20話 大賢者の軌跡
「……着いたぞ。ここが禁書庫だ。俺も入る事は滅多にねえから、どんな本があるかは殆ど解らねえ」
ジョーカーに案内され、行き着いたのは城の地下にある禁書庫だ。大きさは大体日本の図書館程度だが、その全部が表に出せないような本のようだ。
「……ここには色々な本があります。禁忌になるような魔導書も、表に出す事が出来ない歴史が書かれている書物も。カイトさん達なら悪用する事は無いとは思いますが」
アダマースも悪用はするなと忠告してくる。そんだけヤバイもんが有るんだろうな。なにせ、魔王の国が禁書にしてる位だし。
「解った。……じゃあ、フィール、ビアンカ。果てしなく面倒くさいけど、探すか」
俺は二人に声を掛け、本棚の書物を見始める。「ネクロマンサーのススメ」とか、「種族変換の秘術」とか凄そうな本がチラホラ見える。
俺はそこら辺の中から魔法が幾つか載ってるような本をピックアップして、近くの机の上に持って行く。サクッと読んで、それらしい魔法が無いかを調べるのだ。
ちなみに、俺が本を物色し始めた辺りでジョーカー達は「頑張れー」とか言いながら部屋の外に出て行った。この広い書庫の中に三人しかいないが、集中できるから問題は無い。
「じゃあまずはこの「キンジラレタマホウ」って本からだな。……文字は読めるな。もし昔の文字とかで書かれてたら不安だったんだが」
なお、不安と言うのは主にフィールの事だ。俺は多分召喚された時にこの世界の文字とかが頭にインプットされてるみたいで、街とかで見た文字もスラスラ読める。多分昔の文字でも問題無いだろう。あの召喚の魔法もかなり昔に作られた奴だろうし。
まあ、そんな事はさておき、俺は本をペラペラとめくる。基本的に概要だけ見たら次のページだ。使いもしない魔法をそんなマジマジと見る必要もない。
特大消滅魔法……何が起こるか不明の魔法……自らの命を犠牲に敵を滅ぼす魔法……全ての魔力を解き放つ魔法……自分を犠牲にして仲間を助ける魔法……なんか、何処かで聞いた事のある魔法ばっかりだな。
とにかく、この書物は意味無さそうだな。転移系の魔法は書いてない。まあ、目的のもんが見つかって時間に余裕があったら特大消滅魔法でも読んでみますか。
と言うことで、俺はその本を閉じ、次の本を開く前に二人の様子を確認する。フィールもビアンカも普通に本を読んでいる。読み方は俺と同じ感じだ。ただしビアンカは三冊同時でだが。情報に精通してる種族だから、こういうのは得意な方なのか?
まあ、問題無さそうだなと俺は本を開く。題名は「アラタナルマホウ」と言うものだ。題名だけじゃなんの魔導書かわからなかったから持って来たんだけど……。
……いやー、実に興味深い内容だなぁ。新たなる魔法、ね。魔力を熱とか冷気に変えたりせず、直接作用させる魔法かー。……同じような事を2、3日前に聞いたなぁ、フィールから。それ、無属性魔法の事だろ?
無属性魔法が発見された時の書物があるとは驚きだけど、今回探してるのはそれじゃねえんだよ。次だ次!えーと、「悪魔召喚!これで君も立派な外道!」って、なんでこんな本を持ってきたんだ!?俺は!
一応読んでは見るけどね。なになに、「悪魔は召喚者の命令に従います。ただし、命令した事の内容によって悪魔から代償を要求されます。髪の毛程度で済むこともあれば、両手両足を持っていかれることも。また、死後は悪魔に魂を持っていかれるので輪廻転生の理から外れることになります。悪魔を打ち倒せれば代償無しに行使する事が出来ると言われていますが、そんな力があるなら召喚なんかしないで自力でどうとでもなる筈です」……なんか、倒せる気がするなぁ。で、えっと、「また、召喚される悪魔の種類は使用した儀式によって変わります」と。で、次のページからはその悪魔の種類と儀式の方法ね。
……つ、使えねぇ。確かに、どうとでもなるわ。記憶を消す?殴れば充分だよ。ドラゴンをも一人で倒せる力を持つ?その位俺でも出来るわ。
と言うわけで、単なる燃えるゴミだったな。つーか、この本だけで割と時間無駄にしたな。早いとこまともな本探さねえと。
で、なんの収穫も無しに1時間経過。あったものって言ったらあの無属性魔法の本の闇と光版位だ。
フィールとビアンカはまだ黙々とページを捲っている。その様子じゃあ、まともな情報は見つかって無さそうだな。
まあ、俺もまともな情報は見つかってねえけどな。対象を任意に操る魔法、アンデッドでも回復させる魔法……凄そうだけど、俺には必要の無さそうな情報しか見つからねえ。
そしてそこからさらに2時間経過。何もねえ。マジな方でロクなのが見当たらねえ。ビアンカが途中「空間魔法と、魔法創造の応用」ていうかなり近い本を持ってきてくれたけど、それには世界を越えるだけの転移は出来そうに無かった。
フィールは、パラパラとページを捲る事はせず、何か一つの本をジックリ読んでいる様子だ。本には題名は見えないけど、表紙には3つの魔法陣みたいな紋章が……って、あれ?その一つ見覚えがある気が……駄目だ。思い出せない。つーか魔法陣なんてまだ二つくらいしか見てないからな。召喚時の魔法陣と、あとは……!?
