幼馴染みside3 龍人の里にて
結局、第1章の方にこっちを入れる事にしました。と言うわけで、どうぞ。
海斗が、「反逆のフェニキシア」を倒したのと同日。美雪率いる幼馴染みーズは早くも龍人の里へ向かっていた。
「私達で、本当に認めて貰えるのかな……」
美雪が、ボソリとそんな事を呟く。もしも断られたりと思うと、腰が引けてくるのだ。
そこへ、百華が声を掛ける。
「大丈夫だよ。私達なら、絶対に」
ついで、残りの2人も励ましに掛かる。
「大丈夫さ。……その為に、アレだけ修行したんだから」
「ダメなら、力づくで認めさせちまえばいいだろ。力を証明するには1番早いしな」
「みんな……」
揃いも揃って励ますのが下手だが、それでも美雪にとっては十分だったようだ。
「……うん、そうだよね!私達なら、絶対大丈夫!」
美雪は元気を取り戻したようだが、残りの3人はまだ若干沈んだままだ。
もう、海斗が夢幻列島に転移してから1ヶ月が経っているのだ。無力な海斗が、世界有数の危険地帯にだ。その心労は計り知れない。いつも明るい百華でさえ、暗くなるほどなのだ。
もっとも、その心労を負わせている相手が最早化け物の域に達していると知ったら幼馴染み達はどうするか……。きっと、安堵すると共に新たな心労に苛まれる事になるのだろう。
と、しばらく歩いている所と、不意に忍が何かに反応する。
「……おい、そこにいるのは誰だ」
いきなり、虚空に向かって話しかけ始めた忍を見て、3人は「幻覚でも見てんの?」と言った眼差しを送る。しかし、その視線は直ぐに別の対象に向けられる事になった。
「……はあ、だから俺は偵察には向いてないって言ってるのに……ブツブツ」
そう言いながら木の陰から1人の男が姿を現す。身長180以上のかなり大柄だが、結構細い男だ。茶髪で、眼は黄金色だ。
しかし、その出で立ちは普通の人ではない。腕と脚からは黄土色の鱗が、手には鋭利な爪が、そして、ついでに地面につくほどの大きさを持つ尻尾が。
「龍人……」
美雪がボソリとそう呟くと、相手の龍人はそれに反応する。
「あれ?俺が龍人だってわかるんだ。人によっては爬虫類系の獣人と間違えやがる奴もいるからなコンチクショウ!」
少し驚いたと思ったら、いきなり尻尾を、ジタバタさせ始めた龍人を見て忍が止めに入る。ちなみに、晶は「爬虫類の獣人……何か矛盾してないかい?」とかほざいてたが、全員がスルーした。
「少し落ち着いてくれ!お前は龍人、獣人じゃ無い!さん、ハイ!」
「俺は龍人、獣人じゃ無い!……はあ、悪いなつい感情的になっちまった」
忍の話術により、平静を取り戻した龍人は、あらためて自己紹介を始める。
「あー、俺はランド。まあ、この辺りの偵察をやってるモンだ。で、人間……ああ、悪いな。名前を聞いてなかった。教えてくれるか、呼びづらくて敵わん」
大層面倒くさそうにしているランド。これを見た四人は一様に「此奴を偵察?人選ミスじゃ……」とか思ってたりする。
「ああ、俺は忍。影山忍だ。宜しくな」
「百華だよ。よろしく」
「美雪。よろしくね」
「晶だ。ところで僕たちの事を観察してたみたいだけど、なんでだい?」
まあ、邪険にするのもあれだから自己紹介をしたのち、間髪入れずに晶が質問をする。
「あ?決まってるだろ。なんか龍人の里に向かって来てる奴らが居るって聞いたからな。様子見と、悪意があるなら撃退。そう言われてたんだよ」
そう言った後、「俺は戦うの専門だからなぁ。情報収集とかマジ勘弁」とか物騒な事を言ってるのが聞こえたりもするが、全力スルーだ。
「……で、お前らのその特長的な名前……もしかしなくても最近マンサーナ王国が召喚したっていう勇者か?」
「「「「!?」」」」
「図星か。1週間位前に王国に遊びに行った時に噂になってたからな。もしかしたらと思ったんだが……」
あっという間に自分達が勇者だという事がバレ、少し動揺するが、一つだけ聞きたい事が出来た晶が質問する。
「……入国審査とか、大丈夫だったのかい?」
晶が鱗や尻尾を見ながら質問すると、ランドは笑いながら答える。
「はははっ!面白いこと言う奴だな!この状態は部分龍化って言ってな、何時でも解除出来んだよ。ほれ」
そう言うと、ランドの尻尾が消え失せ、腕や脚は人間のそれへと姿を変える。
その光景に四人は驚かされたが、ランドはまた直ぐに部分龍化を発動させ、四人に質問をする。
