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10話 問題事

「あー……3日ぶりの風呂だぁ……」


 魔族国にいた時は最高クラスの宿に泊まってた故、風呂は普通にあった。だからこそ風呂に入れていなかったこの3日は日本人にとって大分辛いものだったのだ。勿論、体を拭く位はしていたが。


 俺は一人で虚空を見つめながら色々と考えに耽る。風呂場に乱入して来る恐れがある二人は既に風呂上りで髪も湿っていたので乱入してくる事は無い。


 スペディオを始めとする邪神の復活を目論む者達、大賢者が示した軌跡、それと俺を探しに出たという幼馴染み達の行方。問題は山積みだ。


「全く、どうしてこうも面倒事ばっか起こるかねぇ……」


 本来なら、戦闘能力が人一倍無かった俺は城や王都でひそひそと生産職でもやっていた事だろう。事実、スキルの仕組みに気付くまでステータスは貧弱そのものだったからだ。


 しかし、今は違う。弱いから要らない発言をされた上に夢幻列島に飛ばされた結果、化け物みたいな力を得た。そして、フィールとビアンカにも出会えた。


 確かに厄介事は多い。でも、悪い事だけでは無いと感じている。色々と変わった所はあるが、それによって今の俺がいるのだ。


「……つーか、なんで風呂に入るとこんなマイナス思考になるんだろうな。やる事がねえからか?」


 なんか魔族国にいた時もこんな思考になった気がする。確か、あの時はこの考えを振り払って別の事を考えたらフィールとビアンカの決闘に気付いたんだったか。


「……少し前も思ったけど、ビアンカと出会ってから10日位しか経ってねえんだよな。なんで、彼奴は俺の事をここまで信用してくれるんだろうなぁ。まあ、全く疑って無い俺が言える事じゃねえけど……」


 たった10日、されど10日。短いようで長い時間だ。ビアンカが孤独でいた時間に比べれば塵のようなものだが……。


「……何故でしょうね。私にも解りません。ですが、カイト様と一緒にいるととても落ち着くのですよ」


「そうか……」


 ビアンカ自身もそれは解らないらしく、結論は解らな……ってちょっと待て。


「……なんでお前がここにいるんだ!?」

 

 俺は咄嗟に後ろを振り返る。其処には、タオルを巻いたフィールとビアンカが立っている。


「……なんでって、まだお風呂入ってないから」


「いや、もう入っただろ。嘘つくな」

 

 俺は、ここに向かってくるときに髪がしっとりと濡れた二人の姿をしっかりと見た。それが風呂に入ってないというのは明らかにおかしい。


「嘘は言ってませんよ?あれは偽造工作の為に水で濡らしただけです」


「偽造工作て……なんの為にそんな事を……」


 正直、ここに居る時点で理由なんて解りきっている。が、聞かずにはいられない。


「なんでって、ここに乱入する為ですが」


「オーケー解った。……っと、ファストクリエイトからのソイヤァ!」

 

「痛いっ!?」


 ビアンカの返答から罪悪感とかそう言うのが一切感じられなかったのでアイテムボックスからハリセンを取り出し、ファストクリエイトで水耐性をエンチャントしてからビアンカの頭を一閃する。パァンという音が響く。


「……悪いけど、この風呂はお前らが入れるスペースは無い。諦めろ」


 俺は二人に背中を向けてから言う。夢幻列島から降りて多少の余裕が出た所為で感覚が多少戻ってきたのか、どうにも目のやり場に困るのだ。前は色々と感覚が狂ってたからなんとも無かったのだが。


「……もう手遅れ」


「え、ちょっ」


 だが、フィールは容赦なく湯船に入ってくる。一切の迷いも無くだ。これで、尚更後ろを振り向けなくなる。


「頭を叩いた責任はとって貰いますよ?と言うわけで失礼します」


「いや、だから……」


 ビアンカもそう言いながら容赦なく湯船に入ってくる。若干、というかかなり狭い。


「……」


「……」


「……」


 沈黙が風呂場を支配する。話せばいいのだろうが、少しでも動揺している事を悟られたら何を言われるか解らない。恐らく二人とも少しの言葉からそう言うのは判断できる。


「……カイトは、私達の事、どう思ってる?」


 沈黙の中、フィールが口を開く。この二人には嘘は通じる気がしないので俺のありのままの本心を話す。


「……二人とも好きだ。多分、仲間としても女性としても。だけど、好きだからこその不安はある」


「好きだからこその不安、ですか」


 ビアンカが俺の台詞に反応して聞いてくる。だから、俺は説明する。


「ああ。……もしもお前らが誰かに拒絶されたりしたら、どんな気持ちになるか自分でも想像できねえ。……お前らは、俺が元の世界に帰る時、付いてくる予定なんだよな?」


「……うん」


 フィールは頷く。前に聞いた時と同じく決意に満ちた目をしている。


「まだまだ考えなくてもいいとは思ってるんだけどな。……俺のいた世界には、魔法なんて無い。そんな所で、魔法の存在が知られたらどうなる?化け物として殺しに来るか、研究対象として捕まえに来るか。どっちかだ。イレギュラーを受け入れてくれるほど、俺のいた世界は甘くないんだ」


「……」


 二人は、黙って話を聞いている。ビアンカは何かを考えているようだが。


「まあ、殺しに来たりした所で返り討ちには出来るけどな。でも、それじゃ俺の望む日常には戻れないんだよ。……1番良いのは、二人の存在を自然に紛れ込ませる事だけど今の力じゃ出来そうにねえ」


