル30前後、敏捷低めだが筋力と物防が高い近接型だ。


「よっ、こら、せっとぉ!って、一撃!?」


 先ず敵に向かっていったのは忍だ。自慢の敏捷で近寄って、鎌を横薙ぎに振る。今回は相手が忍達をスルーして通り過ぎようとしていたので、後ろには回り込んでいなかった。


 だが、振られた鎌はワニの甲殻をやすやすと貫通し、絶命させる。仮にも最高位ドラゴンの素材で作られた鎌、ワニ程度に遅れはとらない。


「やあ!とお!」


 百華も、殺龍剣グラムを振るう。こちらもワニをゼリーのように切り裂いていく。日本組筆頭チートは伊達じゃない。


「グルァ!」


 忍が一匹、百華が二匹。仲間が三匹殺された事により、残った二匹は攻撃しに掛かる。だが、それも意味は成さなかった。


「我が魔力の矢よ 敵を穿て 『マジックアロー』!」


 晶が接近して、少しだけ短縮されたマジックアローを放つ。これで先ず一匹。


「はぁ!」


 そして、そのまま釘バットを叩きつけて二匹目。これで、今のところ前線を抜けた魔物は全滅した。


「……この武器やべえな」


「本当だね。敵がこうもあっさりと」


「使い続けてると感覚が狂いそうだね。訓練を怠ったら酷い事になりそうだ」


 三人は新しい武器の性能に驚き、同時に恐怖を抱いているようである。まあ、そこは早いところ慣れてくれると助かる。


「ナイスだ!だが気を抜くなよ!……はぁ!」


 俺は三人を褒めた後、ブレスの発射を再開する。ビアンカの機関銃の弾薬が切れるまでに出来る限りは減らしておきたい。確か現時点で開始から1分過ぎてるからもう半分もない筈だ。


「『炎嵐』『水嵐』『氷嵐』『石嵐』『風嵐』『雷嵐』」


「『事象記録』!そして『事象再生』!」


 フィールはこのままだとキリが無いとか無駄が多いとか思ったりしたのか、翼を顕現させて飛び上がり空中から超高密度の弾幕を放つ。そして、それを見た美雪が今度はその事象を記録してからそれを再現する。


 ガガガガガガガガガガァン!!!


 結果、まるで本物の雨のように避けようの無い魔法弾が魔物に襲いかかる。一発では仕留めきれない魔物もいるようだが、数の暴力に負けその魔物も沈められる。


 前方からは弾丸の波が、上からは魔法の雨が。正に地獄絵図と言うような光景だ。あの中に入るのは俺でも考えたくない。


 だが、いくら魔物を沈めても、後方から限界など知らんと言わんばかりに魔物が押し寄せてくる。どうやら、万単位と言ったが万の位は1では無かったようだ。


 そして、ついに前線を押し止めていた弾丸の波が止まる時が来る。弾切れだ。


「弾切れのようですね……。では、私も本武装を使わせて貰います。少しだけ間隔が空くのでそれまで止めてください!」


「俺にはキツイんだがな!攻撃するときは言えよ!」


 俺は身体強化フル稼働してから剣を構えて前線に立つ。既に魔法の雨は止んでしまっており、少しでも気を抜けば全魔物が押し寄せてくる状況だ。


 今の俺の敏捷値からして見れば、魔物の動きはゆっくりに見える。だが、匹数が多いので大分苦労しそうだ。


「よい……こら……どっこい!」


 俺は大きく斜め右前に飛んで群れの右端に行き、剣を構えて力を溜める。

 

 そして、飛行で魔物の前方を横切りながら魔物を引き裂いていく。柔らかい魔物ばかりだからか抵抗は殆ど感じない。


 俺は一秒も掛けずに左端まで到達すると、地面を蹴ってすぐに来た道を戻る。勿論来る時と同じ事をしながら。


 俺はそれを5往復位する。だが、先頭の魔物しか切り落とせないので、少しずつ村との距離が詰められていく。


「カイト様!今すぐ上に飛び上がってください!」


 その時、ビアンカの叫ぶ声が聞こえ、俺はその指示通りに飛び上がる。その直後、


 バリバリバリバリィ!!!


