4話 ドラゴン?余裕
「ドラゴンだって?レベルの程は?」
ソールが一見冷静そうにサジェスに聞く。だが、ソールの顔は結構焦っているように見える。
「そ、それが、相手はファイアドラゴン、レベル150前後の化け物です!」
「……マジで?」
「マジです!」
サジェスは、ドラゴンの強さの程度をソールに伝えた。すると、ソールは「冗談だよね?」みたいな顔で聞き返す。地上ではそんな化け物は滅多に見ないってビアンカから聞いてたけど、ギルドマスターでもここまで驚くのか。
「……今日は、話どころじゃ無いみたいだね。君達はここで少し待ってて。どうするか考えるから」
ソールは深刻そうな顔で俺たちに告げると、椅子に座りペンを持ち、紙にスラスラと何かを書き連ねていく。また、その途中で顔を上げもせずにサジェスに色々聞いていく。
「ドラゴンの速さは?」
「このままだと、3時間後にはこの街に来ます。方角は南からです」
「速いね……。今動ける冒険者は?全てのランクの人を教えて。でも、鉄ランク以下は纏めて」
「鉄ランク以下が54人、銀ランクが7人、金ランクが4人、ミスリルランクが2人、アダマンタイトランクが居ません」
「アダマンタイトが無しか。勇者の子もまだ発展途上だし……これは、勝てそうに無いね。街を捨てる方向で、逃げるしか無いか。そうすると……」
ソールは聞いた情報を瞬時に判断し、どんどん紙に何かを書いている。見てみると、ランク別の役割分担や、避難経路の簡易図、そしてドラゴンの足止めのプランなど色々書かれている。凄い計画性だ。
「……こんなもんかな。……悪いね、待たせて。それで皆少し協力してくれないかな?」
ソールがペンを置いて、俺たちの方へ頭を上げる。決意を固めたようなそんな感じの目だ。
「何を言ってるんだ、困ってる人がいたら助けるのが当然だろ!?」
「まあ、そうだな。俺たちならどうとでもなるだろ」
「ちょ、ちょっと二人とも!?話聞いてたの!?勝てるわけ無いじゃない!」
「そうだよ!逃げようよ!」
「……勿論、全力は尽くしますが。どうするのですか?」
「私も協力します。この街は生まれ故郷だから」
「ギルドマスターの言う通りに」
「僕もやれるだけの事はやらせて貰います」
ちなみに、上から春日部、剛田、安藤、桐島、アレン、ベアトリス、カリーヌ、ドランだ。台詞から察すると、
春日部、剛田・事の重要さを理解してない
安藤、桐島・ヤバいって解ってるから逃げたい
アレン、ベアトリス、カリーヌ、ドラン・事の重大さを解った上で協力をしようとしている。
俺ら・返答無し
こんな感じだな。
「……今回の事態は、この街のみんなの命に関わる。失敗は許されないんだ。説明を聞いてから、改めて考えて。中途半端な覚悟だと、寧ろ足手纏いだから」
そう言って、ソールは説明を始める。かなり、重々しい声だ。
一つ、現在南の方向からレベル150前後のファイアドラゴンが接近してきている事。それは、後3時間程度で此処に至るという。
二つ、それに伴い緊急依頼、しかも全ランク強制参加の依頼を出す事。内容は鉄ランク以下は住民の避難誘導、銀ランク以上はドラゴンの足止めを行い、頃合いを見て撤退するというものだ。
三つ、その後は住民を守りながら近隣の村まで送り届けるという事。これに関しては途中で撤退してきた冒険者が合流して誘導組と協力して行う予定らしい。
「……でね、ここからが重要なんだ。今、この街に勇者が来てるって事はもう知れ渡ってしまっている。そうすると、住民は勇者が戦うから大丈夫だって言って街から離れようとしない可能性が高いんだ。財産を、故郷を捨てろなんて言われて、即答は難しいだろうからね。藁にも縋ろうとする筈だよ」
ソールが実に厄介そうに言う。確かに、面倒くさいな。
「……つまり、どうすればいいのよ」
安藤がソールに問う。だが、聞かなくてももう想像はついてるだろうな。
「もう、察してると思うけどね。……君達、表向きに来た勇者達にも、ドラゴンの足止めに協力して貰いたいんだ。勇者でも足止めが精一杯だと伝えて、どうにか避難はさせるから。倒せとは言わないよ」
ソールは、俺を除いた勇者達に告げる。まあ、此奴らにはドラゴン討伐は無理だろうからな。そもそも飛んでる以上普通の奴らじゃ攻撃は厳しいだろうしな。
「もう逃げ場無くない?やるしか無いんでしょ」
桐島がソールに告げる。取り敢えず、四人は参加のようだ。
「ありがとう。で、次はアレン君達。君達は勿論ドラゴンの足止めに行って貰う。だけど、念の為勇者君達を気に掛けて置いて欲しい。戦いの最中に他に気を向けるのは辛いだろうけど、お願いするよ」
アレン達に、彼奴らを守ってくれと言うソール。確かに、最も全力になるミスリルランクとその次に強い金ランクは合計6人、攻撃役としてはこれ以上削るのは少し辛いものがあるだろう。
「解りました。ご期待に添えるように頑張ります」
アレンが敬語たっぷりでそれに応じる。非常事態だというのに堅苦しいな。まあ、悪い性格じゃないな。俺は悪い性格だろうがな。
「……で、最後にクロノ君達。君達は、正直戦いにはついていけない。だから、住人の誘導をして貰いたい。頼めるよね?」
簡単に言うと、戦力外通告をされた俺達。まあ、ステ見せてないから仕方が無いけど。
「……その前に一つ聞きたい。もし避難した後、この街はどうなるんだ?」
俺は質問に質問を返す。これだけは知っておきたいからな。
「どうするかって、勿論ドラゴンが暴れまわって、いなくなるまで立ち入り禁止だよ。……今回のレベルだと、街としての機能は完全に無くなるだろうね」