「……で、だ。仮にも王国に召喚された勇者ともあろうお前らが、一体何の用だ?見た感じ、かなり強そうだから自分達だけで大抵のことはどうとでも成りそうに見えるんだけどな」
「……実は……」
美雪が、龍人の里に行きたい理由を説明する。海斗が夢幻列島に飛ばされてしまったこと、その海斗は無力でとてもあの魔境で生きてられるような強さは持ってない事、飛ばされてから1ヶ月の時間が経っている事。そして、そんな状態でも海斗が生きていると信じている事。
全てを包み隠さず説明した。後半らへんからは、声が涙ぐんでいたが。
それをただ黙々と聞いていたランドは……。
「飛ばされちまった幼馴染みの救出……泣ける話じゃねぇかぁ……」
泣いていた。結構感情に流されやすい男だ。もしくは、同じく泣いている美雪に釣られたのかもしれない。
「……よし、解った!俺が、お前らを族長の所へ連れて行ってやる!あ、でも勘違いするんじゃねぇぞ?説得は自分達でやってくれよ」
あっさりと出た入場許可。しかし、それは一端の偵察係が決めて良いものなのか。
もちろん、晶は質問した。しかし、結果は予想の斜め上を行った。
「ん?ああ、心配すんな。これでも一応、里の中じゃ10位以内には入れる力はあるからな。それなりには発言権はあるから」
と、かなりの実力者だった事が判明したのだった。
ちなみに、ランドのレベルは90前後なので、バルス団長と殺り合って普通に勝てる実力は持っているので、発言権は本当に高い。
そのランドが案内してくれたのもあって、問題無く龍人の里には入る事が出来、そして族長にも会う許可を得ることが出来た。
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「……お主らが、最近召喚されたと聞く勇者か」
「……貴方が、族長さんですか?」
族長の屋敷に入らせてもらい、待っていたのは緑髪の男性と、ランドだった。
「ああ、如何にも。儂が龍人の族長、カエルム・ヴェーチェルと言う者だ」
そう言うと、カエルムは四人に座るように椅子を勧める。しかし、四人は座ることなく、カエルムに頼みに掛かる。
「……カエルムさん。どうか、貴方に頼みがあるんです」
「……ランドからは、お主らが説明するとしか聞いておらんからな。しっかり、解りやすく説明して貰うぞ」
カエルムがそう言い、美雪はそれに応じてランドに話した時と同じように説明をする。だが、夢幻列島と言う単語が出た時に、一瞬顔が反応する。
そして、説明が終わった後、カエルムは口を開く。
「お主らの頼みは良く分かった。……だが、儂には、それに応じる事は出来ん」
「っ……そ、そうですか……」
美雪は、力が足りなかったのだと解釈をしたのだが、それは全く違う。
美雪達は現在レベル30前後、得意な分野においては世界トップクラスの力を持つほどにはなっている。人族の。つまり、実力的には十分足りているのだ。
その事をいち早く察していたランドは、カエルムに問い質す。
「ぞ、族長?俺は、実力的には問題ないと思うんですけど……一体何が?」
「……そうか。お前は、あの騒動の時は、王都の方に行ってたのだな。知らないのも、無理は無いか」
「「「「「?」」」」」
この場にいる全員の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。
「……少し待っていろ。お前達に、1から説明してやる」
そう言うと、族長は部屋から出て行く。ランドが、「……あっちは、書庫だったか?」と呟いているため、何かを取りに行ったのだろう。
「……ランドさん。夢幻列島に関して、族長に何があったんですか?」
族長の反応に気付いていた晶が、ランドに尋ねる。
「……いや、解らねえ。だが、発言からして俺がいない時に何か有ったのは確定だな。でもなぁ……俺って結構出払ってる事多いから……心当たりがあり過ぎるんだよなぁ」
「一番関係有りそうなのは……6年前のアレか?」とランドが言い、晶がそれについて詳しく聞こうとした時、カエルムが戻ってくる。
「……まずは、これを読め。話は、それからだ」
そう言いながら、1冊の本を放り投げる。晶がそれをキャッチし、音読をする。
「えーと、『その昔。数多の属性を持つ特異な龍人がいた。その者は、己を顧みず他者を助ける為に力の限りを尽くした。かの者が助けた者は数知れず、彼は里の中の英雄だった。……あの事件が、起きる前は」