 という音を立てながら、雷の線が魔物に向かっていく。ビアンカのメイン武器「スパークマイン」の攻撃だ。なんでも、多少弄って鉄球発射から通電までの時間を短縮できたらしい。


 間にいる魔物を一匹残らず焼き尽くす攻撃。後ろから押し寄せるように流れてくる魔物は回避する手立てを持たず、みるみるうちに焼かれていく。


 だが、突如として迸る雷が止まる。鉄球が負担に耐えきれずに砕けたのだ。


 これは前からなのだが、この鉄球は使い捨てであり雷を迸らせるために色々と仕込まれているのだが、負担をかけ過ぎると勿論ぶっ壊れるのだ。それがこの兵器の最大の欠点でもある。大体10秒位だ。


「カイト、迎撃手伝って。……其は全てを閉ざす闇。ありとあらゆるものを飲み込み、絶望をもたらす黒き闇。理解不能の混沌よ、今此処で槍となれ 『カオス・ハスカ』」


 フィールは俺にそう言った後、詠唱をして漆黒の槍を構える。オドロオドロしいオーラを纏っており、見るからに危険そうだ。ちなみに、槍と言ったがパルチザンと言うのが正しそうである。


「……ああ!分かった!どうすればいい!?」


「私が広範囲を巻き込んで攻撃するから、その生き残りを」


「了解だ!」


 フィールはそう言った後、地上に降りて槍を突く。すると、

 

 ヴォォオオオン!


 という音と共に、前方へ高濃度の闇が飛ぶ。それに飲まれた魔物は視認できないが、どうなったのかは想像に難くない。


「……ふんっ。ふんっ!」


 フィールは少しずつ方向をずらして2度3度突きを放っていく。その度に、直線上にいた魔物は飛び出した闇に飲まれていく。ちなみに、闇に飲まれた魔物は生命力を奪われ死んでいた。今回はいないが、生きている場合は体が蝕まれ、徐々に弱っていったり痺れて動けなくなったりするらしい。恐ろしい話だ。


 だが、直線上とその周りを巻き込むようにしか当たらないので、かなりの撃ち漏らしがある。まあ、それを切り捨てるのが俺の役目だが。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」

 

 俺は魔物を全力で切り刻みながら空を舞う。それでも魔物は押し寄せてくるが、ある程度はフィールがやってくれる為まだ気が楽だ。


「ふっ……ふっ……ビアンカ、まだ終わらないの?」


「今準備が出来ました!すぐに上へ避難して下さい!」


 フィールが痺れを切らしてビアンカに聞くと、避けるように警告をしてくる。俺らはそれに応じてすぐに上へ飛行する。


 ヴォォオオオオオオオオオ!!!


 という音を立てて、紅の炎が下を横切る。その炎は割と早い速度で右へ左へと薙ぎ払われ、魔物を焼き払っていく。前よりもリーチと上下の範囲が広くなってる気がする。


「……飲み込み奪え、『スコタディ・ネブラ』」


 上空に上がったフィールは、聞いたこともない新しい魔法を発動する。魔法名を言った直後、フィールの全身から黒い霧が吹き出し地上に降りていく。


 静かに沈んでいく黒い霧。それは地に降り立ち這いながら広がっていく。そして、それに触れた魔物は先程の闇に触れた時のように、弱って間も無く力尽きていく。


 さらに、フィールが霧の放出を止めた後も霧の勢いは何故か増していく。まるで、何処からかエネルギーを絶えず吸収してるように。


「成る程な。魔物の生命力を動力にしてるのか」


 だが、種が分かったところで俺が止められる物でもない。と言うより、これフィール本人にも止められるのだろうか。


 など考えていたのだが、霧がある程度広がったところでフィールが呟く。


「……『チェンジ』」


 フィールのその声を引き金にして、黒い霧が突如として白い霧に変わる。よくよく見るとその中の物が全て凍りついている。


 その凍りついた魔物は、ビアンカが放つ炎に包まれて消し去られていく。オーバーキルかもしれないが、範囲内にいる奴が悪い。動けなくしたのはフィールだが。


 そして、その一部始終を確認した後、ついに魔物の最後尾が見える。ちなみに最後尾はゴブリンとかコボルトとかオークとか貧弱な魔物ばかりだ。まあ、逃げ足の速さ的に仕方がないが。


「最後尾が見えたぞ!後少しだ!」


 俺は士気を高めるために大声で叫ぶ。正確には、魔物が減った事で遥か遠くに"何か"の気配を感じているのだが、わざわざ戦う必要もなさそうな距離なので数には入れていない。


「分かった。……『石荊』『チェンジ』」


 まず、それを聞いたフィールが「ストーンローズ」を発動し、それを火属性へと変える。


「『事象記録』!『事象再生』!」


 そして、それを美雪が再現して二倍の密度にする。これで、抜けるのはほぼ不可能になった。

 

「もう、後は拳銃だけで充分そうですね」


 その炎の荊を抜けた少数は、全員漏れなくビアンカに頭を弾き飛ばされる。それをタダひたすら繰り返し、抜けてくるものがいなくなるまで繰り返した。


 そうして、俺が今認識出来る魔物は遥か遠くの何か以外いなくなり、歴史に名を残すほどの超絶規模のスタンピードは幕を下ろした。


 結構頑張ったのに、前線の四人の中で俺が一番キル数が少なかったのは……記憶の奥にしまっておこうと思う。

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