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13話 ヤベっ、やり過ぎた

「なあ、どんなのが食べたい?」


 闘技大会が近いこの時期、大通りは昨日と同じく賑わい、出店なども数多く出ている。そのせいで、大分目移りするのだ。


 だから、俺はフィールやビアンカにも意見を聞く。流石に、ここまで来て別々に食うなんてしたく無いからな。


「……海産物。空じゃ、食べれないから」


「私は、肉でも魚でも食べ応えのあるのがいいですね。野菜じゃ全くと言っていいほどお腹が膨れませんし」


 ビアンカの到底乙女らしく無い発言はともかくとして、フィールの意見には全面的に同意する。こっちの世界に来てから1ヶ月以上、魚介類というものを食べていない。それなら、食べたくなるのは人の性だろう。


 俺とフィールは魚介類、ビアンカは肉か魚。つまりは、魚食べろ!と言うことだ。


「じゃあ、魚系で行くけど……色々あるぞ?」


 そう言いながら、俺は周りをチラ見する。


 残像魚の塩焼き、ブラックシャークのソテー、プロトバハムートの刺身、レッドデビル焼き、その他にも色々ある。……レッドデビル焼きはどう見てもたこ焼きだから、ビアンカの意見には当てはまらないが。


「……カイトに任せる」


「同意見です」


「そこは俺任せかよ……」


 そう言いながら、色々考えてみる。


 個人的にはプロトバハムートというのが物凄く気になるのだが、やはりというか高くて (1000ゲルト)量が少なめだ。

 

 残像魚は一匹500ゲルトで、アジ位のサイズはあるが丸ごとだから食いづらそうな気がする。というか、名前が物騒だ。バハムートに比べたらマシだが。


 ブラックシャークのソテーは見た目残像魚と同じサイズで切り身、その上で300ゲルトである。……そう言えば、鮫は時間が経つとアンモニア臭がするから、採りたてじゃ無いと食べれないと日本で聞いた事がある。だから値段は割と安いのだろう。


 だが、売ってるくらいなら多分大丈夫だろうし、これにするか。


「じゃあ、ブラックシャークのソテーで。……すみません、これ3つお願いします!」


「あいよ!……ほれっ!合計900ゲルトだ!」


「はい。……ほら、フィール。ビアンカ」


 俺は受け取ったソテー (紙皿に乗ってる)を受け取る。そして、それをフィールとビアンカに渡す。


 その光景を見て、売っている青年が呟く。


「両手に花か。羨ましいねぇ」


 嫉妬の表情と言うより、諦めの表情だ。


「……いい事だけじゃなーー」


 いい事だけじゃ無いけどな。そう言おうとした時、後ろから厄介そうな声が聞こえる。


「よお、可愛いお嬢さん達。ちょっと俺たちと遊びに行かないか?」


 という声を聞いて、フィール達がいる方を見る。そうすると、明らかにチャラそうな雰囲気の魔族の男三人組がフィールとビアンカに向けて話しかけている。鑑定すると、レベル60前後。要するに雑魚だ。


 そして、フィール達の反応は、


「……ビアンカ。あっちに行こ?」


「そうですね。カイト様、行きましょう」


 完全に、三人組をスルーして、俺の方に向かってくる。


「おいおいwそんなヒョロヒョロの男の何処が良いんーー」


 1人が、俺を見てそんな事を言う。いや、言おうとした。


「黙って」


「黙って下さい」


「ッ!?」


 フィールとビアンカから凍りつくような声が響く。その言葉により、男の声はかき消された。そして、その言葉に込められた殺意によりその男の顔がみるみるうちに青ざめていく。


「……遺言は、ある?」


 フィールが、小さく、しかしはっきりと聞こえるような声で聞く。


 勿論、男の反応は、


「ひぃぃぃいいい!調子こいてすいませんでしたぁぁああ!」


 全力で逃げだした。まあ、逃げ切れる訳もないが。


 スコォン!メキッ!ドゴォン!バリバリバリッ!


