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2話 化け物からは、逃げられる

「何戦おうとしてんのよ!此奴はそんな易しい奴じゃ無いのよ!?」


 軽装の魔法使いっぽそうな女性が叫ぶ。まあ、此奴らからしたら俺は命知らずの馬鹿に見えてるだろうからな。


「無理よ!貴方の力じゃ!」


 もう一人いた短剣を持ってる女性は、必死に俺を引き留める。チラッと鑑定すると、その女性も鑑定スキルを持っている。俺の、"仮の"ステータスでも覗いたのだろう。


 ウーバ魔族国での最後の夜、色々試してみた所、隠蔽スキルがレベル11に達した事でステータスを見せないようにするだけじゃ無くて偽の数値を見せられるようになっていたのだ。現在は大体レベル10前後のステータスが見えている筈だ。ついでに他人のも偽装出来たのでフィールとビアンカのも偽装した。生産系スキルも新しい事が出来るようになってたけど、それは今は関係無い。


 俺はシュバルツを構えて、大熊と対峙する。何となくだけど、嫌な予感がするのだ。


 そして、その予感は的中した。先ほどまで俺を血走った目で見ていたのだが、一瞬震えたと思うと一目散に逃げ出した。ステータスは隠しても、野生の勘は誤魔化せなかったようだ。


 本当は、シュバルツの使い勝手を確かめたかったのだが……わざわざ第三者がいる前でやる事も無いだろう。


 そして、熊が逃げたのを見て魔法使いっぽい女性が驚くように言う。


「え……?バーサクベアが逃げ出すなんて……」


 どうやらあの熊はバーサクベアというらしい。凄い攻撃的っぽそうな名前だなぁ。


「……あれ?僕たち生きてる?いや、もしかしてもう……」


「落ち着いて!もう彼奴はいないから!」


 放心状態になってる魔導師風の男を揺さぶるシーフっぽい女性。あの熊、そこまでやばい奴だったか?


「……おい、そこのあんた。一体何したんだ?」


 リーダー風の男が言ってくる。安堵、疑問、色々な感情が混ざった表情だ。


「いや、剣構えただけなんだが」


「嘘つけぇ!あの「戦闘狂」の異名を持つバーサクベアがそれだけで逃げるわけねえだろ!」


 そんな異名持ってたのか。まあ、本当に何もして無いんだけども。


「本当に何もしてねえっつの。皆は俺がバーサクベアを眼力だけで追い払えるような化け物にでも見えるのか?」


 俺は嫌味ったらしく言う。そうすると、リーダーっぽい男は諦めたような、そして緊迫した表情になる。


「百歩譲ってそうじゃ無いとしたら……早くここから逃げるぞ。近くに、アレ以上の化け物がいてもおかしくない」


 そう言いながら、男は仲間と俺たち三人を誘導する。意味もなく、そろそろと音を立てないように気をつけて歩いている。


「……あんたら。名前は何だ。ここから街まで3日位かかるから、知らなきゃ不便だしな」


 しばらく歩いた後、リーダーが小声で聞いてくる。確かに、あんたとかリーダーとかじゃ不便だ。


「黒野。黒野 海斗だ」

 

「……フィール」


「ビアンカです」


「クロノ、フィールさん、ビアンカさんだな。……なんだよ、お前だってタメ口だし呼び捨てでもいいだろうが」


 俺だけ呼び捨てだったため不満そうな目で見つめてやったら逆に文句を言われた。まあ、構わないけど。


「で、今度は俺らの番だな。俺はアレン。まあ、このパーティのリーダーだ」


「私はベアトリスよ。見ての通り魔法使いね」


「カリーヌ。シーフやってる」

 

「僕はドランです。僧侶です」


「アレン、ベアトリス、カリーヌ、ドランだな」


 俺は一応確認の為に名前を繰り返す。さん付け?面倒。


「……で、自己紹介も終わったことだし聞かせてもらおう。なんでこんな時間にこんな所にいたんだ?」


「お前達に言われたくは無いけどな。まあ、ラントって所を目指してたんだが迷っちまってな。ここ、どこら辺なんだ?」


 俺は待ち望んでいた質問をされたので用意していた嘘の返答を答える。違和感は無いと思う。


「私達と目的地は同じね。で、此処だけど……カリーヌ、もしかして魔族領入ってたりする?」


 ベアトリスは返答してくれたが、現在地は解らないらしく近くにいたカリーヌに聞いている。カリーヌは無言でコクンと頷く。


「……と言うわけよ。早くここから退散しないと、命が危ないわ。今日は眠れそうにないわね」


 カリーヌは溜息を吐きながら言う。


 魔族領は人族にとっては二つの意味で危険な場所だと思われている。


 第一に、魔族。人族と敵対してると思っているというのが世間一般の考えらしい。


 第二に、魔物。どうやら、魔族領は魔力が多く漂っているそうで強い魔物が多いらしい。


 二番はともかく、一番は全くの勘違いだが……指摘はしないほうがいいだろう。


「で、アレン達はなんでこんな危険地帯に来たんだ?」

 

 聞かれたから、俺も聞いてもいいと思うんだ。気になるし。


「俺たちは別の魔物の討伐依頼を受けて来たんだ。特別強い訳じゃないが、ここら辺にしかいない上に夜行性っていう割と厄介な奴でな。で、そいつを探してたらアレに襲われたって訳だ。生きた心地がしなかったぜ」


