16話 米が、食べたい
唐突な別れ。あと、三章一話と話の流れがほぼほぼ同じです。
そして、何事も起きず、3日間が経過して出発する事になった。今は魔族国の時と同じように門の前でアレン達とソールが見送りに来ている。
「全く。見送りになんか来なくても良かったのに」
「馬鹿な事を言うなよ。お前は確かに態度も悪くて、悪ふざけも度が過ぎてて、俺らの常識を完膚なきまでに叩き潰したような奴だったが、俺らにとってはこの住み慣れた街を救ってくれた英雄なんだから、来るのは当然だろ」
「褒めるのか貶すのかはっきりしろよ。つーか褒めるところもなんかおかしいし」
「だって事実じゃない。……あれが人間としての基準なら私達はアリみたいなものよ」
「そこまで卑下しなくてもいいとは思いますよ?」
「……ビアンカの言う通り」
「そうは言われてもね……」
「そもそも比べる対象じゃ無いというか……」
「慰めてくれる2人も同類だしね……」
「お前ら相当失礼だな」
だが、そうもいいながも見送りに来てくれているのを見ると、実際に感謝はしてくれているのだろう。俺は休みたかったからぶちのめしに行っただけなのだが。
「んー、じゃあ、別れる前に私としてじゃ無くて、ギルドラント支部支部長としてあの時のお礼を言わせてね。私達の住むこの街に迫った圧倒的な脅威を、たった三人で、一切の被害を出さず退けてくれた。本当に、ありがとう」
ソールは息を吸って、体に纏う雰囲気を変えて伝えてくる。確かに、驚ろかれたり呆れられたり報酬を貰ったりはしていたが、こうして改まってお礼を言われてはいなかったのだ。
「そんなに気にするな。ただ休みたかったからそうさせてもらっただけだ」
「ははは、そう言うと思った。そんな事を言えるのは君たちだけだとは思うけどね」
俺がそう返すと、ソールは真面目オーラを解除して微笑む。……やっぱり、救って正解だったかもな。
「あなた達にもしっかりとした目的があるみたいだし、私達が長く引き留めるのもどうかと思うからさっさと行きなさい。……あ、別に追い出したい訳じゃないからね?私だって感謝はしてるし楽しかったからこのままいてくれてもいいと思ってる位だし」
「ツンデレ乙」
「つんでれって何よ」
ベアトリスがなんかツンデレ?っぽい発言をしたので言ってみたのだが、やっぱりこの世界には無い言葉のようで通じなかった。まあ、通じても困るけども。そもそもそんな気は一切無さそうだしな。
「じゃ、またねー!あ、次来るときは珍しい鉱石よろしくー!」
「あれ以上の物は早々無えと思うけどな・・」
うん、あれだ。この鉱石馬鹿は諦めようか。
「まあ、気軽に遊びに来てよ。僕も楽しみにしてるから」
「おう。まあ、お前はその前に存在感を高めろ」
「さらっと酷くないかい!?」
多分会話量ワースト1だから訂正は無理だなぁ。
「まだ俺たちは銀ランクだが、次お前達と会う時には金ランクにはなってやる。その時は、まあ戦いとか少しは教えてくれ」
「ミスリルランクになれたら考えてやろう」
「無茶言うな!」
え?俺が稽古とかつけたらそん位無いと耐えられそうに無いからだけど?特に前衛の場合は。
「なんならアレン君達を私がミスリルランクになるまで鍛え上げようか?私だって元アダマンタイトランクの冒険者だし」
「あ、よろしく」
「「「「やめろ!」」」」
ちぇー。此奴らは悪い奴じゃ無いし死んでほしく無いから強くなって欲しいんだが……そこまでソールに鍛えてもらうのが怖いのか。
「……まあ、目的を果たすのが何時になるかは分からねえけど、元の世界に帰れるようになったらその前に遊びには来る。……なんだよビアンカ。え?魔族国で言った事とほとんど変わらないって?いや、だって最後にこう言っとかないとなんかアレだし……」
俺は五人にそんな事を言ったのだが、ビアンカに小声でそんな指摘をされる。確かにあの四人にそんな事は言った記憶はある。
「……魔族国でもなんかやったの?たの?」
「あっちでできた友達と愉快な仲間達が今みたいに見送りに来てくれただけだっての」
「なにその集団」
ソールはそんな事を言っているが、まさか魔王だとは思わないだろう。折角の去り際だからヒント位は残してやるか。
「まあ、興味があったら魔族国まで行ってみたらどうだ?ジョーカーとアダマースとカルディアとフィオーリって奴だから現地でそこら辺の魔族にでも聞くといい。なんか言われたら俺の名前でも出せば問題は無いと思うしな」
「……あれ?何処かで聞いた気が……」
ソールはどれかの名前に心当たりがあったようで首を傾げる。雑談の中でカルディアが人族の軍を迎撃したって言ってたような気がするから……それかな?
