3話 ギルドは騒がしい
「で、ここがギルドか。……かなり騒がしいな」
俺はギルドの建物の前辺りでボソリと呟く。
まだ昼頃だと言うのに、中はかなり盛り上がっているようだ。
「変だね。何時もはもっと静かなんだけど。何かあったのかな?」
不思議そうな顔でドランが言う。やっぱり、何時もはもっと静かなようだ。もっとも、これが日常だったら俺はウンザリするけど。
俺たちは、少し扉の前で悩む。すると、少し考えた後でベアトリスが閃いたように言った。
「んー……あっ!そうよ!そう言えば、一ヶ月位前に王城で召喚された勇者達の何人かが最近この街に修行の一環で来るって聞いたのよ。多分それよ」
「……は?」
サラッとベアトリスが超が付くほどの爆弾発言をしてくる。今頃、俺の顔は盛大に引き攣っているだろう。
「ああ、そうか!そう言えばそんな話を聞いてたな!俺たちが遠出してる間に来たのか!」
「……いや、あの、え?」
アレンも納得したように頷く。どないしようか、これは。逃げたら怪しまれるよなぁ。
「少し気まずいけど、入ってみようよ。どんな人か気になるし」
「……ハハッ」
もう、覚悟を決めて入るしか無いよなぁ。まあ、せめてアレンの後ろにでも隠れていようか。意味ないだろうけど。
アレンは、実にワクワクした様子で扉に手を掛ける。俺は丁度その後ろにスタンバイしていたのだが、
ガンッ!
「いってぇ!?」
アレンが手を掛けようとした時、扉が開かれる。そして、その扉はアレンの体を横方向に倒れさせる。
「あっ!?すいませ……え?」
中から出てきた人、春日部光真は倒れたアレンに謝り、そして周りを見ました所で俺と目が合う。アレンが倒れた所為で、隔てるものは何も無いのだ。
「如何したんだよ光真。固まって……は?」
「光真くん!?一体……!?」
「……え?貴方……」
ついでに後ろから男子1人と女子2人が出てくる。俺の記憶だと、剛田 健斗、安藤 玲子、桐島 飛鳥とか言う名前だったと思う。どんな奴かは知らん。顔と名前が一致してたのにも驚きだ。
「まさか、黒野、なのか?」
春日部が動揺しながらそう聞いてくる。この状態だと、誤魔化すのは無理だろう。
だから、俺は正直に言った。
「……ああ、そうだ」
と。さーて、どうしようかね。ここから面倒な問答タイムが始まりそうだからな。少し手を打たせてもらうか。
「く「お前らが面倒くさい質問を大量にしてくるのは解ってるからな。場所を変えよう。人前で話すようなことじゃ無いしな」
春日部の声を遮るように俺は言い放つ。今はまだ威圧も何もしていない。それで済むなら、それで済ましたい。
「面倒くさいだって?散々皆に心配かけさせてよくそんな事が言えるよな」
「事実だろ?他の奴らが知りたい事でも、俺からしたら説明すんのもダルいんだからな」
春日部が煽るように俺に言ってきた為、俺も喧嘩腰になる。此奴、なんか俺にだけは何故か喧嘩腰になるんだよな。
「それでもだ。何処で何をしてたんだ。美雪も心配して探しに行ってたしな」
「何処で、何を、ねえ。……やっぱりそこは情報規制されたか。予想はしてたけどな」
俺は苦笑いをしながら言ってやる。事情を何も知らないみたいだしな。無事なのに遊んでて帰って来なかったみたいな印象なんだろうな。
「質問に答えろよ。クロうぐっ!?」
「なっ!?光真!?」
春日部がそう怒鳴ろうとした時、俺の横を白い影が通り過ぎる。なんだかは見なくても解る。
ビアンカがサッと動き、春日部の喉元に鞘に入れた短剣が押し込まれる。手加減されてても苦しそうだなぁ。てかアレライフダガーだろ。何故わざわざそれにしたし。
「カイト様。なんか怒鳴りそうだったので無理やり止めましたけど、宜しかったでしょうか」
ビアンカがこっちを向いて微笑みながら聞いてくる。今はその笑顔が逆に怖いよ。
「ま、まあ、別に良いけども。だけどな……」
流石に、騒ぎを聞きつけた奴らがギルドの窓からこちらの様子を見ている。仮にも勇者が喉元を抑えて苦しそうにしてるのは目立つ。
