10話 嫌な予感が
ーー終焉亭。
ウーバ魔族国で、最も有名な宿屋。
確かにお値段は高いが、食事のグレードは高いし、ベッドの寝心地、部屋の眺め、その他諸々ある一つのことを除いて最高級の宿屋。
……そのある一つの問題点。それは……。
「「「いらっしゃいませ!終焉亭へ!」」」
そうやって、店員が挨拶をしてくれる。
ーー顎をカチカチ鳴らしながら。
そう、ここの店員は……
……全員、スケルトンなんだよ。
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無論、俺たちは動揺した。アダマースからは、「行ったら驚きますよ」とは言われたが、こういう事だとは思っていなかったからな。
でも、仮にもアダマースが紹介した宿屋、スケルトンな事を除けば全員礼儀正しい。
「こんばんは!……と、失礼します。黒髪の男女に、白髪のメイド。アダマース様からお聞きしたクロノ様、フィール様、ビアンカ様であってますでしょうか?」
「あ、ああ。そうだ」
「……う、うん」
「え、ええ」
俺たちが戸惑いながらそう言うと、店員のスケルトンウェイター(レベル50前後)は笑いながら言う。
「初めてのお客様はみなさんそれはそれは驚かれますよ。ですがご安心下さい。別に襲ったりもしませんし、衛生面もバッチリです!寧ろ全員骨ですので髪の毛が料理に入る事もございません!」
「お、おう」
そりゃ、髪の毛どころか他の毛すら無いからな。
「それでは、お部屋に案内致します!着いてきて下さい!」
「お、おう」
そして、スケルトンウェイターは歩き出す。俺たちが遅いとも速いとも思わない、丁度いい速度でだ。
俺たちは、それに着いて行く。廊下を見ても、ゴミ一つ落ちておらず、石造りなのだが凸凹も殆どない。
「これは……綺麗ですね。敵う気がしません」
「そう言って頂けると光栄です。……はい、到着しました」
ビアンカが話していると、一つの部屋の前に着く。扉を開けると、広々とした空間が俺たちを出迎える。
壁は大理石で出来ているようであり、結構綺麗だ。窓も大きく、今は夜だからよく見えないが朝になったらきっといい景色が見えるだろう。ベッドもしっかり3つ・・って?え?
「えっと……ここって、三人部屋……ですよね?」
「はい、そうですが。あ、アダマース様からの伝言です。「両手に花のクロノさん。しっかり三人部屋にしておいたのでごゆっくりお楽しみください」との事です」
「ちょっ!?」
あ、アダマース!なんてえげつない事を!つーかもし明日城いったら絶対「夕べはお楽しみでしたね」とか言う奴だろ、それ!
「あ、後、「クロノさんが二人部屋二つとかにしたいとか言っても、決して変えないように」とも仰ってました。と言うわけでごゆっくりどうぞ。食事の時間になったらお呼びしますので」
「えっ、ちょっ、待っ……」
俺は必死に助けを求めた!しかしスケルトンソルジャーは逃げだした!俺は絶望した!
「……カイト、大丈夫」
「カイト様、元気出して下さい」
「……んな事言われてもなぁ……」
正直、今すぐ元凶のアダマースを殴りに行きたい。そして、何も考えずに寝たい。もしここで雑念を持ったら彼奴の思うツボだ。だから、何も考えるな。自分にそう言い聞かせる。
「カイト様?いきなり瞑想してどうしたんですか?」
「……瞑想?迷走?」
ビアンカとフィールが顔を覗き込みながら聞いてくる。やめろ、あんな事言われた後だと意識しちまうだろ!
