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12話 恒例行事

 ギルドに入ると、何故かざわ……ざわざわ……と言うような感じで冒険者達が騒めく。それまではかなり静寂に包まれていたのに、である。


「……なあ、フィール。俺って何かしたか?」


 俺は自覚が無いのでフィールに聞いてみる。このギルドで表立って何かした記憶は無いのだが。ドラゴン?あれは裏でひっそりとやったから存在すらバレてないはずだ。


「……カイトよりも、私が見られてる。多分、勇者 (笑)をビアンカと一緒にボコしたから」


「あー……そうか。仮にも勇者だからな、うん」


 フィールの言った事は俺の記憶を思い出させるのには充分だった。昨日のギルドの建物の前で起きた騒動。見てた人は何人かいた筈だ。特に春日部の喉に一撃入れたビアンカやその追撃に水をぶちまけたフィールは印象に残ってるのだろう。実に面倒くさい。


 だが、俺はそんなのお構いなく適当な冒険者の方に向かっていく。そうしないと話が進まないのだ。


「あー、そこの人よ。ちょっといいか?」


「ひっ、な、なんだよ。お、俺が何かしたっていうのか?」


 怯えられている。仮にも勇者をボコしたと言うのは大分悪評が広がる物のようだ。しかし、これじゃ話が聞き辛いな。


「落ち着け。何もしねえから」


「ほ、本当か?」


「何もしねえっての。ここら辺で危険度の高い場所について聞きてえだけだ」


「危険な場所?」


 怯えてるのを多少宥めながら無理やり話の目的へ持っていく。このままだと完全に話が進まないからだ。


「ああ、そうだ。仲間が一人で修行に行くとか書き置きがあったんだが居場所が掴めなくてな。この辺りで一番危険な場所って書かれてたから心当たりはねえか?」


「一番危険な場所か。この辺りでって言うのが難しいけど、それなら「異形の森」じゃねえか?スライムみてえな物理攻撃が通り辛かったりする奴が多い場所なんだが」


 どうやら、そんな感じの森が近くにあるようである。だが、それだとそこまで危険地帯じゃ無さそうだな。


「確かに危険は危険だろうが、魔法使い系にはそこまでじゃ無さそうだな。もっと、万人共通の所とかねえか?」


「万人共通か……。それなら南の方に徒歩で1日位歩けば着く「ラースの森」か?彼処は金ランク以上が行くような場所だから、この近辺じゃそこが万人共通の危険地帯だと思うぞ」


 冒険者は少し考えた後、そう答える。多分、そこであってそうだな。徒歩1日なんて大した時間掛けずに行けるし。


「ああ、そこっぽいな。ありがとな」


「あ、ああ。どういたしまして」


 俺が素直に礼を言うと若干意外そうに返答してくる。大分無法者みたいに思われてたんだろうな。まあ、俺が見ていた立場だったらそう思うだろうが。


 そして、大体の目処がついた俺たちはギルドの建物から出ようとする。だが、そこで後ろから声が掛かる。俺に対してではなく、フィールに対してだ。


「やあ、可愛いお嬢さん。そんな男なんか放っておいて、僕と食事でもどうかな?」


 声を掛けていたのは茶髪のイケメンだ。だが、何処か残念そうな雰囲気を感じる。


「彼奴今日もいたのか……」


「大方懲りずにギルドマスターをナンパしに来たんだろうな。あの人かなりの美人だし」


「で、そこであの美少女を見かけたから標的を変えたと。最低だな」


「こんなやつ出禁にしたらいいのに、親の権力が無駄に高いからな……」


「親は優秀なのに、如何してこうなったんだか」


 周りの席から、ヒソヒソとそんな声が聞こえる。話の内容から判断して、親の七光りで威張ってる貴族みたいなもんだろう。まあ、腐ってるのは此奴だけみたいで、親は立派なようだが。