その場にいる者が、息を飲み、話を聞き続ける。
「彼は、彼にとって最も大切な者、最愛の者を救う事が出来なかった。死した彼女を見て、彼は自らの無力を怨んだ。英雄などと呼ばれながら、大切な者を守れなかった事を怨んだ。そして、そのぶつけようのない怨みは、他ならぬ彼自身を呑み込んだ」
幼馴染み組3人とランドは黙々と、カエルムは何かを思うような顔で話を聞き続ける。
「彼は、その圧倒的な力を、かつて助けた者達に向けた。女、子供、老人……。誰であろうと一切の容赦なく、殺戮の限りを尽くした。たとえ全てが敵に成ろうとも、彼は構わなかった。彼の善の心は、既に力に呑まれていたのだから」
晶は、淡々と本を音読し続けている。
「しかし、それに対抗する人々が……』」
「もう、いい。それ以上は、今回の話には関係が無い」
話の途中で、カエルムが切り上げさせる。そのとき、ランドが族長に聞き出す。
「族長。これって、この里に伝わる伝承みたいなものですよね?今回の話に関係ある物なんですかね?」
「……それを、今から言うところだ。黙って聞け」
そう言われたため、ランドは黙る。だが、顔は不満たっぷりとそう判断できる顔だ。
「ランドが言った通り、この話は里に伝わる伝承だ。里に住む者なら誰でも知っている。……だからこそ、複数の属性を持つものはこの里では嫌われる」
「……それが、僕達の件とどう関係が?」
晶の質問はもっともだ。しかし、カエルムは説明を続ける。
「たった2つの属性でさえも、この里では避けられる……。ならば、伝承に伝わるような、全属性を操る者は一体どの様な扱いを受ける?」
「それは……」
晶が何かを言おうとするが、その言葉は出なかった。どの様な悲惨な扱いを受けるかは、想像に難くない。
「ああ、殺される。……事実、そうなるところだった」
「……どういうことですか、族長」
ランドでさえも、全く話についてこれていないようだ。
「……儂は、この伝承を信じてはいなかった。あの時、伝承通りの力を持つ儂の娘、フィールが生まれるまでは」
「「「「「え……?」」」」」
「儂は悲しんだ。そして、必死に隠した。フィールの持つ力を、誰かが知ったら確実に殺される。たとえ族長である儂の娘だろうと。それほど、あの伝承の影響は大きい。だから、儂は全力を尽くした。……だが、いつまでもは騙し切れなかった」
カエルムの話に誰も何も言えず、ただ話を聞く。
「6年前、遂にフィールの力が知られた。民達は、フィールを殺そうとした。例え儂が何を言っても、聞く耳を持たなかった。儂は族長。娘を守る為とは言え、流石に民を皆殺しにする訳にもいかない。儂は悩んだ。たとえフィールを逃しても、きっと殺される。……だからこそ、儂は賭けに出たのだ」
カエルムの両手は震えている。それほどその時の感情は辛いものだったのだろう。
「儂の賭け、それは「本来、誰一人として生き延びれない所に、フィールを置き去りにして来る」と言う物だ。儂はフィールを連れて行った。……あの時の、フィールが儂を呼び止める顔が、どうしても忘れられん」
カエルムが、涙を流しながら話を続ける。
「……今、フィールは如何しているのだろうか。既に、殺されてしまったのか。はたまた生きているのか。……だが、たとえ生きていたところで、儂にフィールと会う権利は無い。フィールを置き去りにしたのは、他でもない儂なのだから」
そこで、カエルムの話は終わる。晶とランドはカエルムの話の意味を理解したが、残りの3人はただ呆然としていた。
「……カエルムさん。その、連れて行った場所って、まさか……」
晶が、確信を持ってカエルムに聞く。
「……ああ、お前の予想通り夢幻列島だ。……あそこにもう一度行く権利は、儂には無い」
幼馴染み組は何も言うことは出来なかった。涙を流しながら語る姿を見てそれでも連れて行ってくれなど、言うことは不可能だった。
そして、唯一の希望が駄目になり、俯いたまま里を出ようとしたところで、ランドに引き止められる。
「……ランドさん。どうしたんですか?」
ランドの顔からは、何を考えてるかは読み取れない。しかし、その発言は幼馴染み組の心を大きく揺さぶる発言だった。
「……もしも、帰れる保証がない代わりに、お前達自身の力で夢幻列島に行けるって言われたら……お前達なら、どうする?」
と、ランドは言ったのだった。