「じゃ、俺たちはそろそろ行くから。……ほら、フィールもビアンカも何か一言言ってやれ」
「……楽しかった。また来るから、その時はよろしく」
「短い間でしたけど、楽しかったです。次来るときを楽しみにしています」
俺が二人にそう言うと、二人はにっこり笑いながら五人に言う。
「ええ、楽しみにしていてね」
「私も何か用意しておくよ」
「って、もう行くの!?それなら追加で謎を置いていかないでよ!」
女性三人組が二人に返答……いや、ソールは違うか。まあ、笑いながら返す。この三日間でよくベアトリスとカリーヌとフィールとビアンカで会話してたから大分仲良くなっているようだ。
「じゃあ、行くか」
「うん。……今回は、忘れなかった」
「三度目の正直ですね。まあ、別の機会に三度目が来るかもしれませんけど」
「やりかねないから怖いなぁ……」
そして、俺たちはラントの街を背にして、ゆっくりと歩き出した。人がいるかもしれない都合上飛べないのは辛い。
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「……次は何処に行くの?」
歩き始めて五分後位にフィールが尋ねてくる。だが、考えてみれば俺もなんという街に行くかは分からない。
「……そう言えば俺も知らないな。ビアンカ、次行くのは何処だったか?」
「次向かうのはウルブスと言う村です。確か、稲作が盛んな村だった記憶があります」
「米……だと!?」
米。日本人の主食だ。この世界に来てからは米なんて一度も食べられなかったので米に飢えているのだ。
「……米?」
「あー、俺の知ってる通りなら、俺の故郷の主食だ。こっちに来てから一度も食えてないから食べたいなと思っただけだ」
「なるほど」
金は報酬で大量にあるから、大量に買い込んでも良さそうだなと思う。それほど米は日本人にとって大切なものだと思う。
「で、ビアンカ。その村までこのペースだとどのくらいかかるか?」
「えー、このペースで歩くと5日位で着きます。ですが、割と行商人などが通ったりするので飛ぶのは得策じゃあないですね」
「全力ダッシュは?」
「なお駄目です」
割と距離がある上に、高速移動手段を使うのは駄目だと言う。米を前にしてなんたることだ。
「マジかぁ……」
「諦めて歩きましょう。そこまで急ぐ旅でも無いですし、一週間位滞在しても良いですし」
「カイトの故郷の食べ物……気になる」
「いや、同じものとは限らねえからな?」
フィールに一応注意しておくが、俺も楽しみだから説得力無さそうだな。
「ともかく、目的地に行く前に寄る場所としてはそこが最後です。しっかりと休息を取りましょう」
「……おい止めろ。そういう事を言うと絶対に厄介事に巻き込まれるから」
ビアンカが結構不穏な事を言う。そもそも、俺がこの世界に来てからトラブル続きなのだ。夢幻列島飛ばしに始まり、降りたと思ったら魔王城。そこで闘技大会に参加したと思ったら大会中止。そしてラントに来たらクラスメイトとエンカウントし、説明しようとしたらドラゴン飛来。この量で二ヶ月達していない期間の出来事なのだから手に負えない。
「……大丈夫。そんな事は万に一つも起こり得ない」
「いや、だからそう言うセリフが駄目なんだってば……」
さらにフィールがフラグを強化していく。もはや分かってやってるような気がするが、この二人がフラグなんて概念を知ってるとは思えないからきっとマグレなのだろう。……マグレだと言うのに嫌な予感がしてきたが。
「……あ」
「なんだ……あー、前方から何か来てねえか?」
フィールが何か不穏な声を発したので辺りを警戒すると前方から何かが群れを成して迫ってきている。と言っても30体程度なのでどうと言うことはないが。
「えー、多分スタンピードって奴ですね。レベル30程度の魔物約30体……まあ、小規模の物ですね」
「面倒くせえ。俺が殺る」
俺はそう言ってラントで作った道具の一つ、サンダースターを取り出す。量産して10個はあるので多少はまともに使えるだろう。
そして、そのまま少し待機する。魔物達はどうやら正気を失っているみたいで普通にこっちの方へ突っ込んで来るようだ。タイミングを合わせて作動させてやろう。
と言うことで、魔物がこっちに到達する頃合いを見計らってサンダースターのスイッチを押して前方にばら撒く。内蔵されたフライタイトによって空中に浮かせる事でちょうどいい高さを維持した状態でだ。
そして
バリバリバリバリィ!!