 だが、フィールの反応は非情である。


「……断る。耳障りだから、どっか行って」


 単に断るだけじゃなく、消えろとまで言う鬼畜仕様。周りの冒険者が小声で「ザマァw」と言っているのが聞こえる。


「そ、そんな男の何処が良いって言うん……!?」


「……しつこい」


 貴族が俺を馬鹿にしたところで、フィールから濃厚な殺気が入る。しかも、その馬鹿貴族ピンポイントだ。


「彼奴足震えてね?」


「まだあの子何もしてねえだろ」


「つーかあの子も超可愛いんですけど。ソールたんも可愛いけど、あの子も凄い好みだな」


「お前その呼び方して半殺しにされたの忘れたのか……」


「女の子に睨まれる……我々の業界じゃご褒美です」


 その殺気を浴びた貴族を見てまたもヒソヒソ声で会話する冒険者。なんか、変態が2人ほど混ざってる気もするが、実害は無いから放っておこう。


 ザッ


「ひっ」


 フィールが一歩その馬鹿貴族の方に踏み出すと、そいつは情けない悲鳴を上げる。そして、そのまま座り込む。腰が抜けてしまったようだ。


 スッ


「ひゃっ」


 フィールは手を挙げる。魔法の発動用意とかではなく、普通に挙げただけだ。だが、怯えきった馬鹿貴族には充分すぎる威圧になる。


「お、お前ら!僕を助けろ!金なら幾らでも払う!」


 馬鹿貴族は周りの冒険者に助けを求める。誰も乗らないと思っていたが、それに乗ってくるのが一人いた。


「その話乗った!金は弾んでくれよ!」


 そう言って飛び出して来たのは大剣を背負った冒険者だ。身長も多分二メートル位ある。


「い、幾らでも払う!だから助けてくれぇ!」


「よっしゃぁ!その言葉忘れるなよ!」


 そんな流れの後、冒険者はフィールに掴みかかろうと走っていく。割と良い腕前のようで、そこそこ早い。普通からしたらな。


 ちなみに、周りからの反応はと言うと。


「彼奴、まさか金好きのオールか!?」


「本当だ!戻って来やがったのか!」


「てか、止めなきゃヤバくねえか!?」


「おいおい、俺たちで止めれるもんじゃねえぞ!?」


「ギルドマスター呼んでこい!」


「……嫌な予感がするんだが」


 こんな感じで、フィールが一方的にボコされる未来が見えているようだ。だが、フィールはそんなに甘くない。


「カイト、これ如何したらいい?」


「余所見してんじゃ……グペッ!」


 フィールが俺の方を振り向いて聞いてくる。ちなみに、走って来たオールとか言う奴はフィールが足を引っ掛けて転ばせた。


「あー、適当にボコせばいいんじゃね?後でソールも来るみたいだし、事情は適当に説明すればいいだろ」


「ん、了解」


「何してるんだぁ!早くぶちのめせェ!」


 俺たちがそんなことを話している間、馬鹿貴族はオールに怒鳴っている。まあ、即席とはいえ雇った屈強っぽそうな冒険者がか弱そう(めちゃくちゃ強い)少女に呆気なく転ばされてたらそれは当然だろう。


「オラァァアア!」


「……『風球』」


 立ち上がりながらフィールに殴りに掛かるオール。実の所、さっきは掴んで取り押さえようとした動きだったのだが、転ばされたからか容赦なく殴りに行っている。


 だが、フィールの放ったウィンドボールがオールを弾き返し、そのまま壁に叩きつける。


 そして、その壁に叩きつけられたオールに向かって寒気を感じる位冷たい声で言い放つ。腕を前に突き出しながら。


「……宇宙の塵に、なるとい「ストップ!ストップ!」……ソール?」


 だが、その台詞が言い終わる前にソールが走ってくる。かなり息が切れている。


「はぁ、はぁ。なんとか間に合った……というより、既に手遅れみたいだけど」


 ソールはそうは言っているが、実際のところソールは頑張った方だ。ソールが入ってくる前のその一瞬、僅かな時間だがフィールは魔法を発動させようとしていた。あの台詞は完全に決め台詞故魔法には関係無かったが、発動しようとしていたのは多分レベル5か6程度の魔法。少なくとも建物に甚大な被害が出るような魔法だったのだ。