ソールは無念そうに言う。確かに、冒険者を纏める人が街を守れないというのは相当な苦痛だろう。
だが、俺にとってはそんな事情は関係無いな。……まあ、俺たちは少しこの街で休息を取りたいんだ。わざわざ、ドラゴンから逃げてやる道理も無いか。
「……なあ、ソール。もしも、住民の避難もせず、1人の犠牲も出さずに、街に全く被害が出ないっていう手段があるって言ったらどうする?」
俺がソールにそう聞いてみる。だが、ソールは重々しい顔のまま言う。
「不可能な事は言わないで欲しいな。正直、時間が惜しいんだよ」
見てみると、フィールとビアンカを除いて、「こんな状況で冗談言ってんじゃねえ!」みたいな目になっている。
はあ、この状態じゃ何言っても無駄だろうし……取り敢えず、一旦隠蔽を解除してステ見せればいいか。
「ソール。今から、俺に掛かってる隠蔽を解除する。不可能かどうかは、それを見て判断しろ」
そう言って、俺は隠蔽を解除する。さっき入ってきたサジェスが鑑定スキルを持ってない事は確認済みだ。だから、契約済みのソールとカリーヌ以外に見られる事は無い。
「「……は?」」
俺のステータスを見たであろう二人は、意味不明と言った声を上げる。馬鹿みたいなステータス、特殊スキル二つ、それに応じてないレベル。驚く要素しか無いだろうからな。
「あー、これで文句は無いか?」
俺がそう聞くと、二人は同時にコクコクと首を縦にふる。流石にあれを見て文句は言えまい。
「ちなみに、フィールもビアンカも俺ほどじゃ無いけどこんな感じだ。で、どうする?俺たちは今から行ってくるけど。ついてくるか?」
そうすると、二人はまたもコクコクと首をふる。それを確認してから、俺たちは部屋から出ようとする。
「あ!?クロノ!?ちょっとは鑑定使えない奴等に説明しろよ!って、待てや!」
「おい!黒野!ソールさん達に何をしたんだ!逃げるな!」
まあ、二人の代表が大分煩かったのだが、それは完全にスルーして俺たちは部屋から出て、建物から出て、街から出てドラゴンが目撃されたという南の方角へと向かうのだった。
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「……カイト、一つ提案がある」
俺達が目立たない為に、とにかく南へと進行してる時に、フィールがそう言ってくる。
「なんだ?言ってみろ」
「簡単な事。一つ、ゲームをしようって話」
「ゲーム?何するんだ?」
フィールの提案が気になって聞いてみたが、何やら面白そうな予感がするな。
「……ドラゴンに、初撃を入れられた人が勝ち。なんて、どう?」
ドラゴンよ、ご愁傷様だな。まあ、賛成だけど。
「へえ、いいアイディアだな。賞品はどうする?」
「……負けた二人のどっちかに、一つ好きな事を命令出来る」
「その賞品に悪意を感じなくも無いけど……まあ、俺は乗るぞ。ビアンカはどうする?」
「私も乗ります。……では、今からでも用意しておきましょうか」
賞品を聞いたビアンカも、その闇のゲームに参加するようだ。そして、まだ姿も見えていないのに腕の兵器、アクアカノンを起動し始める。それに伴って、ビアンカの髪と瞳が蒼色に変わって行く。
ちなみに、それを見ていた外野達は……。
「なんだ?夢でも見てるのか?」
「健斗。目を背けるな。俺だって、訳が解らないんだ」
「物騒な話をしてたと思ったら、突然物騒なものが出てくるなんて。おまけに見た目まで変わってるし。もう、意味が解らないわよ」
「と言うかあの兵器どこに入ってたの?」
と困惑を露わにする勇者組と、
「……なあ、あの時バーサクベアが逃げたのって……」
「間違いなく、本能でクロノ達の実力を察していたのね」
「それよりも、ドラゴンと戦いに行くとは思えない発言だね」
「……そんなの瞬殺だよ。あんなの、反則だよ」
「カリーヌちゃん。気持ちは解るから。だから元気出して、ね?」
悟ったアレンとベアトリス、変に冷静なドラン、やつれたカリーヌとソール。……ギルドマスター、それで良いのか。
まあ、そんな状態になってもビアンカはなんかチャージを始めてるし、フィールも何か詠唱をしている。
ま、俺も負けたくは無いな。アイテムボックスからシュバルツを取り出して、身体強化。あと、フックショット辺りも用意しとくか。
まあ、そんなジョーカー辺りでもブチのめせそうなスタンバイをしていると……遥か彼方に、ドラゴンのシルエットが見える。
「じゃ、行ってくる!」
「……負けない!」
「勝たせて貰いますよ!」
そう俺たちは同時に言って、俺とフィールは地を蹴って飛行、ビアンカは大地を全力疾走していく。ちなみにフィールは跳躍と同時に翼を出現させ、ビアンカは走り出すと同時に身体強化をフル発動させている。
「「「「「「「「「速!?」」」」」」」」」
後ろにいた9人がそう叫ぶが、止まるわけにはいかない。飛行に関してはフィールの方が上手いから、少しでも油断すると地面を蹴って離した距離をひっくり返されるのだ。
だが、そこでフィールではない、別の声……地上にいる筈のビアンカの声が響く。
「電磁加速飛行板!発進!」
そんな声を発しながら、異常な速度で地上から姿を現したビアンカ。俺どころか、フィールの移動速度さえ上回っている。
「ちょ!?」
地上の方をみると、何か大砲のようなものがセッティングされている。多分、あれが電磁加速装置的なものなのだろうが……もう、なんでもありだな。レールガンとか出てくるんじゃね?
