21話 計7時間半の苦行
一応学生の身故、夜しか書く時間が無い。
だが、混雑によってその夜にアクセス不能。
か、書けねえ……。
「あ、戻りましたか」
「ああ。ところで、フィールと美雪の姿が見えないんだが。何かあったのか?」
部屋に戻るとビアンカが挨拶してくる。百華は疲れてるのかビアンカのベッドに転がっている。自分のベッド使えよ。
「フィールさんとミユキさんなら、まだ訓練をしています。私がモモカさんを、フィールがミユキさんを教えることになったのですが、ミユキさんがなかなかバテず、体力の持つ限り続けて欲しいと言ってたのでフィールさんが付き合っている状態です」
「おー、大分頑張ってるんだな。まあ、なんかあってもフィールなら対応出来るだろうし心配する必要は無えか」
美雪はまだフィールの元で特訓しているとのことだ。……そう言えば、フィールの特訓って大分スパルタだったような記憶があるんだけどな。飛行訓練の時酷い目にあった気がする。
「っと、まあ、それはいいか。隣の部屋って誰もいないよな?」
「いませんが。何をするんですか?」
「いつものだ」
「ああ、いつものですか」
いつものと言うとビアンカは納得する。確かに道具作成ばっかしてたけどそれがいつもので通じてしまうのはなんか悔しい。
「いつものってなんだよ」
「俺の本職を思い出せば解る」
「……人外だったか?」
「よーし分かった。忍には個人授業を受ける義務をやろう」
「冗談だからそれはマジで勘弁してくれ。生産職だろ?鍛治とか裁縫とか」
「そうだ。で、俺はそれを使って道具を作るのを主だってやってるんだ。だから、今日もそれをやるって訳だ」
「見に行ってもいいかい?」
俺が何するか分かってなかった二人に何をするか説明すると、晶はその作業風景を見たいと言ってくる。でも、今回は不都合があるんだよな。
「今回は駄目だ。しっかりした事情もあるんだが、それも言えないな」
「どうせ大した事情じゃ無いんだろ?話せよ」
「駄目だ。まあ、後悔しても良いんだったら見に来てもいいけどな」
「じゃあ、見に行かせて貰うわ」
「僕も行くよ」
「……はぁ」
俺は隣の部屋に行って、適当に材料とかを取り出す。今回作るのは、美雪達四人の装備だ。だから、渡す相手の忍と晶には見られたく無かったんだが。
まずは殺龍剣グラムの魔改造の続きを行う。ラントにいる間にある程度の魔改造は済ませており、龍殺しの効果を弱めてフィールに悪影響が出ない程度にはしてあるが、まだ物足りないのだ。ちなみに、エンチャントの弱化は吸魔石をエンチャントの材料にしたら出来た。
「なんだよその禍々しい剣は」
「俺作成の魔剣だ。材料はオリハルコン」
「……それ百華が使ってる聖剣と同じ材料なんだけど」
「ほう?百華が使ってる聖剣?名前はなんだ」
「聖剣エクスカリバーだった筈だよ」
「エクスカリバーか。改造次第で充分越えられそうだな」
エクスカリバーの性能はイマイチ分からないが、作った者が夢幻列島を攻略してるとも思えない。それならば、スキルの関係上俺の方に分がある。
「国宝って言ってたんだが……」
「それでも結局は人が作った道具だろ?越えられない理由にはならないな」
「なんだいその理論は……」
俺は二人に色々言われながらも、エンチャントの為の材料を用意する。今回付けようと思うのは筋力・敏捷上昇と、剣術への補正、それと雷属性の系四つだ。多分2時間位は掛かると思う。
まあ、取り敢えずステ上昇のエンチャントの為にクリスタルを作成する。普通にやると時間が掛かるのでファストクリエイトを使わせてもらうが。
「えーと、魔晶石と吸魔石、それと魔石……まあ、無難に中位ドラゴンのでいいか。で、ファストクリエイト」
そうして、さっとクリスタルをニつ作成する。両方ともステータスが500位上がる奴だ。まあ、これを使ってエンチャントするから上がる数値は減るだろうが。
それならクリスタル渡したほうが早いんじゃね?と思うかも知れないがそれには理由がある。俺は生き残る為に経験を多く積まずに先に力を得てしまったが、他の奴らには経験とともに力を得て欲しいからだ。クリスタルなどで上げてしまったステータスは下がらないが、武器のそれは装備しなければ下げることは出来る。まあ、そこら辺の調整を効かせて経験を積んで欲しいと言う理由である。
「あ!?なんだ今の!?」
「一瞬で何かが出来た?どうなってるんだい?」
二人は素材が突然完成品になったことに驚いている。……そう言えば、ファストクリエイトの事は言って無かったな。
「まあ、俺の特殊スキルのオマケだな。スキルレベルが大きく超えてないと品質が劣化する代わりに、道具無しで短時間でアイテムを作れるっていう能力だ。俺があの島で装備とかを用意できた一番の理由だな」
