1話 あれ?俺、詰んだ?
光が収まると、俺が予想していた通り城のような広い広間にいた。周りを見ると、なんか高そうな服を着た偉そうな人達が端の方にいる。まあ、この国の大臣とか国王とかそこら辺だろうな。オタク文化を学んだ俺に隙はない!
そして、その偉そうな人サイドから1人の少女が前に出てくる。
「えっと、皆さんどうか落ち着いてください。私が、貴方達に何が起こったかを説明しますので」
しかし、勿論落ち着かない人はいる。
「落ち着けだと!?気がついたら知らないとこにいて、落ち着ける訳ないだろ!」
「そうよ!説明してよ!」
この反論を聞いて、端にいた1人の男がボソッと呟く。
「王女様に向かって何て事を......」
うわ、よく見たらこめかみピクピクしてる!ムッチャ怒ってるよ、これ!周りが宥めてなかったら助走つけて殴ってんじゃね?
だが、その大臣らしき人の怒りには気付かず、2人の男女は文句を言い続ける。止めろ!もうトマトみたいになってるから!と心の中で叫んでも、気付いて貰えはしない。
しかし、先生がその大臣っぽい人を見て、急いでその2人を止めに入る。確かに、もはや修羅とか言われても不思議ではない顔を見たら慌てるだろう。
「ち、ちょっと2人とも!落ち着いてください!せめて話を聞きましょう!」
2人は先生に言われ、仕方なく引き下がる。それはそれは必死な顔で引きとめに行ってたからな。もしこれで止まってなかったら多分ゲージ技でも食らってただろう。
「......ええと、話しても、大丈夫ですか?では......」
そう言うと、王女は話始めた。
話は眠たくなるくらい長かった。まあ、事情が事情だから仕方ないかもしれないけどさ。
ちなみに、内容はこんな感じだった。
・この世界は、「ケイオスピア」と呼ばれる世界らしい。
・この世界は魔物や魔族や魔法が存在する。
・この世界は奴隷制度がある。
・今、この大陸に魔王が復活し、結構な被害が出ている。
・俺たちは、その魔王に対する勇者として召喚された。
・召喚された者は、まあ、なんかすごい力を手に入れる。
・帰り方は解ってないが、魔王を倒すことで帰れるという言い伝えがある。
・ちなみにこの国はマンサーナ王国という国である。
「大体前提知識は以上です。質問はありますか?」
勿論、例の2人が声をあげる。
「魔王を倒すまで帰れないだと!?ふざけるな!俺たちを殺す気か!?」
「そうよそうよ!」
だから止めてくれ!折角大臣の顔が戻ってたのに今度は赤カブみたいになってきてるから!
「そんなつもりはありません。しばらくは騎士団長から訓練を受けてもらい、力を高めてもらいます。無論、戦いたくない人は客人として対応させてもらいます。もっとも、全員がその意見になってしまうといつまでも帰れなくなってしまうので出来るだけ多くの人に戦って貰いたいですが......」
しっかりと対応され、言い返す言葉が無くなる2人。そして、王女は全員に問いかける。
「今の話は全員聞いてくれたと思います。......もし、どうしても戦いたくない人は、この場で手を挙げて下さい」
勿論、数人の生徒が手を挙げる。全員女子だ。
「戦わなければ帰れないんだろ?それに困ってる人がいるんだ。見過ごす訳にはいかない!俺は戦う!」
しかし、最前列にいる、春日部光真という正義感の塊がそう叫ぶと、女子たちが一斉に手を下ろす。こいつイケメンだしモテるから、発言は女子にとって効果抜群なんだろうな。
だが、みんなが驚いたのは先生が意外にやる気だった事だ。
「戦うのは嫌ですが、生徒を守るためなら、私も戦います!」
という感じで、全員戦うという結果になった。
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「ありがとうございます。では、次に皆さんの力について説明して貰いたいと思います。では、バルス騎士団長、お願いします」
「了解しました。......俺が騎士団長のバルスだ。口調は気にするな。戦場にいるとな、どうも口が悪くなってしまうのだ」
バルスさんがこんな事を言ってる間、隅の方から
「はあーー......。き、緊張しました......。やっぱり、私には威厳なんて見せられませんよぅ......」
「王女様!おやめ下さい!聞こえてしまいます!」
という会話がしっかりと俺の耳に聞こえていた。
「......あっちの事は気にするな。王女様はああ言った堅苦しいものには慣れていないのだ」
王女様の方をチラチラ見てた人たちは、そう言われ見るのをやめる。
「じゃあ、説明するぞ。まずは、ステータスオープンと念じてくれ」
おお、来た!テンプレだ!さあ、俺の戦闘力は!?