 結構酷かった。


 まず、ビアンカの昇竜拳が炸裂して男を空に打ち上げ。


 次にフィールがそれを普通に殴って水平方向に飛ばして。


 それを普通に跳躍したビアンカが撃墜し地面に叩きつけ。


 最後にフィールが雷を落としてフィニッシュ。


 死んだんじゃ無いの?と思ったが、辛うじて息はある。結構辛うじてだが。


 周りにいた人達は唖然。残りの二人は冷や汗を滝のように流している。


 そして、この状況を作り出した二人は、


「……戦闘力60か、ゴミめ」


「口程にもありませんでしたね」


 その、ボロ雑巾のように倒れている男を見ながらそんな事を言っている。なんか、ヤクザとかと同じような雰囲気を感じる。


 さらに、そのまま俺の方に歩いてくる。その時、周りの人達はじりじりと、距離を離し過ぎず近づき過ぎずを保っている。


「……一応、街の中なんだから、手加減はしろよ」


 俺は、これからも厄介事を起こしたくないから、二人に注意する。しかし、


「……手加減はした。脆すぎるあっちが悪い」


「主が侮辱されたら全力を持って反省させる。メイドの基本です」


 反省する様子ゼロである。まあ、面倒くさいだけだから絶対に分からせなきゃいけないわけでも無いから別にいいか。だが、そんなメイドはいてたまるか。


 と、そこで後ろのソテーを売ってた青年が呟く。


「……女の人って、怖い」


 両手に花が羨ましいとか言ってた事を非常に反省してるようであった。


「……勿論、悪いことだけじゃ無いけどな」


 俺はその青年に言うと、気まずい空気がするこの空間からフィールとビアンカを連れてそそくさと離れた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うん、悪くないな」


「……美味しい」


「なかなかいいですね」


 離れた所で、ソテーを食べる俺たち三人。騒ぎを聞きつけてない所に移動したので騒がれる心配は無い。

 

 ちなみに、味は……まあ、魚だ。白身魚だ。それ以上でも、それ以下でも無い。だけど、三人揃って魚を食べるのが久しぶりだから結構美味しく感じる。


「……カイト、口元に食べカス付いてる」


「ん?気付かなかったな。ありがと」


 フィールに指摘され、俺はその食べカスを取ろうとするが、


「……待って、私が取るから」

 

 と、フィールに止められる。……なんか、嫌な予感がするんだけど。


 フィールは俺に顔を近づけて、俺の口元に指を置く。そして、食べカスを手で摘み、それを指ごと口に入れる。


 さっきの騒ぎを知っている人はここにはいないが、そうでない人は普通にいる。と言うことで、


「……リア充爆発しろ」


「おまけに両手に花かよ。爆発しろ」


「つーか両方とも超美人じゃん。爆発しろ」


 勿論、そんな祝福(嫉妬)する声がどこからともなく聞こえてくる。


 ちなみに、食べカスを食べたフィールは現在俺に寄り添っている。それに伴い、徐々に周りから殺気というか、嫉妬というか、そんな空気が流れてくる。


 それが鬱陶しくなってくる。俺は、ただのんびりと食べ歩きをしたいだけなのだ。邪魔をしないで貰いたい。


 と言う事で、フィールと目配せして、タイミングを合わせて一瞬だけ全力の威圧をしてみる。俺は、牽制くらいに出来ればいいかと思ったんだが……。


 結果としては、ここでも問題が起こったと言っておこう。大体の人が座り込み、腰が抜けて立てなくなった。辛うじて立っている人もいるが、総じて産まれたての子鹿のようにプルプルと脚を震わせている。中には座り込んでいるどころが白目を剥いて気絶していたり、恐怖のあまり失禁してしまっていたりする人がいたりと無茶苦茶な環境になっていた。