 少し考えれば解ってた事なのだが、二人を現代に連れて行くと言うのは結構な大事だ。戸籍は?常識は?見た目は……外人とアルビノで通るけども。特に戸籍に関しては無理ゲーに近い。それこそ人の記憶でも弄れない限りは。


「……別に、今悩まなくても良くないですか?それ」


 俺の話を一通り聞いた後、ビアンカがそう言ってくる。


「……その理由は?」


「だって、まだまだ先の事じゃあないですか。今の力じゃ無理そう?そんなの、帰れるようになる前に全力で努力すればいいですし。未来は、自分の手で切り開くものですよ」


 ビアンカの言う事は一理ある。と言うより完全に正論だ。だが、まだ不安はある。


「もしこの世界に記憶の改変手段が無かったら?その場合は詰みだぞ」


「幾つか心当たりは有りますけどね。私の種族忘れてませんか?」

 

 ビアンカの種族はホムンクルス。全知の人口生命体……まあ、此奴は全知じゃ無いけども。兎に角、知識に関しては恐らくこの世界の大多数の人よりも詳しい筈だった。


「……それは俺達にできるやつなのか?」


「可能ですよ。莫大な魔力は必要になりますけど」


 ビアンカにそれが可能かと聞くと、あっさり出来ると返される。莫大な魔力なんて、俺らにとってはちっぽけなものだ。


「……はは。なんか、こんな事で悩んでた俺が馬鹿みてえだな」


「ええ、馬鹿ですね。……まだまだ先の事だと言うのに、私達の事をそこまで考えてくれる。悪くはないと思いますけどね」


 俺が自嘲するように言うと、ビアンカもそれに乗ってくる。そして、慰めになっているか解らない発言をする。


「そりゃどうも。……はあ、別段やる事がねえからかな。風呂に入るとどーも悪い思考になるな。風呂に入るのは嫌いじゃねえんだけど」


 俺は溜息を吐きながら言う。本来安らぎの場所の筈である風呂が何故こうもシリアスポイントになるのか……それは俺にも解らない。


「……」


 ギュッ


「っ!?」

 

 俺がそんな事を言いながら手をヒラヒラさせていると、突然後ろから抱きつかれる。体格的に多分フィールだ。


「ちょちょちょちょちょ!?いきなりどうした!?」


「……なんか、疲れてるみたいだから」


「答えになってねえっての!」


 何故疲れてるからと言って急に抱きついてくるのか。それに関しては解らない。ただ、今一つだけ言えることがある。このままだと、俺の精神がメルトダウンする。何とは言わないが、何か柔らかいものが当たっているのだ。


「ああ、成る程。疲れてるのならしょうがないですね。ならここで疲れを癒しましょう。……フィールさん。そこでカイト様を抑えてて下さい。二人掛かりならどうとでもなる筈です」


「逆に疲れるわ!というかどうとでもなるってなんだよ!なんか嫌な予感がするんですけど!?」


 ビアンカがなんか恐ろしい事を言い出したので俺は咄嗟に後ろを振り向く。……いい目をしてた。まな板の上の魚を前にした料理人のような目を。


「……逃げ……ぐふっ!」


 ビアンカの恐怖を感じる表情を見た俺は咄嗟に、だが優しくフィールを振り払って逃走しようとした。しかし、それも虚しくフィールに足を掴まれすっ転ぶ。

 

「あ……ごめん」


「フィールさんナイスです!」


「鬼かお前ら……で、何してるんだよ」


 俺は二人に質問する。何故か、倒れてすぐに手が後ろに回されたのだ。刑事ドラマで容疑者を取り押さえる時のように。しかも二人掛かりで辛い体制だからうまく振りほどける気がしない。


「こうでもしないと逃げられるので」


「……同じく」


「いや、マジで何する気だよ」


 俺は今内心結構焦っている。自力でどうこう出来る感じじゃ無いし、ちらりと横目で見た二人の目が若干恐ろしかったからだ。逃げ出せるのならば今すぐにでも逃げ出したい。


「……ふふふふふ」


「ヘェェエエルプ!ヘェェエエルプ!」


「呼んでも誰も来ませ……あ」


 フィールが妖しげに微笑み、俺が叫ぶ。それに対してビアンカが悪役のような発言をしようとするがそれは止まる。


「どうしたクロノ。なんか音が鳴ったと思ったらいきなり叫びやが……ゴフッ!」


 俺がすっ転んだ時の音を聞きつけたと思われるアレンが風呂場の扉を開けると同時に、ビアンカが跳躍し鳩尾に飛び蹴りを入れる。アレンは倒れる。


 だが、このアレンの犠牲は無駄にはしない。俺はビアンカが手を離したのを確認してうまい具合に手を捻ってフィールを振り払い、アイテムボックスから透明マントを取り出して即羽織って逃走する。


「……あ」


「ああ!?そんな!」


 フィールとビアンカがやってしまったみたいな顔をしている。が、俺は決して待たずその場をそそくさと去る。泡を吹いて倒れているアレンに冥福を祈ることは忘れない。


 まあ、そんなトラブルがあって全くと言っていいほど安らげ無かったのだが、俺は仕方がなく部屋に戻り適当に道具弄りを再開したのだった。

何故か私が風呂シーンを書くとシリアスになる。今回は無理やりその流れを捻じ曲げたせいで話の流れが変になったり短くなったりしてしまいました。ああ、時間が欲しい。

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