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黒野 海斗
種族 人間
レベル1
体力 1
魔力 1
筋力 1
敏捷 1
物防 1
魔防 1
スキル 鑑定レベル10 隠蔽レベル10《創造》レベル1
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……あれ?俺、詰んだ?
「じゃあ、色々説明するぞ。まず、主能力だ。体力とか魔力とかだ。大体50位が一般男性位だな」
うわー。俺、弱すぎ!
「次がスキルだ。スキルのレベルは10が最高だ。と言っても、俺は見たことねえけどな。騎士団長の俺でも1番高い剣術のスキルが7だ。10なんてそうそういねえよ」
鑑定と隠蔽のレベルが10なんですが。すごいけど、戦闘には使えねえよな……。
「あと、もしカッコで囲われたスキルを持ってる奴はすぐに教えろ!特殊スキルって呼ばれる貴重な奴だからな!」
あるんですけど、どう見ても戦闘用じゃ無いんですが……。鑑定……あ、使えた。
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《創造》
分類 特殊スキル
効果
採取系、及び生産系の全てのスキルの恩寵を得ることが出来る。スキルレベルは、内包されているスキルの中で1番高いものの数値となる。採取、生産系のスキルレベルの上昇率を上昇させる。品質を若干犠牲に、道具を使わず高速でアイテムを作り出す「ファストクリエイト」を可能にする。
あと、他にも色々出来る。
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「完っ全に非戦闘要員じゃねえかぁぁぁぁ!!!」
「わっ!?どうしたの海斗くん!?」
俺の叫びに生徒も、先生も、バルスさんも反応する。
「どうした?あー......」
「黒野です。黒野海斗です」
「ああ、クロノだな。で、なにがあった」
「いや、はい。カッコで囲われたスキルがあっただけですよ、はい。あと、スキルレベル10のスキルが二つほどあっただけですよ、はい」
俺の言葉に周りが騒めくが、団長は微妙な顔をする。
「......なにやら、微妙な事情があるみたいだな。少し、お前のステータスを見せてくれんか?」
そう言われたので、俺はステータスを相手に見せるイメージで念じる。適当だったが、見せられたようだ。
「......これは......その、あれだ。スキルは、後からでも、習得できるし、ステータスもレベルを上げれば上がる。気を落とすな。強く生きろ」
周りからの視線が若干同情の混じった声に変わる。それと、一つほど別の声も聞こえる。
「くそ!なんでだ!?なんで"鑑定"を使ってるのにこいつのステを見ることが出来ないんだ!?」
って、誰かと思ったらあの例のモブAじゃないですか。もうすっかり馴染んでるじゃないですか。あと、俺のステを見ようなんて甘いことは許さねえぜ。
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隠蔽
分類 スキル
効果
鑑定、及び自分でステータスを見せる時に見せたくない情報を隠すことが出来る。鑑定の場合、自分の隠蔽より相手の鑑定レベル−1の数値が大きい場合、効果はない。
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つまり、だ。隠蔽レベル10の俺を鑑定で覗こうなどという話は、100年早いという訳だ。ははっ。俺の数少ない取り柄を甘く見るなよ!