 この光景を見て、俺とフィールは呟く。


「……全力って、怖いな」


「……同意」


 なんか、周りが俺たちの事を幽霊でも見るような、恐怖に満ち溢れている目で見始めているので、俺たちはそそくさと、この場も立ち去ろうとした。


 しかし、そこである事を忘れていた事に気づく。


「うぅーカイト様ぁー。置いていかないで下さいぃ」


 そんな、物凄く聞き覚えのある声が聞こえ、俺とフィールは嫌な予感を感じながら、振り向く。


 勿論、そこには脚をプルプル震わせているビアンカが立っていた。結構、顔色も悪い。


「……まさか、巻き込まれたのか?」


 俺は、申し訳なく感じながらビアンカに聞く。……今思えば、ビアンカを巻き込まないようにとか、一切考えずに威圧したから、確実に巻き込んだと思う。というか、威圧するとき存在を忘れてた。


「えぇ。あの気迫はヤバかったです。腰が抜けるかと思いましたよ」


 ビアンカは、若干涙目になりながらそう言う。……なんか、本当にごめんな。


「あー、ごめんな。悪かった」


「軽いですよ。あんなに恐ろしい思いをしたのは初めてなのに」


 ビアンカが不満そうに言い放つ。そして、そのままそっぽを向いてしまう。


「……はぁ、しょうがないな。なんかやって欲しい事でもあるか?出来ることなら聞くぞ?」


「っ、カイト。それは……」


 ビアンカの機嫌を取り戻す為に言った言葉に、フィールが反応する。しかし、既に手遅れだった。


「え?いいんですか?では魔力を分けて貰えませんか?やっぱり、普通の食べものよりもカイト様の魔力の方が美味しいみたいなので」


 そんな事を、さっきの悪い顔色や、プルプル震えてた脚が嘘のように元気に聞いてくる。寧ろ、ウキウキしている。


「お前……騙したな?」


 俺が、呆れながらビアンカに聞く。


「なんの事ですか?私は嬉しさのあまり恐怖から解き放たれただけなので……と、そろそろ貰ってもいいですか?」


 ペラペラと、明らかに嘘を連ねていくビアンカ。もう、なんかいちいち指摘するのも面倒になってきた。


「……ほらよ。さっさと済ませてくれ」


 そう言い、俺は右手をビアンカに差し出す。が、


「ありがとうございます。では、いただきます」

 

 それを完全にスルーして、そのまま俺の体に抱きつく。そして、俺の胸に顔を寄せる。


 ちなみに、今度は誰も嫉妬の言葉を送って来ることは無い。と言うか、怖くて送れない。


 勿論、魔力を取られてる俺はだんだん気怠くなってくる。魔力は膨大な方にしてあるのに、ビアンカの許容量が多いせいで大分持ってかれる。


「……ご馳走様でした。前と同じく、美味しかったです」


 そう言って、ビアンカは俺から離れる。さっきよりも、すごい活き活きとした顔をしている。


「……ビアンカ。後で屋上」


「やりますか?今度こそ私の力を証明してあげますよ?」


「お前ら次やったら頭を残して地面に埋めるぞ?」


 ビアンカの様子を見て不満そうに言うフィール、凄くやる気満々で応じるビアンカ、軽く威圧しながら警告する俺。

 

 しばらく周りのギャラリーがそんな俺たちを虚ろな目で見ていたが、だんだん理性の光が戻ってきていたので、仕方なく二人の手を引っ張り、またも騒ぎを知らないところへと移動する事になった。






 



 だが、よくよく考えてみれば、常識無し二人と、常識を持っていても無視する奴一人の合計三人で、且つそのうち二人が超美人。そんな厄介事の塊のような俺たちが普通にのんびり食べ歩きとか出来る筈もなく、チャラ男二人が地面に倒れ伏し、一人が頭から地面に埋まる事になったのであった。

 死屍累々。そんな言葉が合うおでかけでした。

 自分でも、何故安らぎを奪ったしとも思ったりしましたが、ノリで書いてしまったので反省も後悔もしていません。

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