「で?何があったのかな?かな?」


「その変な喋り方は余程追い詰められない限りなくならないのな。まあ、そんな事はいいか。そこの馬鹿がフィールを口説こうとしてフラれた。そのあと、俺を貶すような事を言ったと思ったらフィールに殺気を当てられて怯えて助けを求めた。で、出てきたオールとか言う奴がフィールに殴りに行って、返り討ちにされた。以上」


「そうきたか……。このギルドの面倒事(恒例行事)が二つ重なっちゃったのか」


 俺の説明を聞いたソールが深い溜息を吐く。恒例行事ってなんの事だろうな。


「……恒例行事?」


「あー、知らないよね。まず、そこで突っ立ってるあの馬鹿貴族は、私を何度もナンパしようとしてくるの。今までで確か……23回?面倒くさい限りだよ。で、そこのオール。腕は良いんだけど勝手に貴族からの身勝手な依頼を受けたりしてね。市民に迷惑ばかり掛けてるんだよ。金好きのオールって呼ばれる位金には目が無いからね」


 異常にしつこい馬鹿貴族と、金さえ渡せばどんなことでもする奴。何時もは別々で問題を起こしていたのだろうが、俺たちの存在がそれを統合してしまったのだろう。何故だろうか。


「で、なんの用?面倒事?」


「違うっての。それに、もう用は済んだ。今から行かなきゃいけない所があるからそろそろいいか?」


「別に良いよ。まあ、そこら辺の人が証人になってくれるだろうから、この件は無事?に済みそうだし。幸いアレにも怪我は無いみたいだから特に何も言われないと思うしね。……いや、親から「うちの息子を少しでもまともにする方法とか思いつかねえか?」って言われた位だから多少怪我してても問題なかったかも」


 俺が行っていいかと聞くと、普通に了承してくれる。最後の方に小声で言った事に関しては親も苦労してるんだなとしみじみ思った。まあ、なにもしないけど。

 

「ありがとな。じゃ、行くぞフィール」


「……あと一発。先っちょだけだから」


「……聞くが、なんの先っちょだ?」


「ソル・エスパーダ」


「死ぬから。アレで刺されたら俺でも無事じゃねえから」


 そんなふざけた会話をしながら、俺とフィールはギルドを後にする。後ろをチラ見すると、心底厄介そうな顔をしているソールと、話の内容を理解できていなさそうな馬鹿貴族と、なんか疲れた様子の冒険者達が見えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 で、所変わってラースの森。経過時間は2、3時間。1日歩くって言ったって、24時間歩くわけじゃ無いんだから大した距離じゃ無かった。


 ちなみに、ビアンカは見てはいないが位置は既に補足済みだ。具体的には、飛んでるときに空へと紅い焔が立ち上ったのが見えた。火力とか、魔力の波長とかからも多分ビアンカだ。彼奴の魔導機械で発動させてる焔だから魔法とは違うんだよな。なんというか、魔法よりも物理現象に近いというか。まあ、魔法現象も大分あるけど。


 で、今はその確認場所へバレないように接近中って訳だ。勿論、雰囲気を出す為に偽物の茂みなども用意済みだ。


「此方アルファ。これより、対象の半径100メートル以内に突入する。ベータも引き続き突入しろ」


「……此方ベータ。この、よく解らないセリフの意味を聞きたい」


「此方アルファ。意味は無い。これは雰囲気を楽しむものだ」


「……此方ベータ。いまいち解らないけど、取り敢えず了解。ん、今一瞬光った」

 

「此方アルファ。確かに視認した。これより、対象に向けて前進する。ベータ。魔力の隠蔽と音の隠蔽は正常か?」


「此方ベータ。どっちも異常は無い。直接動いてるのを見られない限り、バレはしないと思う」


「此方アルファ。上出来だ。では、全軍突入!」


 そして、よくある組織みたいな雰囲気を出して潜入ミッションっぽく接近して行く。そこら辺の文化を知らないフィールは、不思議そうな顔をしながらもなんだかんだで乗ってくれる。


