23話 城の武器が、霞んで見える
「すー……すー……」
「むにゃむにゃ」
「うーん……後五分……」
「あぁ……窓に……窓に……」
「……」
現時刻7時。スタンピード到達まであと1時間。
俺は美雪達も後衛として参加させるつもりだが、睡眠時間は必要だと言うことで誰かが起きるまでは待ってやろうと思っていた。流石に高校生だから、6時くらいには起きると思っていた。
だが、実態はこれである。全員起きねえ。それどころか忍は悪夢にうなされているようである。
「……どうするの」
「まあ、起こすに決まってるが。これでな」
俺は少々手荒だがハリセンを取り出して忍の頭をスパーンと叩く。流石に起きるだろう。
「ぬわーーー!!って、海斗!?なんで此処に!?」
「もう7時だから叩き起こしに来たんだろうが。急用が出来たからすぐに村の東に行く。あ、勿論お前らもな」
「は?」
俺は忍に決定事項を告げる。そして、忍が状況を飲み込もうとしてる間に晶の頭も一閃する。
「痛ぁ!?何!?海斗!?」
「お前日本にいた時はもっと生活習慣良かっただろうに。とにかく、今すぐ出掛ける準備をしろ」
「え?」
「うーん……?あれ?海斗くん?」
「んー……、なんで海斗が此処に?」
俺が晶を起こして少し話すと、ようやく声に反応したのか美雪と百華が起きる。ハリセンで叩く前に起きて良かった。
「お、お前らも起きたか。じゃ、俺らは外で待ってるからさっさと出掛ける準備してくれ。事情は外で話す」
「え!?何!?どういう事!?」
「だからそれは歩きながら話すって。もう1時間ぐらいしか猶予無いから急いでくれ」
そう言った後、俺は四人に反論させない為にそそくさと部屋を出る。流石に行ってからある程度準備はしたいから早くして貰いたいのだ。
そして、3分位後に四人が装備を整えて出てくる。美雪と晶は杖、忍は鎌、百華は剣を背負っている。
俺はそれを確認した後、東に向かって歩き始める。勿論その途中、色々と質問される。
「海斗。で、一体これはなんなんだ?」
「東から魔物の大群が接近してるから殲滅する。流石に数が多すぎて俺ら三人じゃ取りこぼしが出そうだからお前らにも協力して貰うって訳だ。まあ、前線には出ないで突破してきた奴を倒して貰うだけだけどな」
「海斗達が倒しきれない量って……一体どの位いるんだい?」
「万単位」
「うわ……」
俺が情報を告げていくと、どんどん四人……いや、三人の顔色が悪くなっていく。だが、美雪だけは寧ろやる気まんまんの顔だが。
「でも、それにしては村が妙に静かじゃねえか?普通もっと騒ぎになるだろ」
忍が、周りを見てからそう聞いてくる。やっぱり、此奴の頭は残念だ。
「……なあ、妙だと思わねえか?静かどころか、お前は今日此処に来るまで俺ら以外の人を一人でもいいから見たか?」
「……いや、見てねえな。何時もは外出たら最低一人はいるんだが」
「なあ、それなんでだか分かるか?」
「……戸締りしっかりして閉じこもってるとか?」
俺は忍の回答に頭を抱える。流石にひどい回答だ。
「こんのクソバカチンがぁ……。晶、お前なら分かるよな?」
「流石にそれは言い過ぎなんじゃないかい?まあ、既に避難したみたいな回答だと思うけど」
「正解だ。俺らが朝の5時頃から行動して避難させた。別に負けるつもりは無えが、不特定多数に戦闘風景を見られるのもよろしくないからな。それに、下手な場所に居られると巻きこむし」
忍は諦めて晶に問うと、すぐに正解が返ってくる。忍とは違うな、忍とは。
「……で、30分位余裕を持って到着出来たな。ところで、ここらでお前らの武器をチェックさせて貰ってもいいか?場合によっては俺の作っておいた新作に取り替えさせるが」
「んー、そうは言うが、俺らの武器は全部城の宝物庫から貰った物だぞ?そのままで良いとは思うが」
「いいから見せろっての」
そう言って、俺は四人から武器を受け取って鑑定する。
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剛鎌・無名
分類 装備
レア度 かなりレア
エンチャント 霊体特攻
説明
アダマンタイトによって作られた鎌。恐るべき切れ味を誇るが、結構重い。無名の名は製作者がこの武器の出来に満足してなかった事から付けられたが、それでも充分すぎる性能を持つ。
