19話 凄い眠い
「……で、お前はカルディアから何を聞いたんだ?」
ジョーカーが椅子に座りながら俺に聞いてくる。
「彼奴が多重人格で、戦闘狂だって事位しか聞いてないぞ?」
「……ん?なんだって?多重人格?彼奴が?」
俺が聞いた事を説明すると、ジョーカーが疑問に満ち溢れた顔をする。
「……おい、ジョーカー。お前、まさかそれすらも知らなかったのか?よく幹部にしたな」
「あ、それはだな。まあ、とにかく俺の考えてた事を聞いてくれ」
少なくとも、ジョーカーはカルディアが多重人格だということを知らなかったようだ。ここからジョーカーが言い訳を始めると言ってるが……まあ、聞いてやるか。
「まず、彼奴は闘技大会で優勝して、それを俺が魔王軍にスカウトしたんだ。まあ、そこから日々修行に励んで貰ったんだが……ある日仲間内で模擬戦をさせた時にな。ちょっと問題が起きたんだ」
「……ああ、今回みたいになったと」
俺が予想をつけて言うと、ジョーカーは頷く。
「まあ、その通りだ。その時は俺とアダマースで何とかボコして気絶させたんだ。寧ろ、アダマースがいなかったら俺もヤバかった。……で、目を覚ましたカルディアに話を聞いたら何も覚えて無いって言うんだ」
「まあ、多重人格だからな」
「俺は今まで知らなかったがな。……で、様子見したんだが、相手の実力が自分より上だったり、負けそうになったりすると変になるって事だけは解ったんだ。だが、同じ相手に何度も変になったりはしなかったがな」
「確か、つまらなかったって言ってたな。血の騒ぐ死合いがどうとか」
俺が口を挟むが、ジョーカーはひたすら口を動かす。早いとこ話を終わらせたいみたいだ。
「まあ、そんな問題はあったが、制御出来てないだけで真の実力は俺以上だし、監視の意味も込めてカルディアを幹部にしたんだ。……いつもの状態でも普通に強いし、人柄も悪くないしな」
なんで幹部にしたのかは大体解った。でも、その事は今回は重要じゃ無いな。
「それは解った。で、何回かその様子は見てたんだろ?なんで事実に気が付かなかったんだ?」
俺はジョーカーに呆れながら聞く。何回見たかは知らないけど、流石に把握できてないってのはどうかと思ったからだ。
「それはだな。会話を試みた事は有ったんだ。だけどな、「無駄無駄無駄無駄ぁ!」とか「ハハハハハ!」とか、「まだだ、まだ終わらんのじゃ!」とかそんな感じで会話が通じなかったんだよ。それに、裏も表も口調変わらねえし」
「あー……うん、確かにそうだな」
強さ かなり上昇
口調 変わらず
性格 戦闘狂へ
獲物 長剣から大剣へ
会話 そんな事より戦いたい
……この情報で多重人格か暴走してるのかって判断しろってのが無理って話だったか。特に口調が変わらないのがキツイな。会話すれば解るけど、曖昧な質問には答えなさそうだし。
「で、カルディアの件は直接本人に言って良いのか?」
俺が確認の為に聞く。もし断られると色々厄介なのだ。主にトンデモ大剣の説明が。
調べては見たけど、なんでも所有者の意思に応じて異空間から出し入れが可能みたいだけど、その本人が不在だし……多分ノーマルカルディアでもできるだろうけどその為には説明するなり誤魔化したりしなきゃいけないし。
ジョーカーにそんな感じの事も説明する。そうすると、ジョーカーは悩んだように言う。
「……まあ、大丈夫だと思うぞ?ショックは大きいだろうけど全員でフォローすれば彼奴は問題無い」
「そうか。……まあ、それに関しては俺たちが出る幕じゃなさそうだしな。カルディアが起きたら勝手にやってくれ」
そういうシリアスな話は俺たちみたいな知り合い程度の奴じゃなくて、親友とか家族とか、そういう絆を持ってる奴に任せた方が良いからな。……ジョーカーはカルディアを監視の意味も込めて幹部にしたって言ってたけど、彼奴からはどっちかっていうと家族に似た雰囲気が感じられたからな。
……家族、か。あっちじゃもう行方不明になってから一ヶ月と少しだよな。心配してるよなぁ。父さんも、母さんも、それに近所の人達も。
……早く、帰らねえとな。
「……で、どうしたクロノ。顔色悪いぞ」
俺が柄にもなくそんな事を考えていると、ジョーカーから声が掛けられる。
「……何でもない。少し、考え事をしてただけだ」
俺は素っ気なくそんな事を言う。こいつらに言っても意味ないしな。