まあ、そんなことは置いといて、あいつらのステってどんな感じかな。
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白井 美雪
種族 人間
レベル1
体力 50
魔力 1000
筋力 50
敏捷 50
物防 50
魔防 50
スキル 光魔法レベル5
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はっはっは。俺より強いってことは分かってたよ。でもさ、流石に強すぎない?まさかこれが普通なのか?
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八重樫 百華
種族 人間
レベル1
体力 500
魔力 500
筋力 500
敏捷 500
物防 500
魔防 500
スキル 剣術レベル5
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はっはっは。俺の500倍のステータスだぁ!ちくしょう!
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影山 忍
種族 人間
レベル1
体力 30
魔力 30
筋力 30
敏捷 1500
物防 30
魔防 30
スキル 隠密レベル7 探知レベル7 盗聴レベル7 鍵開けレベル7 鎌術レベル3
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......首狩りにでもなる気かな?勇者っていうよりただの暗殺者だろ、これ。
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遠藤 晶
種族 人間
レベル1
体力 200
魔力 500
筋力 200
敏捷 200
物防 200
魔防 200
スキル 空間魔法レベル3 無魔法レベル3
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劣化百華っぽく見えたけど、無魔法に空間魔法だと!?どっちもゲームじゃ強力な奴じゃねえか!ちくしょうめ!
なぜだ!?なぜ俺の幼馴染みは全員文句無しのチートなんだ!?なんで俺だけこんな弱いんだ!?
と、そこでバルスさんが声を上げる。
「説明は以上だ!本当は全員のステータスを確認したいんだが、お前らの人数が思ったより多くてな。さすがに時間が足りねえし、部屋とかの準備が出来てねえんだ。終わったら部屋に案内するからちょっと待っててくれ!」
そう言いながらバルスさんは部屋の外へ出て行く。ドア越しに、部屋とかを準備しろという声が聞こえてくる。
「ねえ、海斗くんはどんな感じだったの?」
美雪が、俺に悪意なく聞いてくる。
「あー、確かに私も気になるー」
「確かに僕も気になるね。どうして叫んでたのか」
「俺達の仲だろ?教えてくれよ」
......これが、悪意なき地獄というものか。
「......はいよ」
そう言って4人にステータスを見せようとするが......
「何も表示されねえんだけど」
「あ、悪い」
おっと、隠蔽をフル稼働させたままだった。
とりあえず解除してステータスを見せる。
「......これは......」
「......まさか、ここまでとはね」
「嘘、海斗のステータス、低すぎ......?」
「......悪かった、海斗」
案の定、バルスさんの時と同じような反応になった。幼馴染みとはいえ、これは辛い。まあ、笑ったりせず、素直に同情してくれるのは嬉しいが。
「わ、私が守ってあげるからっ!」
「たとえ弱くたって、海斗は海斗だよー」
「お、俺が体を張って守ってやるよ」
「僕たちも協力するから、一緒に頑張ろう」
「お、お前ら......」
必死に俺をフォローしてくれる。しかし、俺には一つほど気になることがあった。声にはしないが。
忍、お前多分体張っても気づかれずにスルーされるぞ。
なんて、口が裂けても言えないからな。
ちなみに、俺以外にも落ち込んでる人たちはいた。
「この、俺が、闇、だと......?俺は、光じゃないのか......?」
「獣化......。しかも兎って......。宇佐美だからって兎は......」
って、やる気のあった春日部と宇佐美先生かよ!光真なのに闇とか、宇佐美だから兎とか、あの召喚魔法の与える能力って結構悪意篭ってるだろ!
と、そこへバルス団長が戻ってくる。
「待たせたな!部屋の準備が終わった!案内するから全員付いて来い!......あ、そうだ。部屋ついたら、机の上に腕輪が置いてあると思うから各自付けとけよ。言わば客人の証みたいなもんだから、付けとかないと厄介なことになりかねないからな!」
その声を聞き、俺たちはバルス団長についていき広間を後にした。