と言う音を立てながら雷が機体の間を迸る。その直後、奥から魔物が飛び出してきてそのまま雷に焼かれていく。それを見た魔物は止まろうとするが、後ろから来た魔物がそれを押して結局は焼かれていく。
だが、全てを焼き尽くす前に効果時間が切れてサンダースターは俺の手元に戻ってくる。それによって、前方から生き残りが突っ込んで来る。大体10体位だが。
「すー……はぁ!」
俺は息を吸って残りの魔物に向かって冷気のブレスを放つ。ちなみにブレスは自分が最も高い属性耐性のスキルか属性魔法のスキルの物が使え、俺は火と冷気と風のブレスが使える。まあ、フィールは全属性のを使えるが。
今回放ったのは放射型のブレスだ。ブレスもボール型、放射型、レーザー型の三つがあり、威力はレーザーが高く放射型が低い。攻撃範囲はその逆だ。まあ、レーザー型に関しては龍魔法のレベル7が必要なので俺は使えないが。
それは置いておいて、俺のブレスの効果範囲内に入った魔物は一匹残らず凍りつく。大した耐性は持ってなかったようだ。
「手緩い。……で、さっきから少し気になってたんだがスタンピードってなんだ?」
あっさり魔物を殲滅し終わった後、俺はビアンカに聞く。大方魔物の暴走とかそんな感じだろうが、聞いておいて損は無かったからだ。
「スタンピードと言うのは、本来敵対する筈の魔物が群れを成して暴走する現象の事です。魔力の流れがおかしくなったり、圧倒的な力の魔物が出たり倒されたりした後位によく起こったりします」
「じゃあ、今回は前のファイアドラゴンを討伐した事が原因か?あそこ結構距離有ったけど」
「決まった位置に居つくことが少ない魔物にとってはそれは些細なことですね。……あと、規模に関しては100体までが小規模、500体までが中規模、それ以上が大規模です。確か過去最大のスタンピードは……5000体位だったと思います」
「それは流石に多すぎるだろ」
「確か、地上に最高位ドラゴンが出没したとかそんな感じの時だったと思います」
「ミラージュ並みの奴か……そりゃ争うのも止めて全力で逃げるわ」
俺はビアンカにスタンピードについて色々聞く。やっぱりこの世界に関しては知らない事だらけと思いつつ、5000体位なら余裕で殲滅出来そうだと考える。
「まあ、それを超える規模のスタンピードなんてそうそう起こらないので気にする必要は無いですけどね」
「おい馬鹿止めろ。万単位のスタンピードとか起きたらどうするんだよ」
「まさか。そんなの起こるわけが無い」
「……お前らはそんなに厄介事が起きて欲しいのか?そうなんだろ?」
この二人が全力でフラグを立てに来てて怖い。このままだとウルブスの街に万単位のスタンピードが起こるんですが。
「まさか、そんな訳無いですよ」
「……自分から厄介事に突っ込むのはどうかと思う」
「お前らには今度フラグと言う概念をみっちり教えてやるから覚悟しておけ」
まあ、そんな会話をしながらも、ダラダラと日が暮れるまで歩き続け、そこら辺で野宿をする事になった。
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「あー……米が有ると知ったからには米が食いてえ……」
「まだまだ先なので諦めて下さいよ……。今の食事だけでその台詞13回目ですよ?」
「……カイトが変になった」
俺はお手製サンドイッチを食べながら呪詛のようにそう繰り返す。これもドラゴンの肉や夢幻列島産の野菜などが使われていて結構美味いのだが、どうしても、どうしても米が食べたいのだ。
「米……」
「止めて下さい。私まで食べてみたくなるじゃあ無いですか」
「仲間なら、この苦しみを一緒に味わってくれないか?」
「鬼畜ですか!?」
苦しいのも、一人じゃなきゃ耐えられると思ったのだが、ビアンカにそれを拒否される。薄情な奴だ。
「むう……。カイトがそこまで好きな物……気になる」
「まあ、大好物って訳でも無かったんだが……。毎日食べてた物を一ヶ月以上食えないってのは精神的に来るんだよな」
幾ら日本人とはいえ、大好物が米って言う人は早々いないだろう。だからと言って、米を食うなと言われたら結構辛い。そんなものだと思うのだ。
「……そう。ところで、この後の見張りはどうするの?」
「正直要らないとは思うんだが……まあ、三人で三時間ずつ位やればいいだろ」
「まあ、それがいいですね。私も寝たいですし」
「メイドを自称する割には主の仕事を変わるより寝るほうを優先するか。メイドとしてどうなんだ?」
「すいません、聞こえませんでした。私は寝るので後でお願いします」
ビアンカはそう言うと、そそくさとあらかじめ張っておいたテントの中に入っていく。なお、中の気温を手動で調整できる便利な魔道具 (俺作)だ。
「あの野郎……逃げやがった」
「……じゃあ、三時間経ったら起こして」
「フィール……お前もか……」
そして、フィールもテントの中に入っていく。無論残ったのは俺一人だ。
「……まあ、別にいいけどな」
俺は今から一人で三時間の間特にする必要の無い見張りをする事にうんざりしながら、空を見上げて溜息を吐いた。
予定の中だとまだ三章の半分位なんですよね……。そもそもラントは目的地じゃ無かったのになぁ。