「まあ、言いたくないなら言わなくていいぞ」
「そりゃどうも。……あ、一つ聞きたいことが有ったんだ。俺にとっては重要な奴がな」
俺はある事を思い出し、ジョーカーに聞く。ジョーカーはそれに対して微妙な顔をする。
「お前にとって重要な事?なんだよ、それ」
「……優勝したら、禁書庫に入らせてやるって言ってただろ。大会中止にしたんだろ?どうするんだよ」
俺がそう言い放つ。俺たちが参加した理由なのに、それが有耶無耶になるのはたまったもんじゃない。
その事を思い出したジョーカーは、呆れたように言う。
「そんなことなら心配するなっての。お前のお陰で大事に成らずに済んだんだ。普通に入れてやるよ」
「……まあ、それでいいなら入らせて貰うか」
確かにあのまま止めてなければ色々とヤバかったからな。それなら入ってもいいだろう。
「まあ、話はそんなもんだろ?早く彼女の元に行ってやれよ。多分負けた事気にしてるだろうしな」
ジョーカーがそう言ってくる。此奴にしては珍しい気遣いだ。
「言われなくても解ってる。……お前も、カルディアの事をちゃんと慰めてやれよ?」
俺はそう言い残して、フィールがいる休憩室へと歩いて行った。
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俺が休憩室に向かうと、フィールが俯きながらビアンカと会話をしていた。距離が距離だから聞こえないが、慰めてくれているのだろうか?
「……あ、フィールさん。カイト様が来ましたよ。…………」
ビアンカが入ってきた俺に反応してフィールに言う。何か追加で言っていたが小声だったのでうまく聞き取れなかった。
「……カイト、ごめんなさい」
俺が近づくと、フィールは申し訳無さそうに言ってくる。やっぱり、負けた事を気にしているのだろう。
「気にすんなって。そもそも相性が悪すぎたんだし、結果的に禁書庫にも入らせてくれるみたいだしな。なんの問題もねえよ」
俺はフィールにそう言う。本心で言っているのだが、フィールはそれでもまだ俯いている。気にし過ぎているようだ。
「……でも、カイトの足を引っ張った。私が彼処で負けてなければ、カイトに後始末を任せる事も無かった」
「いや、あの位なら……」
俺は気にしてない。そう言おうとした。本当に気にしてないし。
だが、フィールは自分を責め続ける。多すぎて語り切れないくらいだ。本当に些細な事まで言い続けている。聞いてるこっちが辛くなってくる。
だから、少し落ち着かせるために頭を撫でてみる。サラサラと、心地よい手触りを感じる。
「え……」
フィールは戸惑うような顔をしている。やっぱり、頭を撫でるのはアレだったか?まあ、自虐は終わったようだけど。
でも、取り敢えずはそのままフィールに話し掛ける。
「迷惑?そんなのしてる訳無いだろ。寧ろ感謝しても仕切れない位だ。……あの時、お前と出会わなかったら、俺は今ここにはいない。彼処で食い殺されてただろうしな。お前と会えたから、俺は1人にならなくて済んだんだ」
「……それでも」
フィールはまだ引き下がろうとはしない。結構強情だ。
「迷惑かどうか判断するのは自分じゃないだろ?たとえ自分が迷惑だと思ってても、他の奴はそうは思ってない事もある。……少なくとも、俺は思ってない」
「……カイト」
「だから、そんな顔すんなって。お前がいてくれるだけでも、心は落ち着くんだから。……それでもまだ気が晴れないってんなら一つ頼みを聞いてくれねえか?」
「……なんでも言って」
フィールの顔は若干明るくなった。挽回のチャンスを与えたからだろうか?そんな訳で俺は、会話してる間ずっと思ってた事をフィールに言う。
「いや、大した事じゃないから。少し膝枕してくれねえかなーと。……ブーストして慣れない力を使ったから、凄い眠いんだ。多分魔力を無駄に使いすぎたせいでもありそうだけど。だから、少し寝たいんだ」
これもマジな心境である。大分眠い。身体の負担が洒落になってない。特に身体強化で無理しすぎたからか。
そんな感じで俺が頼むと、フィールは言う。
「……それ位、いつでもしてあげる」
そして、フィールは俺に膝を差し出してくる。フィールが座っているのは長椅子的な場所なので、行儀は悪いが充分寝転がれる。
「じゃあ、遠慮なく膝を貸して貰うぞ」