 アレンが苦笑いしながら言う。俺たちが通りかからなきゃ死んでたかもしれないと考えると、共感できるかも知れない。


「そいつは災難だったな。……そう言えば、お前達は冒険者なんだよな?ランクってどうなんだ?」


 俺が気になったから聞いてみると、アレンは残念そうに言う。


「……ランク、か。俺たちは全員銀ランクになったばっかだ。その初依頼でこのザマだからな」


 アレンは深い溜息を吐く。


 一応ビアンカから聞いた補足の説明だと、銀ランクで受けれる依頼のレベル帯が40〜50という事らしい。で、あのバーサクベアは確かレベル50前後なので一応銀ランク推奨の範囲内の可能性があるのだ。で、それからああして背中を向けて逃げてた事を気にしてるんじゃ無いかと言うことだ。


「まあ、そんな悲しまなくてもいいだろ。俺たちは冒険者ですらねえからな。冒険者ってだけでも凄いとは思うぞ?」


 一応、これから3日程行動を共にする訳だ。暗いままだと面倒くさいので慰める。実際、俺たちみたいな特例でもない限りレベル40前後は普通に珍しいと頑張っていると思うし、お世辞では無い。


「……まあ、ありがとな。というか、あんたら冒険者じゃ無かったのか。もしかして冒険者になる為にラントに向かってるのか?」


「ああ、そうだ。……その途中で迷子になったけどな」


 俺は、流れるように嘘をついていく。ビアンカが「よくそこまで真顔で嘘がつけますね」と小声で言ってくるが、スルーする。


「クロノ。お前も苦労してるんだな」


 俺とアレンはこれっきり話題が尽きてしまい、魔族領を抜けるまで無言で歩いていた。女性組はなんか他愛ない話を永遠にしてた。よく話題が尽きないもんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そこからラントの街までは、それはそれは平和だった。魔物は一切襲って来なかったし、盗賊もいたけど俺たちの前には出て来なかった。いや、盗賊の方はビアンカに音も立たずにアレン達にも見られないように殲滅されたんだけども。


 夜営とかも、いくら見張ってても敵が来ないから楽だけど暇だった。ちなみに空間魔法の事は言っておいた方が色々楽なので言っておいた。肉とかも俺が出してやったら、全員して噛り付いていた。なんでも、食料はバーサクベアから逃げる時に置いてきてしまったとか。


 ちなみに出した肉はクラウディアのなのだが……もしもそれを四人が知ったらどう言う反応するんだろうな。言わないけど。


 とまあ、そんな感じで俺たちは何事も無くラントの街の前まで到着した。


 高さ3、4メートルの石の塀に囲まれており、外から入るのは結構目立ちそうだ。外から見える建物とかも石やレンガ造りのが多く、中世とかの雰囲気が感じられる。大分大規模な方の街のようだ。


 その一箇所に門がありそこで検問的なものを行っており、結構長い列が出来ている。現在はそこに並んでいる。


「……暇」


「暇ですね」


「同じく」

 

「お前らなぁ……」


 俺たち3人がこんな事を呟くと、アレンは呆れた顔で言う。なんでも、依頼から戻ってくるたびこの長蛇の列に並ばなきゃいけないそうで慣れているようだ。こんなの慣れたくねえなあ。


「ここまで入るのが面倒くさい街はここと王都位のものよ。帝国領は解らないけれど」


「王都もこんな感じなのかよ……」


 俺はその言葉を聞いてガッカリする。王都の方には、今回のでは無いが目的地はあるのだ。今回は大陸の中央が目的地なので今は関係無いが。


 検問的なものの様子を見ると、全員身分証のようなものを提示している。


「……一応、身分証無くても入れるよな?」


「入れるよ。でも、仮の身分証を発行するのに300ゲルトかかるから」


 カリーヌがそう教えてくれる。大銀貨ならあるからそれ渡してお釣りもらえばいいかな。


「じゃあ、次。身分証出してくれ」


 そんな事を考えていたら、何時の間にか俺らの番になっていた。門番が声をかけてくる。


「悪いが持ってないんだ。仮身分証を発行してくれないか?」


「三人ともか?」


「ああ」


 門番がそう聞いてくる。普通に業務をこなしてます的な顔だ。愛想は無いが、フィールとビアンカに変な反応をしないのはありがたい。


「じゃあ、これが身分証だ。だが、早いとこギルドにでも行って身分証を発行してもらった方がいいと思うぞ。……あと、代金は900ゲルトだ」


「ほい」


 門番は先程と変わらない顔でアドバイスをしてくれる。愛想は悪いけど、いい人のようだ。


「大銀貨か。お釣りの銀貨1枚だ。じゃあ、通っていいぞ」


 そうして俺たちは門の奥に通される。ちなみにナチュラルにアレン達と別枠にされた理由はあの門番があの四人がパーティだとしっかり覚えており、それが裏目に出て俺たちはただ話していた人位の認識だったようだ。


 と、俺たちのすぐ後に門を通ってきて、俺の前に回り込んできた四人が伝えてくる。


「……で、まだ用事でもあるのか?」


 俺はアレンに聞く。街に到着したから、ここでお別れしようと思っていたのだが。


「……お前ら、冒険者に成りに来たんだろ?ギルドの場所解るのか?」


 アレンが呆れたように言う。……そういえば、全く解んねえな。


「ああ、知らん」


「だと思ったぜ。俺らは依頼の報告の為にギルドに行くからな。ついでだし、案内してやるよ」


 そう言って、アレンは俺たちを手招きしてくる。結構面倒見がいいんだな。


「じゃ、お言葉に甘えさせてもらうかね。行くぞ、二人とも」


「解った」


「了解です」


 そうして、俺たちは大人しくアレン達の後に着いて行く。一応、俺たちは冒険者志望の後輩的な立ち位置にあるからな。タメ口?知らんな。


 そして、大体10分位歩いたのちに、冒険者ギルド・ラント支部と書かれている建物に到着したのであった。

 逃げるのが、海斗達とは言ってない。

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