「あー……て事はだ。それは城にいた時から出来たと」
「余裕で出来たな」
「マジか……人外になる前から負けてたのか……」
「いや、あの時はステータスが低すぎたからな?お前の圧勝だったからな?あの時は」
「あの時はな……」
忍が溜息を吐くが、俺はそれを流して作業を開始する。あと、事前にステータスを弄って魔力以外の全ステを2000ずつ程移し、魔力を底上げしておく。
まずは剣術補正の奴だが、エンチャントの総数がそこまで多くないのに30分も掛かるようだ。こりゃ2時間じゃ終わりそうに無いな。あと、これに関しては前に説明した通り俺のスキルからエンチャント可能だ。
「じゃ、俺は今から作業に入るから対応出来なくなるからそこんところよろしく」
「もし邪魔したら?」
「バテるまでボコボコぶっ叩く」
「それ死なね?」
「要するに邪魔するなって事だっつの」
俺は忍達に警告をしてから作業を開始する。一秒につき魔力を一消費するから1800の魔力が必要になる。余裕だな。
そして、30分掛けて剣術補正のエンチャントがつく。補正はスキルレベル2相当しかないが、まあ充分だろう。
「あー、やっと終わったか?結構暇だったんだが」
「馬鹿言うな。まだまだ終わらねえよ」
「げ、マジか」
「マジだ。あと言っとくが残りもこんな感じだからな?」
「うへぇ……」
忍は明らかに嫌な顔をする。そりゃ、唯手を当てて魔力を延々と流す光景を見てるのが面白い訳がない。今回は百華の武器の改造だったからそうなってしまったが、別の時ならもう少しマシな光景を見れただろうな。運の無い奴らだ。
「……ちょっと隣の部屋でビアンカに色々聞いてくるわ」
「そうか」
「僕もそうするよ」
「まあ、いい判断だな」
二人は見飽きたからかあっさりと部屋から出て行く。彼奴らの武器に手をつける前に出て行ってくれたのは嬉しい。
「……じゃ、残りもやっちゃいますか。怠いけど」
だが、結果として必要時間がえらい事になっていたので夕食までに作ることは無理と判断する。雷属性に1時間、筋力上昇に2時間、敏捷上昇に4時間掛かると分かったからだ。流石に計7時間を食事までに終わらすのは不可能とと言うことで、敏捷上昇以外をエンチャントして一旦は切り上げる事にした。
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「つーかーれーたー」
「あの後3時間も永遠と同じ事してれば疲れるのも当然だろ」
「まだ食事後に4時間の作業が残ってるんだがな……」
「化け物も大変だな……」
俺が部屋を覗いても誰もいなかったので食堂に行くと全員揃って飯を食っていた。俺を置いていった事に文句も言いたかったが、疲れてたし腹も減ってたので即注文して席に着く。
「……頑張って」
「ありがとな……。あー、体が気怠い……」
「海斗くん大丈夫?」
現在、魔力の使い過ぎで大分体が怠いのだ。まあ一万近い魔力を使えばそれは当然である。
「で、女子組の訓練は如何だったんだ?フィールとビアンカから見て」
「……ミユキは、光属性が得意だけど攻撃よりも回復に特化してた。攻撃役としての道は捨てさせたほうが良いと思う。今は、魔法創造と高速詠唱を覚えさせようとしてる」
美雪は回復役以外の選択肢は無いと言うフィール。攻撃手段が無いのは一人なら厳しいが、集団戦においては最も重要な役割の一つである。
「まあ、しっかり連携出来れば充分なメリットだな。百華の方はどうだ?」
「モモカさんの方は、正直言って無駄な動きが多いです。やはり、経験が足りてないかと。スキルやステータスが同じ程度の相手でも一対一では少し厳しそうなのでまずは格下程度の相手と戦わせた方が良いと思われます」
「まあ、経験に関してはまだ二ヶ月経って無いからな。それは仕方がない。よろしく頼む」
美雪の問題点は忍と大差無いようだ。まあ、前衛だからそれは分かるが。
「お客様ー!ご注文の辛汁かけ飯です!」
「お、ありがとな。じゃーいただきます」
「「「「「「ご馳走様でした」」」」」」
「てめえらはもう食い終わってんだな畜生め!」
俺が辛汁かけ飯……まあ、要するにケイオスピア式カレーを食べようとすると、俺以外の全員が食事を終える。タイミングを見計らってたかのような感じだ。
「あー、美味え。疲れた後の食事は良いねえ」
「ジジイみたいなこと言ってんじゃねえよ。と言うよりカレーなんてメニューにあったのか。凄え食いたくなって来たんだが」
「メニューを見ない、お前が悪い」
「……明日頼むわ」
俺はカレーを食べていると忍が後悔した目で言う。腹が減ってたのは分かるが、メニューはしっかり見る事をオススメする。