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聖杖サンクティオ
分類 装備
レア度 凄い
エンチャント 光魔法強化 魔力+50
説明
光属性の威力を増幅させる事の出来る杖。上昇量は10%ほどだが、それでも充分な上昇量である。さらに、些細な量だが装備者の魔力を上乗せする効果もある。
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魔杖ソーサリー
分類 装備
レア度 かなりレア
エンチャント 魔力+150
説明
装備するだけで魔力を飛躍的に上昇させる事の出来る杖。一定の魔法の威力を増大させたりする事は出来ないが、杖共通の特徴である魔法行使の補助は普通に出来る。
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聖剣エクスカリバー
分類 装備
レア度 ヤバい
エンチャント 光属性 +3 硬化
説明
古の勇者が魔物の王と呼ばれる存在を打ち倒す時に使われた伝説の剣。圧倒的性能を持ち、これに匹敵する武器はあんまりない。
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宝物庫にあったと言っていた通り、そこそこ強力な装備が多い。だが、何か物足りない感が否めない。
「どうだ?流石にこれらを超えるのは難しいんじゃ無いか?」
「いや、余裕だな。まあ、既に完成してるから実際に持ってみろ」
俺はまず美雪から作った武器を渡していく。美雪に渡したのは水晶のように透き通る杖だ。
「えっと……これは?」
美雪はその杖を受け取って俺の方を見てくる。まあ、鑑定持ってるのは俺だけだし効果が分からないのは当然だが。と言うことで、俺は鑑定で見た事を紙に書いて渡す。
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星杖スターダスト
分類 装備
レア度 幻想
魔力+300
説明
割れない魔晶石と魔力のステータスクリスタルを加工して作られた異質な杖。杖全体に魔力を貯めることができ、好きな時に魔力を取り出す事が出来る。また、貯めた魔力を解き放つ事で貯蔵量に応じた威力の魔法弾を発射可能。
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ちなみに、エンチャントによるステ上昇と素材補正によるステ上昇は別物である。これはステクリスタルを埋め込んでいるからエンチャントでは無い素材補正の方だ。別に大した意味は無いが。
「……城のより優秀じゃない?これ」
「言ったろ?あと、今回はサービスで俺が魔力をチャージしておいたから貯蔵率は100%だ。最大10,000まで入るから定期的にチャージしておけ。あと、マ○ンテ効果を付けておいたが、近距離相手に撃つと自分まで巻き込まれるから気を付けろよ」
「う、うん。気をつけるよ」
美雪に杖の効果を教えると、感心しながらも少し恐れたような表情をする。まあ、切り札の使い方をミスると自爆するって言うのは恐ろしいだろうが。
「……毎日毎日何か作ってると思ったらそんなもん作ってやがったのか。もう驚き疲れたぜ」
「勿論お前の分もあるぞ?お前のはこれだ」
「……何も無えんだが」
忍が呆れながら言ってくるので、忍の分の武器も差し出す。だが、忍は不満そうな顔をする。
「いや、あるだろ。見えないのか?」
「城でサラッと聞いたんだが、この世界にも精神病院はあるらしいぞ?行ってくるか?」
「ふーん……じゃあ、もしも本当に武器があったらどうする?」
「俺が精神病院に行ってや……いや、待て。確か、お前訓練の時に見えない鎖とか使ってたよな……?」
「ご名答。と言うわけでこいつをやろう」
忍が答えに辿り着いたところで、俺は鎌を見えるようにする。想像通りの素材で作られた物だ。
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幻鎌ファンタジア
分類 装備
レア度 ヤバい
エンチャント 敏捷+300 筋力+200
説明
ミラージュドラグーンの骨と鱗と翼を使い作られた大鎌。魔力を流す事で姿を消し、不意打ちやリーチの錯乱などにより戦闘を優位に進められる。切れ味も申し分無い。