「……ゲホッゲホッ!何するんだ!そもそも誰だ!」
「大声で叫んでると目立つから止めただけです。あと、人に名前を聞くときはまず自分からじゃないですか?」
ビアンカが黙らせたと言う割には春日部を煽っている。お前、黙らせる気無いだろ。
ちなみに、今のビアンカの動きを見てアレンとかがボソボソ呟いている。特にカリーヌが見えなかったと嘆いている。仮にもシーフだから速度にはそこそこプライドを持っていたのだろう。
「なんだ……!?」
春日部はまたも怒鳴ろうとしたのだが、今度は頭の上から水がブチまけられる。フィールが放った「ウォーターボール (超手加減版)だ。
「煩い。少しは落ち着いて」
フィールがゴミでも見るかのような目で春日部を見る。もう、お前ら止めてやれよ。流石に気の毒だ。
なお、今度はベアトリス辺りが詠唱も無しに!?とか動揺している。本当は詠唱してるんだけどな。まあ、「水球」だけで詠唱終わってるからして無いと思われてもおかしくは無いけど。
「…………」
春日部が押し黙る。きっと、冷静さを欠くとまた痛い目にあうと悟って耐えているのだろう。
だが、ここでギルドの中から一人の女性が出てくる。身長は130cm位、長い銀髪を束ねずに揺らしている。
だが、一番の特徴はその目立つ尖った長い耳だろう。よく、ファンタジー系のアニメなどで見るようなエルフそのものだ。
「私のギルドの前で何やってるのかな?かな?」
その女性が、ニコニコ笑っているような顔で俺たちに話しかけてくる。勿論、目は笑っていないが。
だが、俺が答える前に空気と化していたアレンが反応する。
「ギ、ギルドマスター!?何故ここに!?」
「それは勿論騒がしかったからだよ。で、何があったの?たの?」
へー、この変な話し方する女性がギルドマスターなのか。……リーダーとして大丈夫な器なのか?
「何って……見ての通りだが?」
「ごめん全く解らないよ。勇者の子が女の子二人にイジメられてるようにしか見えないね」
「うっ」
ギルドマスターが春日部を哀れそうな目で見る。名前も知らない女性二人にイジメられる勇者。うん、憐れだ。
「まあ、なんか面倒な事情がありそうだね。私の部屋に案内するよ。そこなら、聞き耳を立てる人なんていないからさ」
そう言うと、ギルドマスターは俺達と、春日部達とアレン達を手招きする。勿論、アレンは困惑する。
「えっと、俺たちも、ですか?」
「もっちろん。君達が彼らを連れて来たんでしょ?でしょ?」
ギルドマスターにそう言われたアレンは諦めたような表情で「わかりました」と言う。ギルドが組織な以上、上下関係ははっきりしているのだろう。
「じゃあ、皆付いてきてねー。あ、あと野次馬の皆はついてこないでね。ついてきたら、解るよね?よね?」
野次馬の皆は全員身震いする。やっぱギルドマスターなだけあって相当な実力者なのか?鑑定したいけど鑑定したのバレると面倒くさいし止めとくか。
まあ、取り敢えず俺達とアレン達と春日部達の計11人の大所帯はギルドマスターに引き連れられて彼女の部屋に押し込まれたのであった。
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「ふー。じゃ、そこの三人は知らないだろうし自己紹介するね。私はソール・グリモリト。ここのギルドマスターをやってるしがないエルフだよ」
ギルドマスター改め、ソールが自己紹介をしてくる。じゃあ、俺たちも自己紹介をさせて貰うかね。
「俺は黒野海斗だ。まあ、見て解るかも知れないが、そこのずぶ濡れ野郎と同じ、異世界から来た者だ」
「おいぃ!?聞いてないぞ!?」
「言ってないからな」
俺が正しい自己紹介をしてやると、アレンがギョッとして俺を見てくる。正しい反応だろうな。
ちなみに、ずぶ濡れ野郎と言われた奴は黙って流れに身を任せている。だが、こめかみがピクピクと動いているぞ?
