11話 蚊帳の外
「……見た事のない、天井だ」
俺が目を開けると、視界に合ったのは大理石の天井だ。要するに、終焉亭の一室である。
取り敢えず、昨日部屋に戻って寝た記憶が無いので、頭の中を整理する。
「えーと、風呂入ってて、嫌な予感がして、探したらフィールとビアンカがやりあってて、止めようとして、止めれたけど魔力切れで気絶。……情けねー」
フィールとビアンカがやりあってたのが一番の原因だが、流石に魔力使い果たして墜落は虚しい。少し残してゆっくり着地とか出来ただろ、俺!
とまあ、現状の整理が終わったところで体を起こそうとする。が、両腕が重い。
「……ちょっと待て。いや、もう見なくても大体分かる。だから、せめて心の用意をさせてくれ。……・・よし」
俺は、覚悟を決めて自分にかかっているブランケットを退ける。そして、その腕にしがみついているものを見る。
まず、ブランケットを退かすために使った右腕にはフィールが張り付いている。結構雑に退かしたのにグッスリ寝たまましっかり張り付いている。
次に、そのままであった左腕には、予想どおりビアンカが抱き付いている。ビアンカが抱き付いてくるとは思ってなかったが、両腕って時点で大体そんな予感はしてた。
そして、その二人を見て、深い深いため息を吐いた後、二人のしがみついた腕を思いっきり振るう。
「……おはよう」
「痛た……おはようございます」
フィールは運良く別のベットに着地、ビアンカは綺麗に床に落下する。流石に、二人とも目が醒める。
その二人に、俺はニッコリと笑いながら言う。
「ああ、おはよう。二人ともグッスリと寝てたよな?俺がお前らの暴走を止めた結果意識を失ったってのに、グッスリ寝てたよな?……で?何があったんだ?しょうもない理由だったら……分かるよな?」
フィールとビアンカが顔を引きつらせている。多分、周りから見たら俺の目は笑ってないんだろうな。
そして、二人が取った行動は同じだった。
「「すみませんでした」」
ジャンピング土下座。それはそれは綺麗で、二人のタイミングがぴったりあった素晴らしい土下座だ。
「俺は謝罪を求めてるんじゃない。事情が知りたいんだ。だからさっさと話せ」
すると、フィールはそのまま俯いてしまう。ビアンカは体を起こし、俺に説明を始める。
「えっと、私が魔王城で魔力を貰ったじゃないですか」
「ああ、あげたな」
俺がそのままの顔で頷く。若干、ビアンカの距離が離れる。
「その時に、カイト様の手にキスしたじゃないですか」
「と言うより噛まれたな」
そう言うと、さらに若干距離が離れる。
「歯は立ててないし、いいじゃないですか。まあ、それに対して嫉妬してしまったフィールさんにより拳で語り合う事になって、そのまま流れでああなりました」
そう言うと、ビアンカは部屋の隅の方に飛び退く。俺を警戒しているようだ。
俺は、その話が真実なのかどうかフィールにも確認する。
「……フィール、それは本当か?」
「……残念だけど、本当」
それを聞いた俺はそれはそれは深い溜息を吐く。
「全く。キスくらい、言えばしてやるっての」
「……え?」
フィールが俯き状態から一変、キョトンとした表情でこちらを見る。なんか、俺が変な事を言ってるような感じだ。
「昨日風呂場で考えたけどな?夢幻列島で普通にお互いの水浴び見てたり、布団に潜り込んできたり。普通に、アウトだと思うんだよ。もうキスの一つや二つ、気にすることもねえんじゃね?」
「えっ!?カイト様それ本当ですか!?」
俺がそう言うと部屋の端からビアンカが動揺しながら聞いてくるが、敢えて無視する。
「……確かに。……じゃあ、して貰っていい?」
「まあ、構わねえぞ」
そして、こっちを見ているフィールのおでこにキスをする。すると、フィールが嬉しそうに笑う。
「……ありがと」
「だから、気にすんなって」
よくあるリア充展開が早朝の朝に発生する。ちなみに、ビアンカは何故か部屋を出て行った。絶対、空気を読んだ訳では無いと思うが……。
フィールはずっとこっちを見ている。そして、徐々に頰がうっすらと赤くなっていく。
「……カイト。カイトは、私の事、す……」
「お客様ー!朝食の用意が整いましたー!」
フィールがある事を言おうとした時、絶妙なタイミングで邪魔が入る。それに対して、フィールが眉間にしわを寄せる。
「……なあ、これって……」
俺は、大体想像はついているのだがフィールに原因を聞く。すると、
「……絶対ビアンカ。昨日、やりあって分かり合ったつもりだったけど……第2ラウンド、する必要がありそう」
と言う返答が返ってきた。
「どこの脳筋だよ。あと、第2ラウンドなんてやったら二人纏めてお仕置きするからな?」
「………………・うん、解ってる」
「なんなんだその間は」
しかし、俺の突っ込みを気にせず、フィールはそそくさと下へ降りる。おそらく、ビアンカに文句を言いに行ったのだろう。
フィールが「好き?」って聞こうとした事ぐらい、解ってるんだけどな……。
と思いながらも、俺もせっせと下へと降りていった。