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「分かってはいたが……やっぱエグいな。というか、ステの上昇量おかしくねえか?」
忍がそんなことを言ってくる。一般人が20か30レベ上げないと手に入らないステータスが武器を持つだけで手に入るのは此奴にとっては異常なのだろう。
「出来るもんはしょうがない。まあ、こう言うステ上昇装備の欠点として力が経験に伴わないってのがあるが、敢えて使わないで訓練したりすれば問題無い筈だ」
俺は一応念の為に警告しておく。戦闘はステータスよりも技術や経験の差なのだ。
「私のは?」
「お前のはこれだ。切れ味だけならエクスカリバーには劣っちまうが、これにもステ上昇を始めとしたエンチャントが色々付いてるからうまく使え」
百華が聞いてきたので俺は殺龍剣グラムとその解説用紙を渡す。前の解説文から筋力、敏捷共に200プラス、剣術補正レベル2、雷属性、龍特攻弱化などが変化している。
「なんか凄い禍々しいんだけど」
「素材に龍の血が含まれてるからしゃあない。それに別に呪われたりしないから安心しろ」
百華が突っ込んでくるが、俺はそれをサラッと返す。……今更だけど、これを中二の頃の俺が見たら狂喜乱舞しそうだな。厨二病的な意味で。
「……僕のも期待して良いのかい?」
「ああ。そして悲しめ。お前のは一番のネタ武器だ。まあ、スペックは拘ってるが」
三人分渡したところで、最後に残された晶が期待した目で此方を見ている。だが、現実は非常だ。
俺は、晶に紙と物を渡す。すると、顔が盛大に引き攣る。
「……ねえ、海斗」
「なんだ晶よ。どうかしたか?」
晶はなんて言っていいのか分からなさそうな反応をしている。まあ、そのツッコミどころしかない見た目の所為だろうか。
「……これ、釘バットって奴だよね?僕鈍器は使えないんだけど」
そう、俺が渡したのは釘バットである。性能にはさっきも言った通り拘ったが。
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クギバット
分類 装備
レア度 ヤバい
エンチャント
魔力+200 筋力+200
無魔法強化 魔法反射
説明
アダマンタイトでコーティングされたバットに、オリハルコン製の釘をありったけ打ち込んだ撲殺兵器。何処からどう見ても鈍器だが、杖としての機能も内蔵されており杖としての使用も問題無い。ちなみに、釘は打ち込んだ後頭を切り落として削り尖らせてあるので、普通に刺さる。
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正直なところ、グラムよりも凶悪だったりする釘バット。ボールは打ち返せないが魔法が打ち返せるので遠距離対策もそこそこ出来ている。
「なんでか杖スキルでも使えるようなんだよな。と言うわけで使いこなしてくれ」
「性能だけは良いのに、なんでこんな見た目に……」
晶は嘆く。見た目を気にしなければ本当に使える武器なんだけどな。
「まあ、今回はそれらを使ってくれ。……で、遂に見えてきたぞ。万単位の魔物の軍勢、レベル帯は1から60位。止まる気は0だ」
俺らが武器に付いて色々していると、遂に木々をなぎ倒し、水田や畑を踏み荒らしながら魔物の軍勢が迫り来る。
「じゃあ、さっきも言った通りだ。俺ら三人が大多数を殲滅するから、お前らは取りこぼしを殺ってくれ」
「おうよ!」
「分かった!」
「了解!」
俺が四人に頼むと、美雪を除いた三人が返事をして後ろに下がる。村の塀に到達するギリギリまでだ。
「……美雪。お前も下がってくれ」
俺は下がろうとしない美雪に言う。だが、美雪は首を振る。
「……海斗くん言ったよね?」
「何をだ?」
「『俺たち三人の内の誰かから一本取れる位じゃ無いと守り切るのも辛い』って。て事は、一本取れる位の力があれば、海斗くんについて行っても良いんだよね?」
「まあ、そうだが……って、まさか……」
俺は話の内容が見えて来なかったのだが、なんとなく言いたい事が分かってしまう。だが、それはとてもじゃ無いがありえない事。
だが、美雪は微笑みながら俺に言う。
「……それなら、条件を満たした私は此処に立たせてもらっても良いよね?」
戦闘向きでは無い美雪がどうやって一本取ったのか。それは次回に。