「……フィール。カイトの恋人」
「いつ恋人って言ったし。いや、確かに側から見たらそうだけどな?」
フィールの自己紹介につい突っ込んでしまう。まあ、特に周りからの突っ込みは無いな。精々このリア充が位の目か。……いや、春日部の目だけなんか違うけど、なんて表現したら良いんだ?あれは。
「ビアンカです。カイト様のメイドをさせて貰っています」
「こんな攻撃的なメイドがいたらたまったものじゃ無いわね」
ベアトリスがボソッと呟く。誰だって、あの喉突きを見たらそう思いそうだけどな。
「まあ、そこのアレン君たちはあんまり関係無いからスルーするね。じゃあ、まずはどっちから説明してくれる?くれる?」
「俺の話は厄介過ぎるからな。あっちの闇男からよろしく」
「……誰が、闇男だ」
ソールに言われて俺が春日部を指差すと、ボソリと反論してくる。そんなに二人に怯えてるのか。ちなみに、闇男と呼んだ理由は此奴の得たチートが闇魔法だからだ。
「……光真は今これだから、私から説明させてもらうわ」
そんな春日部を見兼ねたのか、安藤が手を挙げる。そして、全員が頷いたのを確認して、説明を始める。
大体、説明してくれたのは二つだ。
一つは、何故自分達がここに来たのかと言うこと。これはソールにはすでに説明していたらしいが、俺がいるからと改めて説明してくれた。
俺が行方不明になってから、ある四人を除いては城で慎重に訓練をしていたらしい。だが、俺が夢幻列島を降りた頃辺りに周囲の街や村で冒険者として活動して、技や知識を高めようということになったという。
春日部達はチート集団の中じゃ結構強い部類に入るらしく、そこそこ強い魔物が出るこの辺りにまで来たのだそうだ。
二つ目は、城内での俺の扱いだ。これはまだ説明してない筈なのでソールもしっかり聞いていた。
俺は転移石によって行方不明、何処かの街に転移したようだからその内帰ってくると言われていたらしい。
だが、国王達は何時まで経っても連絡がないからと美雪達を探させに行かせたと。それが、約10日前だと言う。……美雪達に行かせたってことは、やっぱり俺の居場所は教えてもらえてたか。
まあ、そしたらここで俺たちに会い、冷静さを欠いた結果、二人が黙らすために春日部をああしました。そんな説明だった。
「……まあ、こんな感じよ。で、黒野達のことも聞かせてくれるのよね?」
「んー、少し待ってくれ」
説明を要求してくる安藤を、俺は手で抑制しながらソールに話しかける。
「ソール。今から言う話は少し、いや、大分聞かせづらい話なんだ。だから、此処で聞いたり見たりした事は他言無用で頼めるか?」
俺がソールに聞く。流石に夢幻列島の件に全く触れない訳にもいかないし、多少は保険が欲しい。
「んー……まあ、別に構わないよ。なんなら、これを使ってもいいよ」
ソールは少し悩んだ後、一枚の紙のようなものを取り出す。何か特殊な魔力を感じるので、サクッと鑑定してみる。
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魔法の契約書
分類 アイテム
レア度 かなりレア
説明
エルフの里に代々伝わる特殊な契約書。契約内容を書き、契約者の血を垂らす事によってその内容を守らせる事が出来る。
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「君も鑑定を持ってるみたいだし効果は解るよね?よね?」