まあ、その後黙々と食べ、たったの3分で食べ終わってしまう。正直なところ物足りない。
「んー……少し足りねえな」
「食い終わるの早すぎないかい?さっき届いたばっかだと思ったんだけど」
「疲れてたんだよ」
俺は晶に言い放つ。疲れてたのは事実だし仕方がない。まあ、一番の問題はこの後もっと疲れる事をするという事だけだが。
「で、カイト様は何を作ってたんですか?」
「ああ、例の剣の改良だよ。あと一工程で終わるんだがそれが4時間位掛かるみたいでな……」
「……ご愁傷様」
「逆に気が重くなるんだが……」
ビアンカの応答に答えていると気が重くなってくる。何せさっきまでの作業が合計3時間半なのに対して次のは一回で4時間を費やすのだ。勿論少しでも手を止めたら失敗する。気が重くならないほうがおかしい。
「……はあ、まあ、このままここで喋ってるのも迷惑だしな。そろそろ部屋に戻るか」
そう言って、俺は話を切り上げて部屋に戻り、作業を再開して皆が寝静まる頃にようやく終わらせる事が出来た。
「あー……終わった……」
体内時計で丁度日を跨ぐ位の時間である。いくら化け物と言われる俺でも辛いものは辛い。多分魔力不足が一番の問題だろうが。
「……終わりましたか?」
「うお!?なんで起きてるんだよ!」
俺は後ろから声を掛けてきたビアンカに驚く。さっきまで近くのベッドで寝てると思ったのだが。
「私は人間とは違って睡眠の重要性は薄いんですよ。確かに寝ないと疲れますけど、三日位なら寝なくても大丈夫ですよ」
「初耳なんだが……」
「まあ、寝るに越したことは無いですしこれまでも寝てましたしね。まあ、その分眠りは浅いですが」
「……悪いな、起こして」
ビアンカの新しい体質を知ったとともに、申し訳無い気持ちも湧いてくる。眠りを妨げられるのは結構嫌な事だ。
「気にしないで下さい。それにしても……」
「なんだ?」
ビアンカが何か詰まったような口調で言ってくる。眠いのだが、結構気になる。
「折角幼馴染みと再開出来たのですから、少しはゆっくり過ごしたらどうですか?いつ何が起こるかは分かりませんが、少しくらい自分の為に動いても良いと思いますよ」
ビアンカは俺の目を真っ直ぐ見つめてくる。本当にそれで良いのか?という感情が伝わってくる。
「……そうだな。まあ、今作ってる装備に関しては出発するときに彼奴らに渡そうと思って作ってるものだからそれは止めないけど、もっと彼奴らといる時間を大切にしないとな」
「作業は皆が寝てる間にやってしまいましょう。私も手伝いますから」
ビアンカは微笑みながら言ってくれる。此奴は、頼れる時と頼れない時との差が大きすぎるんだよな。
「ありがとな。……でも、今日は流石に寝させてくれ」
「分かってますよ。あ、でも最後に一つ」
ビアンカとの話を切り上げて寝に入ろうとすると、ビアンカが一つ話を追加してくる。
「ミユキさんの事なんですが……いいんですか?カイト様は「せめて俺達三人の内一人から一本取れるくらいじゃ無いと守るのも辛いかもしれない」と言いましたが、一人くらいなら守れるのでは無いですか?」
「……まあ、相手にもよるけどな。今まで戦った相手なら、一体を除いて三人いれば充分守れる。だけど、その一体の例があるから危険は重ねたく無いんだ。例え俺の事を好きだと言ってくれても、甘くして死なれたりしたら……」
一体の例というのは、夢幻列島のフェニキシアの事。あんな特性を持つ奴は早々いないと信じたいが、油断はしてはいけないのだ。
「……というか、お前は美雪が着いてくる事に関しては構わないのか?」
俺は話している間に湧いた疑問をビアンカにぶつける。ビアンカが魔族国で、「ホムンクルスといえど、私だって乙女ですよ?好きな人が他の子といちゃいちゃしてたら、嫉妬だってしますよ。それに、私はそれをただ見てるだけじゃ物足りないですからね」と言っていた通り俺に好意を抱いているなら同じく俺に好意を抱いている美雪が着いてくる事に反対すると思ったのだが。
「少し考えたら分かったんですが……私は、カイト様がいればそれだけで良いって訳では無かったのですよ。カイト様が笑っている方が私は幸せだって。確かに他の子といちゃついてるのは微妙な気持ちになりもしますが、幸せそうに笑ってる姿を見れる方が良いと思ったのです」
「……そんなもんなのか?」
「そんなもんですよ」
どうやら、女子の心は俺には理解不能のようであった。
「まあ、要するに……カイト様が望むようにして下さいって事です。私はそれに従いますから。では、お休みなさい」
ビアンカは最後にそういうと、ベッドに戻ってしまう。
「……俺の望むように、か……」
俺はそう呟いてから、ベッドに入って自分がどうしたいかをしばらくの間考えていた。