 だが、その軽いノリは直ぐにぶち壊される。簡潔に言うと、赤黒い煙が少しずつ姿を見せて此方ににじり寄ってきている。


「っ!まずい!フィール、飛ぶぞ!」


「えっ、あっ、うん」


 俺とフィールは大急ぎで偽茂みを投げ捨てて空へと逃げる。俺の記憶通りならその煙はビアンカのデッドリーウェポンから出ている猛毒ガスの筈だ。


「テストって……まさかあれまでテストしてるとはな。色々面白そうなのが見られるかもな」


 個人的にはもっと簡単なもの、例えば新型の魔導拳銃みたいなものかと思っていたのだが、主武装もテストしてるとなると尚更気になるのだ。


「……タンクの改良は……しましたか。ですが、やはり…………」


 よく耳をすますと、ビアンカが何かをブツブツ呟いている。なんかあれを改良したとか、そんな感じの会話だ。そう言えば前は穴が三つだったけど、それが四つに増えてることか?


 俺達は顔を見合わせて頷き、そっと飛行しながらビアンカの方へと向かう。ちなみに、結構上の方へだ。さっきからの流れだと、多分次に来るのはアクアカノン、流石に上には撃たないだろうという判断だ。


 そして、ビアンカが視認できる距離まで近づく。気配を、音を、魔力を全力で隠蔽しているためバレてはいないが。ちなみにビアンカの近くの木の上である。


「……次はアクアカノンですね。これも失敗かも知れませんが、やって見なければ意味は無いでしょうし」


 ビアンカがそう言った直後、髪と目が蒼く染まり、メイド服に波をイメージした紋様が浮かび上がり、右腕が変形してアクアカノンになる。ちなみに、あの腕は義手では無く本当に埋め込んでいるものらしい。三つに裂けたりする腕だが、その皮膚や温もりは本物だと言う。


 そして、それを適当な方向……ではなく、そこらへんに刺されている杭に向かって向けて薙ぎ払うように連射する。


 パシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュパシュン!


 かなり前に盗賊を一掃したときと比べるとおよそ二倍近いペースで水球が放たれる。しかも、その威力は衰えておらず当たった杭を一つ残らず打ち砕いている。というか、あの撃方で全弾ヒットって凄いな。


「……」


 ビアンカはそれを見て何も言わない。言いはしてないのだが、左手でガッツポーズを取る。結構嬉しかったのだろう。


「……あれ以外は失敗してたみたいだな。というか、いつの間に改造してたんだ?」


「……眠らなくても然程問題無いみたいで、夜の間にちょくちょくやってた。魔族国にいる間も」


「マジか。全然気づかなかった」


 実は結構前から改造してたという事が判明する。俺は全く気付かずに寝てたみたいだが。

 

「四つ中三つが失敗ですか……。なかなかうまくいきませ……っ!?カイト様!?」


 ビアンカは溜息を吐いて空を仰ぐ。そして、頭上にいた俺達を見つける。


「あー、見つかっちまったか。よっと」


「……集中してたから、仕方がない」


 ビアンカに見つかった俺達は木の上から飛び降りる。飛行スキルなんて使わなくても着地は余裕だ。


「……何故此処に来たんですか?」


「魔導機械のテストが気になったからな。もしまだやるなら見学しててもいいか?」


 ビアンカが不思議そうな顔をして聞いてくるので、俺は返答する。ビアンカの疑問には何故此処が分かったのかと言う疑問も混ざっているのだろうが、特に聞かれないので答えない。


「まあ、別に構いませんが……面白い物じゃありませんよ?」


「構わねえよ」


 俺がそう言うと、ビアンカはいつの間に設置されたのか解らない的へ振り向く。そして、拳銃のような物を取り出して構える。


 さあ、見学時間の始まりだ。

龍人の少女 = フィール

ギルドマスターのエルフ = ソール

金好き冒険者 = オール


なんか似た名前が多かった……。一応、全員名前に元があるので適当に決めた名前じゃ無いんですが、どうしてこうなったんでしょうね。

フィール = 感じるとか感覚とかそんな感じ

ソール = どっかの言語で 呪文 の意味

オール = 同じくどっかの言語で 金 の意味

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