そう言いながら、俺はフィールの膝の上に頭を乗せる。疲れた身体に心地よい感触を与えてくれる。
「……辛くなったら、起こしてもいいからな」
俺は心地よさによって遠のいてく意識の中で、フィールにそう呟き、そのまま意識を手放した。
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どれ位寝てただろうか。
周囲からは、大会の時のような騒がしさはしなくなっていた。結構時間は経っているようだ。
俺はまだ目を開けてはいない。いい加減フィールに悪いなと思い、起きようかなと思ったのだが……。
「……それにしても、まさかここまで上手くいくとは思ってませんでしたよ」
ビアンカが突如としてそんな事を呟く。フィールに向けて話しているようだ。
「……確かに、ビアンカの言った通りだった。でも、なんでそれを私に話したの?」
ビアンカとフィールの話している内容が解らない。でも、少なくとも険悪な雰囲気ではなさそうだ。
「……言ったじゃ無いですか。フィールさんはライバルですけど、それ以前に親友だと。傷付いた親友を放っておけるほど私は薄情じゃ無いですよ」
「……ビアンカ」
俺が部屋に入った時は、ビアンカがフィールと話してたよな。俺が入ってからは一言も喋って無かったけど、やっぱり心配してたんだな。
「でも、正直やり過ぎたとは思ってますよ?まさかここまでいちゃいちゃルートに持って行ってしまうなんて。頭撫で撫で位で止まると思ってましたよ?」
……ん?なんか話がおかしくないか?
だが、俺が起きていないと判断してそうな二人は会話を止めない。
「……とにかく自分の悪いところを言って、それをカイトに止めさせる。カイトが慰めてきても、しばらくは否定して、もしカイトが頼みを言ってきたら迷わず応じる。本当にビアンカの言う通りの流れになった。……どうしたらそんな事が考えつくの?」
……ビアンカの言う通り?
なんかさっきの感動シーンが全部偽りのものになりそうな気がしてきたんだけど。
「これが女子力という物ですよ。……ところで、私の打ち合わせが無かったらどうしてました?」
「……勿論、行き当たりバッタリ。でも、打ち合わせ無しでもこんな感じの流れになったと思う」
打ち合わせ、ね。俺が入ってきた時にビアンカが小声で言ってたのはそれか?お仕置きでもするか?でもそれなしでも多分こんな流れになってたとも言ってるし……ううむ。
「そうかも知れませんね。……それにしても、可愛い寝顔ですね」
「……何時もは頼りになるのに、寝てる時は何時もこんな感じ。抱きついても、中々起きない」
……話題変わったなぁ。というか、起きてる本人の前で寝顔がどうとか言うなよ。
目が開けられないから二人の表情が見えないし。サーチなんて使ったら起きてる事バレるし。
気持ちは良いんだけど、誰か助けに来ないかなー。と思っていたところで、助けが部屋に入ってくる。
「おーい、クロノー!いr「空気読んで下さい」グフッ!」
声からしてジョーカーだろうな。なんか投げられたみたいだけど……なんだろうな。
取り敢えず、ここでうるさかったからって事で起きれば問題無しだ。と言うわけで起きさせて貰いますか。
「……ふぁぁ。ん、ジョーカーか。なんのようだ?」
俺はわざと欠伸をして、ジョーカーの方を向く。そこには蹲っているジョーカーと、近くに落ちているライフダガー (鞘入り)が落ちている。容赦ねえな、ビアンカ。あと、その後ろにはアダマースとフィオーリ、カルディアの姿も見える。調子は戻ったみたいだな。
ジョーカーは、俺を見ると額を抑えながら言う。
「……ああ。禁書庫の件なんだけどな。場所がいかんせん解りづらいところにあるから、案内しようと思って探してたんだよ。あれから3、4時間は経ってるし」
経ちすぎだろ。辛かったら起こしてもいいって言ったよな。俺。
「まあ、それなら大人しく案内されるか。二人ともそれでいいか?」
俺は後ろから微弱な殺気を放っている二人に聞く。何がお前達をそこまで駆り立てているんだ。止めてやれ。
「カイト様がそれでいいなら」
「……うん、構わない」
二人は二つ返事でそれに応じる。
「という訳だから、案内してくれるなら早く頼むぞー」
「……あ、ああ、解った」
そして、ジョーカーを急かしながら俺たちは城へ、そしてその中の禁書庫へと案内された。