だが、正直これはヤバい。縮地の一番の弱点なのだが、地上じゃ無いと使えないのだ。つまり、これは追いつけない。
だから、使いたくないが遠距離攻撃手段、魔法を使うしかない。……本当に、使いたくは無いのだが。
取り敢えず、飛んでる速度を維持したまま口に魔力を収束させていく。……うん、俺が使える魔法は、攻撃に向かない空間魔法か、ブレスとかの龍魔法しか無いんだよ。だから、口からブレスを吐くくらいしか遠距離攻撃手段は無い。慣れれば剣で斬撃とかも飛ばせるようになると思うけど。
「……はあ!」
俺の口から、冷気の球が飛んでいく。俺の速度も加算されて、飛行中のビアンカより速い速度だ。
「んなっ!?激流葬!発射!」
ビアンカは冷気の球に追い抜かれた事に一瞬動揺したが、すぐにチャージしていた技を発射する。今回は水球ではなく、槍に近い形だ。
無論、その速度は俺のよりも速い。そのため、距離の差はどんどん縮まって、遂には抜かされてしまう。
「貰いました!」
そして、その水の槍がドラゴンに当たる、その直前。
バリバリバリィッ!
という音と共に、ドラゴンに一筋の稲妻が落ちる。
「グギャ!?ゴァアア!!?」
雷を喰らい、間髪入れずに激流葬、冷気のブレスなどが着弾し、そのまま落下していくファイアドラゴン。憐れだ。
いや、それよりも……
俺とビアンカは、同時に停止してフィールの方を振り向く。
「……私の勝ち」
その視線に気付いたフィールはドヤ顔しながら勝ちを主張する。まあ、どう考えてもあれはフィールの魔法だしな。
「……ああ、今回は俺たちの負けだな。で、フィールよ。誰に何を命令する?」
俺は負けた悔しさを胸に秘めながら、フィールに聞く。ちなみに、ビアンカは「悔しいです!」と言いながら飛行板の上で地団駄を踏んでいる。
「……今晩、添い寝を要求する」
「わざわざ頼まなくてもいつもベッドに潜り込んでねえか?」
「たまには初めから潜り込みたい」
「やっぱ寝ぼけてとかじゃ無いんだな」
取り敢えず、フィールの要求はそこまで難しいものじゃ無かったので、ホッと息を吐く。そして、落ちて絶命しているドラゴンの近くに三人で着地して、後続隊が到着するのを待つ。
「はあ、はあ、ようやく追い付いた。……まあ、もう終わってるよね」
初めに到着したのは一番体力が無さそうに見えるソールだ。まあ、レベルが高いのだろう。きっと。
そのあとにカリーヌ、剛田、アレン、春日部、その他四人といった感じでゾロゾロと到着してくる。
「おいおいおい……ドラゴンがこんなあっさり沈むのかよ……」
「だから、この人は、規格外何だってば……」
「ドラゴンなんて始めて見るけど……腹に風穴なんてよく開けられるわね」
「無茶苦茶な破壊力だね」
「……黒野くんって、確か弱いって話を聞いてたんだけど……」
「ええ、そうだったと思うわよ」
「これが弱いんだったら俺たちはなんなんだろうな。ハエか?」
「……寧ろ、ミジンコとかだと思うよ」
アレン達はまだマシな方だが、剛田や春日部あたりは大分無茶苦茶な事を言っている。
「はあ、こいつら如何しようかねぇ……」
ドラゴンは討伐したし、後は戻って色々説明するだけなのだが、この困惑しまくってる奴らをどう落ち着かせたらいいかを考えるために俺は多少の時間を費やす事になった。