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流石に、朝の食事は軽い。
柔らかそうなパンに、バターに、スープに、サラダ。そんな感じだ。もっとも、バターが牛の物だとは一言も言ってないし、スープも短時間で作れるようなものだとも一言も言っていないが。
「えっと、昼食はどうなるんですか?」
俺は、パンを食べる手を止め今日は近くにいたスケさんに話しかける。
「はい、ここで頂くのと、外で別途で食べるのとをお選び出来ます。もしここで頂くのなら、私達に申してくれればお作りします」
なるほどなるほど。じゃあ、昼頃は食べ歩きでもするか。
「そうですか。……フィール、ビアンカ。昼は食べ歩きとかしてみたいんだが、それでいいか?」
俺は考えをフィール達に言ってみる。すると、
「……構わない」
「賛成です」
と普通に了解してくれた。
のだが、
「カイト様。話してるのはいいですが、私達はもう食べ終わってるのでできれば早くして下さい」
「……暇」
「って、早いわ!」
俺が少し話していたうちに、綺麗に完食していた二人。つーか食い始めてからまだ5分も経ってねえぞ!?と言う事でその言い分も聞いてみたが、
「……昨日に比べたら少なかったから」
という何かがズレた言い分と、
「ホムンクルスは食事による燃費はそこまでよろしくないので……あまりお腹が膨れないんですよね」
という、至極真っ当な言い分だった。
まあ、兎に角俺が遅かったのは事実なので、サクサクっと完食し、この場でこの後の事を話し合う。そうしようと思ったのだが、
「……ビアンカ。さっきのは、どう言うつもり?」
フィールが怒気を孕んだ声でビアンカに聞く。俺はそれを止めようと声を掛けようとしたが、それはビアンカに遮られる。
「さっきのとはどう言う事ですか?スケさんにタイミングよく二人を呼ぶように頼んだ事ですか?」
「……なんで、邪魔をしたの?」
フィールが腕と翼を龍化させる。要するに戦闘形態だ。
しかし、一方のビアンカは涼しげな顔で言う。
「ホムンクルスといえど、私だって乙女ですよ?好きな人が他の子といちゃいちゃしてたら、嫉妬だってしますよ。それに、私はそれをただ見てるだけじゃ物足りないですからね」
「……」
フィールは無言で話を聞いている。たまに、腕がプルプル震えているのが結構怖い。
「それに、あの夜最後に言ったじゃ無いですか。「仲間なだけじゃなくて、親友兼ライバルになろうって」それにフィールさんも固い握手をしてくれましたよね?」
「おいお前ら俺が気絶した中で何やってたんだよ」
しかし、俺の声は届かない。そして、フィールが諦めたように言う。
「……そうだった。でも、そっちがその気なら、私だって邪魔はする」
「望むところです」
そう言いながら、二人は固い握手をする。昨日の夜にあったことが殆ど分からないから話の内容が理解不能だ。
そして、二人はそのまま見つめあっている。完全に俺の事は眼中に無いようだ。
「お客様。苦労されてますね」
「……ああ」
スケさんに同情される。その事を意識すると、なんだか虚しくなる。
だから、覚悟を決めて話に割り込む。でないと、話が進まない。
「……話は終わったか?出来れば今日の予定について話し合いたいんだけど」
俺がそう言うと、フィールとビアンカは顔を見合わせ、頷いた後声を揃えて言う。
「「昼まで自由行動で」」
「……何かしたい事でもあるのか?」
俺は妙に息のあった2人に聞く。そうすると、2人はこれまた息を合わせて言う。
「「服が見たい (です)」」
「……ああ、服ね」
現在、フィールが緑基調のワンピース、ビアンカが普通のメイド服である。ちなみに材料はフィールのがゲイルドラゴン(上位ドラゴン、風属性)の革で、ビアンカのがよく分からない。鑑定したら材質が白銅 (百円玉とかの材料) って出たのは気のせいだと思いたい。
「まあ、いいぞ。俺もやらなきゃいけない事があるしな」
「やらなきゃいけない事、ですか?」
ビアンカがそう聞いてくる。二つあるが、片方はこいつらには関係無い。片方はな。
「ああ、ちょっと道具作成と……魔王城でジョーカーとアダマースに謝罪だな。絶対昨日のアレで胃と頭を痛めてるだろうし」
「……私もついて行きます」
「寧ろ当事者がいると話が長引きそうだから止めてくれ」
ビアンカが同行してこようとするがそれを拒否する。一言謝罪して縮地で逃走する予定だからそっちの方が好都合なのだ。
「……それなら、大人しく服屋に行かせてもらいます」
「おう。あ、そうだ。取り敢えず二人とも大金貨1枚ずつ。ほれ」
そして、服屋に行くと言うのに金を持ってなさそうだったので二人に大金貨を投げ渡す。二人ともそれを片手で、一歩も動かずにキャッチする。
「……ありがと」
「ありがとうございます。……では、フィールさん。行きましょうか」
そうして、フィールとビアンカは終焉亭を後にする。残されたのは俺とスケさんだけだ。
「ご馳走さまでした。……じゃあ、ちょっくら魔王城行ってくるかね」
そう言って、俺は宿屋を出て魔王城に向けてゆっくりと歩き出した。