「フィール!その本何処にあった!?」
俺は慌ててフィールの方に向かっていく。その紋章が俺の考えている通りのものなら、今までで一番重要な書物だ。
「……普通に、本棚にあった。題名すら書かれてなかったけど、気になったから」
フィールは戸惑うように言う。俺の様子になのか、その本の内容によってなのかは解らない。
「少し、俺にも見せてくれ」
そう言って、俺は本を覗き込む。フィールが見ていたページは、この大陸の地図が描かれているページだ。
強いて言うなら、この地図には三箇所、表紙にあった紋章のようなものが書き込まれている。……俺たちにとってはその印の場所が重要だが。
一つは、大陸の中央。地図に描かれている3つの国を線で結んだその中央辺りに位置しているように見える。
もう一つは、大陸の北東辺りの国の近くだ。なんだかんだで見てた書物から得た情報だとそこはマンサーナ王国、俺を召喚した国のはずだ。
そして最後の一つ……俺が見た事のある紋章は、大陸の南側……にある海の上だ。そして、その場所を俺は、俺とフィールは覚えている。忘れるはずが無い。
燃え盛る鳥を形取った紋章。それは、つい先日夢幻列島で見たものだ。あの時の試練を忘れることなんてできない。
要するに、この書物は。誰も行き着くことが出来ないと言われている夢幻列島、その真の意味を知っている誰かが書いたという事だ。
俺はフィールに目で許可をもらい、ページを捲る。そして、ある重要な事を確かめようとする。
それは、あの島で見つけた重要なキーワードがこの本に書かれているかという事だ。最悪、夢幻列島を作ったと思われる者がこの本の著者でもなんら不思議では無い。まあ、その前に著者を確認するけど。
「えーと、著者。アウィス・ラパクス。……当たり前だけど、名前だけじゃどんな人かは分からねえな」
俺はそう呟く。意識はしていなかった。だが、それがビアンカの耳に届いたようで、ビアンカがこっちに近づいてくる。なにやらすごい顔で。
「カイト様。……今、なんと仰いましたか?」
「アウィス・ラパクス。この本の著者の名前だけど。……もしかして知ってるのか?」
俺は普通にそう言う。だが、ビアンカはすごい顔のまま言う。
「……もう、今じゃ知られてないようですね。私が創り出されてから長い間、伝説として語り継がれていた者です。……魔導機文明が終わった少し後に、世界を滅びから救った三人の英雄の一人として」
「は?」
俺はついそんな声を出してしまった。思っていた以上に、ヤバイ人だったようだ。
「大賢者アウィス・ラパクス。世界を救う前も後も、どこで何をしていたかは全く知られていません。知られている事と言ったら、彼女がハーピィだという事だけです」
「……ハーピィ、ねぇ。空飛べるよなぁ」
ハーピィと聞いて、俺は呟く。なんか、夢幻列島にでも行けそうな、そんな種族だなぁ。
「まあ、そんな謎しかない人物なのですが……その者が書いたと思われる書物ですか?凄い重要そうなものだと思うんですけど」
「……それは、そうだろうなぁ」
俺はそう答える。もしもそれが本当の話なら、超が付くほど重要だ。
俺はそう思いながら、ページをペラペラと捲っていく。そして、あるページで手を止める。
そのページには、こう書かれていた。
「天空の牢獄」と。
詳しい事は書かれてはいなかったが、「反逆の試練」というワードもあった。一つ気になる記述があるといえば、正確には島ではなく露出しているダンジョンに近いという記述だ。だが、それは人為的に造られた可能性が高いという事も示している。というか、攻略してもわからなかった情報をなぜこの賢者は知っているのかというのが問題だ。二つくらい可能性が思い浮かぶ。
一つは、熱心な探検家だったという事。世界を救う前か後かは解らないが、可能性は高いだろう。実際、それを出来るだけの力は持っていた筈だ。
もう一つは、彼女こそが夢幻列島を造った張本人である事。個人的には、こっちだと思っている。流石に、知りすぎている気がするのだ。
とにかく、この事は調べた方がいいだろう。世界を救った大賢者の残した軌跡だ。何か、いい手掛かりが掴めるかもしれない。
それに、ビアンカが持ってきた書物もだ。あの書物に書いてある事では日本には帰れそうにない。でも、覚醒のスキルで限界を超えたなら?
覚醒のスキルだって、普通の方法ではスキルレベルは上がらないってあった。なら普通じゃない方法なら上がるかも知れない。……例えば、残っているふたつの試練をクリアするとか。
辛い道のりだろうが、行ってみる価値はありそうだ。だから、俺は二人に提案する。
「フィール、ビアンカ。俺は、この本に書いてある事を確かめたい。世界を渡る為の手掛かりが得られそうだからだ。……だから、近い間にこの街を出ようと思ってる。二人とも、それでいいか?」
俺は二人に聞く。二人が望むなら、少し位はこの街で過ごそうと思っていたからだ。
「……前も言った通り、私はカイトについて行く」
「主人が従者に聞いてどうするんですか。私は、カイト様の考えに従いますよ?」
二人とも、考えること無くそう言ってくる。そんなに即答しなくたっていいんだがな。
まあ、二人がそれでいいなら構わないか。……ん?誰か来たみたいだな。ジョーカーか?
そんな事を考えると、書庫の扉が音を立てて開かれる。
「おい、クロノ。探し物は……って、なんでお前らそんな固まってんだ?」
入ってきたのは案の定ジョーカーだ。……そうだ。たった今決まった決定事項でも言いますか。
俺は、疑問の表情でこっちを見ているジョーカーに、一方的に言ってやった。
「俺たち、明日あたりにこの国出るから」
「……え」
と。
第2章、完!
多分マジな方で第2章完です。
次からは人間の街に行ったりするのと……後、ジョーカー達との別れの挨拶とかだと思います。