どうか救い船は!救いの手は無いのか……。
しかし、助けはこなかった。
まあ、それなら自分で解決するだけだ。そうだ。そんな事を気にしない位に集中すれば良いんだ。
「あ、ああ大丈夫だ。そうだビアンカ。今時間あるんだし、ちょっと魔導機械の事に関して教えてくれよ。物作りに組み込みたいし」
時間を潰し、集中するのに最も適している勉強を利用する。しっかり知識も入るから一石二鳥だ。
「え、別に構いませんが……いいんですか?恐らく今から教えたらお風呂と食事の時間を抜いて……基礎だけで朝まで掛かりますよ?」
「うそん」
しかし、加減というのは大事だ。そんな朝までなんてやってられるか。疲れてるんだよ。
「じゃ、じゃ分けて学ぶって言うのは?」
「ほぼ全てが繋がってるので……余計紛らわしくなるだけですよ?」
え、えぇー……辛い。と言うか、アダマースのあの言葉を忘れたいんだがどうしたら。
と、そこで早くも救いの手が差し伸べられる。
「お客様!ご飯の用意が整いました!下の食堂で食べますか?それともお部屋に運びましょうか?」
「はやっ!?」
ちなみに、部屋に入ってから3分と経ってない。正に俊足である。
なお、フィール達はそれを聞いた途端突如として立ち上がり、下へ向かおうとする。お腹減ってるのだろう。俺もだが。
「……行こ?」
「確かに、いい匂いがしますし。行きましょうか」
「あ、ああ、そうだな。でも、こんなに早く準備って出来るモンなのか……?」
結構疑問に思いながらも、俺は進んでいるフィール達に続き、下へ降りる。そして、食堂らしき所の扉を開けると……。
「うそん」
なんか、中国料理とかの画像で見るような、あのテーブル一杯に並んだ料理。そんな感じに、料理が置かれていた。とても、三人じゃ食べ切れなさそうな量の。
俺も、フィールも、ビアンカも硬直している。何故こんなに早く、この量の料理が出来ているのか。これ持ってきてくれって言ったら部屋に持ってこれるのか。そもそもこの量は三人で食べる物なのか。
俺たちが驚いていると、厨房のような所から一人のスケルトンが出てくる。コック帽を被り、正にコックのような見た目のスケルトンだ。髪が無い以上、帽子を被る意味は無いのだが。
「驚いて頂けましたでしょうか?これが当店の最高峰のメニュー、「極楽浄土〜貴方様の胃に終焉を〜」でございます。本来なら魔王様が訪れる時くらいしか作らないのですがアダマース様が頼みに来られましたので、誠心誠意、全力を込めて作らせて頂きました」
突っ込みどころしかねー。アダマースは俺たちの胃まで殺す気か?胃が死ぬのはジョーカーだけで充分だっての。
そして、このメニューの名前は……否定させたいけど、出来ないんだよな。確かに、胃が死にそうな位あるし。
「いつも魔王様御一行も五人で、青い顔をしながら完食していたので恐らく大丈夫だと思います。では、ごゆっくりどうぞ」
どう反応すれば良いか悩んでいる俺たちを置いたまま、コックスケルトン (レベル90前後)は厨房に戻る。そして、食堂には俺たちだけになる。
「……なあ、ビアンカ。本来、食堂には1人くらい従業員っているよな?」
「ええ、居ますね」
俺が嫌な予感を感じながらビアンカに聞くと、諦めたような声音で返答が返ってくる。
「それってつまり、またアダマースが関わってる可能性が高いって事だよな?」
「ええ、恐らく」
心の中で、やっぱりかと毒づく。全く、五人で青い顔しながらだって?全く、そんなの食い切れる訳が……。
と、思いながらテーブルの上にある料理を見る。……既に、二割程の量が無くなっている料理を。
「えっ!?フィールさん!?」
「早っ!?フィール、これ一人で食ったのか!?」
置いてあった銀のフォークとナイフを使い、パクパクと食べ続けるフィール。でも、一口が大きいような……。
「食べれる時に、沢山食べる。サバイバルの常識」
「いや、その生活は終わっただろ」
もう、俺たちのサバイバル生活は終わったのだ。わざわざ、そんな事をしなくても……。
でも、フィールは手を止めようとしない。そこで、俺たちも食い始める。最悪、止められそうな方法はあるし。
「じゃあ、いただきます」
俺がそう言うと、フィールもビアンカもこっちを向いて不思議そうに見つめる。
「……いただきます?」
「何ですか、それ」
ああ、そう言えばこいつらは俺が異世界人って事は知ってるけど、どんな所で、どんな風習があるかなんて知らないんだよな。
「これは俺の住んでた所の風習だ。肉や魚だって、人と同じ生き物だから、その命に感謝を込めてとか……そんな感じだったか?」
俺がそう言うと、二人とも納得したような顔になる。
「なるほど、理にかなってますね」
「……考えたことも無かった」
そして、二人は顔を合わせて頷き、タイミングを合わせて言う。
「「いただきます」」
そして、二人は食べ始める。ちなみに、フィールは高速、ビアンカは低速だ。
後でビアンカに低速だった理由を聞いたら「時間が経ったとはいえ、魔力は貰った後なのでそこまでお腹が減ってませんでした。食べたかったから降りて来たんですけどね」という事だった。
そして、俺が三割、フィールが六割、ビアンカが一割程食べて、なんとか「極楽浄土〜貴方様の胃に終焉を〜」を完食したのだった。