「ん?俺の事鑑定してたのか。まあ、解るぞ。結構貴重品みたいだけどいいのか?」
レア度がかなりレア、俺の作った一部のアイテム並みのレア度になっているという事は作るのは相当難しい筈だ。そんなの会ったばかりの俺に使ってもいいのだろうか。
「問題ないよ。製法が面倒くさいだけで材料は安いし。勿論、私もエルフだから作れるしね」
「……あー、そうか」
それなら納得だな。まあ、一つ気になる事があるけど。
「それは何人までなら効果あるんだ?」
「んー、10人までなら効果あったはずだよ?だよ?」
……なら、アレン達も巻き込めるな。
「じゃあ、使わせて貰うぞ。勿論、アレン達も巻き込ませて貰うけどな」
「なにぃ!?」
アレンが声を荒げる。急に巻き込まれたらそうもなるか。
「はっはっは。ソールだけで済むと思っていたのか?ここにいたのが運のツキだ」
「ここに連れてきたのはギルドマスターだけどな!?完全に俺ら巻き添えじゃねえかよ!」
「アレン君。今からでも引き返してもいいよ?その場合はこの不思議な子の事は解らないままだけど」
アレンが文句を言ったが、ソールが引き返してもいいと言う。まあ、ここまで来て何も教えて貰わずに引き返すのは無いと思うけどな。
「……解った。俺たちも参加する。三人もそれでいいか?」
「構わないわよ」
「別にいいよ」
「まあ、気になるしね」
アレンが溜息を吐き、三人に了承を取る。異論は無いようだ。
「じゃあ、契約内容を決めようか。『ソール、アレン、ベアトリス、カリーヌ、ドランはクロノ、フィール、ビアンカについて此処で聞いた事を他言しない』こんな感じでどうかな?」
「構わねえよ。問題無さそうだしな」
ソールは契約内容を確認してくる。問題無い内容だったので俺は了承する。
「じゃ、血を垂らすから。全員指出して」
俺の返答を聞いたソールは何処から取り出したのか、長さ3センチ位の針を持って構えている。見てると、注射を思い出すな。
だが、俺以外は特に気にしない様子で全員指を出す。そうされると、俺も出さないわけにはいかないか。
と言うことで、全員の指先に針がチクリと刺され、血が契約書に滴れる。すると、契約書が一瞬光り、赤い印のようなものが浮き上がる。
「よし、契約成立だね。ここで知った事は、ここ以外の場所で、君達以外には話せない。だから、君の事を教えてくれる?くれる?」
ソールが契約書を見てウンウンと満足そうに頷き、その後俺に向かって言ってくる。なにやら興味に満ち溢れているような顔だ。
「まあ、ここまでされたらな。じゃあ、まず……」
俺はまず何処に飛ばされていたのかと言うことを説明しようとした。だが、
「ギルドマスター!用事中失礼致します!緊急事態です!」
突然、一人の男性が部屋に飛び込んでくる。身軽な服装をし、手には双眼鏡のような物を持っている。かなり走っていたようで、汗だくで息切れを起こしている。
「サジェス君か。無断で入って来たのは何時もならお仕置きするところだけど……何か、只ならぬ事があったみたいだね。何があったの?」
ソールが雰囲気を変えてサジェスと呼ばれた男に聞く。これまでとは違って少し威圧感がある。
「そ、そ、それが!この街に向かって、ドラゴンが飛んで来ているんです!」
そのソールを前にしたサジェスは、叫ぶようにソールにそう伝えたのだった。
自分でもどうかと思う程の急展開!ところで春日部さんの事を覚えてた人はいるかな?一章の一話にほんの少しだけ出てきた筈だぞ!