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その後、またも初めから用意が終わってたかの様に風呂を勧められた。だから、今は俺は風呂の中だ。
この宿は何故か混浴しか無いらしく、俺は大浴場の中で一人で佇んでいる。本当は先にフィール達に入らせてあげようかも思ったのだが、「……この後、やる事があるから」と言って、ビアンカ共々どっかへ行ったので仕方なく入らせて貰ってる。
「それにしても……お湯に浸かるなんて、何日ぶりだろうなぁ」
つい、そんな事を考える。夢幻列島では、匂いを消すために水浴びはしたが、それは全部冷水だったし、こんなに安らげるような状況でも無かった。そのこと、安心感と違和感を感じてしまう。
「あの時は……フィールが入ってる時とかも、俺が見張ってたんだよな。それも、危険だからってお互いが見える位置で。……あん時は特に考えなかったけど、普通はアウトだよなぁ。それに、毎日フィールが俺の布団に潜り込んできたり……完全に恋人とか、そう言う感じの行動じゃねえか」
いろいろ、辛かったが懐かしいような気持ちになる。降りてきたのは今日の筈なのに、遠い昔の事の様に感じるのだ。
目を閉じ、考えを巡らせる。この世界に召喚された事、夢幻列島に飛ばされた事、フィール達と出会った事。……こうして今、安心して湯船に浸かれていること。
ついこの間まで苦難の道のりだったのに、それが悪くなかったと思ってしまっている自分もいた。
「……なんだかなぁ。俺は、こんなに悩むたちでもねぇってのに」
だが、それはもう過ぎ去った結果だ。失ったものは無い。それなら、深く悩む必要も無い。
そう言い聞かせ、頭の中のシリアスな考えを捨てる。そして、この後の事を考えていたのだが……。その途中に、妙な悪寒を覚える。
「……そう言えば、フィール達が、何するかって、聞いてないんだよな。なんか、すごい嫌な予感がしてきたんだが」
と言うわけで、さっきの考えを放り投げ、「サーチ」を使って全力でフィール達を探す。テンプレなら、こっちに向かってくるのだろうが、常識知らずの少女とフリーダムメイドの二人だとどんな行動を取るかが全く想像がつかない。
「うそん」
本日何度目か覚えてない、そんな言葉が漏れる。
フィールもビアンカも、宿屋の中にはいなかった。
じゃあ、何処にいたか?
それは、フィールが言っていたことを思い出したのだ。
ーーービアンカ。……後で屋上。
その言葉を思い出した俺は、視界を宿屋の外に移動させ、屋上を見た。
だが、宿屋の屋上には、誰もいなかった。
ただし、そこから魔王城の上部の方で爆発が見え、フィール達はそこにいたのだが。
何故か、二人で全力で戦闘を行っていた。フィールはいつもの通り翼と腕を龍化、更に周囲に風を纏い攻撃を受け流している。そしてビアンカは飛行板に乗り、髪を紅に染めて切り札の筈である兵器の一つ、インフェルノバーナー (視界内に入れば鑑定できた)を構え、フィールに放射している。
たまにフィールから氷の槍やボールが飛んでいくが、全てビアンカに掻き消されて行く。
二人とも傷一つ負っていない。いないのだが、戦闘としては大分過激である。
ちなみに、俺の魔力量だと会話が聞こえる距離までは視界を近づけられなかったので、何故こうなったのかは分からない。だから、
「彼奴ら何してくれちゃってんの!?くそっ!」
俺は風呂を飛び出し、さっと服を着て猛スピードで現場へ向かって飛行する。俺には幻視出来るのだ。胃を抑えるジョーカーと、頭を抑えるアダマースの姿が。
まあ、そんな事は意にも介さず、フィールとビアンカは戦闘を続行している。それどころか、一旦止まって少し会話をしたと思ったら、二人とも何やら奥義の様なものの構えを取る。
フィールは両手を広げ、空に鎮座する。そして、その頭上に、蒼白く輝く膨大な魔力と冷気を感じる球体が現れる。
ビアンカはインフェルノバーナーを構え、その砲身の先が紅く輝くまでチャージし、さらに本人の周りからは夜だというのに陽炎の様なものまで見える。それに伴い、膨大な魔力と熱気が感じられる。
今俺がいる場所が距離にして3km位なのだが、 そこからでも感じるその力。明らかに、ぶつけ合っていい物ではない。
俺は、身体強化をフルで発動させ、さらに飛行速度を高める。
だが、俺が二人の声が聞こえる距離に到達した時に、二人の口から滅びをもたらすトリガーが引かれる。
「……『ニヴルヘイム』!」
「アーティフィシャル・プロミネンス!」
フィールからは全てを凍てつかせる奔流が、ビアンカからは全てを焼き尽くす奔流が解き放たれる。
「ま、に、あ、えぇぇええええ!!!」
俺は、死ぬ気でその奔流の下側に潜り込み、そこから急遽取り出した暴風の魔石を構え、できる限りの魔力を込める。
ヴォォオオオオオオオオオオオオオン!!!!!
と言う、おぞましい音とともに絶対零度と灼熱は、触れる事なく遥か上空へと吹き飛ばされる。
「「え?」」
お互いに、阿呆らしい顔をするフィールとビアンカ。そして……。
「グァァァアア!!」
暴風の魔石の風により、物凄い勢いで地面に叩きつけられた俺は、なんとか止められたということで緊張の糸が解け、魔力切れと少しの体のダメージによって意識を手放した。
お風呂場でのいちゃいちゃシーンがあると思いましたか?残念!作者のスキルではまだそれは不可能だ!
と言う事で、期待した人はすみません。




